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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
96/158

第九十六話 「中津チーム」

 眩しい光が収まって秀樹が目を開ける。


「ここは…… 」

「砂漠かよ」


 隣から恒夫の厭そうな声が聞こえた。

 秀樹たちの周囲に砂の海が広がっていた。


「あたい暑いのはヤだぞ、寒いのもヤだけどにゃ」

「儂も砂漠は苦手じゃな、緑があるほうが好きじゃ」


 ラグとスギナも浮かない表情だ。


「また苦しそうなイベントの気がするよね」

「変な虫とかダニがいない分だけジャングルよりマシよ」


 厭そうな栄二の横で菜穂が普段の顔で言った。


「サソリとかサバイバルの最後の砂丘にいた大蛇とかいそうだぜ」

「砂ダニってのがいて人間の足に卵を産み付けるらしいぞ」

「大蛇は平気よ、私が全部退治してあげるわよ、でもサソリとダニは嫌だな……恒夫くんに任せるわ、詳しそうだしね」


 秀樹と恒夫がからかうが菜穂は軽く流して相手にしない。


「誰か来るにゃ」


 ラグがバッと振り返る。

 後ろから白い光に包まれて他の参加者がやって来るのが見えた。


「中津かよ…… 」


 呟く秀樹の隣で恒夫が厭そうに顔を顰める。


「中津と佐伯と東條さん、よかった三人とも無事だよ」


 二人と違い栄二は嬉しそうに安心顔だ。


「にゃんだ? 知り合いか? 」

「スタート地点で話してた人たちね」


 子猫のように首を傾げるラグの横で菜穂が思い出した様子で頷いた。

 恒夫が厭そうな顔のまま菜穂に振り向く、


「中津を知ってるって事はずっと俺たちを見てたのかよ」

「俺たちは前回優勝者だからな、チームに入りたくて見られてても仕方ないぜ」


 秀樹が菜穂を庇った。


「ほぅ狐じゃ、彼奴ら狐と組んだんじゃな」


 スギナの言葉で恒夫だけでなく秀樹や菜穗も中津たちに向き直る。


「狐? おおぅ、美人のお姉さん連れてるぜ」


 恒夫のテンションが上がる。

 中津たちの後ろに美女が二人いるのが見えた。


「うにゃ! 浮気したら引っ掻いて毛を全部抜いてやるからにゃ」


 ラグがバッと抱き付くと恒夫の薄い頭をペシペシ叩いた。


「ちっ、違うから……浮気とかそんなんじゃないから、あいつらとチームを組んでくれる他種族なんて珍しいからさ、だから……なぁ………… 」


 恒夫が助けを求めるように秀樹と栄二を見つめる。


「違わないね、恒夫の好きなタイプだよね」

「だな、恒夫は年上好みだからな、キツい感じのお姉さんが好きだからな」


 助けるどころか栄二と秀樹が意地悪顔だ。


「ちょっ、お前ら……痛てっ、いてて………… 」


 文句を言おうとした恒夫の頭をラグがガシッと掴んだ。


「違うから……助けてくれスギナちゃん、菜穂ぉ~~ 」

「へぇ~、へぇ~、恒夫くんって年増が好きなんだぁ~~ 」


 助ける気は毛頭無いらしく菜穂が笑顔でからかった。


「恒夫はああいうのがいいのじゃな、そうか……あれくらいなら儂も負けんぞ」


 スギナは腕を組んで何やら悩むように考えている。

 誰も助けてくれないとわかると恒夫は頭を掴むラグの手をバシバシ叩いて口を開く、


「 ……ラグだけだから、俺にはラグしかいないから、一緒に旅するって約束しただろ……だからさ、なっ、浮気とかじゃないからさ」

「ほんとだにゃ、あたい以外の女にちょっかい出したら毛を毟り取るからにゃ」


 目を吊り上げた怒り顔を恒夫の頬に当たるまで近付けてラグが言った。


「本当だ。約束するって、だから頭だけは勘弁してくれ」


 泣き出しそうな恒夫の前でラグの顔がパッと変わる。


「にゅふふ、んじゃ許してやんぞ」


 先程まで怒っていたのが嘘のように可愛い顔をしてラグが抱き付いて笑っている。


「気紛れ猫じゃから大変じゃのぅ」


 同情するスギナを見て恒夫が涙を溜めた目で頷いた。



 辺りを見回していた中津たちが秀樹に気が付いてやって来た。


「よう秀樹、お前たちも無事だったんだな」

「当たり前だ。前回優勝者だぜ」


 中津と秀樹が互いの顔を見てニヤッと笑い合う、


「何か雰囲気変わったね、中津はともかく佐伯も自信満々って感じだよ」

「そうか? 俺は別に変わったつもりはないがな」


 不思議そうに訊く栄二の向かいで佐伯がとぼける。


「昔とは違うって事だ。今度は負けないぜ」


 ちらっと美女二人組を見てニヤッと意味ありげに笑う中津を見て秀樹はピンときた様子だ。


 美女に相手して貰って自信が付いたんだな……、羨ましそうな顔をして秀樹が口を開く、


「お前ら旨くやったみたいだな…… 」


 美女のことを訊こうとした秀樹をラグが押し退けて前に出る。


「あいつら何にゃ? 獣人じゃないぞ」


 ラグの後ろでスギナが中津を見上げる。


「彼奴らは妖怪じゃな、妖狐じゃ、妖気を消して化けておるが儂の目は誤魔化せん」

「へぇ、よくわかったな、あの二人は狐の妖怪、妖狐だ」

「モミジさんとカエデさんっていって凄く強いぜ」


 感心する中津の隣で佐伯が自慢気に言った。


「モミジさんとカエデさんって言うのかぁ~~ 」


 少し離れた所で恒夫がだらしない顔で呟いた。


 妖狐のモミジとカエデは姉妹なのか双子なのか顔も姿も全く同じに見える。

 パッと目でわかる違いと言えば髪の色が銀髪と金髪に別れているだけだ。

 腰まである長い髪に整った細い顔、その切れ長の目が気の強そうな知的美女に見える。

 すらりとした着物の上からでもわかるくらいの巨乳だ。

 お姉さんと言うよりお姉様と呼びたくなるような妖艶な美女である。

 年上好みの恒夫にとってど真ん中ストライクのタイプだ。


 ピクッと猫耳を立てたラグがバッと飛び跳ねて恒夫の横に立つ、


「にゃにデレデレしてるにゃ? デレデレじゃなくてツルツルにしてやんぞ」

「違うから、俺はラグだけだからさ………… 」


 怖い顔のラグの前で青い顔をした恒夫が必死で言い訳だ。

 中津が二人を指差す。


「猫の獣人か? お前らも旨くやってるじゃないか」

「猫はわかるとしてこっちの可愛い子は何者なんだ? 」


 佐伯が目の前にいるスギナの事を訊いた。


「儂はスギナじゃ、木の精霊じゃ、妖怪じゃな」


 可愛いと言われて気をよくしたのかスギナが自ら名乗った。

 続けて秀樹がラグを紹介する。


「恒夫とじゃれてるのは獣人のラグちゃんだ。ハゲが好きなのか恒夫のことがお気に入りだ」

「スギナちゃんもラグさんも強いからね、僕らも負けないよ」


 秀樹の隣で栄二が自慢気に付け足した。


「まったく、男共ときたら…… 」


 黙って話を聞いていた東條が呆れながら菜穂に近付いていく、


「こんにちは、私は東條鈴奈、貴女と同じ普通の人間よ」

「あっ、こんにちは、私は緒方菜穂っていいます」


 菜穂が慌ててペコッと頭を下げる。

 落ち着いた雰囲気や優等生そのものといった感じの東條を見て年上だとでも思った様子だ。


 抱き付くラグを恒夫が押し退けて東條に振り向く、


「おおぅ、東條会いたかったぜぇ~、相変わらず良い女だな、早速だがその綺麗な足で俺を踏ん付けてくれ」

「ヘンタイは黙りなさい」


 振り向きもしない東條に恒夫が嬉しそうに続ける。


「何言ってんだ。東條は俺の女王様だろ、学校じゃ毎日ハードプレイする仲だろ」

「誰が女王だ! 死ね!! 江藤や野方はともかく城道はマジで死ね! 」


 ビシッと言い放つ東條を見て菜穂が尊敬の眼差しに変わる。


「うへへぇ~、東條に褒められたぁ~~ 」


 体をくねらせて喜ぶ恒夫に二人が同時に向き直る。


「喜ぶなヘンタイ! 」

「キモいから向こうへ行ってて! 」


 汚物を見るような目で睨まれても恒夫は満面の笑顔だ。


「うへへっ、お前ら並ぶといいなぁ~~ 」


 ヘンタイ全開のだらしない顔をしている恒夫の頭を後ろからラグがガシッと掴む、


「赤い髪がいいか? 青い髪がいいか? どっちか選ぶにゃ」


 すっかりラグのことを忘れていた恒夫の顔が強張っていく、


「ひぅっ! ちがっ、違うから…… 」

「違わん、赤い髪か青い髪か選べ」


 怒りが頂点に達しているのかラグの顔に不気味な笑みが浮んでいる。


「あっ、あのぅ……赤とか青ってどういう意味でしょうか? 」


 余りの恐怖に恒夫の言葉が丁寧だ。

 ラグが口を大きく横に広げてニタ~ッと笑う、


「毛を全部抜くと青くなるだろ、赤は毛と一緒に頭の皮を剥いでやんぞ」

「ひぃぃっ、止めて……俺が悪かった。もうしないから……だから………… 」


 泣き出しそうな恒夫を見て東條が口を開く、


「ラグさんっていったわね、両方でいいわよ」

「そうだね、青くしてから赤くすれば両方できるわよね」


 隣で菜穂が意地悪顔だ。

 ニターッとした悪い笑みのままラグが二人を見て頷く、


「にゃふふ、リクエストありがとうだぞ」

「なっ、何言ってんだ。余計なこと言うな! 」


 横目で二人を睨んで怒鳴る恒夫の頭にラグの爪が食い込む、


「余計って何にゃ? 全部ツネが悪いんだぞ」

「痛てっ、痛ててて……ごめん、悪かった。謝るから…… 」


 謝りながら反対側にいる秀樹たちに手を伸ばす。


「秀樹、栄二ぃ~~、助けてくれ、冗談が通じねぇ~~ 」

「あーー無理、ヘンタイのとばっちりは御免だぜ」

「あははっ、僕も無理だからね、ラグさんマジで怒ってるし」


 素っ気なく断る秀樹の隣で栄二が笑って誤魔化した。


「相変わらずヘンタイだな」

「城道からヘンタイ取ったら何が残るんだろうな」


 中津と佐伯の呆れ顔を見てスギナが溜息を漏らす。


「まったく、何を考えておるのか時々わからんヤツじゃな」


 二人がダメだとわかると恒夫は傍にいたスギナに手を伸ばした。


「スギナちゃん助けてくれ、俺の味方はスギナちゃんだけだ」

「自業自得じゃぞ、まったく…… 」


 泣き出しそうな恒夫を見て息をつくとスギナが手から細い植物の蔓を出した。


「うにゃ!? 何するにゃ、離せ! ツネにお仕置きできないだろ」


 植物の蔓にグルグル巻にされて2メートルほど浮びながらラグがスギナを睨み付けた。


「泣いとるんじゃからその辺で許してやらんか、リーダーなら寛容な心も必要じゃぞ」

「うにゅにゅ……わかったぞ、あたいは心の広いリーダーだから許してやんぞ」


 プクッと膨れながら言うラグをスギナが降ろしてグルグル巻を解いた。


「今度だけだからにゃ、次は赤青飛ばして頭もぎ取るからにゃ」

「首を……それだけは勘弁してくれ」


 ラグに拝むように謝る恒夫を見てスギナが大きな溜息をつくと妖狐のモミジとカエデに向き直る。


「これが儂の力じゃ、お主ら警戒しとるようじゃが秀樹たちの友人なら差し当たって敵にはならん、戦うイベントなら別じゃがの」


 モミジがフッと微笑んだ。


「精霊ですか……かなり力のある方とお見受けしました」

「俺たちじゃ敵いそうもないな、敵でなくて一安心だぜ」


 隣でカエデが男のような口調で言った。

 自分の事を俺と呼んでいる。


「妖狐が人間と組むなど珍しいのぅ」


 値踏みするような二人の視線に構わずスギナがとぼけ顔で呟いた。


「フフフッ、中津たちは見込みがありますからね」


 モミジが優しい丁寧な言葉使いで言った。


「我ら妖狐は賢くて強いなら人間と組むことも厭わない」


 綺麗な姿とは裏腹にカエデは乱暴な言葉使いだ。


「そうです。ゲームに勝てるとみて中津たちと組みました」

「俺たち下っ端狐だけでは勝ち抜けるのは難しいゲームだからな」

「中津たちは経験者ですからね、序盤戦ではその知識が役に立ちましたよ」

「力は無いが知恵がある。人間は弱いが強い不思議な生き物だ」


 交互に話すモミジとカエデは髪の色が違うだけで全く同じ顔だ。


「おおぅ、声は違うんだな、しゃべり方も違うし、俺はどっちかって言うと金髪のカエデさんがいいな、男のような話し方が堪らん、女王様って感じだぜ」


 いやらしく口元を歪める恒夫の肩に手を掛けてラグが耳元で囁く、


「金髪が好きにゃのか? 金は無理だけどその頭を血で赤く染めてやるぞ」

「金髪もいいけどラグが一番好きだから……だから頭は止めてくれ」


 弱り顔で恒夫が謝った。

 流石の恒夫もラグが傍にいる間はヘンタイもできない。


 モミジとカエデをスギナがじろっと睨む、


「下っ端じゃと、言いおるわ…… 」

「スギナ様と比べると下っ端に違いありませんよ」

「そうだな、俺たちは所詮Bクラス、Aのスギナ様とは格が違う」


 二人のバッジにはBと印が付いていた。


「まあいいじゃろ、取り敢えずは敵にならんじゃろうしの」

「はい、こちらも歓迎しますよ」

「そっちの獣人もよろしくな」


 にこやかに微笑むモミジの横でカエデがラグを見てフッと笑った。


「にゃふふん、狐なんて怖くないぞ、妖怪だか何だか知らにゃいが敵でなくてよかったにゃ」


 何処から湧いてくるのかラグが自信満々にドヤ顔でこたえた。

 黙って成り行きを見ていた秀樹が前に出てくる。


「江藤秀樹です。中津とは学校で同じクラスの友人です」

「野方栄二って言います。中津の友達です。狐は格好良くて好きな動物です。よろしくお願いします」


 人外好きな栄二は妖狐を前にして照れているのか挙動不審になっている。

 薄い頭を手櫛で整えると恒夫が一番前に出てきた。


「城道恒夫です。早速だけどどちらか俺の女王様になってくれ、醜いハゲブタと罵って俺を踏ん付けて……ぎゅぅぅ………… 」


 言い終わる前に恒夫が前につんのめって倒れた。


「醜いハゲブタにゃ! あたいが女王様になって毛を毟り取ってやるぞ」


 目を吊り上げたラグが倒れた恒夫を踏みつけた。

 二人を隠すように菜穂が前に出る。


「あははっ、気にしないでね、恒夫はヘンタイだから……私は緒方菜穂っていいます。よろしくお願いしますね」


 ペコッと頭を下げる菜穂の後ろで恒夫がラグに引っ掻かれて呻きを上げて動かなくなった。


「まったく、神様にヘンタイを治してくれって頼みなさいよね」


 呆れ返って溜息をつくと東條がスギナとラグに向かって姿勢を正す。


「私は東條鈴奈、そこのヘンタイと違って普通の人間です」

「俺は中津大樹、このチームのリーダーだ」

「佐伯敏明です。よろしく」


 中津と佐伯も挨拶して全員の紹介が終わった。

 話をしている間にも他の参加者が次々にやって来るのが見える。


 リザードマンの三人組、昆虫人間の四人組、鼠のような獣人二人と女エルフの三人組、その後ろに見覚えのある獣人二人組がいた。


「あっ、ギリーさんとバッグスさんだ」


 倒れたまま声に出す恒夫に釣られてラグが振り返る。


「トラとカバだぞ、ツネの知り合いか? 」


 恒夫を踏ん付けていた足をラグが離した。


「ああ、初めのイベントで一緒だったんだ」


 砂を払いながら恒夫が立ち上がる。


「普通の獣人じゃないぞ、あいつら凄く強いぞ」

「やっぱりわかるか、二人とも強そうだったからな、知り合ってて良かったぜ」


 警戒するラグを見て恒夫がニッと笑った。


「ああ、一番初めの金貨分けにいた獣人だな」

「強いヤツが金貨を全部取れって無茶苦茶言ってたよね」


 秀樹と栄二も思い出したらしく苦笑いでギリーとバッグスを見ている。


「脳筋のバカ獣人か……確か恒夫くんが仲間にしようとしてたんだっけ? 」


 からかう菜穂に恒夫がムッとした顔を向ける。


「カジノで金使って困ってたから助けただけだ。ギリーさんもバッグスさんも話してみると気の良い人だぞ、仲間は無理としても力を貸してくれそうだから下手なこと言うなよ」

「恒夫に借りがあるって事だね、味方になってくれるなら心強いよ」

「だな、カバはともかくトラの獣人は凄く強そうだぜ」


 栄二と秀樹が『旨くやったな』という顔で恒夫を見つめた。


「貸しとかそんなんじゃないからな、一緒に飯食っただけだ。二人は酒飲んで酔っ払って楽しそうだったけどな」


 スギナが恒夫の腕を引っ張った。


「同じ飯を食うと言うことは気を許しておる証拠じゃぞ、獣は仲間以外と飯など食わんからな、酔っ払って騒ぐなどそれこそ気を許さねば見せんじゃろ、儂の見たところあの二人相当な使い手じゃぞ、敵に回したくはない相手じゃ、見知った間柄ならどうとでもなるじゃろ、お手柄じゃそ恒夫」

「ふ~ん、恒夫くんってそういう事は旨いのね、仲間で良かったわよ」


 菜穂が感心した様子で鼻を鳴らした。


「そういう事ってのは余計だ。んじゃ挨拶でもしてくるかな」


 嫌そうに言うと恒夫がギリーとバッグスの元へと行こうとした。


「後にしてくれ、イベントの説明が始まるよ」


 先程から黙って話を聞いていたヘカロが恒夫を止めた。


「イベントの説明か……了解しました」


 参加者が全員揃ったのを見て空から天使が飛んできた。



 イベント担当天使が秀樹たち参加者を見回す。


「はい皆さんこんにちは、今回のイベントはダンジョンです」


 にこやかに挨拶すると天使が続ける。


「イベントクリアすれば各自に300ポイントと15マス先へ進むことができます。15マス先にある町でゆっくり休むことができますよ」

「ガハハッ、ダンジョンで300ポイントかよ、どんな仕掛けがあるんだ? 」

「15マスも進めるのはいいがクリアできなかったときの罰などあるんじゃないだろうな」


 大笑いするカバ男バッグスの隣でトラ男ギリーが顰めっ面で訊いた。


「罰などありませんよ、クリアできなければポイントが貰えないだけです。もちろん15マス先にも進めません、ダンジョンですから仕掛けやモンスターがいるのは当然です。難しいイベントだからこそポイントも高いのです」


 天使の話しに参加者たちが喜びざわめく、他の参加者と違い秀樹と栄二は浮かない顔だ。


「ダンジョンかよ…… 」

「恒夫変な事しないでよね」


 秀樹と栄二が厭そうな顔で恒夫を見つめた。

 以前のゲームの最終イベントで恒夫が大グモにグルグル巻にされた事が二人の頭に真っ先に浮んだ。


「変な事? するわけないだろ、道案内は俺に任せろ、イカサマサイコロの出番だぜ」


 自信有りといった顔で胸を張る恒夫を見て秀樹と栄二の顔が益々不安に曇っていく、


「スギナちゃんに頼んで見張ってもらおうよ」

「そうだな、それがいいな」


 不安気に頷く秀樹の腕をスギナが掴んだ。


「何かあったのか? 」

「それが…… 」


 秀樹が以前のゲームでのことをスギナに話し始めた。

 二人から少し離れた所でラグが首を傾げながら恒夫の腕を引っ張る。


「ダンジョンって洞窟のことか? 」

「洞窟ってより迷路って感じだな、罠や仕掛けにモンスターが襲ってくるんだ」

「洞窟であってるよ、暗くて湿度が高くて長居はしたくない場所だよ」


 付け足すように言った栄二の横で菜穂が厭そうに顔を顰める。


「ゴキブリとか変な虫とかいっぱいいるんでしょ? 考えただけで鳥肌立つわよ」

「いるぞ、でっかいゲジゲジに足の長いザトウムシ、カマドウマやクモやヤスデにナメクジにコウガイビル、日陰で生きる可愛い奴らがいっぱいだぜ」


 ニヤッと愉しそうな顔をした恒夫が菜穂を驚かす。

 苛められるだけでなく苛めるのも好きなヘンタイだ。


「恒夫、脅かすなよ」


 秀樹が一喝するとスギナに振り向く、


「こんな調子だから頼むぜ」

「まったく呆れたヤツじゃのぅ、任せておけ、恒夫が変な事をせんように儂が目を光らせておくからの」


 スギナが引き受けてくれて秀樹と栄二がほっと安心顔だ。



「皆さん静かに」


 イベント担当天使の説明が続く、


「ダンジョンは説明するまでもないでしょう、迷路になっている洞窟を抜けてゴールするだけです。但し、ダンジョン内にある宝箱の中に入っている宝玉を一つ見つけるのが条件です。宝玉が無いとゴールしてもポイントは貰えません、空の宝箱やトラップのある宝箱もあるので注意してください、参加チームは6チームですが宝玉は四つしかありません、2チームがクリアできないと言うことです。ですのでどのような手段を用いても構いません、宝玉を持ち帰ったものが勝者です。ダンジョン内では魔法も妖術も何でも使用可能です。皆さんの能力をフルに使ってクリアを目指してください」


 説明を終えた天使がサッと手を振ると各参加者の前にランプや水などが現われた。


「イベント期間は四日、最低限の食料と水にランプなど必要なものは配給します。ではクジを引いて出た数字の入り口から入ってください」


 砂漠の砂を巻き上げながら大きな岩が6個現われた。

 それぞれに番号が付いた穴がぽっかり空いている。

 ダンジョンの入り口だ。

 初めから争わないようにある程度までは別の道を行くようにできているのだ。


「何でもありって事だよな、他の奴らと戦って宝玉を奪ってもいいのかい」


 トラ男ギリーの質問でその場の全員が天使に注目する。


「はい、許可します。何でもありですのでモンスターだけでなく参加者同士の戦いも当然有効です。もちろん他のチームと協力することも認めます。とにかく宝玉を持ってゴールしたものが勝ちということです」


 にこやかに言う天使を見てカバ男のバッグスが大笑いする。


「ガハハハハッ、気に入ったぜ、何でもありのダンジョンか、面白そうだぜ」

「ほんっとに脳筋ね」


 嫌悪感丸出しで呟く菜穂の背を恒夫が突く、


「止めろって言っただろ、何でもありだぞ、敵に回すようなことは絶対に言うな」

「わかってるわよ、生理的に嫌いだけど我慢するわよ」


 菜穂は振り向いて不満そうに言うと直ぐに前に向き直った。



 クジを持った天使の元へギリーとバッグスが歩いて行く、


「俺たちが一番だ。どうせクジだし構わねぇよな」


 バッグスがじろっと他の参加者を見回す。


「ああ、俺たちはいいぜ」


 恒夫がペコッと頭を下げた。

 バッグスがクジを引く手を止めた。


「ん!? おお、あの時の人間か」

「確か恒夫とか言ったな、生きてたか、また会えて嬉しいぜ」


 ギリーが牙を見せてニッと笑いかけてくれた。


「ありがとうございます。俺もギリーさんとバッグスさんに会えて嬉しいです」

「ガハハハハッ、終わったらまた飯でも奢ってくれ」


 笑いながらバッグスがクジを引く、他の参加者のことなどお構いなしだ。


「3番だ。あの穴だな」


 二人が3番の大岩へと歩いて行く、


「恒夫、先に行くぜ、奢って貰うの楽しみにしとくから死ぬなよ、クリアしろよ」


 穴の前で振り返るとギリーが手を上げて挨拶してくれた。


「何でも奢りますよ、俺も楽しみにしてますから」


 手を振る恒夫に見送られてギリーとバッグスが穴へと消えていった。

 昆虫人間四人組が天使の前に出てくる。


「ギシシッ、下品な獣人どもが! 」

「獣臭いバカと一緒じゃなくていいじゃない」

「ギハハハハッ、そもそも獣人なんて図体がデカいだけの無能だからな」

「外骨格で覆われた我らと違い脂肪で膨れているだけだから仕方無いがな」

「4番か、行くぞ、我らの力を見せてやろう」


 カミキリムシやカナブンに似た昆虫人間がクジを引くと穴へと入っていった。


 昆虫人間が消えたのを見てリザードマンの三人組が笑い出す。


「あははははっ、虫けらが偉そうに吠えてたぜ」

「獣人をバカにしてる自分たちも知恵が足りてないってわかってないぜ」

「あの二人の強さがわからないなんて愚かな虫どもだ」


 リザードマンたちはギリーとバッグスの強さがわかっている様子だ。

 その証拠に二人をバカにするようなことは一切言わない。


 リーダーらしきリザードマンがくるっと振り返る。


「次は俺たちが行かせてもらうが意見あれば言ってくれ」

「いいぜ、クジだから後先は関係ない」


 秀樹の隣で中津も承知したというように頷いた。

 鼠らしき獣人と女エルフのチームも好きにしろという様子で手を振っている。


「ではお先に」


 ペコッと礼をするとリザードマンたちがクジを引いて1番の穴へと入っていった。

 恒夫が秀樹に向き直る。


「じゃあ俺たちも行こうぜ」

「了解だ。次は俺たちが行くぜ」


 秀樹が振り返って女エルフに確認を取る。

 行けと手を振る女エルフを見て恒夫が口を開く、


「ラグ、クジを引いてくれ」

「にゃへへへっ、リーダーだからにゃ」


 ラグが嬉しそうにクジを引きに駆けていく、それを横目で見ながら中津が恒夫の傍にやって来た。


「さっきのトラとカバと親しそうだったけど凄いのと知り合いだな」

「まぁな、トラがギリーさんでカバがバッグスさんだ。もしダンジョンで争うことになったら俺の名前を出してみろ、俺の友達だっていえば戦わなくても済むかも知れないぜ」


 驚き顔の中津に恒夫がニヤッと愉しそうに笑ってこたえた。


「ああ、そうさせてもらう、ヘンタイに借りなんて作りたくないがあんなのとは戦いたくないからな」

「旨くいったらモミジさんかカエデさんを紹介してくれ、あの二人のこと考えたら堪らん」


 厭らしく頬を緩める恒夫の頭を中津がポスッと叩く、


「誰が紹介なんてするか! 二人が怒るような事するかよ、それにな…… 」


 怒鳴った中津の顔がフッとマジに変わった。


「それに何だ? もうやったんだろ? 」

「やったとか言うな! まぁやったけどな……何か得体の知れないっていう……いや、なんでもない、ヘンタイに紹介なんてしないからな、俺までヘンタイに思われたら迷惑だ」


 コソコソ話しているとラグの大声が聞こえてきた。


「6番だぞ、6の穴からダンジョンだぞ」


 駆け寄ってきたラグに手を引かれて恒夫が6番と書かれた大岩へと向かう、続いていく栄二たちを見て中津たちが声を掛ける。


「まだ俺たちとの決着はついてないんだからな、死ぬなよ」

「無理するなよ秀樹、気を付けてな栄二」

「ヘンタイもサイコロ持ってるし、ダンジョンはどうにかなるでしょ」


 以前のゲームと違い中津たちが心配そうなマジ顔で見送ってくれた。


「お前らも気を付けてな」

「イベントクリアして町で一緒に御飯でも食べようよ」


 栄二の言葉に反応したのか先に穴の中へと入って行った恒夫がヒョイッと顔を出した。


「俺が奢るぜ、モミジさんとカエデさんの好きなもの何でも買ってやるから…… 」


 言葉の途中で恒夫の頭が引っ込んだ。


「にゃに言ってるにゃ! 浮気したら毛を毟るって言ったぞ」

「ちっ、違う……止めてくれ、ごめん、謝るから………… 」


 穴の中から恒夫の情けない声が聞こえてくる。


「じゃあ行くぜ」


 苦笑いしながら秀樹たちも穴へと入っていった。

 続いて中津と女エルフのチームもクジを引いて参加者全員が穴へと消えていった。

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