力
時間は、リリー達が捕らわれた少し前にさかのぼる。
目の前でリリー達が黒い何かに飲み込まれたのをハルト王子は見た。
すぐに手を伸ばすけれど、彼女たちの姿は掻き消える。
背筋に冷たいものが走る。
まさか今の一瞬で……そうおハルト王子が思っているとすぐそばで悲鳴を上げるようにイレイズが、
「リリー様が!」
「あら、そんな怯えた声を出さなくてもいいのに。だって彼女たちが死んだわけではないのですもの」
「……え、そうなのですか?」
「ええ。珍しい悲報を複製して作った巨大な空間に放り込みましたの。でもこの世界のことわりの中でしか使えない魔法ですから随分と工夫が必要でしたし、もう少しここに来るのが遅ければ壊れてしまって、別の“処理”が必要にんり……面倒になるところでしたわ」
そう言って白い女は余裕の笑みを浮かべる。
だがそれを聞いたハルト王子は、
「もう少し遅ければ、よかった、と?」
「ええ。……今連れ込んだあの聖女たちにはそうでしょうね。だって壊れてしまいますもの。中が崩壊すれば……どうなるのかしら」
「なんだと?」
「もともとあなた様方が来なければ再び屋敷を元に戻して中の人間ごと風化させておこうと思ったのですが、思いのほか早く来ていただけたのでこの道具が間に合いましたわ。ちなみに出口は全て塞がれていて早く助け出さないと……中で壊れてしまうでしょうね」
「なぜ、こんなことを?」
「聖女も危険で得体のしれない“怪物”もいるのですもの。これくらいはしますわ。貴方様の力を目覚めさせて……自覚もさせたいですしね」
そう言って白い女は笑ってから小さく付け足す。
「そうそう、貴言い忘れていたけれど中から攻撃して抜け出そうとすれば内部崩壊で中の人も死ぬのです」
「! だったら外から」
「それならば、外からとお思いでしょうが外から攻撃するとその衝撃で内部が壊れるのですよね」
「それ……では、出入口が」
ハルト王子はそこでリリー達のいた場所を見るも……うっすらと黒い影が円状にあるのみ。
見たことのない魔法でとじられ、偽装されていて分からない。
どうすればいい、ハルト王子は焦るがそこで白い女が、
「ですが一つだけ、助け出す方法があります」
「! それはいったいどんな魔法だ!」
「ハルト王子様の特別な力をお使いになればいいのですわ。聖女なんてものよりも特別な、支配者としてふさわしい力。貴方にはそれだけの力がおありなのです」
「……嘘だ」
「本当ですわ。もっとも私は聖女たちが死んだ方が都合がいいので、お手伝いはいっさいしませんわ。でも……もしも彼女たちを助けたいのであれば、今回は貴方様の力が絶対必要ですわね」
そう言って白い女が嗤う。
イレイズがハルト王子のそばにやってきて、
「彼女の言うとおりにするのは癪ですが、今はハルト様だけが頼りです」
「だが、俺には記憶がない、そんな魔法は」
「どういった効果のある魔法科は分かりませんが……崩壊とは関係なく、出入口を作ることのできる能力なのでしょう。……特別な能力関係であるなら、その人物の意思によると聞いたことがあります」
「それは、俺がみんなが安全に脱出できる出入り口が欲しいと願異ながら力を使いと思えば、出入口が開ける、という事か?」
「はい、おそらくは」
「そこは断定してくれ。でないと俺は……いや、弱気になっている場合ではないな。リリー達を助けるためならば……その女の甘言に乗ってやる」
そうハルト王子は言い切りその薄く黒くなった地面に触れる。
後は強く願うだけ。
俺は、リリーを助けたいと。
それと同時に黒い部分に、亀裂が入ったのだった。
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