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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第286話 無菌エリートの意地と、オカン流・匂いテロ鉄板焼き

 メガコーポ中層エリアを飲み込もうとしていた第4浄水プラントの特大水漏れトラブルを、重曹とクエン酸の化学反応、そしてリコの素早い配管作業で見事に解決したうちら一行。

 猛烈な勢いで噴き出していた濁流が完全に止まり、プラントの制御室には、モーターの静かな駆動音だけが戻ってきた。

 無機質でチリ一つなかったはずの部屋は、うちらの撒き散らした重曹の泡と泥水でぐちゃぐちゃになっとったが、それこそが「この街が救われた」何よりの証拠や。


「……信じられない。ドローンの介入もなしに、あんな原始的な手作業だけで、このクラスの物理的破損を修復してしまうとは……」


 直前までパニックを起こして右往左往していたエリートの男が、ピタリと水漏れが止まったパイプを見上げ、眼鏡の奥で呆然と目を丸くしとった。


「せや。マニュアルに書いてあることだけが正解やない。現場のトラブルは、現場の人間の機転と『台所の知恵』で何とでもなるもんやで!」


 うちは泥水で汚れた特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、エリートたちに向かってニカッと笑いかけた。


「へへっ、アタシのジャンク屋仕込みの配管テクニックも大したもんだろ!」


 リコも巨大レンチを肩に担ぎ、油まみれの顔で誇らしげに鼻をこする。

 ザックも「上の連中も、たまには下層の泥水に感謝するこったな」と、プロペラシールドの左腕をガシャリと鳴らして不敵に笑った。


「さてと! 街の水没も防いだことやし、改めて『商談』の続きといこか!」


 うちはアイテムボックスから、スラムの暗闇で育てた『特大シイタケ』と『極太もやし』がギチギチに詰まった真空パックの袋を取り出し、彼らの目の前にドンッと置いた。


「命と街を救ったお掃除代(恩)や。この極上野菜、ペーストの百倍の値段で定期購入してもらうで!」


 これで商談成立間違いなし……やと思ったんやけど。


「ひぃぃッ! 近づけないでくれたまえ!」


 エリートの男は、またしても悲鳴を上げて数歩後ずさった。

 彼は、純白のスーツを庇うように両腕を交差し、ガタガタと震えとる。


「命を救っていただいたことには、論理的にも深く感謝する! しかし、それとこれとは全くの別問題だ! その泥と菌糸にまみれた未知の有機物を摂取することなど、私の完璧に最適化された無菌の腸内フローラへの重大な反逆行為だ!」

「はぁ!? まだそんなこと言うとんのか!」


 うちは呆れて、思わずトングを大理石の床にガァァン! と叩きつけた。


「静江さん。彼らの『無菌信仰』は、システムによって幼い頃から脳に刷り込まれた強迫観念なんです」


 ミナちゃんが、情報端末でエリートたちの生体データをスキャンしながら、悲痛な声で説明してくれる。

 彼女もかつてはこの上層の常識に縛られとったからこそ、彼らの異常な拒絶反応の理由が痛いほど分かるんやろう。


「彼らは生まれてからずっと、味も匂いもないペーストしか食べていません。だから胃腸の消化能力も極端に弱く、何より『噛む』という行為自体を、無駄で非効率な疲労だとプログラミングされているんです」

「噛むのが非効率やて? アホか!」


 うちは、パイプ椅子を広げてどっかと座り込み、エリートの男を鋭く睨みつけた。


「あんたな、さっきから見てたら滑舌も悪いし、何より目の下に特大のクマができとるやないか! 噛むっちゅう行為はな、ただ飯を食うだけやのうて、脳に血を巡らせてストレスを発散させる『最高のリフレッシュ』なんやで!」

「ス、ストレス発散だと……? 非科学的な精神論だ! 咀嚼にエネルギーを割くなど、我がメガコーポの効率的な労働モデルにおいてあり得ない!」

「理屈ばっかりこねてんと、一回自分の身体の『本能』に聞いてみんかい!」


 うちはパイプ椅子から勢いよく立ち上がり、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。


「言葉で分からへんのなら、あんたらの眠っとる胃袋を、力ずくで叩き起こしたるわ!」

「リコ! ザック! ちょっとそこら辺に転がってる平らな鉄の板と、バーナーの準備しなはれ!」

「おうよ! 料理の時間だな、姐さん!」

「へへっ、オカンの飯が食えるとは、荷物持ちについてきた甲斐があったぜ!」


 リコとザックが、プラントの資材置き場から分厚い鋼鉄の板を見つけ出し、四隅をレンガで固定して、リコの義手のバーナーでそれを裏から猛烈な勢いで熱し始めた。


「な、何をする気だ!? ここは無菌管理されたインフラ区画だぞ! 許可のない火気の使用など、マニュアル違反の極みだ!」

「やかましい! おばちゃんの料理にマニュアルなんかあらへん!」


 うちは熱々に熱された鉄板の上に、大和郷の出張鑑定で仕入れていた『特製バター』の大きな塊をドカンと放り込んだ。

 ジュワァァァァァッ!!!

 黄色いバターが鉄板の上で瞬時に溶け出し、焦げるような暴力的な香りが、チリ一つなく無臭だったプラントの制御室に一瞬にして広がった。


「ひっ……!? な、なんだこの刺激的な気体は……! 鼻腔の粘膜が異常な数値を検知している!」

「まだまだ! ここからが本番や!」


 うちは真空パックを開け、スラムの暗闇で住人たちの愛情をたっぷり受けて育った特大シイタケと、極太もやしを、手で豪快にちぎって鉄板にぶちまけた。

 ジューッ! という軽快な音とともに、野菜から溢れ出す水分とバターが絡み合い、さらに食欲をそそる匂いが立ち上る。熱が通ることで、シイタケの内側から極上の旨味エキス(出汁)が溢れ出してくるんや。


「そして仕上げは、これや!」


 うちはアイテムボックスから大和郷の『特濃醤油』を取り出し、鉄板の空いたスペースめがけてわざと回し掛けた。

 チリチリッ! と醤油が焦げ、香ばしさが爆発する。


「さらに、おばちゃん特製の魔法のサプリ(隠し味)やで!」


 うちは、限界まで疲労を回復させる赤色の『イチゴ味』と、精神を安定させるオレンジ色の『オレンジ味』の飴ちゃんを取り出し、すり鉢で親の仇のようにゴリゴリと粉々に砕いた。


「この特製スパイスを、ドババッ! と上から振りかけるで!」


 砕かれた飴ちゃんの粉末が、バターと焦がし醤油が絡んだ野菜炒めの上に降り注ぐ。

 フワァァァァッ……!!

 熱で溶けた飴ちゃんの魔力が蒸気とともに気化し、バターと焦がし醤油の匂いに溶け込んで『究極の匂いテロ(食欲の爆弾)』が完成したんや。


 無菌の空気に慣れきっていたエリートたちの嗅覚に、それは抗うことのできない猛威として直撃した。


「……くっ……。な、なんだ……この、脳髄を直接揺さぶるような……暴力的な匂いは……」


 エリートの男が、持っていた純白のハンカチで口元を覆いながらも、その視線は完全に鉄板の上のシイタケに釘付けになっとった。

 何代にもわたってペーストしか口にしてこなかった彼らエリートのDNAの奥底に眠る、「狩猟と採食の記憶」を強制的に呼び覚ますほどの破壊力。


「ゴクリ……」


 エリートの男の喉が、大きく鳴った。

 彼のお腹から、グゥゥゥ〜ッという、マニュアルには絶対に記載されていない「飢えの悲鳴」が、制御室に響き渡った。


「ほら! 出来立ての熱々や! ペーストみたいに飲み込んだら火傷するで! しっかり前歯で噛みちぎって、奥歯ですり潰して味わいなはれ!」


 うちは、シイタケともやしのバター醤油炒めを山盛りにした皿と、割り箸を、エリートの男の胸元に強引に押し付けた。


「わ、私は……こんな未知の菌類など……! 摂取すれば、私の完璧な計算と理性が……!」


 男は震える手で箸を握りしめながらも、まだ理性の壁で必死に抵抗しようとしとった。

 だが、その瞳孔は限界まで開き、皿から立ち上る魔力入りの湯気を無意識のうちに深く吸い込んでしまっている。


「……静江さん。彼らの自律神経が、もう限界です。システムによる食欲抑制プロトコルが、完全にエラーを起こして崩壊寸前です……!」


 ミナちゃんが、情報端末の激しいアラート音を確認しながら叫ぶ。


「ええから食え!!」


 うちは特大トングで、男の背中をドォォン! と力強く叩いた。

 その反動で、男はついに理性のストッパーを完全に外し、箸で特大のシイタケを掴み、ガブッ! と大きな口を開けてそれに噛み付いてしもうたんや。


「……っ!!」


 男の目が、信じられないものを見るように限界まで見開かれた。

 シャキッ! ジュワァァァッ!

 肉厚のシイタケから溢れ出す、バター醤油の濃厚な塩分と強烈な旨味エキス。それが、無菌ペーストでカサカサに干からびていた彼の舌の上の味蕾を、電撃のように刺激した。

 そして、彼が「噛む」という行為を数回繰り返した瞬間。


「……あ……あぁ……」


 彼の口から、言葉にならない嗚咽が漏れた。

 噛み締めるたびに、シイタケの圧倒的な弾力と、もやしのシャキシャキ感が脳を直接揺さぶり、血流を一気に活性化させる。

 さらに、スパイスとして溶け込んでいたイチゴ飴とオレンジ飴の魔力が、彼の限界まで張り詰めていた神経を優しく解きほぐし、疲労を吹き飛ばしていく。

 システムによって長年殺されていた「生きる喜び」と「本能の熱」が、暴力的なまでのスピードで彼の全身に蘇ってきたんや。


「美味しい……。なんて、美味しいんだ……! 噛むたびに、野菜から甘い水が溢れてくる……。それに……顎を動かすのが、こんなに心地よい疲労感だなんて……私は今まで、何を食べて生きてきたんだ……!」


 男は、純白の高級スーツがソースで汚れるのも構わず、箸を放り出して素手でシイタケともやしを掴み、涙と鼻水を顔いっぱいに流しながら、無我夢中でむさぼり食い始めた。

 喉を火傷しそうになりながらも、ただひたすらに噛み砕き、飲み込む。

 そこにはもう、無菌室のエリートの面影は微塵もなかった。


「ガハハハ! ええ食いっぷりや! 焦らんでも、まだなんぼでも焼いたるわ!」


 うちは鉄板の上でさらに野菜を炒めながら、満足げに笑った。


「……お、おい。俺にも一口くれ!」

「私にもだ! その茶色い液体(醤油)がかかったところを!」


 制御室にいた他のエリートたちも、理性を完全に投げ捨て、我先にと鉄板の周りに群がり、手づかみで熱々のもやしを口に放り込み始めた。


「熱っ! でも美味い! ペーストなんて、ただの泥水だったんだ!」

「噛むって、素晴らしいな……! 頭の中のモヤモヤが、一緒にすり潰されていくみたいだ!」


 涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにしながら、極上の笑顔で野菜を貪るエリートたち。

 彼らがずっと信じていた「無菌信仰」の壁は、オカンの匂いテロと飴ちゃんの魔力スパイスの前に、見事なまでに粉々に打ち砕かれたんや。


「……すごい。あんなに頑なだった無菌信仰が、たった一皿の鉄板焼きで完全に崩れ去りました……」


 ミナちゃんが、情報端末を下ろし、感動したように呟く。


「おうよ! アタシらのスラムで泥水すすって育てたキノコと、オカンの味付けが組み合わさったら、どんなエリートだろうが陥落間違いなしだぜ!」


 リコも巨大レンチに寄りかかり、誇らしげに鼻をこする。


 ザックも「オカンの飯は、システムより強えな」と笑いながら、自分も皿を持って鉄板の前に並んだ。


「せやろ? どんなに頭ええエリートでも、胃袋は正直なんや。美味しいもんを自分の歯でしっかり噛んで食べる。それが人間の一番の『健康法』やわ」


 男は涙を拭いながら、深く、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます。私は……自分がどれほど空っぽな人生を送っていたか、今やっと理解しました。……あなた方のこの素晴らしい野菜、必ず上層の市場で、ペーストの百倍の値段で買い取らせていただきます……!」

「よっしゃ! 商談成立やな!」

 うちは特大トングを肩に担ぎ、ニカッと極悪な笑みを浮かべた。

 無菌エリートの頑ななプライドを、暴力的な匂いテロと「噛む喜び」で完全粉砕し、見事に特大の密輸ルート(販路)を確保したうちら一行。

 海底都市の中層エリアでのオカン流ゲリラ営業は、大成功のまま、次なるド派手な大掃除へと繋がっていくんや!


読んでくれてありがとうございます!


「面白い!」「続きが気になる!」「応援したい!」と思っていただけたら、

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