第2話(エピソード2)
これは私が、あの偽物と対峙した前日の出来事。
私、リリーには、異世界の乙女ゲームなるものの知識がある。
といってもこれに目覚めたのは、数日前の事ではあったけれど。
「あれに気づいたと思うと、変な能力に目覚めているし、どうなっているのかしら。でも、これがあったから、今私は行動できているのだけれど……憂鬱だわ」
そう小さく呟く。
公爵家の令嬢である私、リリーには王子の婚約者がいる。
名前はロジェン。
もう一人の幼馴染、ハルト王子と共に、昔から三人でよく遊んでいた。
なんとなく気が合って、男女であるというのに、今年、16歳になってもずっと仲良くしていた。
ちなみにロジェンとは昔から私は婚約していたが、彼に対して抱いていたものは、兄弟のような親しさであった気がする。
黒髪で赤い瞳の彼もまた、活発でよく一緒に……ハルト王子に止められていた気がする。
ハルト王子にとって私とロジェンは、同い年の弟か妹のような感覚だったのかもしれない。
ロジェンの遠縁の人物であるハルト王子は金髪碧眼の美形だ。
よくロジェンが、ハルトの方が僕より背が高いと怒っていた気がする。
それでも私よりも背が高いんだからいいじゃないと言ったら、ロジェンも納得してくれたようだった。
だが、そんなロジェンの様子がおかしい、もとい、城の様子がおかしいと気付いたのは、およそ一か月と少し前。
ハルト王子とも一緒に何度か城に行ってもいいかなどの連絡をするも断られる。
いよいよもって何かが“おかしい”。
そのころふと目覚めた能力が、相手の“嘘がわかる”能力だと、私が理解した能力だった。
もっともその後で、たまたま出会った“旅の鑑定士”なる人物に能力査定? などを行ってもらうと、“関連性”のある人物の言葉で、その世界の“真実”に関して嘘か本当かがわかるという、特殊能力だと分かったが。
そしてそれを使って、伝言を頼んだりした人物たちの話が“おかしい”と気づく。
どうやらそういうようにと言われているらしい。
時を同じくして、私は異世界の乙女ゲームなるものの夢も見るようになる。
断片的だが見覚えのある光景が幾つも重なっている。
なんでも、“ばっどえんどるーと”の一部であるらしい。
それらの情報をつなぎ合わせて、ハルト王子とも協力して、ロジェンに会いに直接乗り込もうとしたのは数日前の事。
「コルテス様はお会いになりません」
そう返された時、私は、“誰だ!”と叫んでしまう。
すると、それを話していた人がはっとしたような顔になり、次に混乱しながらいろいろと話してくれた。
それから、ほかの人を呼んできてもらい、私がロジェンの名前を出すとまるで魔法が解けたかのように、話し出すのを見ながら私たちは異常に気付く。
今すぐ乗り込んでやろうと思った私をハルト王子が止めて、そしてその時、窓越しで見たのだ。
ロジェンの服を着た、全く知らない“男”と、白い服を着た女が一緒に歩いているのを。
その白い女は自分を“聖女”と名乗っているらしい。
けれどこんな、入れ替わるように入り込んだ人物たちが、そんなもののはずはない。
あれは怪物だ。
怪物がロジェンに何かしたのだ。
だってどこにも見つからないのだ、城の中には。
私たちの幼馴染であるロジェンはどこに行ったのか?
手を尽くして探したけれど見つからない。
その間にもあの人物たちを何とかするために裏で動いていた私達。
そしてあの乙女ゲームの出来事でこれから起こる出来事を知っていた私。
それらの内容を総合して私は、明日、何が起こるのかを知っていた。
逃げ出すといった手もあったかもしれないが、私は正面から彼らと対峙することに決めた。
彼らは、ロジェンの消息と“関連性”がある。
そして城からの呼び出しが、今日あった。
もう夜になっていて、眠らないといけないのだけれど……眠れない。
そう思いながら窓辺に出ると、隣の部屋に泊まっていたハルト王子が空を見上げていた。
「まだ起きていたの?」
「リリーこそ。……明日は、戦わないといけないのに、もう寝たほうがいいのでは?」
「緊張のせいか眠れないわ」
「……怖いのか?」
ハルト王子の問いかけに私は、一度黙ってから頷く。
「怖いわ。でも、ロジェンがどこにいるのか……生きているのかどうか知るには、私が直接罠にかかったかのように行動して、“聞く”のが最善なの」
「……そうか」
「そう」
私がそう答えると、ハルト王子はまた黙ってしまう。
彼にはもうずっと、私は心配ばかりかけている。
直接出るのを止めたほうがいいと、何度も彼には止められていた。
でも私は譲れなかった。
そのたびに彼は複雑そうに私を見ていたと思う。
そして止めたりしながらも、明日の手助けをしてくれてはいたのだ。
本当に、かけがえのない“友人”であると私は、ハルト王子の事を思う。と、
「俺は……もし失敗したら、リリーを連れて本国に逃げ帰る。きっとその方法が一番安全だろうから」
「……そうね。失敗したならよろしくね」
「成功するという自信があるのか?」
「ここまでやればね。やるなら成功させるわ。でも、不確定要素はいくつかあるから……上手くいくかは、わからない所もある」
「そこに当たったら俺も、今度は好きにさせてもらうぞ」
「ええ、好きにしてもらうわ」
そう返すと、ハルト王子は深く息を吐いてから私に、
「ロジェンは生きていると思うか」
「……生きていて欲しいわ。幼馴染だもの」
「婚約者としてではなく?」
「婚約者といっても、異性の恋愛対象と思えないのよね、ロジェンは。女顔だし」
「……それを言うと、ロジェンは怒るぞ」
「そうね、怒った顔を直接見たいわね」
「……そうだな」
そこでハルト王子との会話が途切れる。
しばらく静かに空を見上げていた私達。
でもこの空間が心地よいと私が思っていると、
「それでリリーが悪役だって?」
「そうらしいわ」
「どちらが“悪”なのか」
「正義と悪は対なるもの。彼らが正義なら私たちが悪、そんな相対的なものなのでは?」
「不愉快だ」
「私もよ」
「……勝つぞ」
「もちろんよ」
私はハルト王子にそう答える。
そう、私は負けるつもりはない。
そう覚悟を決めて私はようやく眠ることができた。
そして私は次の日、勝利し、そして……ロジェンが生きているのを知ることとなる。




