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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第284話 有機物センサーと、オカン流・真空パック密輸作戦

 スラムの顔役であった『海溝のネズミ』たちを、オカン流の換気扇掃除(物理)と飴ちゃんで見事に屈服させ、新たな『家族』として取り込んだうちら一行。

 彼らが長年牛耳っていた中層への隠しルートを自由に使わせてもらえることになり、いよいよ大豆と廃材から育てた『特大もやし』と『肉厚キノコ』を中層の無菌エリートどもに売り捌く、ゲリラ営業の準備が整った。


「……静江さん。ここが、中層のインフラ管理区画へと続く、古い排気ダクトの隠し通路です」


 顔役のザックが、スラムの最奥にある巨大な鉄格子の前で足を止めた。

 つい先ほどまでうちらに牙を剥いていた彼やが、オカンの説教と換気扇掃除で完全に毒気を抜かれ、今は頼もしい案内人として先頭を歩いとる。彼が機械化された左腕のプロペラシールドで隠しレバーを操作すると、ギギギ……と錆びついた重々しい音を立てて鉄格子が開き、真っ暗なダクトの入り口が姿を現した。


「よっしゃ、ええ抜け道やないか。ほな、さっそくこのキノコともやしを背負って……」


 うちが、風呂敷にパンパンに詰めた特大野菜を背負い、意気揚々と進み出ようとした、その時やった。


「待ってくれ、オカン。道は開いたが、ここから先へはこのままじゃ進めねえんだ」


 ザックが、渋い顔をしてうちの前に立ち塞がった。

 彼はダクトの入り口の少し先、薄暗い天井に設置されている小さな赤いランプを指差した。


「最近、上層の連中がスラムからの不法侵入に過敏になってな。この隠しルートにも、最新の『有機物検知センサー』を仕掛けやがったんだ。人間一人が身一つで通る程度なら、下水やネズミの反応として誤魔化せるが……オカンが背負ってるような『大量の生きた植物(有機物)』を持ち込めば、異常な生体反応として一発でアラートが鳴る」


「……あかん。これじゃあ商売にならへんわ」


 うちは風呂敷を下ろし、パイプ椅子を広げてどっかと座り込んだ。

 背負っているのは、暗闇で育てた生命力あふれる特大もやしとシイタケや。どれだけ風呂敷で隠しても、その瑞々しい命の波長は、メガコーポの最新鋭センサーをごまかすことはできへん。

 ザックの部下たちも、悔しそうに舌打ちをしとる。


「どうする、姐さん。アタシがレンチで、あのセンサーの基盤を直接ぶっ叩いて壊してこようか?」


 リコが、腰のツールベルトから巨大レンチを抜き出し、物騒な提案をしてきた。

 彼女のヤンキー魂はいつでも物理破壊を求めとる。


「アホ! センサーが壊れたら、それこそ『異常事態』として本部に通信がいって、即座に武装部隊が飛んでくるわ! 隠密の密輸ルートの意味がなくなるやろが!」


 うちが即座に却下すると、リコは「うっ……確かにそうだな」と頭を掻いてレンチを下ろした。

 ミナちゃんも情報端末でセンサーの性能をスキャンし、青ざめた顔で首を振る。


「ダメです。このセンサー、微かな呼吸や胞子の飛散すらも感知します。植物が生きている限り、どうやっても反応を消すことはできません……」


「匂いが漏れて、生きてる反応が出るからアカンねやろ。……ほな、答えは簡単やないか」


 うちは特大のサングラスを押し上げ、ニヤリと極悪な笑みを浮かべた。

 そして、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだんや。


「スーパーの裏側でパートのおばちゃんらが毎日やっとる、『鮮度保持』と『匂い移り防止』の最強のパッケージング技術! それをここで再現したるわ!」


 ドサドサドサッ!


 うちがコンクリートの床の上に豪快にぶちまけたのは、スラムのゴミ山から拾い集めて綺麗に洗っておいた、透明な『廃ポリマーのシート(特大のビニール袋)』と、束になった『古い新聞紙(のような紙の束)』や。


「えっ……ゴミ袋と、ただの紙切れですか?」


 ミナちゃんが、そのあまりにも生活感あふれるアイテムを見て、不思議そうに目をパチクリさせる。


「ゴミ袋ちゃうわ、梱包材や! ええか、生鮮食品を長持ちさせて、なおかつ周りに匂いを漏らさへんためには、『真空パック』にして空気を完全に遮断するんが一番なんや!」


 うちは、リコに向かって特大のゴミ拾いトングをビシッと突きつけた。


「リコ! あんた、この間換気扇作った時のモーターの予備、まだ持っとるな! それを逆回転させて、空気を吸い込む『特大の掃除機(吸引機)』を即席で組みなはれ!」


「空気を吸い込むモーターか! おう、そういうことなら任せな! 十分もあれば組んでやるぜ!」


 リコが巨大レンチを振り回し、ジャンクパーツを瞬く間に組み上げていく。火花を散らしながら配線を繋ぎ変えるその手際は、相変わらず見事なもんや。


「ミナちゃん、ザック! スラムの兄ちゃんらも手伝いや! あんたらは、この特大シイタケともやしを、ちょっと湿らせた新聞紙で丁寧に包みなはれ! 水分を保ちつつ、余計な呼吸を抑えるんや!」


「は、はい! 湿らせた紙で包むんですね!」


 ミナちゃんとザックの部下たちが、うちの指示通りに野菜を丁寧に紙で包んでいく。ザックも、大きな無骨な手でシイタケを潰さんように、そーっと紙を巻いとる。


「よし、それをこの特大の廃ポリマー袋の中にギチギチに詰め込むんや!」


 全員で協力し、大量の野菜を一つの巨大な透明袋の中に収めた。


「姐さん! 吸引機、準備できたぜ!」


「おうよ! 吸い込みマックスでいくで!」


 うちは、野菜が詰まったポリマー袋の口に、リコが作った即席吸引機のノズルを深く突っ込み、袋の口を両手でギュッと固く握りしめた。


「スイッチ、オンや!!」


 ブォォォォォォンッ!!


 凄まじいモーター音が響き、袋の中の空気が猛烈な勢いで吸い出されていく。

 パンパンに膨らんでいたポリマー袋が、みるみるうちに萎み、中のキノコともやしの形に沿って、カッチカチに密着していった。


「よっしゃ、今や!」


 うちはノズルを素早く引き抜くと同時に、アイテムボックスから取り出した『熱した鉄のコテ』を袋の口にジュワッ! と押し当てた。

 ポリマーが熱で溶け、完全に癒着して密閉シーリングされる。


「……すげえ。袋がガチガチになって、中の野菜が完全に閉じ込められてるぜ」


 リコが、カチカチになった真空パック野菜の塊をツンツンと指でつつく。


「せやろ! これがオカン流の『即席・真空パック密輸仕様』や! 空気が無いから胞子の匂いも一切漏れへんし、植物の呼吸も一時的に止まってる。センサーから見れば、ただの『無機物の塊』にしか見えへんはずやで!」


「……信じられない。これほど巨大な有機物を、ただの廃材の袋とモーターの吸引力だけで、完全に生体反応を遮断してしまうなんて……。私の端末の生体スキャンでも、反応は完全にゼロです!」


 ミナちゃんが、情報端末で真空パックをスキャンし、震える声で感嘆を漏らした。

 ザックも、そのアナログ極まりない解決策に、ポカンと口を開けて感心しとる。


「さぁて! これで文句あらへんやろ! ザック、案内頼むで!」


 うちは、カチカチになった真空パックの特大野菜の塊を軽々と背負い上げ、ダクトの入り口へとズンズン歩み出た。

 そして、問題の『有機物検知センサー』の真下を、堂々と通り抜ける。


 ……ピー、とも、プー、とも鳴らへん。

 センサーの赤いランプは、うちの背負っている極上の野菜を、ただの荷物(無機物)と判断し、完全にスルーしよったんや。


「「「おおぉぉぉぉぉッ!! さすがオカン!!」」」


 ザックやスラムの無法者たちが、声を出さずに歓喜のガッツポーズを決める。

 メガコーポの最新鋭のセンサーを、「台所の真空パック術」であっさりと欺き、うちら一行は中層へと続く真っ暗な排気ダクトの中へと潜入することに成功したんや。


===========


「……くっさ。このダクト、上の階層からの生ゴミの匂いが染み付いとるな」


 ダクトの中は、中層のエリートたちが垂れ流す排気や廃液の管が縦横無尽に走り、息をするのもためらわれるほどの悪臭と湿気が充満しとった。

 足元はドロドロで、一歩進むたびに嫌な音が鳴る。


「静江さん、足元に気をつけてください。このダクトは古く、いつ崩れてもおかしくありません。それに、時折上層の工場区画から、強酸性の廃液がゲリラ豪雨のように降ってくることがあります」


 ミナちゃんが、小さなライトで足元を照らしながら警告する。

 ただの抜け道やあらへん。ここはメガコーポの『排泄器官』そのものや。


「ゲリラ豪雨やて? ほな、傘ささなアカンな! みんな、さっき余った廃ポリマー袋、頭からスッポリ被りなはれ! 即席のレインコートや!」


 うちは、余っていた特大の透明なゴミ袋に穴を開け、ポンチョの上からズボッと被った。


「おいポンコツ! あんたも置いてかんから、さっさとダクトの中に転がり込みなはれ!」


「ひぃぃ、こんな狭くて汚いダクト、私の旧型ボディが引っかかりますぅ!」


 ポンコツ案内人のナポが、ワザとらしく情けない悲鳴を上げながらダクトの暗がりに転がり込む。



 リコもミナちゃんもザックも、文句を言いながらゴミ袋を被り、泥水と廃液がポタポタと垂れるダクトの中を、慎重に進んでいく。


「それにしても、この上であの気取ったエリートどもがふんぞり返ってると思うと、余計に腹が立つぜ。あいつら、自分がどれだけ臭いゴミを下に流してるか、知らねえんだろうな」


 リコが、ゴミ袋越しの視界で上を睨みつけながら悪態をつく。


「知らんからこそ、特大の営業(カチ込み)に意味があるんやわ。美味しい野菜を売りつけつつ、自分らの足元がいかに汚いか、きっちり教育したるで!」


 真っ暗で悪臭漂う排気ダクト。

 やけど、うちらの心の中は、これから始まる中層へのゲリラ営業と、エリートどもの鼻を明かしてやるというワクワク感で、赤々と燃え上がっとった。

 オカンの真空パック技術で検問を突破した密輸部隊は、いよいよ無菌のパラダイスへと、その泥だらけの足を忍び込ませていくんや!


読んでくれてありがとうございます!


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