第九十九話
オークのいた広間を出て暫く歩く、と言っても来た道を引き返しているだけだ。
「オークが宝箱を持っているか確かめるのに使ったからこれで3回目だ」
来る時に通った十字に交差する辻で恒夫が立ち止まって振り返る。
「ハズレが出る率が高いがイカサマサイコロの出た道を進むぜ」
「了解だ。ダンジョンを出るだけならともかく宝箱を探さないとダメだからな、マップを作りながら総当たりするよりイカサマサイコロを信じた方が早いぜ」
みんなも秀樹の意見に賛成らしい、恒夫がイカサマサイコロを回した。
「3だ。このまま真っ直ぐだ」
「左右の狭い道よりマシだな、これがハズレでも次は当たりが出るから宝箱には近付けるんだよな」
大柄の秀樹が交差する狭い横道を見ながらほっと溜息をついた。
「そうだ、ハズレだったら遠回りすることになるかも知れないが次から2回は当たりが出るから確実に宝箱には近付いていけるぜ、大ハズレのトラップやモンスターに遭わないことを祈っててくれ」
スギナが恒夫の腕を引っ張った。
「来た道とは違う方角じゃから今いる道を除くと通っておらん道は二つじゃ、二分の一の確立じゃからハズレじゃとわかったら戻ってあっちの細い道へ行けばいい」
「そうだね、ハズレだと直ぐにわかったら引き返すのも手だよね」
賛成する栄二の前で恒夫が少し考えてから口を開く、
「そうだな、戻ればイカサマサイコロ1回使わなくても済むな、直ぐにハズレだってわかったら引き返そう、わからないまま分岐点に行ったらサイコロ使ってそのまま行くだけだ」
「にゃんかわからないけど出発だな、んじゃ出発進行~~ 」
元気に言うとラグが恒夫の背を押した。
「トラップがあるとヤバいから急かすな、暫く慎重に進むぞ」
イカサマサイコロの外れを恐れて恒夫たちは慎重に通路を進んでいった。
五分ほど歩いただろうか、ラグが前を歩く恒夫の腕を引っ張って止めた。
「匂いがするぞ」
恒夫がサッと振り返る。
「匂い? またオークか? 」
「そだぞ、近寄ってくるぞ」
ラグがバッと後ろを向くのを見て恒夫も慌てて通路の奥を見た。
「後ろからか? 」
通路の奥は薄暗くて何も見えない、スギナが前に出る。
「先程の奴らの仲間かも知れんぞ、10匹ほどの気配が近寄ってきおる」
「秀樹、オークが後ろから追ってきてるってよ」
どうするというように恒夫が訊いた。
「オーク? 本当か? 」
秀樹が後ろに向き直って目を凝らすが淡い光の通路だ。はっきり見えるのは10メートルほどまででその先は薄暗く埃などが舞って靄が掛かって見えない。
「匂いが近付いてきてるぞ、ちびっ子も気配を感じるって言ってんぞ」
ラグがバッと最後尾の秀樹の隣りに立つ、
「待って、私が上級魔法で丸焼きにしてやるわよ」
菜穂が魔法の杖を取りだした。
「ダメだよ、逃げよう、こんな狭い所じゃ戦えないよ」
「俺も栄二に賛成だ。こんな通路で上級魔法の炎なんて使ったら俺たちも酸欠になるぜ」
二人の意見を聞いて秀樹が前に向き直る。
「逃げるったってオークの方が速いだろ追い付かれるぜ」
「心配無用じゃ、儂がここに罠を仕掛けてやる」
スギナが手から植物の蔓を伸ばした。
「トラップか? 落とし穴か何か作るのか」
興味津々で訊く恒夫にスギナがニヘッと悪い笑みを見せた。
「さっき見たじゃろ、食獣蔓じゃ」
スギナの手から伸びた植物の蔓が通路の床に突き刺さると潜り込んでいった。
暫くして秀樹とラグの目の前の床から大きな植物が生えてきた。
「秀樹、ラグ、少し下がれ、食われても知らんぞ」
「うにゃ! さっき豚を食ってた草だぞ」
「マジかよ」
ラグと秀樹が慌てて恒夫の前に逃げてきた。
「でけぇ……これって、もしかして中にオークが入ってるんじゃ………… 」
幅3メートルほどの通路を塞ぐ植物を見て恒夫が呟いた。
「ようわかったのぅ、その通りじゃ、オークを養分にして活性化しておるから近寄るだけで攻撃してくるのじゃ、強力なトラップじゃろう」
スギナがペッタンコの胸を自慢気に張った。
「流石だぜ、でもオークが食われる所を想像すると一寸厭だな」
秀樹に賛成なのか恒夫も何も言わずに顰めっ面で見ている。
「でもさ、オークが追ってきたって事はこの道はハズレって事じゃないの? 」
菜穂の言葉に恒夫だけでなく秀樹やスギナもあっと言う顔になる。
「これじゃ引き返せないね」
大きな食獣蔓を見て栄二が苦笑いだ。
秀樹と恒夫がスギナを見つめる。
「そこまで考えてなかったぜ」
「何じゃ、食獣蔓など直ぐに引っ込められるがオークはもうそこまで来ておるぞ」
幼女が怒ったようにプクッと頬を膨らませるスギナを見て恒夫が慌てて口を開く、
「このまま前に進もう、ハズレってわかったんだ。次から2回は当たりだぜ」
「だな、スギナちゃんの御陰で余計な戦いをしなくて済んだよな」
秀樹も慌ててフォローした。
まだ膨れているスギナの腕を恒夫が引っ張る。
「じゃあ行こうか、スギナちゃんとラグがいてくれて本当に助かるよ」
「まあよかろう、では行こうかの」
手を繋がれて照れたのかスギナが可愛い笑みを見せた。
「ちびっ子だけズルいぞ、あたいも腕組みすんぞ」
反対側からラグが抱き付いてきた。
「止めろ、何かあったら対応できないだろ」
「にゃははははっ、何があってもあたいがやっつけてやるから平気だぞ」
楽しそうに笑いながらラグが恒夫の腕を引っ張って歩き出す。
三分ほどして後ろから叫び声が聞こえてきた。
「ブタが罠に嵌まったんだにゃ、肉食い放題だぞ」
ニタリと悪い顔で笑うラグを見て恒夫が顔を顰める。
「食い放題とか言うな! 豚肉食えなくなるだろが! 」
「オークはバカじゃからな、どうせ不用意に近付いたんじゃろ」
怒鳴る恒夫の横でスギナが涼しい顔だ。
後ろで聞いていた栄二が楽しそうに口を開く、
「只の草だと思ったんだろうね、こんな所に緑の草が生えてること自体おかしいのに」
「だろうな、草に食われるなんて思ってもみないだろうからな」
こたえた後で恒夫がスギナを見つめる。
「あの食獣蔓はどうなるんだ? 放ったらかしか? さっき出したヤツは広間でオークを食べたヤツだろ、それを運んできたんだよな」
「運んできたと言うより回収したヤツじゃな、広間でオークを食ったヤツを三つほど回収してきたんじゃ、養分をたっぷり得た食獣蔓は種ができるからの、育てて種を収穫すればいつでも使えるからの」
「成る程な、種籾みたいなものか」
「そういう事じゃ、種の状態なら何十年でも保存が利くからのぅ、欲しければ一つやるぞ」
「遠慮しとく、間違えて食われたら大変だからな」
ニヤッと笑うスギナに恒夫が首をすくめて断った。
「一寸待ってよ」
後ろから栄二が慌てた様子で話しに加わる。
「回収しなかった食獣蔓はどうなるの? オークとかゴブリンを餌にして増えたら大変なことになるんじゃないの? 」
「他の参加者が食われたりしてな」
「何言ってんのよ! あんたの友達が食べられたらどうするのよ」
とぼける恒夫を後ろから菜穂が怒鳴りつけた。
「そうだよ、中津たちだけじゃなくて他の人たちに何かあれば大変だろ」
菜穂の隣を歩く栄二も恒夫を睨み付けた。
「オークじゃあるまいし中津たちならどうでも出来るだろ」
恒夫が無責任に言い放つ、並んで歩いていたスギナが振り返る。
「安心せい、植物じゃぞ、いくら獣から養分を取るといっても薄暗いダンジョンの中では繁殖など無理じゃ、それに食獣蔓は燃費が悪くてな、オーク1匹食って精々一ヶ月ほどしか保たん、種を作るとなるとそれこそ十日も保たんぞ、食獣蔓は獲物を捕らえるために自由に蔓を動かせるように進化しておる。その代償が燃費の悪さじゃ」
「そうなの……増えないなら別にいいわよ」
「今生えてるのは放って置けば枯れるって事だよね、でも種があればヤバいんじゃない」
納得した様子の菜穂の隣で栄二が訊いた。
「大丈夫だろ、種は虫の餌になるだけだ」
スギナの代わりに恒夫がこたえた。
「恒夫の言う通りじゃ、枯れた草も種も虫や鼠などの良い餌じゃ」
スギナが頷くのを見て栄二も菜穗も安心顔だ。
挟んで反対側を歩いていたラグが恒夫の腕を引っ張った。
「うにゃ、ツネが食べればいいぞ、肉食ってると野菜も食べろって煩いぞ、だからツネがあの草食べればいいんだぞ」
「なんで俺が……だいたい俺はサラダも食べてるだろ、肉しか食べないのはラグだろ、だからサラダも食べろって言ってるんだろが」
楽しそうなラグに恒夫が迷惑顔だ。
「あたいは肉食獣だからにゃ、肉だけでいいんだぞ、でもツネは野菜も食べないとダメだぞ、野菜食べないから背も低いし頭も薄いんだぞ」
「頭は関係ないだろが! 俺は野菜食べてるっての」
怒る恒夫に構わずラグが続ける。
「あれだぞ……えぇっと……肉詰めピーマンと一緒だぞ、中にオークが入ってるからにゃ、野菜も一緒に取れて栄養あるぞ、ツネが食べるといいぞ、オーク詰めの草」
「食べません! 肉詰めピーマン好きなのに食えなくなるだろ、変な事言わないでくれ」
怒鳴ると恒夫がプイッとそっぽを向いて先に歩き出す。
後ろで聞いていた栄二と菜穂と秀樹は笑いを堪えるのに必死だ。
バカな話をしながら歩いていると分岐点に来た。
Yの字に道が分かれている。
「さっきハズレが出たから次は安心だぜ」
恒夫がイカサマサイコロを取り出す。
「奇数が右、偶数か左、宝箱に近い道を教えてくれ」
言いながらイカサマサイコロを振る。
「3だ。奇数だから右の道だ」
右の道へと入っていく、誰も文句は言わない、ハズレが出た後は必ず2回は当たりが続くので安心しているのだ。
暫く歩くとまた道が分かれていた。
「今度は三つだぞ、どの道にゃ? 」
並んで右を歩くラグが恒夫の手を見つめる。
「1と2が右、3と4が真ん中、5と6が左、宝箱へ近い道を教えてくれ」
恒夫がイカサマサイコロを振った。
「6だぞ、左だにゃ」
ラグに引っ張られるように左の通路へと入っていった。
五分ほど歩いた所でラグが立ち止まる。
「奥が明るいぞ、ヒカリダケの光だぞ」
「光? 俺には見えん」
細い通路の先、恒夫が目を凝らすが光など見えない。
「ふむ、微かな光じゃ、まだ人間には見えんじゃろ」
左にいるスギナにも見えている様子だ。
「それで敵はいるのか? オークか? 」
最後尾の秀樹が少し大きな声で訊いた。
「わかんないぞ、匂いはしないからにゃ」
「大丈夫じゃろう、気配も無い、もっとも大ムカデは気配がわからんかったからのぅ」
首を傾げるラグに続けてスギナが言うと後ろにいた菜穂が慌てて口を開く、
「厭なこと言わないでよ、大ムカデなんて思い出しただけでゾッとするわよ、虫は秀樹くんやスギナちゃんやラグに任せたからね」
最後尾の秀樹が格好を付ける。
「任せろ、オークの大群よりマシだぜ」
「本当に虫がダメなんだね、僕もどっちかって言うとダメな方だけどムカデとかクモとかゲジゲジは慣れちゃったよ、ゴキは汚いって先入観があるからどうしてもダメだけどね」
「俺もゴキブリはダメだな、病原体の塊って認識してるからな、魔法が使えてもビビるぜ」
苦笑いする栄二の後ろで秀樹も賛成するように頷いた。
「成る程な、秀樹も栄二もダメか、それじゃあデカいゴキが出てきたら戦えるのは俺とラグとスギナちゃんだけって事だな……いや待てよ、俺もダメだ。1メートルもあるデカいゴキが出てきたら見惚れて攻撃なんて出来ないからな」
腕を組んで考える恒夫の後ろで菜穂が青い顔をして口を開く、
「止めてよ、デカいゴキなんて想像するだけで鳥肌立つわよ」
恒夫がバッと振り返る。
「そうだよな、鳥肌立つよな、絶対格好良いぜ、格好良さに鳥肌立つぜ、菜穂もあの格好良さがわかるのかよ、流石だぜ」
「なにバカ言ってんのよ! 格好良いわけないでしょ! キモくて鳥肌が立つって言ってんのよ、恒夫って本当にバカなんじゃないの? 」
嬉しそうに話す恒夫の向かいで青い顔をした菜穂が罵声を浴びせる。
「だからさ直ぐ殺すのは止めないか? 今度はじっくりと観察させてくれ、スギナちゃんの蔓なら生きたままグルグル巻に出来るだろ、大ムカデや大グモをじっくり観察したい、こんなチャンス滅多に無いからな」
ニコニコ笑顔で話す恒夫の頭に菜穂のグーパンチが飛んできた。
「バカ言わないでよ! キモい虫なんて見つけ次第丸焼きにすればいいのよ」
「痛ぇ~~ 」
頭を押さえる恒夫にラグが抱き付く、
「そだぞ、丸焼きにしてツネが食べるんだぞ」
「食べませんから……さっきのオークもそうだが何で俺が食べる方向になってんだよ」
「だって恒夫は虫が好きなんでしょ、大好物なんだから平気でしょ」
ラグという味方を得て菜穂が意地悪顔でやり返す。
「大好物じゃねぇ、好きなだけだ。捕まえたり観察するのは好きだが食べたりするか」
「ムカデ焼いた時に食べるかって言ってたじゃない? 」
「あれは冗談だ。菜穂がビビるからからかっただけだ」
厭そうに言い訳する恒夫の腕にしがみつきながらラグがニヤッと悪い笑みだ。
「スタッフが美味しく頂きましたってヤツだぞ」
「何のスタッフだ! 何でそんなの知ってんだ」
弱り顔で怒鳴る恒夫の反対側の腕をスギナが引っ張る。
「美味しく頂きましたと言っておるが本当に食べさせられたら罰ゲームじゃぞ、ヘマをやらかしたスタッフが食べさせられるんじゃな」
「そだぞ、だからツネが食べるんだぞ、ハズレ出したのツネだからにゃ」
「勘弁してくれ、ハズレ出るのは仕方ないだろ……俺が悪かったから襲ってきた虫は直ぐに退治していいから食うのだけは勘弁してくれ」
スギナにもやり込められては恒夫に勝ち目は無い。
バカな話をしながら歩いていると通路の先に明かりが見えた。
「ラグとスギナちゃんが言ってた明かりだな」
「でもよく見えるよね、僕たちが見えるより50メートルも先から見えてたんでしょ」
感心するような栄二の声にラグが鼻を鳴らす。
「にゃふふん、チャトラン族は夜目が利くからにゃ、目と耳と鼻は誰にも負けないぞ」
続けてスギナもドヤ顔で話し出す。
「儂ら植物系の妖怪は動物とは違った波長の光線も見ることが出来るからのぅ、視力だけで無く感覚器官は人間などより優れておるぞ、嗅覚と聴覚、それと普通の視力はラグには負けるがの、ラグが嗅覚や聴覚に特化した性能を持っておるなら儂は感覚器官全般が他より少し底上げされておると考えればよい、専用と汎用みたいなものじゃな」
「汎用たって俺らより数段上だからな、仲間になってくれて本当に助かるぜ」
「だな、ラグちゃんやスギナちゃんがいてくれるからマジで勝ちを狙えるからな」
感心する恒夫に追従して秀樹がうんうん頷いた。
「本当よ、秀樹くんのチームに入って良かったわよ」
声を一段高くして言う菜穂にラグが振り返る。
「うにゃ? 違うぞ、秀樹じゃなくてあたいのチームだぞ、にゃんたってあたいがリーダーなんだからにゃ」
「はいはい、ラグがリーダーのラグ猫チームよ、だから虫が襲ってきたら頼むわよ」
「にゃへへへへっ、ラグ猫チームにゃ、いい名前だぞ、虫なんか全部やっつけてやんぞ」
照れたのか笑いながら恒夫の背をバンバン叩く、
「いたっ、痛いから……ラグの扱い覚えやがったな」
痛そうに背を捩りながら恒夫が菜穂を睨み付けた。
「まぁ、扱いなんて酷い、リーダーを頼りにしてるだけよ、なんたって自慢のリーダーだからね、頼んだわよリーダー 」
「にゃははははっ、任せろ、大船に乗った気でいいぞ」
大笑いしてバンバンと背を叩くが恒夫は何も言わずに耐えながら菜穗を睨むだけだ。
「なんじゃ、広間かと思ったら小部屋のようじゃぞ」
秀樹たちにはぼうっとした明かりしか見えないがスギナとラグには周りも見えている様子だ。
「うにゃ、目を凝らして見てみるにゃ」
ラグが前に出た。
恒夫が横からそっと覗くとラグの猫目の瞳孔が大きくなっている。
流石猫だな……、
恒夫が前に向き直るがヒカリダケのぼうっとした黄緑色の明かり以外は何も見えない。
「ちびっ子が言ったように狭い部屋だぞ、そんで祭壇があるぞ、宝箱だにゃ、祭壇の上に宝箱があるぞ」
「マジか! 」
宝箱と聞いて最後尾にいた秀樹が大声だ。
「やったね、今回は大当たりだよ恒夫」
「後は虫がいなけりゃ安心なんだけどね、虫がいたらリーダーに任せるわ」
栄二と菜穂もテンションが高い。
「宝箱の中身がゴミでも俺を恨むなよ」
牽制するように言う恒夫の手をラグが引っ張る。
「んじゃ行くぞ、ハズレだったらツネはお仕置きだぞ」
「いや、宝箱の中身まで責任持たないからな」
「そうじゃな、お仕置きじゃな」
反対側からスギナがニッと可愛い笑みを見せた。
「早く行こうよ、恒夫のお仕置きは後でみんなで考えようよ」
「だな、恒夫は一遍マジなお仕置きしないとダメだからな」
後ろから栄二と秀樹が笑いながら言った。
「なんでお仕置きすることになってんだよ、宝箱関係なくなってるだろが」
迷惑顔の恒夫の両脇からラグとスギナが腕を引っ張って歩き出す。
通路の突き当たりに小部屋があった。
六畳ほどの広さだ。
「宝箱だぞ」
駆け出しそうなラグの腕を恒夫が掴んで止める。
「待て、敵はいないみたいだがトラップがあるかも知れないからな」
「儂が調べよう」
スギナが前に出る。
「操蔓! 捜索根」
スギナの掌から植物の根っこのようなものが多数出てきて小部屋の床や壁に突き刺さり潜ったり這い回ったりし始めた。
「へぇ、そうやって探すことも出来るんだな」
感心する恒夫の横でスギナが自慢気に鼻を鳴らす。
「ふふん、凄いじゃろ、蔓は獲物を捕らえたりする。根は攻撃はもちろん捜索や分析に使えるのじゃ、幹や枝は防御に使えるんじゃぞ、植物は動物には無いものを沢山持っておるんじゃ」
ラグが後ろからスギナの頭をポンポン叩く、
「便利なちびっ子だぞ、あれだぞ、頭隠してケツ丸出しだぞ」
ポンポン叩く手を恒夫が慌てて止める。
「違うからな! ケツ丸出しじゃなくて『頭隠して尻隠さず』だからな、それと使い方を根本的に間違ってるからな、『頭隠して尻隠さず』は悪い喩えだからな、スギナちゃんの場合は『能ある鷹は爪を隠す』ってヤツだからな、スギナちゃんが幼くて可愛い姿に似合わず凄い才能を持ってるって事だからな」
「能ある鷹はケツを隠すだにゃ、覚えたぞ」
「アホの子か!! ケツじゃねぇ! 爪だ。爪」
怒鳴る恒夫をスギナがまあまあというように宥める。
「爪を隠すじゃ、ラグも猫じゃから普段は爪を隠しておるじゃろ? 優れておるから必要な時にしか爪を出さんのじゃ、じゃからラグも『能ある鷹は爪を隠す』じゃ、優秀という事じゃ」
「にゅははははっ、ちびっ子はわかってるにゃぁ~~、爪を隠すだにゃ、覚えたぞ、あたいも戦いの時以外は爪を出さないからにゃ、気を送ることによって何でも切り裂く必殺技だからにゃ、あたいも優秀だからにゃ」
照れたラグが嬉しそうに恒夫の背中をドンドン叩いた。
アホの子だ……、
恒夫だけでなく秀樹たちも何とも言えない表情でラグを見ていた。
暫くしてスギナが手から伸ばしていた植物の根っこを仕舞った。
「この部屋にはトラップも敵も無しじゃ、問題は宝箱だけじゃな、魔法が掛けてあるのか中身までは調べることが出来ん」
「開けてからのお楽しみって事だぜ」
後ろから秀樹が恒夫の背を押した。
「わかったよ、宝箱は俺の仕事だからな」
厭そうに言うと祭壇の上にある宝箱に手を掛けた。
「鍵は掛かってないようだ。みんな少し離れてろ、呪いとかあればヤバいからな」
振り返って言う恒夫を見てラグがニヤッと悪戯っ子のように笑う、
「わかったぞ、でもハゲる呪いとかでそれ以上ハゲたら大変なことになるから気を付けろよ」
「ハゲじゃねぇ! そんな呪いあってたまるか! 」
怒鳴る恒夫を見て秀樹たちは笑いを堪えるのに必死だ。
「わかった。わかった。もう言わないからさっさと開けてくれ」
秀樹たちが後ろに下がったのを見て恒夫が前に向き直る。
「まったく……お前らが呪われたら大変だと思って言ったのに………… 」
ブツブツ言いながら恒夫が宝箱を開けた。
「 ………… 」
「どうしたのじゃ? 」
「何かあったのか? 」
黙り込んだ恒夫を見てスギナと秀樹が声を掛けた。
恒夫が宝箱の中に手を入れる。
「あったぜ、宝玉だ! 」
くるっと振り返った恒夫の手に虹色に輝く宝玉が握られていた。
「なん!? 」
驚いて言葉を失う秀樹の横で菜穂の顔がパッと明るく変わる。
「やったじゃない! これでクリアよ! 」
「やったね! 大当たりだよ恒夫」
菜穂と栄二が大声で喜ぶ、ラグとスギナの顔にも笑みが浮んでいる。
「お主のイカサマサイコロは本当に役に立つのぅ」
褒めるスギナの横をラグが通り抜ける。
「やったぞツネ! やっぱりツネは頼りになるぞ」
「まぁ俺様の実力ならこんなものだぜ」
ラグに抱き付かれた恒夫が照れを隠すように大声で言った。
「よっしゃぁ~~、後はダンジョンを出るだけだぜ」
ガッツポーズをする秀樹を見てその場の全員が頷いた。
「うむ、その前に夕食にしようかの、少し狭いが今日はここで休んだらどうじゃ? 通路の先に食獣蔓でトラップを仕掛けてやる。オークや大ムカデなら防げるぞ、狭いが安心して眠ることが出来るじゃろう」
「そうだね、ここなら通路は一つしか無いからそれを守れれば安心して眠れるね」
「じゃあ飯にするか、ここは寝る場所だから飯は通路で作ろう」
スギナの意見に栄二と秀樹が賛成してここで休むことにした。
夕食はラグと約束したのでハムステーキだ。
イベント開始時に貰ったハムの半分を使って分厚いハムステーキを焼く、付け合わせは豆の缶詰で作ったスープに香辛料を使って作ったペペロンチーノもどきのパスタだ。
「俺のは薄くしてくれ、ハムは薄いのが好きだ。薄いヤツをカリカリに焼いてくれ、一枚でいいぞ、残りはラグとスギナちゃんにやってくれ、俺はカリカリの薄いヤツを崩してパスタに混ぜて食うからな」
栄二と菜穂が切っているハムに恒夫が注文を付ける。
二人がハムを切るのをじっと見ていたラグが振り向いた。
「うにゃ? ツネは薄いのが好きなのか……それで頭も薄いんだにゃ」
「薄くねぇ! ハゲ……じゃない、ハゲじゃなくて薄いだけだ」
いつもの調子で怒ろうとして恒夫が慌てて言い直した。
「やっぱし薄いんだぞ、自分で言ったからにゃ」
意地悪顔で言うラグの後ろで栄二と菜穂が必死で笑いを堪えている。
「くそっ、何でもいいから俺のは薄くしてくれ」
言い放つと恒夫は逃げるようにしてスギナの元へと向かった。
「スギナちゃん豆のスープ美味しそうだね、一寸味見を…… 」
スプーンを握る恒夫の手をスギナが止める。
「ダメじゃ、まだ味を付けておらん、今邪魔されるとお主好みの味になってしまうからのぅ」
「仕方ない秀樹のパスタでも見に行くか」
スギナの隣でパスタを煮ている秀樹が厭そうな顔で口を開く、
「来るな、お前邪魔だ。前のゲームでも料理は全部俺たちに任せてたよな」
「何言ってんだ。お前や栄二がネピアとクロエと仲良くしてるから邪魔しないようにしてやっただけだぜ、俺の料理の腕前を見たら吃驚するぜ」
自慢気に言う恒夫の後ろでスギナが相槌を打った。
「確かにサバイバルイベントで食べた恒夫の料理は旨かったのぅ」
秀樹がニヤッと意地悪顔で恒夫を見つめる。
「豆のスープと辛いパスタだろ? 恒夫はそれしか作れないからな」
「ちょっ、何バラしてんだよ」
慌てる恒夫を見てスギナが溜息をつく、
「少し褒めるとこれじゃ……お主は出来る男なのか違うのか儂にもわからん」
呆れるスギナから逃げるように恒夫が通路の奥に歩いて行く、
「俺は見張りしてるから出来たら呼んでくれ、パスタは辛くしてくれよ、ハムは薄くな」
「煩いヤツだな、辛子あるから自分で辛くしろ」
「食獣蔓には近付くなよ、食事の前にお主が食われるぞ」
文句を言う秀樹の横でスギナが溜息交じりに注意した。
「手伝いもしないで文句ばかり言うんだから…… 」
呆れる菜穂の向かいで栄二が苦笑いだ。
「あははっ、仕方ないよ恒夫だもん」
「しょうがないにゃぁ~~、ツネは子供みたいだぞ」
ラグにまで言われて恒夫は踏んだり蹴ったりだ。
バカ話をしながら夕食を終えると小部屋で並んで眠った。
スギナが仕掛けてくれた食獣蔓のトラップの御陰か安心して眠る事が出来た。




