見知らぬ場所
倒れこんだハルト王子を私は慌てて抱きとめた。
息があらく、小さく呻いている。
けれどすぐににらみつけるように白い女を見て、
「お前なんて……知らない」
「そうですか? そうでしょうね。貴方のそばに聖女がいないのを確認してから接触しましたもの。……あの子を、あの白に送り込む前に……ね」
そう言って楽しそうに笑う白い女。
それを聞きながら私が、
「どういう意味かしら。ロジェンがこんな風になったのも貴方の指示だったという事?」
「? 女の子になるなんて私は知らないわ。でも王子様と入れ替わるように指示して、手を加えたのは私。ただ他にも色々な罠を仕掛けないといけなかったから、あちらはあの子にお任せしておいたのよ。まさかこんな簡単にとらえられてしまうとは思わなかったけれど」
「それでここで姿を現したのはどういうつもり? 目的が何かあるのかしら」
「目的、目的ね……二つほどあるわ。貴方たちの実力を見て、上手く倒せれば儲けもの。そしてもう一つは……ハルト様の様子を見に。本当は以前の接触時に“こちら側”に来ていただきたかったけれどお断りをされてしまったの。だから再度お誘いをしに来たのですわ」
そう言って白い女は嗤う。
だがハルト王子は怒りに震える声で、
「どんな理由があろうとも俺はそちらにつくことはない」
「そうでしょうか? 人間の“意思”なんてものは簡単に反転するものなのに? ……私なら、“貴方の望みをかなえられる”のですよ? あなたに初めて会った時にもそう申しましたが」
「記憶にない」
「記憶にない、記憶にない、面白いわ。そんなに思い出したくないのですか? 貴方様が望めばそんなもの、この世界のルールなど意味をなさないのに」
「……知らない」
「かたくななまでにそうおっしゃるのは私達としてはとても悲しいですわ。だってそれだけの力がおありなのに、まったく使わないのですから」
「俺はそんなもの、知らない!」
そう怒りをぶつけるように告げたハルト王子に白い女が嘆息する。
「どんな力なのかも以前お伝えしましたし、私自身があれほど能力を目覚めさせるお手伝いをして差し上げようとしましたのに……全部お断りされてしまったのですもの」
「……得体のしれない人物の言う事は聞かない」
「残念ですわ。もっとも、仕込みはすでに済ませてありますから問題は何もないのです。後は、“ハルト様がご自分の意思”で一度でもその力を使えば……その力を“自覚”していただけるでしょうね」
そう言って笑う白い女に私は、
「ハルト王子に一体何をしたの? ……変なことをしても、私が封じるわ」
「封じる? 封じる……面白い表現ですわね。ええ、封じる……貴方にそんなことができるのかしら。この世界の枠組みの中でしか動くことのできない“非力な女”のあなたにそれだけの力があるの? でもハルト様なら、それすらも打ち砕くことができるもの」
うっそりと笑いながら私の事をあざ笑うかのように言う。
よく分からないがハルト王子には私を超える力があるらしい。
そこで、炎の方なりが白い女に向かって飛んでくる。
見るとロジェンとミナトが魔法を使ったらしい。
それ程規模の大きくない魔法で、周りには影響がない程度だ。
けれど白い女にとっては木の葉が髪に少し触れた程度の物であったらしい。
邪魔だわ、そう呟いてそれを手で払いのけるだけでその炎は消えてしまう。
今までの白い女も危険な相手ではあったけれど、この女はさらに……そう私が思っていた所で、彼女は私達に手をかざした。
「嫌な予感は当たるもの。この世界に描かれた“運命”を変えることができたなら、ある意味で私の勝ち。貴方たちが“運命を知っていて”ハルト様がそれを警戒した。十分すぎる理ですわ」
「あなた、何を言っているの?」
ついそう私はそう問いかけてしまうと白い女は嗤い、
「ハルト様にはもう少し力の自覚をしていただきたいのですよね。私自身も危険ですが……虎穴に入らずば虎児を得ず、とも言います。これは必要な事」
そう白い女が言うとともに、私達の周りを黒い何かが覆って……そして、私達は見知らぬ、岩だらけの場所に立っていたのだった。
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