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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
97/158

第九十七話 「ダンジョン」

 恒夫を先頭に穴の中を歩いて行く、


「岩を刳り貫いた手彫りって感じだな、みんな気を付けろよ、足下凸凹だぞ」

「了解だ。それにしても歩き難くて堪らんな」


 最後尾で秀樹が愚痴った。


 壁や天井だけでなく床も岩を手で掘ったようにゴツゴツしていて気を抜けば転びそうになる道と言うよりも洞窟といったほうがいい悪路だ。


「こんなのでオークやゴブリンに襲われたら大変だよ、逃げようとしても走れないよ」

「大丈夫よ、オークとかゴブリンなんて私の魔法で消し飛ばしてやるから……その代わり変な虫が私に近寄らないように守ってよね」


 不安気な声を出す栄二の背を菜穂がランプを持った手でポンポン叩いた。


「あははっ、任せてよ、虫は結構平気だからね」


 菜穂に頼られて栄二が嬉しそうにこたえる。

 先頭を歩く恒夫が振り向いてからかう、


「オークやゴブリンが平気で虫がダメなんてかわいそうだろが、家に出るゴキブリと違って森にしかいないゴキは可愛いんだぜ、キモいオークと一緒にするなよな」

「何言ってんのよ! ゴキが可愛いなんておかしいんじゃないの? オークやゴブリンもキモいけど同じキモさでも虫は生理的にダメなの」


 菜穂が少しヒステリックに怒鳴った。本当に虫はダメらしい。


「恒夫の相手するなよ、怖がったり怒ったりしたら益々調子に乗るヘンタイだからな」


 最後尾で秀樹が言うと恒夫が前に向き直る。


「へいへい、どうせ俺はおかしいですよ、ヘンタイですよ」


 拗ねるように言うとまた歩き出す。


「ツネ気を付けろ、苔が生えてるから滑るぞ」


 直ぐ後ろを歩くラグに言われて恒夫が前方の足下をランプで照らす。


「よく見えるな、踏ん付けて転んでたぜ」

「もう目が慣れたからにゃ、これでいつでも戦えるにゃ」


 ラグの黒眼が大きくなって光を反射してギラッと光る。

 後ろを歩いてた菜穂が驚きながら口を開く、


「へぇ、格好いいじゃない、猫って感じだわ、流石リーダーね、頼りにしてるわよ」

「にゃふふん、犬と違って猫は夜も得意だからにゃ、狭いところも得意だから戦いは任せるにゃ、にゃんたってリーダーだからにゃ」


 珍しく菜穂が褒めるとラグが鼻を鳴らして得意満面だ。


「流石猫じゃな、まぁ儂も見えとるがの」


 ラグの後ろでスギナが褒めながら対抗する。


「凄いな二人とも、じゃあ何かあったら頼むぜ」

「任せるにゃ、何かあったら直ぐに戦ってやるぞ」


 やる気満々のラグに安心して歩き出す。

 先を歩く恒夫の直ぐ横の壁で何かが動いて菜穂がランプを振り回す。


「ひっ、何か動いたよ、ゴキかな? あっ、跳ねた。便所コオロギみたい…… 」

「一々驚くなよ、一番前なんて歩く度にゾワゾワって虫が逃げていくぜ」


 先程から短い悲鳴を上げる菜穂に言うと恒夫が立ち止まった。


「よっと、ほらウデムシだ。サソリじゃないぜ、毒も無い、デカくて格好いい虫だ」


 くるっと振り返った恒夫が手に持ったウデムシをランプで照らして見せた。

 菜穂が前を歩く栄二の背中に縋り付く、


「ひぃぃ~~、そんなもの見せるな! 早く捨てなさい! 」

「止めろよ恒夫、菜穂さんもランプ振り回したら危ないからね」


 栄二は迷惑顔だが菜穂のおっぱいが当たって背中が気持ちよかった。


「恒夫バカやって迷うなよ、それにしても前のダンジョンと違って手彫りの穴なんだな」


 最後尾の秀樹がランプで周りの壁を照らす。

 岩を刳り貫いたような直径3メートルほどの丸い穴が道になっている。


「ああ、トラップとか見つけにくくてヤな感じだぜ」


 恒夫も同じようにランプで周りを照らす。

 ランプを持っているのは先頭の恒夫に後ろから二番目の菜穂と最後尾の秀樹だけだ。

 夜目の利くラグやスギナにランプは必要無い、栄二は直ぐに援護できるようにランプの代わりに魔法銃を握っている。


 隊列はイカサマサイコロを持っている恒夫が先頭でラグとスギナ、栄二と菜穂が続き秀樹が最後尾だ。

 分かれ道などイカサマサイコロを使えばどちらへ行けばいいのか示してくれる。


 恒夫が不死身だと勘違いしている秀樹と栄二は敵に襲われても安心だという考えもあって以前のゲームのように先頭にしたのだ。

 何かあれば直ぐに助けられるように反射神経の高いラグを続けて配置してスギナは恒夫がバカをしないように監視である。

 後ろから襲われてもいいように不死身の秀樹が最後尾だ。


「入ったばかりじゃからな、行き成り罠もあるまいて」


 行けと言うようにスギナが恒夫の背を叩いた。


「今回も中津たちに負けないように頑張りたいけどモミジさんとカエデさんがいるからね」


 歩きながら人外好きの栄二が思い出したように言った。


「おお、あの二人いいよな、切れ長の目が堪らん」

「にひひひっ、ダンジョンを抜けるまで毛が残ってたらいいにゃぁ」


 後ろから殺気を感じて恒夫が薄い頭をサッと押さえる。


「冗談だから、ラグの方がずっと可愛いから、俺はラグ一筋だからさ」


 必死で誤魔化す恒夫の後ろでラグが顔を顰める。


「あの狐は今一好きになれないぞ、狐は狡賢いからにゃ」

「そうじゃの、儂もあまり良い気を感じなかったのぅ、人を誑かすのが妖狐じゃからな」

「昔話でも狐は悪戯ばかりだからな、中津たち騙されてなきゃいいんだが」


 スギナに続いて1番後ろで秀樹が賛同するように言った。

 恒夫がとぼけ顔で口を開く、


「中津たちだけよりいいんじゃねぇの? 一人二人じゃ無くて上位三十人が勝ち抜けできるんだしあからさまに裏切ったりしないだろ」

「僕も恒夫の意見に賛成だよ、強い仲間がいるに越したことはないからさ」

「モミジさんとカエデさんなら旨く騙してくれるんじゃないの? 知らねぇけど」


 笑顔で話す栄二に恒夫が飄々とこたえた。


「知らないとか言いながら気にしてるよね、恒夫はいつもこうだよね」

「気にしてねぇからな、俺は自分のことで一杯一杯だ」


 栄二にちらっと視線を送ってから恒夫が歩き出す。

 入り口から二十分程歩いた所でスギナが恒夫を止めた。


「気を付けろ、空気が変わったようじゃぞ」

「うにゅ!? 匂いもするぞ、カビ臭い感じだぞ」


 ラグも何か感じとった様子だ。


「トラップか何かあるのかな? オークやゴブリンならラグが匂いでわかるだろうしな」


 恒夫のとぼけ顔がマジに変わる。


「恒夫慎重にな、みんな戦闘準備だぜ」


 一番後ろで秀樹が言うと恒夫が振り返りもしないで手を振ってこたえた。



 7メートルほど進むと恒夫が足を止める。


「そういう事か…… 」


 振り返ると少し大きな声を出す。


「安心しろトラップじゃない、ダンジョンに到着したらしいぜ、今までのはダンジョンまでの通路だ。砂漠から出てきたデカい岩を刳り貫いて作った道だな、ここからが本番らしいぜ」


 ランプで照らす道の先が岩を刳り貫いた壁から煉瓦の壁に変わっているのが見えた。


「本当だ。前のゲームのダンジョンと同じような道になってるね」


 驚く栄二の後ろから菜穂がヒョイッと顔を出して前を見る。


「早く行きましょうよ、平らな壁なら変な虫も探しやすいから避けやすいわよ」

「そんなに虫が嫌かよ、凸凹道と違って隠れる所が無い分だけ目に付きやすくて余計キモいと思うぜ、壁一面に張り付くゴキやゲジゲジを想像してみろよ」


 菜穂を怖がらすように言う恒夫の横をラグが通って行く、


「いっちばぁ~~ん、あたいが一番に入ったぞ」

「はいはい、ラグはリーダーだからな」


 得意満面のラグを見て呆れたのか菜穂を怖がらすのも止めて恒夫も煉瓦の道に入っていく、その後を秀樹たちが続いた。

 どういう仕組みか分からないがラグが飛び込むと同時に煉瓦で覆われた道にぼうっと淡い明かりが灯る。


「うにゃ!? 光ったぞ」

「センサーか? 魔法か? なんにしても暗闇よりはマシだな」


 常夜灯のような淡い光のダンジョン内に入ると恒夫がランプを消した。


「真っ暗闇じゃなくて良かったぜ」

「本当よ、ランプ持ったままじゃ戦えないからね」


 続けて入ってきた菜穂と秀樹も安心顔でランプを消した。


「人工的に作られたダンジョンじゃからな、流石に闇ではゲームにならんと気を使っておるのじゃろう」


 恒夫を先頭に四方を煉瓦に囲まれた通路を歩いて行く、


「細くなってるから注意しろ、壁とか下手に触るなよ、トラップあるとダメだからな」

「言われなくても触らないわよ、変な虫とか付いてるし…… 」


 後ろから菜穂の情けない声が聞こえる。


「菜穂はほんとに虫がダメなんだにゃ、あたいもトカゲが嫌いだから気持ちはわかるぞ、こんな狭いとこでトカゲ出てきたらパニックになるぞ」


 同情するラグに恒夫が振り返る。


「トカゲはいないから安心しろ基本的に日光浴しないと生きられないからな、ヤモリはいるかも知れんけどな、まあデカいのはいないだろうから大丈夫だろ」

「ほんとだにゃ、それなら怖いもの何もにゃいぞ」


 ニパッと元気になったラグを見て恒夫がまた歩き出す。

 幅1メートルもない細い通路が続く、


「何か圧迫感感じて気分悪くなってくるよ、秀樹は大丈夫? 」


 一番大柄な秀樹を心配して栄二が振り返る。


「大丈夫だ。気分は良くないけどな」


 気丈に言うが秀樹の顔色が悪いのが薄暗い中でもわかった。

 二人が気になったのかスギナが振り返ると菜穂がビクビクしながら歩いているのが見えた。


「圧迫感はいいけど壁が近いから虫が怖いわよ」


 小さな溜息をつくとスギナが前に向き直る。


「こういう時は小さいのは楽じゃの、恒夫、少し休まんか? 」

「もう少し頑張ってくれ、ここじゃ何かあったら避けられない、休むならデカい道に出てからだ。それまで辛抱してくれ」


 振り返らずに言う恒夫の背をラグがバンバン叩く、


「ツネは平気なのか? あたいは狭いとこ平気だぞ」

「狭いのは苦手だが洞窟とかは別だ。変な生き物がいないか探してたらワクワクするぜ」


 元気にこたえる恒夫を後ろから栄二が睨む、


「恒夫はヘンタイだからね、痛いとか苦しいのが好きなんだ」

「マゾだマゾ、苦しいのに快感覚えてんだ」


 最後尾で秀樹も吐き捨てるように言った。疲れているのか二人とも口が悪い。


「そんなに褒めるなよ、もう少しだ。ほら見えるだろ広間みたいだぜ」


 狭い通路の壁に背を付けるようにして恒夫が前を指差した。


「緑色だけど通路より明るいわね」


 狭い通路で菜穂と並ぶようにして栄二が前を見る。


「緑色の光か……たぶんヒカリダケが生えてるんだよ」


 最後尾の秀樹が栄二を押し退けるようにして顔を出す。


「おおぅ、と言うことは広間か何かあるな」


 秀樹の喜ぶ声に菜穂が振り返る。


「広間? 何でわかるの」

「前のゲームでダンジョンに入ったときにヒカリダケが生えているのは広間か大きな通路かオークやゴブリンがいる場所だけだったんだよ」


 秀樹の代わりに栄二がこたえた。

 壁に張り付くようにしている恒夫の腹をラグが突いた。


「ヒカリダケってなんにゃ? 」

「キノコだ。どんな仕組みか知らないけど黄緑色に光ってる。前のゲームで入ったダンジョンでもいっぱい生えてたぜ」

「餌を取るために光っとるんじゃ、光で虫が集まってくるじゃろ、その虫の糞がキノコの栄養になるんじゃ、じゃからずっと光を出しておる。便利なキノコじゃ」


 ラグの後ろからスギナが教えてくれた。


「流石植物のことには詳しいな」


 言いながら恒夫が壁から離れて通路の真ん中に立つ、


「キノコは厳密に言うと植物ではないがの、まぁ生き物全般についてある程度知っておるから困ったら何でも聞くといいぞ」

「俺も虫とか小動物は得意だけど植物はさっぱりだから助かるよ」


 恒夫が前に向き直って歩き出す。


「広間で休もうぜ、もう少しだから頑張ってくれ」


 恒夫に言われるまでもなく秀樹たちは元気に歩き出した。



 ヒカリダケが淡い黄緑色に照らす十二畳ほどの広間に出た。

 ダンジョン内にある広間としては決して広くはないが狭い通路を通ってきたので実際より広々と感じる。


「やっと伸び伸びできるぜ」


 大柄で一番窮屈そうにしていた秀樹が気持ち良さそうに両腕を上げた。


「お疲れ様、ガリガリの僕でも圧迫感感じたのに秀樹は大変だったよね」


 笑顔で言うと栄二が体を左右に捻ってストレッチを始める。

 菜穂が自分の周りの壁や床に虫がいないか確認している。


「変な虫いないでしょうね? 栄二くん変な虫が近寄らないようにこっちに来て、秀樹くんと二人で私の左右で虫を追い払ってよ」

「あははっ、了解、了解、菜穂さんに頼まれたら断れないよ」


 栄二が苦笑いしながら菜穂の左側へと立った。

 恒夫が小さな瓶を取り出すと栄二に渡す。


「ハーブ油だ。虫除けに効く、お前らが座る周りに円を描くように垂らしておけ」

「へぇ、そんなの持ってたんだ。虫除けの薬草なら僕も持ってるけど燻さないとダメだから小休止じゃつかえないよ」

「ゴキブリには効くのは確認してるけどゲジゲジとかクモに効くかは知らんぞ、まあ気休め程度に思ってくれ」


 感心する栄二を見て恒夫がぶっきらぼうにこたえた。

 菜穂がパッと顔を明るくする。


「ありがとう恒夫くん、虫が平気なのに虫除け持ってるなんて気が利くわね」

「礼ならラグに言え、獣人が使う虫除けだ。毛の生えている手足に擦り込んで使うヤツだ。ノミやダニが付かないように毎日使うっていうから多目に買ってある」


 照れているのか怒ったように言う恒夫にラグが抱き付いた。


「にゃはははっ、そのオイルよく効くぞ、あたいが作った特別製だからにゃ、売ってる二つのを合わせてブレンドしたんだぞ、六時間ごとに塗ればダニノミだけじゃなくてヒルやアブに毒虫も寄ってこないぞ」

「へぇ、流石獣人ね、有難く使わせてもらうわよ」


 栄二が床に撒き終わると菜穂が自分の手足にオイルを塗り始めた。

 秀樹が鼻をヒクヒクさせながら口を開く、


「その匂いか、ラグちゃん良い匂いがするからシャンプーか何かだと思ってたぜ」

「にゃへへへへっ、オイルに一寸だけ香水入れるんだぞ、色んな匂いのを作っとくと飽きないからにゃ、あたい特製の虫除けだぞ」


 照れたのか嬉しそうに恒夫の背中をバンバン叩く、


「痛いから止めろ、怒っても喜んでもどっちでも俺に何かするのは止めてくれ」

「にゃははははっ、にゃに言ってんだ? あたいは何やってもいいんだぞ、ツネはあたいのものだからにゃ、あたいが御主人様だぞ」

「御主人様…… 」


 恒夫の頬が嬉しそうに緩んでいくのを見て栄二と秀樹が呆れ顔だ。


「また変な想像してるし」

「まったく、マジでドMのヘンタイだな」


 小さなリュックを降ろして思い思いに休む、各自の持つ小さなリュックには水筒や糧食にタオルなど直ぐに使うものを入れている。

 その他の荷物はスギナに預けていた。


 霊木の精霊であるスギナは妖怪の植物である妖草や妖樹を幾つか育てていた。

 その一つの妖瓢箪は中に物を仕舞い込むという妖術が使える。

 一つの瓢箪に大型トラックほどの荷物を入れることが可能だ。

 本来は敵を封じ込めるために使う道具らしいがスギナなら出し入れが自由にできるので荷物運びに使っているのだ。

 その御陰で各自は必要最低限の荷物だけを持つようにできた。


 水筒の水を飲んでいる恒夫の腰をスギナがポンポン叩いた。


「道が三つあるぞ、お主の出番じゃな」


 スギナが指す先、広間の向こうの壁に三つの道が見える。


「恒夫のイカサマサイコロを使えばダンジョンなんて勝ったも同然だからな」

「前のゲームでも大活躍だったよね、戦い以外ならこれほど役に立つアイテムはないよね」


 秀樹と栄二が煽てるように言うのを恒夫がとぼけ顔で聞いていた。


「ここは一つ、イカサマサイコロじゃなくて俺の野生の勘を信じるってのはどうだ? 」


 マジ顔で自身を指差す恒夫を見てラグ以外が動きを止めた。


「却下じゃ、お主にラグのような野生があるとは思えん」


 即答するスギナの向かいで秀樹たちが続ける。


「何が野生の勘だ! お前にあるのはヘンタイだけだ」

「恒夫の勘は碌な事起きないだろ、逆を選んだ方がマシだよ」

「ヘンタイの勘はちょっとね」


 怒る秀樹にじとーっと軽蔑の眼差しの栄二と菜穂、恒夫の横でラグが大笑いだ。


「にゃははははっ、ツネに野生の勘があるにゃらナメクジだって持ってるぞ」

「俺はナメクジ以下かよ」

「塩で退治できるだけナメクジの方がマシだ」


 嫌そうに言う恒夫に秀樹が止めを刺した。



 小休止を終えて秀樹たちが三つある道の前に立つ、


「おおぅ、右の道が光ってて楽しそうだぜ、右に行くか」


 満面の笑みを湛えた恒夫が振り返った。


「行くか! イカサマサイコロを使え! 」

「明かりのある所はオークやゴブリンがいる確率が高くなるってヘカロさんが言ってただろ」


 怒鳴る秀樹の隣で栄二が顔を顰める。


「俺の勘が右がいいって言ってるぜ」

「ナメクジより当てにならん勘はいらん、さっさと宝箱を見つけてダンジョンを出るのじゃ」


 スギナの怖い顔を見て恒夫が渋々といった様子でポケットからイカサマサイコロを出した。


「んじゃやるぜ、宝玉は宝箱に入ってるんだよな、じゃあ宝箱に近い道を選ぶとしますか」


 イカサマサイコロは二つ組だが一つでも機能は同じだ。


「どうやるの? サイコロでどうやってわかるの? 」

「にひひ、あたい知ってるぞ、教えてもらったからにゃ」


 興味津々な菜穂を見てラグがニヤッと上から目線で笑った。


「奇数が出たら黒で偶数だと赤だぞ、そう思いながらサイコロを振るんだぞ」

「赤と黒ってどういう意味? 全然わからないんだけど」


 得意気に説明するラグから視線を離して恒夫を見つめる。


「赤と黒ってのはルーレットの色だ。ラグにはルーレットで当てる使い方しか説明してないからな、でも基本は同じだぜ」


 弱り顔でラグをちらっと見てから恒夫が話し始める。


「当てたいものにそれぞれサイコロの数字を選んで付ける。サイコロは二つあるから最大で1~12の12通りまでのものなら1回で当てられる。カジノのルーレットで数字を当てるときは2回に分ける。一の位の数字と十の位の数字はどれが出るかって2回に分けることで多いものでも当てられるって事だ」


 掌でサイコロを回しながら恒夫が続ける。


「今みたいに三つの道のどれかを当てるなんてのはサイコロ一つで充分だ。1と2が右の道、3と4が真ん中、5と6が左の道って決めてどの道が一番宝箱に近いのか教えてくれって願いながらサイコロを振る」


 言いながらサイコロを振って反対側の手に落とす。


「3だ。3と4は真ん中だから宝箱に一番近い道は真ん中って事になる」

「成る程ね、そうやって使うんだ」


 感心する菜穂を見て恒夫がニヤッと意地悪顔だ。


「但し、100%完璧じゃない、3回に一度くらいの割合で間違えが出る。だからカジノで使うときは2回連続で当たりが出たら3回目と4回目は掛金を控えるようにして負けてもいいように準備する。それでも外れたりするから有り金全部を一度に賭けるなんて事は滅多にしないぜ、カジノに見つかるとヤバいし結構気を使うアイテムだ」


 イカサマサイコロの説明を聞いてスギナが感心するように頷く、


「成る程のぅ、詳しく聞くのは初めてじゃが捻くれたお主にピッタリのアイテムじゃな」

「ひでぇなぁ~、スギナちゃんに言われたら言い返せないぜ」


 苦笑いすると恒夫がイカサマサイコロをポケットに仕舞う、


「じゃあ行きますか」

「何処へ行く? 真ん中じゃろ? 」


 右の道へと行こうとする恒夫をスギナが止めた。


「体が勝手に……明るくて楽しそうだし………… 」

「お主は蛾か! サイコロが指示した道へ行け! 」


 怒鳴るスギナに後ろから秀樹が声を掛ける。


「スギナちゃんその調子で頼むぜ、恒夫は時々マジでバカするからな」

「うん、時々ふらふらってとんでもない事するよね」

「イカサマサイコロの意味が無いじゃない」


 呆れる菜穂と弱り顔の栄二を見てスギナが溜息をつく、


「何を考えとるんじゃ、まったく……バカをせんようにしっかり見張っておるから安心せい」

「任せたぜ」

「スギナちゃんなら安心だね」


 ラグ一人だけは嬉しそうに恒夫の腕に縋り付く、


「にゅははははっ、ツネは面白いにゃ、あたいも明るい方へ行きそうになったぞ」

「そうだよな、面白い方がいいよな」

「バカはお主一人の時にしろ、儂らを巻き込むな、黙って真ん中の道へ行くのじゃ」


 怖い顔で怒るスギナを見て恒夫とラグが無言で従った。


 イカサマサイコロで出た真ん中の道を進んでいく、


「ちびっ子のくせに怖いぞ、一寸冗談しただけにゃ」

「普段温厚だから怒らせたらヤバいタイプだぜ、スギナちゃん」


 ひそひそ話をしている恒夫とラグの背がトントンと叩かれた。


「聞こえとるぞ、お主らが怒らせなんだら何もせんじゃろ」

「あははっ、ごめん、全部俺が悪いからさ」

「にゃへへっ、あたいも悪かったぞ」


 おべっか笑いをする二人を見てスギナが呆れた様子で溜息をついた。



 暫く歩くと道が左右に分かれていた。


「左だな」


 恒夫がイカサマサイコロを振って左の道を進んでいく、

 更に進むと道が交差した辻に出た。


「三度目じゃぞ、どうするんじゃ? 」


 3回に1度くらいの割合で外れるイカサマサイコロを心配してスギナが訊いた。


「どうもしない、出た目を進むだけだ」

「ちょっと、ハズレならどうするのよ」


 とぼけ顔の恒夫に菜穂が突っ掛かる。


「確実に3回に一度外れるわけじゃない、三度目が正解でハズレが四度目か五度目かそれは俺にも分からない、ただ一つ言えることはハズレが出た後の2回は確実に当たりしか出ないって事だけだ。それとその日に使う初めては必ず当たりが出る」


 振り返って説明する恒夫をスギナが見上げる。


「つまり次から暫くはハズレが出る確率が高くなるんじゃな」

「そういう事だ。だからハズレが出るまでは用心して進むしかない」

「ハズレってどうしてわかるのよ」


 不安なのか菜穂が突っ掛かるのを止めない。


「トラップがあったりモンスターに襲われたりすれば直ぐにハズレってわかる。一番厄介なのは宝箱のある道とは違う道を示してることだな、ハズレかどうか判断できないからな、でも続けて外れが出たことはないから次のサイコロで修正できる」


 掌でサイコロを転がしながら話す恒夫の向かいでスギナが頷く、


「成る程の、何も変化がなくとも3回ほどサイコロを振れば当たりを、この場合は宝箱への道を示すという事じゃな」

「そういう事だ。だからこのまま進むしかないんだよ、充分気を付けてな」

「ふ~ん、何かよくわからないけどわかったわよ」


 菜穂が納得した様子で頷いた。

 恒夫の事は訝しんでいるがスギナの事は信じているらしい。


「んじゃ行くぞ、右か左か真ん中かどっちだにゃ」


 ラグに急かされて恒夫がサイコロを振った。


「2だから右だ」

「右だな」


 先に行こうとしたラグの腕を恒夫が引っ張る。


「俺が先頭だ」

「ダメだぞ、危ないんだろ、だからあたいが先に行くぞ、リーダーだからにゃ」

「リーダーが怪我したら困るだろ、トラップは俺の方が詳しいから任せてくれ、ラグは俺の後ろでオークやゴブリンの匂いがしたら教えてくれ、俺が直ぐに逃げられるようにな」

「わかったぞ、ツネは優しいにゃ」


 心配してくれているのがわかったのかラグが素直に従った。

 暫く進むと恒夫が立ち止まる。


「危ない! 」


 足下に違和感を感じて恒夫は振り返ると同時にぶつかるようにラグを突き飛ばす。


「なんにゃ! 」

「恒夫!? 」


 スギナが手から植物の細い蔓を伸ばす。


「うわぁあぁ~~ 」


 ラグを突き飛ばした恒夫が崩れていく床と一緒に落ちていく、


「ヤバい!! 」

「恒夫! 」

「恒夫くん」


 秀樹と栄二と菜穂が同時に叫んだ。


「来るな、これ以上崩れんとも限らん、恒夫は大丈夫じゃ、儂の蔓で捕まえておる」


 三人が駆け寄ろうとしたのをスギナが止めた。


 押し倒されたラグは崩れ落ちた床をきょとんとした顔で見ている。


「ツネが……あたいを助けて……ツネが………… 」


 バッと起き上がるとスギナの脇を通って崩れた床を覗き込む、


「ツネ! ツネぇ~~、大丈夫かツネオぉ~~ 」


 泣き叫ぶラグの目に逆さになった恒夫が映った。


「やべぇ、死ぬかと思った。ヤバすぎるぜ」


 逆さになった恒夫の目の前に鋭く尖った金属のトゲが迫っている。

 落とし穴の底一面が針山になっていた。

 落ちたら全身穴だらけになっていただろう、足首に絡まった植物の蔓で逆さ吊りになっている状態だ。


「ツネぇ~、よかった……直ぐに助けてやるからにゃ」


 ラグが蔓を引っ張って恒夫を救出した。


「ツネぇ~、ツネオぉ~~ 」

「やべぇ、やべぇ、死ぬかと思ったぜ、やべぇ」


 泣きながら抱き付くラグに構いもしないで真っ青になった恒夫がヤバいと繰り返す。

 落ち着いたのか恒夫がスギナに向き直る。


「助かったよスギナちゃん、落ちてたら串刺しだったぜ」

「お主こそ逃げずに咄嗟にラグを助けるとは殊勝なことじゃ」


 スギナが感心した様子で頷いた。

 秀樹と栄二もほっと安心顔だ。


「不死身ってわかっててもビビるぜ」

「だよね、串刺しくらいなら直ぐに再生できるってわかってても焦るよね」


 恒夫とスギナが顔を見合わせる。


「まっ、まぁな…… 」

「とにかくこれでハズレが出たんじゃから次から2回は安心なんじゃろ? なら先を急ぐのじゃ、さっさと宝玉を見つけてじめじめしたダンジョンを抜けようぞ」


 歯切れの悪い恒夫を見かねたようにスギナが誤魔化してくれた。


「ツネぇ~、あたいを助けて……あたいのために怪我したら嫌だぞ、死んだらダメだからにゃ、一緒に旅するんだからにゃ、だから無茶したらダメだからにゃ」

「死んだりしないから心配するな、怪我なんか直ぐ治るしな、モンスターと戦うのはラグたちに任せてるだろ、だからトラップは俺の担当だ。だから助けたとか気にするな」


 抱き付いて甘えるラグの頭を恒夫が優しく撫でる。


「じゃあ行くか、もう少し行った先で飯にしようぜ」


 立ち上がった恒夫をスギナが見上げる。


「足は大丈夫か? 咄嗟じゃったから力加減ができんで縛ってしもうた」

「少し痛かったけど座ってる間に治したから大丈夫だ」


 ニッと笑うと恒夫が屈伸して見せた。


「それより橋を作ってくれ、秀樹はともかく俺や栄二は飛び越せないからな」


 通路を塞ぐように3メートルほどぽっかりと大穴が空いていた。


「お安い御用じゃ」


 スギナが植物の蔓を伸ばして落とし穴の上に細い橋を作ってくれた。


「んじゃ行くぜ、ハズレが出たから一安心だ」


 恒夫が細い橋を渡っていく、ラグとスギナが続き、栄二の後を菜穂が怖々渡っていく、


「うわぁ~、痛そう、刺さらなくてよかったわね」

「恒夫なら気持ちいいってケロッとしてるぜ、ダークエルフに切られても喜んでたからな」


 橋を渡りながらトゲの山を見下ろして顔を顰める菜穂の後ろで秀樹が意地悪顔で笑った。

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