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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
98/158

第九十八話 

 少し歩いて広間に出た。

 20平方メートルほどの空間だ。


「丁度良いなここで昼飯にしようぜ」


 秀樹がリュックを下ろしながら言った。


「そうだね、お昼何にする? 少し冷えるから体温まるものにしようか」

「お昼は軽めでいいんじゃない? 乾燥肉を使ったスープとイベント前に貰ったパンで済ませましょうよ」


 栄二と菜穂もリュックを床に置いた。


「そうだな、まだ少し歩くし軽い方がいいな、いいよな恒夫」


 水筒を出して水を飲みながら訊く秀樹に恒夫が振り返る。


「おう、それでいいぞ」

「うにゃ、肉食いたいぞ」


 恒夫の腕を取ってラグがブンブン振り回す。


「肉は夜まで我慢しろ、分厚いハムのステーキ食わせてやるからな、今はパンにレバーパテ塗ったので我慢してくれ」

「夜はハムステーキだな、んじゃ昼はパンで我慢すんぞ」


 一瞬で機嫌を良くしたラグに呆れながら恒夫が歩き出す。

 後ろで秀樹がスギナに頼む声が聞こえてきた。


「スギナちゃん、荷物を出してくれ、イベント前に貰ったパンと乾燥肉が入った袋と鍋と皿の入ったリュックを頼む」

「それと水の入ったボトルじゃな、了解じゃ」


 スギナが懐から妖瓢箪を取り出す。

 恒夫が広間の中央にあった長細い石に腰掛けた。


「丁度良い石だな、ベンチみたいだ」


 石に座ってリュックを降ろすとスギナが瓢箪から荷物を取り出す所を見物する。


「凄いな、何度見ても不思議だぜ」

「ふふん、これくらいで驚いては困るのぅ」


 自慢気に鼻を鳴らすとスギナが振り返った。


「儂の力はこんなものじゃ…… 」


 ぎょっとした顔でスギナが言葉を止めた。


「ん? どうした? 秀樹まで驚いた顔して」


 スギナだけでなく秀樹と栄二と菜穂まで驚いた顔で恒夫を見ている。


「すげぇ~~、あんなデカいの見たことないぞ」


 ラグ一人だけわくわく顔で恒夫の後ろを見つめていた。


「恒夫、お主何に座っておるんじゃ」

「何って……石だよ、丁度良い石があるからここで食おうぜ、ベンチみたいでいい感じだぜ」


 恒夫がここに座れというように長細い石の左右を手でパンパン叩いた。


「止めろ恒夫! 」

「ひぃいぃ……何なのあれ、キモい……怖いわよ」


 慌てる秀樹の隣で菜穂が顔を引き攣らせている。


「恒夫ゆっくりこっちに来て、早く来るんだ」


 真っ青な顔をして栄二が手招く、横でスギナが手から植物の蔓を出して構えた。


「ゆっくりと早くって言葉になってないぜ、どうしたんだよ栄二? みんなも変だぜ」


 腰を上げた恒夫の後ろからカチャカチャと嫌な音が聞こえてきた。


「おおぅ、でっかいのが怒ってるぞ」


 楽しそうに笑いながらラグが両腕を構えた。


「なんだよ、何が………… 」


 ビビリながら恒夫が後ろを振り返る。


「ひっ!! 」


 息を吸い込む短い悲鳴が出た。

 目の前に赤黒い大きなムカデの頭があった。


「プラズマボール! 」


 秀樹が魔法の杖を振ると同時に恒夫が飛び跳ねるように前に逃げた。


 バチバチと雷光をあげる電気の塊が大ムカデにぶち当たる。

 恒夫が座っていた長い石がうねりながら動き出す。

 長細いわけである石だと思っていたのは大ムカデの体だ。


「うわっ、うわぁあぁ~~、でっかいムカデだ」


 転がるように前に逃げた恒夫が振り返って大声を出した。

 驚いているがビビってはいない、寧ろ大ムカデに見惚れている。


 カチャカチャと牙を鳴らして大ムカデが恒夫に襲い掛かる。


「うにゅ! ツネに何すんだ! 」


 大きくジャンプするとラグが大ムカデに飛び掛かる。


「繰蔓! 三重縛り」


 スギナの手から伸びた植物の蔓が大ムカデの体に巻き付いていく、


「いいぞスギナちゃん、魔法で丸焼きにしてやるぜ」


 植物の蔓でグルグル巻にされた大ムカデに秀樹が魔法の杖を向ける。


「グリグリパァ~ンチ! 」


 ラグが大ムカデの頭にパンチを食らわすが表面に浮いた油でツルッと滑って殆どダメージを与えられない。


「パンチがダメならキックだぞ」


 大ムカデの向こう側に着地したラグがくるっと回って跳び上がる。


「ヒュンヒュンキィ~~ック! 」


 キックが当たって大ムカデがぐらりと揺れる。


「ハラペーニョ…… 」

「ダメだよ秀樹、ラグさんに当たったらどうする」


 秀樹が魔法を使おうとしたのを栄二が止める。


「キックも滑ったぞ、甲羅に油が付いて滑るんだぞ」


 大ムカデの向こうでラグがまた跳び上がる。


「もう一回やってやんぞ」

「ラグさん、秀樹に任せて」


 魔法銃を握り締めた栄二が言うがラグは聞こえていないのか大ムカデに攻撃を止めない。


「普通のパンチじゃダメだにゃ、それなら…… 」


 トンッと恒夫の脇にラグが降りてきた。

 爪を伸ばして飛び掛かろうとするラグを恒夫が止める。


「止めろ、秀樹の魔法の邪魔だ」


 ラグの腕を掴んだままで恒夫が振り返る。


「今だ秀樹、丸焼きにしてやれ」


 秀樹は返事の代わりに魔法の杖を大ムカデに向ける。


「ハラペーニョファイヤー 」


 低級魔法の炎が大ムカデを焼いていく、シャーシャーと奇妙な音を鳴らして暴れるがスギナが蔓でグルグル巻にしているので逃げることはできない。


「臭いにゃ、腐った干物燃やしたような匂いだぞ」


 鼻を押さえて顔を顰めるラグの隣で恒夫がニヤッと悪い顔だ。


「甲殻類とヘドロが燃えたような感じの匂いだな、漢方薬っぽい感じもするぜ」


 動かなくなった大ムカデからスギナが蔓を解いた。

 不思議なことに蔓は殆ど燃えていないのを見て恒夫が振り返る。


「魔法の火でも燃えないのか? 」

「今使ったのは儂の妖力が籠もっておるからの、低級魔法程度では焼けんぞ、それくらいでなければモンスターを捕らえることなど出来んじゃろうからな」

「凄いな、流石だ」

「この程度当たり前じゃ、儂はできる女じゃからのぅ」


 感心する恒夫の前でスギナがペッタンコの胸を張った。

 秀樹が確認するようにその場の全員を見回す。


「恒夫が食われそうになったこと以外は問題ないと思うが……みんな大丈夫か」

「僕は大丈夫だよ、襲われたの恒夫だけだし」

「あたいも平気だぞ、ツネが止めにゃきゃ、あんなムカデくらいあたい一人で倒せたぞ」


 苦笑いの栄二に続けてラグがプクッと膨れっ面でこたえた。


「俺も平気だ。ムカデなど俺様に掛かれば只のベンチと同じだ。座って飯でも食ってやるぜ」

「お主は黙っておれ、まったく……儂は問題ない」


 ふざける恒夫を一睨みするとスギナがこたえた。

 直ぐ後ろにいる菜穂に秀樹が振り返る。


「菜穂も大丈夫そうだな」


 虫が大の苦手な菜穂は一言も発せずに秀樹の後ろで震えていた。


 恒夫が黒焦げになっている大ムカデに近付いていく、


「凄いな、俺の太股よりも太いぜ、5メートル以上あるし……生け捕りにしたかったな」


 観察するように大ムカデを足で突いて遊んでいる恒夫の横にラグがやって来る。


「こんなデカいムカデ初めてだぞ、ダンジョンって面白いぞ」

「面白いよな、この前のダンジョンには大きなクモがいたぞ、俺の頭なんか丸齧りにできるくらいの大きなクモだぜ」


 ラグがパッと猫目を開いて期待顔で見つめる。


「おおぅ、でっかいクモか、そんでどうしたんだ? 」

「捕まって糸でグルグル巻にされて食われそうになった。秀樹とクロエに助けて貰ったんだ。二人がいなきゃ今頃クモのウンチになってるぜ」

「クロエが……くそっ、あたいだってツネが止めなきゃムカデくらい倒したぞ」


 プクッと膨れるラグの頬を恒夫が突っついた。


「ラグが強いのはわかってるからさ、今度食われそうになったら助けてくれ」

「にゅへへへへっ、ツネがウンチになる前に助けてやんぞ」


 可愛い顔で笑うとラグが大ムカデをボスッと蹴った。


「でも面白かったぞ、普通のパンチとキックが効かないからにゃ、野生の血が騒ぐぞ」

「何が面白いのよ……あんなの御免だわ……キモすぎるわよ」


 秀樹の後ろで震えていた菜穂が引き攣った顔で言った。

 ニヘッと悪い笑みをした恒夫が菜穂を見つめる。


「ムカデって食えるらしいぞ、漢方薬にもあるからな、丁度昼飯だし食べてみるか? 」

「何言ってんのよ! 食べるわけないでしょ、バカじゃないの! 」


 ヒステリックに叫ぶ菜穂の前で秀樹が怒鳴る。


「バカ言ってんじゃねぇ、食いたきゃ一人で食え」

「そうよ、恒夫が一人で食べればいいでしょ」


 本気で怒っているらしく恒夫と呼び捨てだ。


「ヘンタイは放って置いて俺たちは飯にしようぜ」


 怒り冷めやらぬ様子の菜穂の背を秀樹が擦る。


「ここで食べるの? ムカデの横で…… 」

「あの大ムカデがここの主なら他にモンスターはいないだろ、ならここは安全だ。飯食ってる時に襲われるなんて厭だからな、我慢してくれ」

「そうだけど…… 」


 引き攣った顔で黒焦げの大ムカデを見つめる菜穂にスギナが振り返る。


「大ムカデは通路の奥に運んでやる。それでよいじゃろ」


 蔓で大ムカデをグルグル巻にすると入ってきた後ろの通路に運んで押し込んでくれた。


「わかったわよ、我慢してここで食べるわよ」


 何だかんだと言うが菜穂も腹は減っているらしくこの広場で食べる事を承諾した。



 乾燥肉と香辛料でスープを作りパンにバターやジャムや缶詰のレバーパテを塗ったもので昼食を終えた。


 ラグがリーダーらしく全員を見回す。


「早く宝箱探すぞ、そんでダンジョン出て町へ行って肉食い放題だぞ、パンとか麺ばかりじゃ力が出にゃいからにゃ」


 立ち上がってズボンの埃を叩いて落としながら秀樹が口を開く、


「それじゃあ、行くか」

「リーダーのあたいが命令するからにゃ、出発進行だぞ」


 秀樹に対抗するようにラグが元気な大声を出した。

 恒夫を先頭に広間を出て行く、


「二つに分かれてる。真っ直ぐか右か…… 」


 暫く行くと右に行く通路があった。


「さっきハズレが出たから2回は信用していいぜ」


 恒夫がイカサマサイコロを振った。


「偶数だから右だ。右の道へ行くぞ」


 今歩いている通路より狭い右の道へと入っていく、


「狭いから気を付けろ、不用意に壁に触るなよ」

「また狭い通路かよ」


 最後尾から秀樹の愚痴が聞こえてくる。


 注意しながら十分程歩くと十字に交差する辻に出た。

 今いる狭い道に大きな通路が交差している。

 今の道が脇道で大きな通路が本道といったところだろう。


 恒夫がイカサマサイコロを取り出す。


「デカい道を頼むぜ」

「あははっ、秀樹は大変だね」


 後ろから愚痴る秀樹と栄二の笑い声が聞こえてくる。


「おっ、秀樹の願いが通じたぜ」


 恒夫の言葉を聞いて秀樹がニッと笑顔になった。


「日頃の行いがいいからな」

「はいはい、俺と違って良いですからなぁ」


 軽く流すと恒夫が交差する右の通路へと入っていった。

 暫く歩くと後ろからラグが恒夫の肩を掴んだ。


「止まれ、匂うぞ、オークの匂いがするぞ」


 振り返った恒夫が顔を顰める。


「匂い? わかるのか? 」

「オークは見たことあるから知ってるぞ、この臭い匂い忘れてないぞ、ゴブリンは知らないけどオークは匂いでわかるぞ」


 マジ顔でこたえるラグを見て恒夫が頷いた。


「ラグの鼻は確かだ。俺にはわからんが間違いなくオークがいるぜ」


 恒夫が秀樹たちを見回す。

 スギナが両手を上げて前に向けると目を閉じた。


「うむ、匂いはわからんが複数の気配を感じるのぅ」


 妖術か何かでわかるのだろう、ラグとスギナが感じるのだ間違いない。

 栄二が不安顔で口を開く、


「どうするの? オークと戦う? 」

「宝箱はこっちで間違いないんでしょ? なら行くしかないわよ」


 直ぐ後ろにいた菜穂が強気にこたえる。


「威勢がいいな、オークは怖くないのか? 」


 恒夫が意地悪顔で訊いた。


「ブタの化け物でしょ? 虫と違ってオークは平気よ、私の魔法で蹴散らしてやるわよ」

「ブタじゃねぇ、オークに怒られるぞ」

「じゃあ何なのよ? 」

「オークは……ブタみたいなモンスターだ」

「一緒じゃない、恒夫くんも知らないんでしょ」


 からかうつもりが言い返されて恒夫が任せたというように栄二の肩を叩く、


「あははははっ、僕も詳しくは知らないんだよね、って言うか諸説紛紛だからね、僕が思うにゴブリンは妖精の一種だからオークも同じようなものって認識しているよ、ゴブリンより邪悪で悪の下っ端兵って感じだね」

「栄二くんも詳しく知らないんじゃ仕方ないわね、もうブタの化け物でいいわ」


 呆れる菜穂の前でスギナが振り返って秀樹を見つめる。


「それでどうするんじゃ? 行くのか? 」


 リーダーはラグだという事にしているが実際のリーダーは秀樹だという認識だ。

 先頭の恒夫が掌の上でイカサマサイコロを振った。


「宝箱は間違いなくあると思うぜ、オークが持ってる。この先のオークが宝箱を持ってるかどうかイカサマサイコロで調べてみたからな」


 スギナが前に向き直る。


「では決まりじゃな、宝箱があるならオークじゃろうがドラゴンじゃろうが行くまでじゃ、このイベントの目的じゃからな」

「おう、行こうぜ、オークなら今の俺たちの敵じゃないからな」


 最後尾の秀樹が言うと恒夫はイカサマサイコロを仕舞って魔法銃を取りだした。


「ラグ、いつでも援護できるように頼んだぜ」

「了解だぞ、あたいがついてるからにゃ、ツネに怪我させないぞ」


 元気よくこたえるラグの後ろでスギナが植物の蔓を伸ばして恒夫の腰に巻き付かせる。


「狭い通路で戦うことになれば邪魔じゃから直ぐに後ろに引っ張ってやるから安心せい」

「おおぅ、ツネが紐で繋がれて犬の散歩みたいになってんぞ」

「くくっ……犬って………… 」


 ラグが楽しそうに言うと栄二が声を殺して必死に笑いを堪える。


「ほんと犬みたいね、恒夫くん、そこらでオシッコしちゃダメよ」

「するか! 犬じゃねぇ! 」


 菜穂にからかわれて恒夫が顔を赤くして怒鳴った。


「何言ってんだ。縛られるのは好きだろ、醜い豚っていつも言ってるだろが」

「バカにしやがって……でもスギナちゃんがナイスバディのお姉様ならヤバかったぜ」


 秀樹にからかわれて恒夫がとぼけ顔で返した。


「ナイスバディでなく悪かったのぅ」

「いやそんなつもりじゃ……今はそんな事言ってる場合じゃなかったな」


 スギナが怖い顔で睨むのを見て恒夫が慌てて言い訳すると前に向き直る。


「じゃあ行くぜ、ラグ援護頼むぞ」

「任せるにゃ」


 誤魔化すように歩き出す恒夫の後ろでラグが元気よく返事をした。



 七分ほど歩いた恒夫の鼻に饐えたツンとする匂いが漂ってきた。


「臭いな、俺でも分かるぜ」

「あたいはもう匂わないぞ、余りに臭いから麻痺してオークの匂いはわからなくなってんぞ」


 秀樹たちが顔を顰める中で匂いに一番敏感なラグがケロッとした顔だ。


「便利な鼻ね、この匂い、中学の時に行った牧場より臭いわよ」


 口元を押さえて言う菜穂に最後尾の秀樹も賛同するように頷いた。


「だな、オタイベントよりも臭いもんな」

「オタ臭に獣の匂いが混じってきつくなった感じだよね」


 苦笑いする栄二の前で恒夫がニヤッと笑う、


「オークもオタも似たようなものだからな」

「お前もオタだろが、バカ言ってないで進めよ」


 秀樹に急かされて恒夫が歩き始める。


 道幅2メートル半ほどの比較的大きな通路を進むと前にぼうっとした明かりが見えた。


「あれはヒカリダケの光だな、いよいよだぜ」


 歩く恒夫の腰に巻き付いている直物の蔓をスギナが引っ張った。


「気配がキツくなっておる」

「あたいも感じんぞ、30匹はいるぞ」


 恒夫が振り返るとスギナとラグの険しい顔が見えた。


「選手交代じゃ、ラグ、先頭に立て、儂が援護する」

「了解だぞ」


 バッと前に出るラグの後ろで恒夫が自分を指差した。


「俺は…… 」

「お主は儂の後ろじゃ、宝箱を見つけるのがお主の役目じゃ」

「あたいがオークを蹴散らすからツネは宝箱を確保するんだぞ」


 どうしたらいいのかと見つめる恒夫にスギナとラグが続けて命じた。


「ラグちゃんがオークを分断して俺と菜穂で魔法攻撃だ。スギナちゃんは援護頼むぜ、栄二は宝箱を確保する恒夫の護衛だ」


 最後尾から秀樹が指示を出す。

 何だかんだと今までリーダーをやってきたのだ。

 状況判断はそれなりに出来るようになっていた。


「了解したわよ、ラグが蹴散らしたオークを各個撃破すればいいんでしょ」


 威勢よく言うと菜穂が魔法の杖を取りだした。


「僕も了解だよ、魔法銃で恒夫の護衛だね」


 魔法銃を握り締めた栄二が恒夫の後ろに付く、


「援護は任しておけ、儂は攻防万能じゃからな」


 スギナが頷く前でラグが手から爪を伸ばす。


「ムカデと違って初めから加減無しでやってやんぞ」


 やる気満々のラグを先頭にヒカリダケが黄緑色に照らす広間へと向かって行った。


 広間へと続く通路の5メートルほど前でラグが足を止めた。


「あいつら待ち構えてるぞ、ブタも鼻がいいからにゃ」

「左右と奥に分かれておるのぅ、部屋に入った儂らを囲んで逃がさんつもりじゃぞ」


 二人にはオークの動静がわかるらしい、緊張する秀樹たちと違い余裕の表情だ。


「望む所にゃ、あたいが奥の奴らの注意を引いてるから秀樹と菜穗は入って直ぐに左右のブタを丸焼きにしてやるんだぞ」


 リーダーらしく命じるラグに秀樹が頷く、


「わかった。俺が左の奴らをやるから菜穂は右を頼んだぜ」

「了解、虫じゃないなら遠慮なくやってやるわよ」


 菜穂が魔法の杖を構える。


「じゃあ俺はここで休んでるから、お前ら頑張ってこい」


 横を通って後ろに行こうとする恒夫の腕を栄二が掴む、


「何処行くの? 宝箱を探すのが恒夫の役でしょ」

「宝なんて興味は無い、俺はみんなが無事ならそれでいい、だから後ろでみんなの無事を祈ってるぜ」


 最後尾から秀樹が来て恒夫の首根っこをガシッと掴む、


「またサボるつもりだな、前のゲームでも俺たちに戦わせてお前は休んでただろ」


 動かない頭を必死で回して振り向くと恒夫が口を開く、


「俺は頭脳派だからな、戦いはお前らに任せてんだ」

「だから戦いじゃなくて宝箱を見つけるだけだって言ってるだろが」


 怖い目で怒る秀樹を見て恒夫がフッと微笑んだ。


「宝箱か……もう見つけてあるだろ、宝は俺たちの心の中にあるんだぜ」


 秀樹が恒夫の頭をグーで殴りつけた。


「黙れ! ゴチャゴチャ言ったらラグちゃんに頭毟って貰うからな」


 痛みも忘れて恒夫がバッとラグに振り返る。


「にゅひひひひっ、いつでも毟ってやんぞ」

「わかったから、宝箱を見つけるから毛だけは勘弁してくれ」


 ニターッと不気味に笑うラグを見て恒夫が必死で謝った。


「にひひひっ、んじゃ行くぞ」


 ラグは楽しそうに笑うとくるっと前に向き直って歩き出す。



 秀樹たちが広間へと入っていく、


「デカいにゃ、これなら暴れ回っても平気だぞ」


 ラグが広間を見回す。

 50平方メートルはある大広間だ。


「樽や木箱があるのぅ、何かが棲んでおったのかのぅ、お宝がありそうじゃぞ」


 スギナがとぼけ声を出す。

 広間に置いてある樽や木箱などに隠れているのかオークたちの姿は見えない。


「こんな穴の中に住んでるなんてモグラくらいだろ、モグラの宝なんてミミズか芋虫だぜ、なぁ秀樹ぃ~ 」


 恒夫がふざけて声を掛けるが秀樹はこたえる余裕もない、何処からオークが出てくるのかと辺りを警戒している。

 栄二と菜穂も同じだ。

 余裕があるのはラグとスギナと恒夫だけである。


 全員が広間に入ったのを確認したのか左右の柱の陰に隠れていた数匹のオークがバッと出てきて通路を塞いだ。


「きゃあぁ~~、怖いぞ、オークだぞ」


 ラグが白々しい悲鳴を上げて部屋の真ん中へと走り出す。


「ヤバい、通路を塞がれた。これじゃぁ逃げられないぞ」


 恒夫が大声で叫ぶが下手な役者より下手くそな棒読みだ。


「ああぁ……オークに弄ばれるのは嫌じゃぁあぁ~~ 」


 スギナもノリノリで演技をする。

 三人の様子に思わず秀樹が吹いた。


「ぷはっ! やべぇ、余りの恐怖に変な笑いが出てくるぜ」


 笑っているのを必死で誤魔化しながら左に移動する。


「オークに乱暴されるくらいなら死ぬわよ……助けてぇ~~ 」


 菜穂も演技をしながら右へと移動した。


「もうダメだ……俺たちは全員死ぬんだぁー 」


 恒夫が間の抜けた声で叫んだ。

 直ぐ後ろにいた栄二が笑いながら口を開く、


「諦めちゃダメだよ、僕たちはどんな困難も超えてきたじゃないか」


 栄二も大根役者顔負けの下手くそな演技だ。

 スギナやラグだけでなく恒夫が変な演技をしたのが功を奏したのか秀樹と栄二と菜穂の緊張が解けていた。


 奥に積んである木箱の後ろから15匹程のオークが姿を現わした。


「ギヒッ、ギヘヘヘへッ、まんまと罠に掛かったな」


 群れのボスらしきオークが勝ち誇ったように大声で笑った。


「きゃあぁ~~、オークがこっちにも~、死にたくないぞ、助けて欲しいにゃ」


 部屋の真ん中まで走って行ったラグが前に現われたオークを見て悲鳴を上げる。


「ギヒヒッ、可愛い猫女だ。助けてやってもいいぞ」


 オークが黄色い牙を剥き出して笑いながらラグを値踏みするように見つめた。


「助けてくれるなら何でもするぞ、だから命だけは助けて欲しいにゃ」


 拝むように両手を合わせながらラグが奥にいるオークたちに近付いていく、


「儂らも助けてくれ、何でもするから…… 」


 スギナも懇願しながら部屋の中央へと歩き出す。

 恒夫が栄二の腕を引っ張ってスギナに続く、


「俺も助けてくれ、何でもする。オーク様の奴隷になるから命だけは助けてくれ」


 オークのボスがギロッと恒夫を睨む、


「ギヒヒヒッ、男はいらん全員殺せ、女はオレたちがたっぷり可愛がってやる」


 いやらしい目でラグや菜穂を見回すと黄色い牙の間から白濁した涎を垂らしながら言った。


「あたいらは助けてくれるのか? ありがとうだぞ」


 ラグの拝むように合わせていた手から爪が長く伸びている。


「お礼に切り刻んでやるぞ」


 ラグがダダッと走って奥にいた15匹程のオークに飛び掛かる。


「タバスコファイヤー 」


 秀樹の中級魔法の炎が左にいた6匹のオークに襲い掛かる。


「プラズマスラッシュ! 」


 菜穂の中級魔法の電気の刃が右にいる7匹のオークを切り裂いた。


「フクロウ切り! 」


 ラグが音も無く、目の前にいたオークのボスを切り倒す。


「キツツキパァ~ンチ! & ヒュンヒュンキィ~ック! 」


 奥の15匹のオークは素早く動くラグに翻弄されて逃げ惑う、


「ギヒィ~~、何だ! こいつら何者だぁ~~ 」

「ボスがやられたぞ、魔法使いだ! 」


 仲間が次々にラグに倒されるのを見て残ったオークたちが逃げ出した。


「ヒイィ~~、こいつら勇者だぞ、オレたちを退治に来たんだぁ~~ 」


 パニックを起こして通路に駆けだしたオークたちに植物の蔓が巻き付いた。


「逃がすと思うか? 罠に掛かったのはお主たちじゃ」

「ギヒィ、助けてくれ、何でも言うことをきく」


 命乞いをするオークをスギナがじろっと睨む、


「ダメじゃ、儂らのことを他の奴らに話されでもしたら戦い辛くなるからの、情報は一番の武器じゃからの」

「ヒィィ、助けて…… 」


 オークたちの体を植物の蔓が覆い尽くしていく、蔓に覆われた緑の塊からボキボキと骨の折れる音が聞こえてきた。


「凄いな、絞め殺してるのか? 」


 マジ顔で訊く恒夫にスギナがフフンと鼻を鳴らす。


「食獣葛じゃ、肉食の葛で獣を養分にして育つ凶悪な蔓植物じゃ、荷物を運んどる妖瓢箪と同じで儂が育てておる妖怪植物じゃ」

「食虫植物みたいなものか……食われるのは御免だな」


 グルグル巻にされたオークを見て恒夫が同情するように言った。



 入り口付近では秀樹と菜穗が戦っている。


「プラズマボール! 」


 炎から逃れたオークを秀樹が電気の塊をぶつけて1匹ずつ倒していく、


「ウォーターニードル」


 右で同じように炎から逃げたオークに菜穂が水の針で攻撃だ。


「火で熱かったでしょ、水で冷やしてあげたわよ」


 魔法の水の針が刺さって倒れたオークを見て菜穂が笑う、


「菜穂って結構サドだな、女王様になってくれないかなぁ」


 頬を緩めた顔で菜穂を見つめる恒夫の腕を栄二が引っ張る。


「バカ言ってないで宝箱探すよ、ラグさんに怒られても知らないからね」


 奥にいた15匹ほどのオークはラグとスギナが倒してくれたので栄二の顔には余裕が浮んでいる。


「わかってるって、宝箱だろ…… 」


 途中で話を止めると恒夫が叫ぶ、


「秀樹、菜穂、そいつらを逃がすな! 」


 通路を塞ぐように左右から現われた6匹のオークが逃げていくのが見えた。

 恒夫の大声に菜穂が直ぐに反応した。


「逃がさないわよ」


 くるっと通路に向き直ると菜穂が魔法の杖を向ける。


「フラッシュオーバーファイヤー 」


 上級魔法の炎が狭い通路を埋めていく、


「ギヒィ~~ 」


 オークの短い叫びが炎の轟々という音に掻き消されていった。


「凄ぇ、ありゃ灰も残らんぜ」


 菜穂より一歩遅れて振り向いた秀樹が同情するように呟いた。


「6匹のオークに上級魔法かよ、無駄とは言わんが……オークじゃなくてよかったぜ」


 呆れる恒夫を見て菜穂がニッコリ微笑んだ。


「心配無いわよ、私は上級魔法を10回以上使っても平気だから、ケリウスさんやマーサさんに魔法の才能があるって言われてるんだからね」


 普通の人間は体力や気力的に上級魔法を10回も使えば疲れて限界が来る。菜穂は普通よりも少し魔法に対する能力があるらしい。


「そんな事より宝箱はあったの? 恒夫くんの仕事でしょ」

「へいへい、探しますよ、女王様」


 恒夫が薄い頭を掻きながら広間の奥へと向かって行く、


「何処を探すの? 」

「あるとしたらあの向こうだろ」


 後ろから着いてきた栄二に恒夫が奥に積んである木箱を指差した。


「ボスが守ってたからね」

「そういう事だ。オークなんて単純だから宝は自分の手元に置いてるだろ」


 奥で戦っていたラグが駆け寄ってくる。


「木箱の向こうに小さい部屋があるぞ、他に道は無いからブタども逃げることもできなかったんだぞ」


 積んである木箱を指差すラグを見て恒夫が頷く、


「成る程ね、この広間に繋がってる道は俺たちが入ってきた通路だけって事か、んじゃ宝箱はその小さい部屋にあるな」


 ラグと栄二を連れて恒夫は木箱の裏にある小部屋へと向かう、


「心配無いぞ、ブタは全滅してるからにゃ」


 入り口で魔法銃を取りだした恒夫を見てラグがケロッとした顔で言った。


「不意に入るなよ、トラップがあったらヤバいからな」


 魔法銃をしまいながら叱るとラグが笑いながら抱き付いてきた。


「にへへっ、大丈夫だぞ、あたいが怪我したらツネが治してくれるからにゃ」

「まったく……治してやるけど出来るだけ怪我しないようにしてくれよ」


 後ろから抱き付くラグを引き摺るように小部屋へと入っていった。


「ああ……あれだ」


 恒夫が指差す先、小部屋の奥の壁に作られた祭壇のような台の上に宝箱が置いてあった。


「あれだね」


 如何にも宝箱ですと言ったような箱を見て栄二も言葉が少ない。


「んじゃ開けてみるか、栄二とラグは少し離れてくれ、トラップがあるとダメだからな」

「トラップ? あたいが開けようか? 」


 心配してくれるラグを見て恒夫が優しく微笑む、


「心配無い、俺はこういうの得意だ」

「恒夫に任せるといいよ、ロッカーの鍵開けたりバイクの鍵壊して直結したりするの得意だからね、現実の世界じゃギャンブラーって言うより盗賊って感じだからね」

「人を泥棒みたいに言うな、バイクは不良連中が持ってきたの直してやるだけだ。あくまで直してやってるだけだからな」


 意地悪顔の栄二に恒夫が振り返る。

 悪いと自覚しているのか直すを強調していた。


 ラグと栄二が後ろに下がったのを見て恒夫が宝箱を開ける。


「なんだ鍵掛かってないぜ、オークは本当にバカだな」


 呆れながら宝箱を開ける。


「ハズレだ。宝玉は無いぞ」


 大きな声で言いながら恒夫が振り返る。


「何が入っておるんじゃ? 」


 いつの間にかスギナと秀樹と菜穂も来ていた。


「金貨が50枚ほど入ってるだけだ。五百万ギギルくらいの金なんて俺は興味無い」


 恒夫が宝箱を抱えてくると秀樹たちの前に置いた。


「くたびれ儲けか、ハズレがあるって言ってたから仕方ないな」

「上級魔法なんて使うんじゃ無かったわよ、勿体無い」


 がっかりする秀樹の隣で菜穂が愚痴る。


「取り敢えず金貨は儂が預かっておく、休みの町で遊ぶのに使えばよい、オーク退治の料金じゃと思えば妥当じゃろ」


 スギナが瓢箪を出して宝箱を仕舞った。


「だな、町で使おう、頑張ったから菜穂やラグちゃんの好きに使っていいぜ」

「本当? やったぁ~、上級魔法を使った甲斐があったわよ」


 買い物ができると思って菜穂の機嫌が一瞬で戻った。


「他にめぼしいものは無いみたいだしさっさと行こうぜ、臭い匂いに焼き豚の匂いが混じって気持悪くなってきた」


 小部屋を出て行く恒夫にラグが続く、


「んじゃ気を取り直して宝箱探し再開だぞ」


 恒夫を追い越すとラグが先頭に立って歩き出す。


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