争う声
音を立てて開かれた扉の先にはハルト王子がいた。
どうやら一人でここにたどり着けたようだった。
目立った怪我もなく、無事でよかったと私が思っているとそこで、“偽聖女”がハルト王子を振り返り、
「お待ちしておりましたわ、ハルト様」
「……リリー達にけがをさせていないだろうな」
「もちろんですわ。これだけ可愛らしく美人な子はそうそういませんので、“可愛がって”上げたい気持ちになりましたが……“聖女”ですし貴方様の“お気に入り”のようでしたから、手出ししませんでしたわ」
「……そうか」
「ちなみにそちらの女性になった方は、私に“いじめて”ほしいそうでしたので、放置してあげることにしましたわ。何しろ、私が何かをすると喜んでしまいそうでしたもの。ここまで何があったのかは分かりませんが、女性になって喜んでいる男は見たことがありませんわ」
どこか呆れたように“偽聖女”が語り、ハルト王子が無言でロジェンの方を見た。
ロジェンがびくっとしていたが、その様子を見ていたハルト王子が、ロジェンではなく私に向かって、
「リリー、今の話は本当か」
「ええ、そこにいる白い女にいじめられそうになって、待っていましたこの展開! といった風に大喜びして、放置されることが決まったらしいわ」
「……」
「それで私の方に何かをする気のようだけれど……何をする気だったの?」
つい聞いてしまった私はすぐに、これは聞かなくていい話だったと気づいた。
にたりと白い女が笑う。
「それはもちろん、女同士でしか味わえないような、そう言ったものですわ」
「……えっと」
「男なんてものをもう愛すことのできない“快楽”を与えてあげてもいいのだけれど、貴方はハルト様のお気に入りのようですもの。少しつまみ食いする程度ですわ。それに……美しい“聖女”様なんて珍しいものに手を出せる機会なんて、それほどありませんもの」
うっとりとして、恍惚としたように告げる白い女に、ハルト王子が一歩後づさる。
そこはかとなく顔が青いように見えるが、おそらくは“未知”の物に接してしまった恐怖のようなものだろう。
この展開はハルト王子も予想していなかったに違いない。
私も予想していなかったから。
そこでハルト王子はロジェンの方を見て、
「……この状況でどうしてロジェンは喜べる。女ではなく男にしろ」
「ええ! いや、ここで男に走ったら僕、“ホモ”なんじゃないかな」
「見た目が女だから“レズ”以外の何物でもないぞ」
「百合っていいじゃん、綺麗だし!」
といったような頭の痛くなる会話をロジェンとハルト王子は始めた。
この状況下で、どうしてそんな話をできるのかと私は思っていると下の方でいいあらそう男の声が聞こえる。
気になり私は、
「あの声は貴方の従者の物に似ているわ」
「……あれは、“まだ”生きている方の従者ですわね。でも、倒されてしまったようね。……やはり男は使えないわ」
そう、初めていらだったように白い女が呟いたのだった。
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