14.『必要』
読む自己。
終業式が終わって教室に戻るとすぐにHRが始まった。
「――――というわけで、あまりハメ外しすぎないようになー」
と、すぐに終わりを迎えて、私は京子のところまで移動する。
「帰ろっ」
「あ、ちょっと待って、麗を待ってるんだよ」
「あ、そうなんだ。それじゃあ私は席で待ってるね」
まだお昼だし1ヶ月とちょっと来なくなるのだからゆっくりするのもいいだろう。
だから待って、待って、待って――――2時間くらい経過しても彼女達の会話が終わることはなく、いい加減焦れったくなって京子のところに行っても、彼女が会話をやめてくれることはなかった。
「もういい! ばいばいっ」
「待て待て! もう帰るよ、じゃあな麗」
「うん、ばいばーい!」
靴に履き替え外に出て私は勝手に歩きだす。けれどすぐに手を握られて私の足は自然と動くのをやめてしまった。……弱い……。
「ごめん、遅くなっちゃって」
「いや……佐々木さんはいいの?」
「うん、大丈夫。それより今日から泊まってもいい?」
「別にいいよ!」
一旦彼女の家に行って荷物を準備して、それから家へと向かう私達。
「ただいま~」
「お邪魔します」
ただ、どうやらお母さんは外出中のようでいなかった。だから部屋に荷物を置いてもらって、比較的涼しいリビングに戻ってくる。
「なにしよっか?」
「膝枕してあげるよ」
「え? あ、そうなの? それじゃあ失礼します」
あ、柔らかい、ファミレスで食べたカツやハンバーグよりも柔らかかった。
「いい子」
「えへへ」
心地良さが吹き出てくる。暑いはずなのに窓から吹いてくる風が気持ち良くて思わず目を細めた。
日向ですーすーと寝る猫ってこんな気持ちなのかも。
「ねえ京子、お誕生日っていつ?」
「8月1日だな」
「えっ、じゃあお祝いしないとねっ」
「それなら眞子さんのご飯が食べたいな、もう好き、になっちゃったんだよ」
「わざわざ区切るくらい好きになっちゃったの?」
「ああ」
嬉しい。お母さんが作るご飯は凄く美味しいし、愛情ってやつを感じることができるから。
でもいいのかな? 京子のお母さんに怒らないかな? 「家の娘の舌に余計な味を覚えさせないでよ!」って言われそうだけど。
「凪の誕生日はいつ?」
「それがねー12月25日なんだー!」
「え、じゃあクリスマスプレゼント貰えないの?」
「ううんっ、お母さんもお父さんも優しいからダブルでくれるの!」
頼むのは本とかゲームとかそういうの。あまりに高いのは申し訳ないので、いっても3000円くらいの物までにしている。前なんか1回5万円くらいするゲーム機を買ってくれたんだけど、罪悪感で心から楽しめなかった。
「ただいま~! おぉ、京子ちゃん!」
「眞子さん、今日から1週間くらい泊まらせてもらってもいいですか?」
「いいよ~! あ、お昼ご飯作るねー!」
「はい、よろしくお願いします」
そういえば1週間泊まるんだよね京子が。
は、恥ずかしいところ見せたらどうしよう。
「というか、ひゃぁ!? ひ、膝枕されてるところ見られたぁ!?」
「は? 別にいいだろそんなの」
いや良くない。
これが当たり前になるのが1番良くない。
今でこそもう聞いてないけど、京子が好きなのはやっぱり翆なんだから!
自重しなければならないと思って頭を上げようとしたら、おでこを押さえられてできなかった。
「気にするな、いいんだよあんたはされておけば」
「うぅ……だってぇ……」
「嫌なら……それは仕方ないけど」
「違うよ! い、いろいろあるの!」
なんか泥棒猫みたいで嫌なんだ。
それに依存してしまった結果、彼女が『凪を見てないと危ない』という思考になってしまうのも嫌だった。
洗脳したいわけじゃない。ただ純粋に普通のお友達としていられればそれでいいのだ。
特別な関係になりたいわけじゃ――――……ないし、あくまで対等でいたいだけ。
……笑顔が素敵だなとかは思うけど、ドキッとしたのも事実だけど、それとこれとは話が別だ。
「ふふ、いろいろってなに?」
「いろいろはいろいろだよ……」
「そっか、いろいろか」
「うん……いろいろだよ」
意地が悪いっ。
だって気持ちのいい顔で笑ってるんだ。
こっちはその距離感に困っているというのに……。
「できたよ~!」
「ありがとうございます。ほら、食べるぞ」
「はーい……」
極上の枕からはおさらばか。
席に座ってみんなで「いだだきます」を言って。
私達は極上のお昼ご飯を食べ始めた。
――――夜。
食事も入浴も終えてベットでゴロゴロしていると、当たり前のように京子も転がってきた。
その近づいた距離感に心臓を跳ねさせながらも、あくまで普通の対応を心がけた。
「凪、またしてあげるよ」
「いいの? でも、足疲れちゃうだろうし、今度は私がしてあげるよ」
正座になってポンポンとタップし彼女を誘う。
「それじゃ。……んー柔らかいね」
「く、くすぐったぁ……」
でも彼女の綺麗な髪だ。
少しだけ濡れてしっとりとしていて自然とそれを撫でていた。
「あ、こら、やめろ」
「やだ……今日は独り占めするんだから」
「……ま、減るもんじゃないしな」
優しく優しく撫でていく。
ただ、私の方が眠たくなってきて段々と視界がぼやけてきた。
「眠たいの?」
「ぅん……眠い……」
「じゃあ、あたしがしてあげるよ」
「ごめん……」
あ、また極上の枕だ。
この温かさと暖かさが私のそれに拍車をかけて。
「よしよし」
「えへ……疲れたらほっぽってね」
「しないよ、いいから寝な」
「うん……おやすみ」
「ああ、おやすみ」
「あぁ、気持ち良さそうに寝やがって……」
あたしは部屋の電気を豆電球にしてからひとり呟いた。
「あー凪寝ちゃった?」
「はい、つい先程」
心配だったのだろうか。
あ、前はあたしが帰ってしまったからかもしれない。
なにかサポートできることはないかって探しているのかも。
「ふむ、京子ちゃん、敬語じゃなくていいよ?」
「そういうわけには」
「お願いっ」
この人は一体何歳なんだろう。
喋り方といいその見た目といい、凪に似すぎていて直視ができなくなる。
「……それなら。なんかさ、凪がこうして落ち着いてくれてるのが嬉しかったんだ、ふたりでいる時は毎回緊張したように手を強く握ってたからさ」
「それだけ信用してるってことだよ! 嬉しいな私もっ」
……15~16だと言われても信じられるぞ……。
「でも、寂しいなあ……これからは京子ちゃんがいてくれればいいって言ってくるかもしれないよね」
「そんなことないよ、眞子さんがいてくれるからこそ他所でも動けるんだからさ」
「あっ……もぅ、私まで攻略しようとしてるの?」
「なっ!? ち、違うよ……」
というか凪を攻略しようとしているみたいな言い方じゃんそれじゃあ。
あたしはただ信用してほしくて一緒にいるだけだ。
……それだけ? あたしが凪といたいって思うのはそれだけなのか? ……いや、仮にあったとしても凪に迷惑をかけるだけだ。
せっかくこうして安心していてくれるようになったんだ、また崩れるようなことには2度としたくない。
「京子ちゃん、翆ちゃんって子が好きなの?」
「気になってたのは確かだけど、それは勝手に凪が考えてるだけだよ」
「今はもうないのかな?」
「それが分からなくて……ただ……凪と一緒にいたいとは思うんだよ」
あの最初の頃からずっとそうだった。
トイレで泣いて悲しんでたこいつを抱きしめたのは、こいつを少しでも落ち着かせたかったから。
でも結局、私は誓いを破ってしまった。「あたしは大丈夫だから」って言ったのに……。
その後も頑なな態度を貫く彼女に苛つき傷つけ――――だから今があるのは彼女のおかげで。
この小さな女の子を守りたいとかじゃなくて、この小さな女の子と一緒にいたいって心から今は言える。
「凪はどうか分からないけど、凪がいてくれないとだめなんだよあたし」
「ふふ、凪も一緒だといいねっ」
「うん、本当にそう思うよ」
彼女にとって引っかかっているのは翆の存在か。
……実は凪の頰を引っ叩いた日、翆に告白されたことは彼女には言っていない。
そして翆には保留にしてもらってあった。
けれどもうあたしは――――
「ん……は……れ? え……お、お母さん?」
「あ、起こしちゃった? ふふ、ごめんね、お母さんお風呂入って寝るから、おやすみー!」
「うん、おやすみー……」
丁度上体を起こしている感じだったので彼女の頭を抱きしめる。
「うぇ? ど、どうしたの?」
「凪、あたし翆からの告白断るよ」
「え……えっ!?」
「あははっ、ちょっとあってね! 明日ちょっと翆のところに行ってくるね」
「な、なんでっ? というかいつの間に告白されてたの?」
「細かいことはどうでもいーよ、明日行ってくるよ」
「うん……」
真っ直ぐ向き合うため必要なことなんだ。
ごめん翆、でも翆が言ってくれたようにあたしはするだけだよ。
ま、まだ京子も気になってるってところで……
大丈夫かねこれ……。
それとも5万文字にしてバンバン書いていく方がいいのかね……。
10万文字の方が達成感あるよねぇ。




