13.『京子』
読む自己。
約束を交わしてからテストまで毎日京子が付き合ってくれた。
そして今日は当日ではなく最終日――――あと5分で終了を迎えるということだ。
突っ伏すのをやめちらりと京子を見てみる。
あの日からずっと綺麗で長い黒髪。手触りも良くていつも触りたくなるくらいの魅力がある。
それでも触れられることが嫌なのか触らせてはくれないけど、私の触りたい欲を高めてくれるのは確かだった。
「木下ーカンニングするなよー」
「ひゃ、ひゃい!!」
……笑われて縮こまる。
でもこれで終わりだ! そして後は終業式までの短い期間と、楽しい楽しい夏休み過ごせばそれでいい!
キンコンカンコーンとチャイムが鳴ってみんなが「はぁ~」と息を吐いた。
1番後ろの子が前に持っていく役目なので列の全員分を集めて前に持っていく。
「京子!」
「ははは、笑われてたな」
「あぅ……と、とにかく、今日までありがとね!」
「こちらこそ、ありがと、凪」
それよりこれからどうしようか。
まだお昼なのでこのまま家に帰ってゆっくりするのもいいけど、できることなら『お疲れ様会』なんて事がしたい。
「翆ーファミレスにでも行かない?」
「あ、ごめん! 麗ちゃんに誘われてて無理かなー」
「あ、そうなんだーえ、じゃあそれに――――ど、どうしたの京子?」
「ファミレス行こーよ、腹減った」
「じゃ、また明日ね翆!」
「うんっ、じゃあねー!」
学校を後にして近くのファミレスに入った。
「あ、涼しいね!」
「おう、そうだな」
案内された席に座ってメニューを見る。
お昼だし……ハンバーグとか!? 敢えて定食とかも面白いかもしれない。
「京子……ハンバーグとカツ定食だったらどっちがいいかなー?」
「んーじゃああたしが定食の方頼むから、凪はハンバーグ頼みなよ。交換すればいーでしょ?」
「あ、そうだね! じゃあそうするっ」
店員さんを呼んでついでにドリンクバーも頼んでおいた。
京子の分のコーラも注いできて席に座る。
「じゃあ、お疲れ!」
「おう、お疲れ」
乾杯をして中身を煽ると――――
「ひゃぁ……つ、強いねぇ」
「炭酸なんて久しぶりに飲んだな」
冷たさとシュワシュワが私の体内を攻めていく。
それでも心地良さしかここにはなく、自然と笑顔になっていた。
「ねえねえ、ちゃんと解けた?」
「問題はないな、凪はどうだった?」
「うーん、赤点はないと思う!」
「もうちょっと自信持ちなよ」
いや、解き終わってからからだけど、なんかずっと彼女の方が気になったんだよね。
だから本人にそれを気づかれてなくて幸いでしたとしか言いようがない。
「凪は頑張ってたよ、だから大丈夫!」
「あははっ、ありがと!」
注文していた食べ物がやってきて食べ始める。
……頑張れたのは彼女がいてくれたからなので、これはして当たり前のことだ!
「あ、あーん!」
「はぁ? ……む……うん、美味いな」
「よ、良かった……いただきます」
同性なのになんだこの気恥ずかしさは!
「言っておくけどあたしからは期待するなよ?」
「し、しないよ――――……………………ん、危ないじゃん!」
「お返しだ! あははっ」
あ……なんだろう今の。
いや、勘違いだ、ハンバーグを食べることに専念しよう。
「ねえ凪」
「うん?」
「いつもありがとね、本当にそう思ってるから」
「……そんなの私だって思ってるよ、ありがと」
「ん……カツも美味いな」
「うん、美味しかった」
ちょっとこのどうしようもない気持ちをコーラで押し込んで立ち上がる。
「注いでくるよ、なにがいい?」
「カルピスで」
「はーい」
……何故だか今日は非常に喉が渇く。
どうせ注文したなら少しでも元を取りたいと本能が操作しているのかもしれない。
どっちのグラスにもカルピスを注いで……あれ? ど、どっちだったっけ!?
「あ、あの……」
「どうした?」
「どっちが京子のか分からなくなっちゃった!」
「んなのどっちでもいーよ、そっち貰う」
「あ……うん。あ! こ、故意じゃないからね!?」
「はぁ? そんなん知ってる、注いできてくれてありがと……うん、美味い」
そうだよ……彼女はストロー抜いてたしそれで飲んでいるんだから問題ないのに。
なに慌ててるんだよ私っ。それにたかだか間接キスくらいなんだよって話だ。
「もしかしてさ、間接キスになっちゃうからとかって思ったの?」
「ぶっ!? ごほごほっ! ……な、なにを言ってんですか!?」
「汚いよもう……紙貸して」
「あ、す、すみませんでした」
私も一緒になって拭いていく。
……だって「間接キス」って言った時、凄い意地悪な笑顔を浮かべていたんだ。
ただ意地悪なんじゃなくて、「そういう風に感じちゃったんだね?」ってからかってくるような種類の笑みで、それが物凄く恥ずかしかったんだ。
だから……もう終わったというのに未だに机をゴシゴシと拭いていた。
「もういいよ」
「うん……ごめんね」
「別に、それより早く食べちゃいなよ」
「うん、食べる」
美味しい、美味しいんだけど……お母さんが作ってくれたハンバーグやカツの方が私は好きだ。
綺麗に食べ終えて手を合わせる。
「ごちそうさまでした。ふぅ……食べたら眠くなっちゃうね」
「そうか? あたしはよく分からないけど」
「え、そうなんだ……私はいつも眠くなるかなぁ」
カルピスを飲んで眠気を紛らわせる。
……違う、これは側に京子がいてくれるからだ。
「京子……本当はね……ふたりが付き合うの純粋に応援できてるわけじゃないんだ」
「うん」
「でも私はあなたから聞いてたから、困らせちゃいけないって思って……」
「そっか」
そっかって、もうちょっと細かく分かりやすく返事をしてほしかった。
あれだけ言ってなかったことを私はこうして言ったというのに、彼女はそれをしてくれないのだろうか。
「今そんなことはどうでもいーよ、眠たいなら眠ればいい」
「いや……お店の人が困っちゃうし帰る」
「うん、お金はあたしが払っておくから、あんたは先に出てな」
「うん……後で払うね」
カルピスを全部飲み干して鞄を持ち立ち上がる。
「あ……」
でも、ふらついて倒れそうになったところを彼女が支えてくれた。
「……危ないよ」
「えへへ……ありがと、外に行ってるね」
「うん、待ってて」
店内から出ると夏の日差しが私を突き刺す。
けれどそのおかげで眠気というのは吹き飛んでくれた。
迷惑はかけたくない。甘えるのも適度にしたい。
だけどできるかな? ……自信もない。
「お待たせ、帰ろ」
「うん、お金は京子の家に着いたら払うね」
「うん、ほら」
「え?」
「手」
「ん……」
少し伸ばしたら逆に彼女が握ってくれた。
なんかいいな……こういうの。
格好良くて支えてくれる幼馴染みたいで。
しかし、今度は違う疑問が湧いてくる。
私なんかがこんなに幸せでいいのかってこと。
「凪、余計なことは考えなくていい」
「あ……もぅ」
考えてることが筒抜けで恥ずかしい。
綺麗とか格好いいはそういうスキルが備わっているのかな。
「あははっ、ふぅ……」
「ん? どうしたの?」
「いや? 別になんでもないよ」
少しだけこちらからもギュッと握ってみた。
そうしたら彼女は小さく「あ……」と声を漏らす。
「なんかさ、落ち着くんだよ本当に」
「うん、私もそう思う」
「……夏休みさ、1週間くらい泊まってもいいか?」
「あ、お母さんも喜ぶだろうしいいと思うよ?」
「ありがと。今度は絶対に途中で帰ったりしないから」
「約束だよっ? あれって寂しいんだからね?」
なにかしちゃったかなって不安になるもんだ。
あの日だってあの後、不安から枕を濡らしたくらい。
「うん、絶対だ」
大きな声で言われているというわけではないのに迫力を感じる。
いや、そもそも彼女はずっとこうだったのかもしれない。
それを表面上だけとかそういう判断していたのは自分の方だ。
「じゃあ破ったらキスしてもらおうかなー」
「ああ」
「うぇっ!? こ、拒んでよ……」
「そもそも破るつもりないし、もしそうならそうで構わないからな」
「むぅ……というかさ、京子って喋り方が固まっていないというか、男の子みたいな喋り方する時あるよね」
だから格好いいと感じるのかもしれないけど、綺麗なんだし女の子らしく話してくれるのが1番好きかも。
「ま、昔に似合わないって言われてさ、だから男みたいな喋りを方を心がけた弊害だね」
「え、ひどいよそんなの! 全然似合ってるのに!」
「過去のことをとやかく言っても変わらないよ、凪は分かるでしょ?」
「あ、まぁ……」
「それに嬉しかった、凪がそう言ってくれて」
「あはは……京子が喜んでくれたり笑ってくれると私も嬉しいよ」
私もいつの間にか素直に言えるようになったんだなって驚いていた。
傷が浅かったというわけではないし、これは純粋に京子効果ってやつなのかな。
「帰ろ」
「あ、そういえば歩いてなかったね!」
店先でなにやってるんだろ。
そういうわけで、ゆったりと帰りましたとさ。
幼馴染とかいなかったから、羨ましいわ。




