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大阪のおばちゃん占い師、異世界に転生しギャルとなる  作者: 川原 源明
season2 サイバーパンクな世界編
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第283話 スラムの顔役と、オカン流・換気扇の目詰まり掃除

 太陽の光が一切届かない、海底都市の最下層スラム。

 おばちゃんの『逆転の農業理論』によって、この暗闇と湿気を逆手に取った特大の地下農園が完成し、極太のもやしと肉厚な特大シイタケの初収穫に湧き上がっていた、その矢先のことやった。


「ゴホッ! ゲホォォッ……!! な、なんだこの匂いは……! 目が、目が開けられねえぞ!」


 スラムの顔役である『海溝のネズミ』ことザックのアジトに、突如として黄色く濁った不気味なガスが猛烈な勢いで逆流してきたんや。

 それは、ただのカビや埃の匂いやない。

 鼻の粘膜を直接焼き切り、吸い込めば肺の奥までドロドロに溶かされてしまうような、メガコーポの工場から排出される純度百パーセントの『猛毒の魔力廃液ガス』やった。


「ザ、ザックの兄貴! アジトの奥から、毒ガスがどんどん吹き出してきやす! このままじゃ、俺たち……ゲホォッ!」

「くそっ! なんで急にこんな濃度のガスが下りてきやがったんだ!」


 ザックが、新しく取り付けたプロペラシールドの左腕で口元を覆いながら、血走った目で絶叫する。

 彼の部下たちが次々と喉を掻きむしりながら床に倒れ込み、アジトの中はあっという間に地獄絵図と化してしもうた。

 うちらも慌てて農園から駆けつけたが、そのあまりにも濃いガスの充満具合に、思わず足を止めた。


「静江さん! 早く逃げましょう! この濃度のガスを吸い続ければ、不老不死のあなた以外、私たちも数分で肺をやられて全滅してしまいます!」


 ミナちゃんが、情報端末の真っ赤なアラート画面を見つめながら、涙目で必死に訴えかけてくる。

 端末の画面には、致死量を遥かに超える有毒物質の数値が、狂ったように跳ね上がっとった。


「逃げるかいな! 換気扇が詰まっとるんやったら、フィルター掃除するのがオカンの仕事やろが!」


 うちは、パイプ椅子をガシャンと広げてその場にどっかと座り込み、アイテムボックスから使い込まれたタロットカードを取り出した。

 毒ガスが渦巻くコンクリートの床に、バシッ、バシッと二枚のカードを展開する。

 出たのは、『悪魔(The Devil)』の正位置と、『塔(The Tower)』の逆位置や。


「……なるほどな。タロットの言う通り、あんたらも上の連中の不法投棄ゴミの被害者やったっちゅうわけか」

「被害者だとう……!?」


 ザックが、咳き込みながらうちの言葉に反応する。


「『悪魔』の正位置は、逃れられへん理不尽な搾取の鎖。そして『塔』の逆位置は、ジワジワと内部に溜まっていく崩壊の危機や。……このアジト、元々は上層のエリートどもが出したゴミや排気を海に逃がすための『巨大な換気ダクト』の通り道なんやろ。それが完全に目詰まり起こして、行き場を失った毒ガスがこのスラムに逆流してきとるんやわ!」

「……っ! その通りだ。俺たち下層のネズミは、上の連中が吐き出した毒を吸いながら生きるしかなかったんだよ!」


 ザックが、ギリッと奥歯を噛み締め、怒りと無力感に顔を歪める。

 上層の無菌パラダイスを維持するために、すべてのしわ寄せと毒が、見えない地下の換気口に押し付けられとる。それがメガコーポの腐ったカースト制度の現実やった。


「上等やわ! ゴミを押し付けといて知らん顔するような悪徳業者、おばちゃんが絶対に許さへんで! ザック! その目詰まりしとる一番デカいフィルターに案内しなはれ! おばちゃんが今すぐ、ピカピカに開通させたるわ!」


===========


「フィルター掃除だと!? 馬鹿なことを言うな!」


 ザックが、血走った目で絶叫した。

 彼はプロペラシールドを回転させ、わずかにガスを吹き飛ばしながら、アジトの最奥にある巨大な換気ダクトの入り口を指差した。


「あのフィルターにこびりついているのは、台所の油汚れみたいなチャチなもんじゃない! 上層から何十年も流れてきた魔力廃液と工業用スライムが混ざり合って、化石のように硬化した『超高純度の魔力樹脂』だ! 俺たちがハンマーで全力で叩こうが、高熱のレーザーカッターで焼こうが、表面に傷一つつけられねえんだよ! 生身の人間がどうにかできる代物じゃねえ!」


 ザックの絶望的な叫びの通り、ダクトの入り口を塞いでいる巨大な金属製のフィルターは、ドス黒くてテカテカとしたタールのような塊で完全に覆い尽くされとった。

 それはまるで、岩のようにカチカチに硬化した黒い悪魔の壁や。

 この壁が排気のルートを完全に塞いでいるせいで、行き場を失った毒ガスが、すべてスラムのアジトへと溢れ出してきとるんや。


「アホ! 台所の換気扇のガンコな油汚れを、ハンマーで叩き割るバカがどこにおるんや! 力任せに削ろうとするから、刃が立たへんのやろが!」


 うちは、特大のゴミ拾いトングを肩に担ぎ、ヒョウ柄のポンチョを翻して、その禍々しい魔力樹脂の壁の真ん前へとズンズン歩み寄った。


「いいか、あんたら! どんなにカチカチに固まった汚れでもな、汚れの性質を見極めて、それに一番効く『化学の力』をぶつけるんが、賢いオカンのお掃除術や!」


 うちは、アイテムボックスの奥深くに両腕を突っ込んだ。

 取り出したのは、前世でスーパーの特売日に死ぬほど買い溜めていた大量の『重曹(アルカリ性パウダー)』と、強烈な酸味を放つ特大の『クエン酸(お酢の原液)』のポリタンクや。


「リコ! ザック! おばちゃんが今からこの魔法の洗剤で、このカチカチの油汚れの分子構造を『根本から浮かせる』! あんたらは、その浮いて脆くなった汚れを、自慢のレンチとシールドで根こそぎ削ぎ落としなはれ!」

「汚れを浮かせる……!? そんな粉と液体だけで、あの鋼鉄みたいな樹脂が剥がれるっていうのかよ!」

「四の五の言わんと、準備しなはれ! 息止めて、一気に行くでぇぇッ!」


 うちは、タールのように固まった巨大な魔力樹脂の壁めがけて、まずは大量の重曹パウダーをバサァァァッ! と隙間なく真っ白になるまで豪快に叩きつけた。

 そして、その上から、ポリタンクに入った特濃のクエン酸溶液を、親の仇のようにドバドバと全力でぶちまけたんや!


===========


 ジュワアアアアァァァッ!!!


 酸とアルカリが接触した瞬間、ダクトの奥で凄まじい化学反応が爆発的に引き起こされた。

 重曹とクエン酸が生み出した超高密度の『炭酸ガスの泡』が、カチカチに硬化していた魔力樹脂のミクロの隙間に浸透し、その強固な分子結合を内側からメリメリと破壊し始めたんや!


「なっ……!? 樹脂が、溶けて……いや、浮き上がってきているぞ!」

「すげえ! あの絶対に壊れなかった黒い塊が、ブクブクと泡を立てて脆くなっていきやがる!」


 ザックとリコが、信じられないものを見るように目を丸くして絶叫する。

 いくら魔法の力が混ざった樹脂でも、ベースが『油とタンパク質』である以上、オカン最強の掃除コンボである発泡洗浄の力には絶対に逆らえへんのや。


「ボーッとすな! 今やリコ! ザック! そのブクブクになった汚れを、一気に削ぎ落とさんかい!」

「おうよ! 待ってましたってんだ! アタシのジャンク魂、見せてやるぜ!」


 リコが、機械化された右腕の出力を限界まで引き上げ、自分の背丈ほどもある巨大レンチをフルスイングで叩き込んだ!

 ガァァァァンッ!!


「俺のスラムの意地も食らいやがれェェッ!」

 ザックも、左腕のプロペラシールドを全開で回転させ、削岩機のように樹脂の壁めがけて突撃する!

 ギュイィィィンッ!!


 さっきまではハンマーで叩いても傷一つ付かなかった樹脂の壁が、重曹とクエン酸の泡で脆くなったところに二人の猛烈な物理攻撃を食らい、まるで古い土壁のようにボロボロと崩れ落ちていった。

 分厚いヘドロの塊が次々と剥がれ落ち、その奥から、本来の巨大な『換気扇のファン』が姿を現したんや。


「よし! フィルターの目詰まりは解消したで! あとは、この換気扇を回して空気を入れ替えるだけや! ザック、あんたのプロペラの動力で、この止まってるファンに強制的にエンジンを入れなはれ!」

「任せとけ! スラムの風、送り込んでやるぜ!」


 ザックが、自らのプロペラシールドを巨大な換気扇の軸にガッチリと噛み合わせ、左腕のモーターの出力を限界突破まで引き上げた。

 ゴオォォォォォッ……!!


 凄まじい地鳴りのような駆動音とともに、何十年も止まっていた巨大な換気扇のファンが、ついに猛烈な勢いで回転し始めた。

 目詰まりが完全に解消された瞬間、換気扇本来の圧倒的な吸引力が復活し、アジトに充満していた猛毒のガスが、竜巻のように一気に吸い込まれ、外の海へと正しく排出されていったんや。


===========


「……す、すげえ。何年もアタシたちを苦しめていたガスの逆流が……完全に止まった……」


 ザックが、信じられないものを見る目で、ピカピカに風が通るようになった巨大換気口を見上げた。

 アジトの空気は、さっきまでの地獄のような毒ガスが嘘のように、ヒンヤリと澄んだ清らかなものへと変わっとった。


「せやろ? どんなにカチカチの油汚れでも、力任せに削るんやのうて、酸とアルカリで中和して『浮かせてから落とす』のが、お掃除の鉄則やで」


 うちは額の汗をヒョウ柄のタオルで拭いながら、毒ガスで倒れていたザックの部下たちの口に、次々と黄色の『レモン味(解毒・回復)』の飴ちゃんを放り込んでいった。


「ほら、これ舐めなはれ。毒ガスの後遺症も、この強烈なクエン酸で綺麗に抜けるわ。明日にはピンピンして走り回れるようになるで」


 飴ちゃんを舐めた部下たちは、激しい咳が嘘のように治まり、次々と健康的な顔色を取り戻して立ち上がった。

 彼らは自分たちの命が助かったこと、そしてアジトの空気が綺麗になったことに、涙を流して互いに抱き合って喜んどる。


「……オカン。あんた、ただの派手な魔女じゃなかったんだな」


 ザックは、完全に毒気を抜かれた顔でうちの前に進み出ると、誇り高きスラムの顔役としてのプライドを捨てて、深く、深く頭を下げた。


「俺たちの命と、このアジトを救ってくれてありがとう。……俺の負けだ。みかじめ料なんてふざけた真似はもうしねえ。俺たちが牛耳っていた中層へのルート、全部あんたらの『オカン・ユニオン』のゲリラ営業のために自由に使ってくれ! 俺たちも、あんたの掃除を手伝わせてもらう!」


「よっしゃ、商談成立や! ほな、明日から中層の無菌エリートどもに、この特大キノコと極太もやしを、ペーストの百倍の値段で高値で売りつけに行くでぇぇッ!」

「「「おおぉぉぉぉッ!! 一生ついていきます、オカン!!」」」


 スラムの顔役であった『海溝のネズミ』すらも、オカン流の換気扇掃除と飴ちゃんで見事に取り込み、強固な地下ネットワークを構築したおばちゃん一行。

 スラムのどん底での泥臭い『足場固め』はいよいよ完璧に整い、物語はついに、理不尽な特権階級がふんぞり返る『中層エリア』への痛快な密輸営業(カチ込み)へと進んでいくんや!


読んでくれてありがとうございます!


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