↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
PR
289/315

第289話 深海ネイビーの特大営業と、オカン流・青竹踏みの強制リフレッシュ

 上層のCEOが差し向けてきた光学迷彩の特務査察部隊を、スラムの換気扇と小麦粉による「粉塵爆発(目眩まし)」で見事に撃退したうちら一行。

 売られた喧嘩は高く買う。こそこそと裏路地で密輸(ゲリラ営業)をするフェーズはもう終わりや。

 翌日、うちらは分厚い検問ゲートを抜け、メガコーポの中層エリア……チリ一つ落ちていない真っ白なメインストリートのド真ん中に、堂々と陣取っとった。


「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい! 『オカン・ユニオン中層支店』、本日より白昼堂々のグランドオープンやでぇぇッ!」


 うちが拡声魔道具メガホンで腹の底から怒鳴りつけると、無菌室のような静寂に包まれていた中層の通りが、ビリビリと震えた。


「おうよ! アタシが廃材で組み上げた、キャスター付きの特製『移動式・野菜直売&占いの館』だ! どこへでも逃げられるぜ!」


 巨大レンチを肩に担いだリコが、ド派手に飾り付けられた屋台の横で胸を張る。


「……し、静江さん。いくら特務部隊を退けたからって、中層のメインストリートでこんな無許可営業をするなんて……すぐに警備システムが飛んできますよ……!」


 ミナちゃんが、情報端末を胸に抱きしめて青ざめている。


「へへっ、元エリートのお嬢さんは心配性だな。オカンについてくりゃ、こんな綺麗な街を堂々と闊歩できるんだ。腹据えようぜ」


 スラムの顔役であるザックが、新しいプロペラシールドの腕を鳴らしながら不敵に笑う。


「心配しなはんな! うちらには、この『新しい勝負服』がついとるからな!」


 うちは、昨日新調したばかりの『深海ネイビーブルーのサテン生地のスカジャン』の襟を、バサッと立ててみせた。

 背中には、極彩色の「鯉の滝登り」と、金糸と銀糸でブチ抜きで縫い取られた『勝負』の二文字。

 真っ白で無機質な中層の街並みの中で、その深くギラギラとしたネイビーブルーと、うちの指先で輝く深海ギャル仕様のデコネイルは、圧倒的な異物感と威圧感を放っとった。


「……見ろ、またあの野蛮な下層民たちだ」


「先日、第4浄水プラントで騒ぎを起こした連中だろう。……警備ドローンは何をしているんだ」


 大通りを行き交う純白の作業着を着たエリートたちが、遠巻きにうちらを指差し、ヒソヒソと囁き合っとる。

 やけど、彼らの顔色は揃いも揃って土気色や。目の下にはくっきりとクマができ、歩く姿はまるで電池の切れかけたロボットのように重苦しい。

 メガコーポの理不尽なノルマとシステムに縛られ、昼夜を問わず端末を叩き続けているせいで、完全に身体の血の巡りが滞っとるんやわ。


「……おい、そこのお兄ちゃんら! そんな幽霊みたいな顔して歩いとったら、ええ運気も逃げてまうで!」


 うちは、屋台の前に立って、ひときわ顔色の悪い一人のエリート社員を特大のゴミ拾いトングでビシッと指差した。


「ひぃっ!? な、なんだ。私はこれから、第3セクターのインフラ監査に向かわなければならない。分刻みのスケジュールなんだ、邪魔をしないでくれ!」


 男が神経質そうに眼鏡を押し上げ、怯えたように早口でまくし立てる。


「まぁまぁ、そんなカチカチにならんと! あんた、顔色最悪やし、足もえらい浮腫んどるやないか。ちょっと手ぇ出しなはれ。おばちゃんが占ったるわ」


 うちはアイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出し、屋台のテーブルの上にバシッ、バシッと二枚展開した。


「出たのは『吊るされた男』の逆位置、そして『ペンタクルの4』の正位置や。『吊るされた男』の逆位置は、無駄な骨折りと報われない苦労の連続。『ペンタクルの4』は、物質的な安定にしがみついて身動きが取れなくなっている状態やな」


 うちはカードの絵柄をデコネイルで弾き、男を真っ直ぐに見据えた。


「あんた、会社に評価されるためだけに、自分の体を完全に無視してデスクに齧り付いとるな? そのせいで足の裏からふくらはぎにかけて、老廃物がパンパンに溜まっとるんやわ!」


「ろ、老廃物だと……? 馬鹿な。私の健康状態は、毎朝AIのシステムによって完璧に管理され、必要な栄養ペーストとサプリメントを処方されている。浮腫みなどという非科学的な現象が起きるはずがない!」


「アホか! AIの数字ばっかり信じて、自分の身体の声(悲鳴)を聞いてへんからそうなるんや! 血流っちゅうのはな、薬飲むだけじゃアカン! 物理的に刺激して流してやらな、根本的な解決にはならへんのやで!」


 うちはアイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。


「静江さん、相手はエリートですよ! 物理的な刺激なんて言ったら、また暴力行為だと通報されてしまいます!」


 ミナちゃんが慌てて止めるが、うちはニヤリと極悪な笑みを浮かべた。


「暴力ちゃうわ! これは日本古来から伝わる、究極の『健康増進器具』や!!」


 ドサッ!

 うちが純白の大理石の床の上に放り出したのは、半分に割られた太い竹の筒……前世の大阪のお茶の間には必ず一つは転がっていた、特大の『青竹踏み』やった。


「さぁ、お兄ちゃん! 四の五の言わずに靴脱いで、この上に乗ってみぃ! おばちゃんが、あんたの滞った血流を強制的にリフレッシュしたるわ!」


「な、何を言っているんだ! こんな原始的な木の筒の上に、この高価な無菌シューズを脱いで乗れというのか! 冗談じゃない!」


 男が後ずさろうとするが、ザックが大きな手で男の肩をガシッと掴み、逃げ道を塞いだ。


「へへっ。オカンが乗れって言ってんだ。大人しく乗りな」


「ひぃぃッ! 分かった、乗ればいいんだろう、乗れば!」


 男は涙目になりながら靴を脱ぎ、恐る恐る、青竹踏みの上に足を乗せた。


「……ふん。ただの丸い木じゃないか。こんなもので何が……」


 男が全体重をかけた、その瞬間やった。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁッッ!!?」


 大通りに、エリートの断末魔のような悲鳴が響き渡った。


「い、痛い! 足の裏が、足の裏が割れるように痛いぞぉぉッ! なんだこの凶悪な拷問器具は!!」


 男は青竹踏みの上で、まるで熱した鉄板の上に立たされたカエルのように、ピョンピョンと跳ね回って悶絶しとる。


「ガハハハ! 痛いやろ! それが不健康の証拠や! 足の裏は『第二の心臓』言うてな、全身のツボが集中しとるんやわ! 痛いのは、そこに老廃物がゴリゴリに溜まってるからやで!」


 うちは特大トングを肩に担ぎ、跳ね回る男を見て腹を抱えて笑った。


「も、もう無理だ! 降りる! 降ろしてくれぇぇッ!」


「アカン! あと三分は乗り続けなはれ! ザック、リコ! 逃げられんように両脇からしっかり押さえとき!」


「おうよ! アタシたちに任せな!」


 リコとザックが、男の両腕をガッチリとホールドし、強制的に青竹踏みの上で足踏みを続けさせる。


「ひぃぃぃッ! 鬼! 悪魔! 野蛮人どもめぇぇッ!」


 男の悲鳴が続く中、周囲のエリートたちも「なんて恐ろしい拷問だ……」と顔を青ざめさせて震えとる。

 ミナちゃんも「し、静江さん、やりすぎでは……」とおろおろしているが、うちは余裕の表情で腕を組んどった。


 ===========


 三分後。

 「よし、そこまでや!」


 うちの号令でリコとザックが手を離すと、男はヘナヘナとその場に崩れ落ちた。


「……はぁ、はぁ、はぁ……。ひどい、ひどい目に遭った……。メガコーポの法務局に、必ず訴えてやる……」


 男が涙目で睨みつけてくるが、その直後、彼は自分の身体の「異変」に気がついた。


「……あ、あれ……?」


 男は、自分の両足を見つめ、信じられないというように瞬きを繰り返した。

 さっきまで鉛のように重かった足が、まるで羽が生えたように軽い。

 パンパンに張っていたふくらはぎの浮腫みは完全に引き、足の裏からジンジンと温かい血が全身を巡っていくのが、ハッキリと感じられるんや。


「……な、なんだこれは。……視界が、クリアだ。頭を覆っていたもやのような倦怠感が、嘘のように消え去っている……!」


 男が立ち上がると、その顔色から先ほどまでの土気色は完全に消え失せ、健康的な赤みが差しとった。

 目の下のクマも薄くなり、何よりその瞳に、人間らしい「生きる活力」がハッキリと宿っとる。


「せやろ? 血流が良うなれば、脳みそにもしっかり酸素が回るんや。……おばちゃんの『青竹踏み』、メガコーポのサプリメントよりよっぽど効くやろが!」


 うちはニカッと笑い、屋台の中から、第七ドームの畑で育てた極上の『特大トマト』を一つ取り出し、男の目の前に突き出した。


「血の巡りが良うなって、身体がシャキッとしたら、次は『胃袋』が本物の栄養を求め始めるはずや! ほら、このトマトの匂い、嗅いでみぃ!」


 男は、真っ赤に熟れた特大トマトから漂う、むせ返るような大地の香りを、無意識のうちに深く吸い込んだ。


「ゴクリ……」


 男の喉が、大きく鳴った。

 これまでは、無菌ペーストしか受け付けなかった軟弱な胃腸が、青竹踏みの強制リフレッシュによって完全に叩き起こされ、本能レベルで「本物の食い物」を激しく要求し始めたんや。


「……た、食べたい。……その、赤くて瑞々しい物体を、一口でいいから……かじらせてくれ……!」


「ガハハ! まいどあり! ほな、このトマト、スラムからの出張費と健康指導料込みで、ペーストの三百倍の値段で買うてもらうでぇ!」


 うちは悪徳商人のような笑みを浮かべ、男にトマトを差し出した。

 男は値段も気にせず、電子クレジットを即座に送金すると、トマトにガブッ! とかじりついた。


「……っ!! 美味しい……! なんだこの、口いっぱいに広がる甘みと酸味は……! 私の計算式には、こんな暴力的なまでの『旨味』のデータは存在しなかった……!」


 男は、スーツがトマトの果汁で汚れるのも構わず、涙をポロポロと流しながら無我夢中で貪り食った。


「お、おい! 見ろよ、あの男の顔色を! さっきまで死人のようだったのに、生き生きとしているぞ!」


「あの丸い木に乗って、あの赤い玉を食べれば、この頭痛と倦怠感から解放されるのか……!」


 周囲で様子を見ていたエリートたちが、次々と目の色を変え、うちらの屋台の前に群がり始めた。


「私にも! 私にもその木を踏ませてくれ!」


「頼む、いくらでも払うから、その赤い野菜を売ってくれぇぇッ!」


 無菌のメインストリートは、あっという間に「青竹踏みの順番待ち」と「特大トマトの買い占め」を求めるエリートたちの大行列ができ、パニック寸前の大盛況となったんや。


「よっしゃ! リコ、ザック! どんどん木を踏ませて、トマト売り捌きなはれ! ミナちゃんはクレジットの計算(レジ打ち)頼むで!」


「おうよ! 最高の商売だぜ、姐さん!」


「はいっ! 静江さん、売り上げがとんでもないスピードで跳ね上がっています!」


 うちは、深海ネイビーブルーのスカジャンを翻し、大繁盛する屋台の前で高らかに笑い声を上げた。

 上層の光学迷彩部隊を退けたオカンは、ついに中層エリートたちの「健康」と「胃袋」を、アナログな生活の知恵で完全に掌握してしもうたんや。

 だが、こんな白昼堂々の大騒ぎを、メガコーポの親玉が黙って見過ごすはずがあらへん。

 中層エリアに鳴り響く、次なる『排除』のサイレンの音が、うちらの特大営業の熱気を切り裂こうと、もうすぐそこまで迫っとったんや!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

作品ページ上部の【☆評価】【ブックマーク】、そして【リアクション】ボタンをポチッと押していただけるととても励みになります!


みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

引き続きよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。