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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第287話 はじめてのお給料と、オカン流・ドラム缶スーパー銭湯

 無菌室でカチカチに管理されていた中層エリートたちを、強烈な匂いテロと『噛むことの快感』で完全に籠絡し、特大の定期購入契約を勝ち取ったうちら一行。


 スラムで育てた『特大キノコ』と『極太もやし』を売りさばいた代金として、メガコーポが発行する正規の電子クレジットがギッシリとチャージされた情報端末を片手に、意気揚々と海溝スラム街への帰路についとった。


「ガハハハ! 姐さん、あのエリートどもの泣きそうな顔、最高だったぜ! これでアタシらの資金繰りは当分安泰だな!」


 リコが、巨大レンチを肩に担ぎながら機嫌よく笑う。


「せやろ! どんなに頭のええ連中かて、胃袋と本能の欲求には絶対に逆らえへんのやわ。……さてと! 稼いだもんは、しっかり『現場』に還元せなアカンな!」


 うちはスラムの広場に戻るなり、ポンチョの裾を翻してパイプ椅子の上に立ち上がった。

 そして、アイテムボックスから拡声魔道具メガホンを取り出し、広場に響き渡る声で怒鳴った。


「おーい! スラムのみんな! 集合やでぇぇッ!」


 うちの号令に、地下農園でキノコの世話をしていた者や、手作り換気扇のメンテナンスをしていた住人たち、そして『海溝のネズミ』のザックたち無法者も、一斉に広場へと集まってきた。

 みんなの顔には、かつての絶望や無気力な影はもうあらへん。自分たちの手で生活を作っているという、確かな活力が満ち溢れとる。


「……オカン! 中層へのカチ込み、どうだったんだ!?」


 ザックが期待に満ちた目で聞いてくる。


「大成功や! あんたらが暗闇で手塩にかけて育てた野菜、エリートどもが泣いて喜んで買いよったわ! というわけで……!」


 うちは、端末を操作し、スラムの住人たちがそれぞれ持っている古いID端末へと、一斉に『電子クレジット(お金)』を送信した。


 ピロリンッ、ピロリンッ……!


 スラム中のあちこちで、これまでに聞いたことのない軽快な着信音が鳴り響く。


「な、なんだこれ……! 俺の端末に、クレジットが振り込まれてるぞ!?」


「あ、アタシにも……! しかも、上層の危険な下水掃除を一年やっても稼げないような額が……!」


 住人たちが、信じられないものを見る目で自分の端末の画面を見つめとる。

 彼らはこれまで、生かさず殺さずの配給ペーストをもらうだけで、自分の労働に対して『正当な対価(お金)』を払ってもらった経験なんて、一度もなかったんや。


「それはな、あんたらが流した汗と、工夫して育てた野菜の『正当な売り上げ(お給料)』や! 搾取もピンハネも一切なし、頑張った分だけ手元に残る、真っ当な労働の証やで!」


 うちがメガホン越しに告げると、広場は一瞬の静寂に包まれた。


 やがて。


「……お、俺たちの……お給料……」


「働いて、お金をもらえるなんて……。俺たち、ゴミじゃない……ちゃんと、生きてるんだ……っ!」


 スラムのあちこちで、大の大人たちが端末を両手で握りしめ、ポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。

 それは、ただお金をもらえた喜びやない。自分たちの存在価値を、社会(経済)のシステムの中で初めて認められたという、人としての『誇り』を取り戻した涙やった。


===========


「……やりましたね、静江さん。彼らの心は今、本当の意味で『自立』しました。これでオカン・ユニオンの結束は、いかなる権力でも壊せない盤石なものになりましたよ」


 ミナちゃんが、情報端末を胸に抱きしめて、感動の涙を浮かべながら微笑む。


「せやな。……でも、喜んで泣くのはまだ早いで!」


 うちはパイプ椅子から飛び降り、特大のゴミ拾いトングで、スラムの広場のド真ん中をビシッと指差した。


「あんたら! お給料もろて、初めての『買い物』は何にするか決めとるか!? ペースト以外の美味いもん買うのもええけど、その前に……あんたらのその『何年分もこびりついた垢と泥』、ピカピカに洗い流さんと、せっかくの飯も不味くなるで!」


 うちの言葉に、住人たちはハッとして自分の身体の匂いを嗅ぎ、苦笑いした。

 換気扇でスラムの空気は綺麗になったとはいえ、彼らには『お風呂に入る』という習慣すら奪われとったんやからな。


「静江さん、でもこのスラムには、全身を洗えるような温水設備はありませんよ? 水はプラントの漏れ水で確保できても、それを沸かす莫大な熱源が……」


 ミナちゃんの正論に、うちはニヤリと極悪な笑みを浮かべた。


「熱源なら、いくらでもあるやろが! リコ! ザック! あんたら、中層の『排熱パイプ』が通ってるダクトの場所、知っとるな!」


「おうよ! メガコーポの野郎どもが、上の階層を冷やすために、熱い空気をスラムに向けて不法投棄してる極太のダクトだろ?」


「せや! その排熱、ただで捨てさせとくのはもったいないわな! 廃材の『特大ドラム缶』をありったけ集めて広場に並べなはれ! その排熱パイプにバイパス(迂回路)繋いで、熱湯を沸かす『特大の給湯システム』を組むで!」


 うちの無茶苦茶な『排熱利用エコシステム』の提案に、リコとザックが目を輝かせて立ち上がった。


「アハハハッ! さすがオカン! 敵のゴミ(排熱)を利用して風呂を沸かすなんて、最高に痛快なリサイクルだぜ!」


「野郎ども、聞いたな! 今すぐスクラップ置き場から、一番デカくて頑丈なタンクとパイプを引っ張り出してこい!」


 初任給を手にした高揚感と、自分たちの『お風呂』を作るというワクワク感。

 スラムの住人たちは、これまでで一番の笑顔と活気で、広場での特大DIY(銭湯作り)に取り掛かったんや。


===========


 数時間後。


 スラムの広場には、廃材の鉄板で囲われた『オカン・ユニオン特製・海溝スーパー銭湯』が見事に完成しとった。

 中層から不法投棄されていた排熱をパイプで引き込み、並べられた巨大なドラム缶の水を沸かす、完全なるエコ給湯システムや。

 広場中が、ほかほかの湯気と温かい空気に包まれとる。


「よし! お湯加減はバッチリやな! ほな、仕上げに一番大事なもんを入れるで!」


 うちは、アイテムボックスから前世で買い溜めていた『重曹』と『クエン酸』の特大袋を取り出した。


「おばちゃん、それ、この間パイプのお掃除に使ったシュワシュワの粉だよね?」


 リリルが不思議そうに首を傾げる。


「せやで。でもな、この重曹とクエン酸を、少量の水で固めて丸めると……ほら!」


 うちは、丸めた粉の塊(即席の炭酸入浴剤)を、ドラム缶の熱湯の中にポイッと投げ入れた。


 シュワシュワシュワァァァッ!!!


 ドラム缶のお湯が、猛烈な勢いで細かい炭酸の泡を吹き出し始めた。


「これぞ、オカン特製『手作り炭酸バブ』や! 炭酸ガスが血行を良くして、重曹が毛穴に詰まった古い皮脂と泥汚れを根こそぎ溶かし落としてくれるんやわ! さぁ、みんな! 順番に男湯と女湯に分かれて、骨の髄まで温まりなはれぇぇッ!」


「「「うおおおおぉぉぉぉッ!!!」」」


 スラムの住人たちは、歓声を上げて服を脱ぎ捨て、次々と手作りのドラム缶炭酸風呂へと飛び込んでいった。


「……くぅぅぅッ! たまらねぇ……! なんだこのシュワシュワした泡は! 身体の芯まで痺れるように温かいぜ……!」


「垢が……何年分もこびりついてた黒い泥が、擦らなくても勝手に落ちていく……。私、自分の肌がこんなに白かったなんて、忘れていたわ……」


 スラムの大人たちも子供たちも、炭酸のお湯の中で、極楽の表情を浮かべてため息をついとる。


 何年もの間、冷たいヘドロとカビ臭い空気の中で、ただ生きるためだけに耐え忍んできた彼ら。

 温かいお湯に浸かり、仲間と背中を流し合うという、人間としての『当たり前の生活(癒やし)』が、彼らのすり減った心を、これ以上ないほど優しく洗い流していったんや。


「……ふぅ。極楽、極楽。やっぱりお風呂は、足伸ばして入らなアカンな」


 女湯の特大ドラム缶の中で、うちもミナちゃんやリリルたちと一緒に、首までお湯に浸かって大きく伸びをした。


「……本当に。静江さんに出会うまで、私がこんなスラムの底で、こんなに幸せな気持ちでお湯に浸かる日が来るなんて、想像もしていませんでした」


 ミナちゃんが、すっかり綺麗になった肌を赤らめて、幸せそうに微笑む。


「おばちゃん、シュワシュワしてすっごく気持ちいいよぉ……」


 リリルも、お湯の中でぷかぷかと浮きながら、トロンとした目で笑っとる。


 換気扇を作り、医療を整え、闇医者を更生させ、地下農園で野菜を育て、中層への密輸ルートを開拓し、ついに自分たちの『お給料とお風呂』を手に入れた。

 ただの掃き溜めやった海溝スラム街は、オカンの泥臭いお節介によって、強固な経済力と圧倒的な絆を持つ『巨大な家族オカン・ユニオン』として、いよいよ完璧な地盤を完成させたんや。


===========


 だが、うちらがスラムの底で特大の祝杯(入浴)をあげているその頃。

 海底都市『アクア・エデン』の最上層――メガコーポの親玉であるCEO(社長)がふんぞり返る、豪華絢爛な役員室では、不気味な警告音が鳴り響いとった。


「……どういうことだ。中層エリートたちの『栄養ペースト』の消費量が、ここ数日で異常なほど激減しているだと?」


 黒いスーツを着こなしたCEOが、デスクの上のホログラムモニターを睨みつけ、冷たい声で呟いた。


「はっ。さらに、第4浄水プラントで発生したはずの大規模な水漏れエラーが、システムや防衛ドローンの介入なしに、なぜか『手作業と未知の化学物質』によって完全に修復されたという不可解な報告も上がっております」


 秘書のサイボーグが、無機質な声で報告する。


「……馬鹿な。マニュアル通りにしか動けないはずのあの連中が、自らの意志でペーストを拒否し、システムの想定外の行動をとっているとでもいうのか?」


 CEOの冷徹な瞳が、モニターに映る『海溝スラム街』のエリアを鋭く射抜いた。


「……下層で、何かが起きている。我々の管理システムを根底から揺るがすような、不純な『バグ』が。……特務査察部隊を編成しろ。下層スラムを徹底的に洗い出し、そのバグの元凶を、物理的に『消去デリート』するのだ」


「承知いたしました。直ちに実行します」


 スラムのどん底で、笑顔と温かいお湯に包まれるオカン一行。

 だが、彼らの圧倒的な『生活の知恵』が引き起こした異変は、ついに上層の親玉の危険探知システムに引っかかってしもうたんや。


 完璧な管理社会を維持しようとする巨大な権力と、泥臭く立ち上がったオカン・ユニオン。

 海底都市を二分する、本当の『抗争(大掃除)』の火蓋が、いよいよ切って落とされようとしとった!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

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みなさんの応援が、次回更新の原動力になります。

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