第九十五話
大きな町だけあってカジノも十軒以上あり、恒夫たちは大通りで派手な看板を出しているカジノへ入っていった。
ラグとスギナを低レートの遊技台で遊ばせると恒夫はVIPルームへと向かう、普段はカジノの雰囲気や客層を見るために一般台で様子見してから行くのだが今回は時間が無いので初めから金持ち相手に全力で稼ぐつもりだ。
四十分程してスギナが恒夫の元へとやってきた。
「流石じゃの、もう二千万ほど稼いでおる」
後ろから肩を叩かれて恒夫がビクッと振り返った。
「うぉう! スギナちゃんか」
恒夫が籠に入っているコインを一掴みしてスギナに渡す。
「ラグかと思ったよ、飯までまだ一時間半ほどあるだろ、これでもう少し遊んでてくれ」
「ふふん、儂をみくびるなよ、今日は勝っておるのじゃ」
スギナが得意顔で籠に入ったコインを見せた。
負けてコインが無くなって貰いに来たのだと思っていたが違ったらしい。
「凄いな、倍近くに増えてるじゃないか」
「儂はラグとは違うからのぅ、要領を掴めばこんなものじゃ」
驚く恒夫を見てスギナが益々自慢気だ。
「じゃあ何できたんだ? 」
「少し話があってな……ここじゃなんじゃからあっちで話すとしよう」
恒夫がスギナと一緒にVIPルームに併設されているラウンジへと向かった。
「何で能力のことを話さなんだ? 皆の能力と装備を聞いて策を考えるのがチーム戦じゃぞ」
御茶をしながらスギナが訊いた。
「なんだそんな話しか…… 」
ほっと息をつくと恒夫が続ける。
「秀樹と栄二は俺が不死身を貰ったと思っているから治癒能力の事は黙ってる事にしたんだ。俺が不死身じゃないって知ったら気を使うだろ、元々二人が不死身でも再生できない事があったときに俺の治癒力で治そうと思って貰ったんだ」
スギナが顔を顰める。
「それは前にも聞いた。じゃが神様に貰った治癒力では灰や微塵切りから再生できるとしてもお主は気力を使い果たして動けんようになってしまうぞ」
「それは覚悟してる。それで死ぬなら仕方無いさ」
とぼけ顔で話す恒夫をスギナがじっと見つめる。
「お主というヤツは……わかった。この事は誰にも話さん、それに儂がおるから恒夫は無理をせんでもよいぞ」
「ああ、無理はしないよ、スギナちゃんがダメージ受けても俺が居れば治せるだろ、だから選んでよかったよ」
ニコッと笑う恒夫の向かいでスギナの頬が赤く染まっていく、
「まったく変わったヤツじゃ、じゃがお主のような男は好きじゃぞ」
スギナが立ち上がる。
「コイン持っていってよ、そろそろラグが無くなってる頃だからさ」
「了解じゃ、彼奴はスロットを回して遊んでおるだけじゃからな」
苦笑いする恒夫から一掴みの高レートコインを受け取ると笑顔のスギナがVIPルームを出て行った。
秀樹たちは装備を求めて武器屋や薬屋などを見て回っていた。
武器屋から出てきた菜穂が一段高い声を出す。
「凄いわね、流石大きな町ね」
「上級魔法を防ぐ鎧なんてマジで売ってるんだな、てっきり恒夫の冗談かと思ってたぜ」
「鎧って言うより服みたいだけどね、菜穂さんが持ってる中級魔法を防ぐマントも凄いけどそれよりも薄くて軽いのに上級魔法を防げるなんて不思議だよね」
秀樹と栄二のテンションも高い。
無理もない、神様から魔法力を貰った参加者が使える最大の魔法である上級魔法を回数制限があるとはいえ防ぐことができるのだ。
これによって上級魔法よりも上の魔法が使える本物の魔法使いである女エルフのマーサや魔族たち以外の敵とは対等以上に戦えることになる。
菜穂がバッと振り返る。
「他の町じゃ見なかったし絶対に手に入れたいわね」
「ああ、ここで手に入れないと他じゃ売ってないかも知れないしな」
大きく頷く秀樹の隣で栄二が顔を顰める。
「でも一つ四千万ギギルもするよ、ラグさんが持ってるっていう三千万ギギルで買った上級魔法を3回防ぐのと同じだけど一千万も高いよ、恒夫に頼むとして二つがやっとだよ、今日と明日しか無いんだからね、余り無理させると次のイベントに差し障りがでるとダメだし………… 」
秀樹が難しい表情で頷いた。
「だな、二つで八千万ギギルだ。魔法銃の弾と薬と食料は俺たちが持ってる二千万から出して残りを使うとしても恒夫には最低でも六千五百万ギギルは稼いで貰わないとダメだぜ、次の休みに使う宿代とかは始めに貰った金でどうにかなるからな」
菜穂がパッと顔を上げる。
「カジノに様子見に行きましょうよ、恒夫くんには頑張って貰わないとね」
「それは止めたほうがいいよ、バレないようにイカサマサイコロを使うのは結構神経使うって恒夫が言ってたからね、カジノの人だけじゃなくて3回に一度くらいハズレが出るって事にも神経質になるみたいだよ」
「俺も栄二に賛成だ。恒夫は邪魔されるのを嫌うからな、あと一時間で晩飯だ。その時に話せばいいからな、先に薬と食料を揃えとこうぜ」
栄二と秀樹が続けて止めると納得したのか菜穂が歩き出す。
「わかったわ、じゃあ先に薬草と携行食糧を買いに行きましょう、サバイバルイベントみたいに困らないように水も一人2リットルは有ったほうがいいわね」
「了解だ。煙玉とか閃光玉も買っとこうぜ、影マントと一緒に使えば効果的だろ」
「そうだね、ロアスさんみたいに凄い人には使えないけど他なら充分効果を期待できるよね」
談笑しながら三人が通りを歩いて行った。
ラグやスギナといった強力な仲間ができた為か余裕がある様に見える。
一時間ほどが経ち夕食を取るために恒夫たちと合流した。
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ ジュウジュウお肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ モクモク煙ぃ~~焼き魚ぁ~~♪ ベチョベチョトマトは大嫌いぃ~~♪ 」
元気に歌うラグと並んだスギナが先頭で通りを歩いて行く、店は二人に任せてある。
秀樹も栄二も恒夫も菜穂も夕食は肉で問題ないので肉好きのラグに任せておけば美味しい店を見つけてくれるのだ。
「肉の歌ばかりじゃの、ピザとかケーキの歌は無いのか? 」
「にゃへへっ、ピザもケーキも言い難いぞ」
隣を歩くスギナに愛想笑いをするとラグが歌い出す。
「ピザピザピ~ザぁ~~サラミピザぁ~~♪ ケーキケーキケェ~キぃ~~ショートケェ~キぃ~~♪ ピザピザピ~ザぁ~~トッピングぅ~~♪ ケーキケーキケェ~キぃ~~デコレェ~ション~~♪ ツネの頭にトッピングぅ~~ハゲの頭にデコレェ~~ション~~♪ 」
「変な歌に俺を出すな! 」
二人の後ろを歩く恒夫が怒鳴りつけるとラグがバッと振り返る。
「ちびっ子が歌えって言ったんだぞ」
「スギナちゃんはそんな事言ってないだろが! 」
「ピザとかケーキとかハゲの歌は無いのかって言ったぞ」
ケロッとした顔のラグの腕をスギナが引っ張る。
「恒夫のハゲのことは言っとらんじゃろ、ピザとケーキだけじゃぞ」
スギナちゃんまで……、恒夫がガクッと落ち込んだ。
「じゃあ誰が言ったんだにゃ? 」
怪訝な顔で見つめるラグを見て恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「誰も言ってるか! ラグが勝手に歌い出したんだろが! 」
怒鳴る恒夫の肩を秀樹がガシッと掴む、
「ピザの歌だからな、恒夫の歌もトッピングしてくれたんだぜ、ズラのトッピングだな」
「ズラとか言うな!! ヘンタイはいいけど頭は弄るな! 」
本気で怒る恒夫にラグが抱き付いた。
「にゃへへへへっ、怒るなよ、美味しい店見つけてやるからにゃ」
「あそこはどうじゃ? 中々繁盛しておるようじゃから旨そうじゃぞ」
スギナが少し離れた所にあるこぢんまりとした食堂を指差した。
「おおぅ、流石ちびっ子だぞ、良い匂い辿ってたぞ、あの店だぞ」
「ラグとスギナちゃんが言うなら間違いないな」
可愛いラグに抱き付かれて恒夫の怒りも冷めた様子だ。
「んじゃ早く食おうぜ、お腹ペコペコペコにゃんこだ」
ラグが猫耳と尻尾をピンッと立てた。
「にゃにゃ、またネピアの真似したぞ」
「あはははっ、恒夫はそれ気に入ってるよね」
「学校でも時々言ってるぜ」
楽しそうに笑う栄二と秀樹の横で菜穂が笑顔で口を開く、
「食べながら魔法の鎧のことを話しましょうね」
「魔法の鎧? 良いのがあったのか? 」
訝しげに訊く恒夫の背を秀樹が押した。
「話しは後だ。先に食おうぜ」
ニッと笑うと秀樹が恒夫を押すようにして店に入っていく、その後を栄二と菜穂が続く、ラグとスギナはとっくに店の中だ。
夕食を取りながら武器屋で見た上級魔法を防ぐ魔法の鎧のことを話す。
「一つ四千万ギギルかよ」
驚く恒夫に菜穂が身を乗り出す。
「高いけど必要でしょ、他の町じゃ売ってなかったのよ」
「買わないって言ってないだろ……こりゃ今晩寝れないな」
弱り顔の恒夫を見て栄二が心配そうに声を掛ける。
「無理しなくていいからね、今いくら勝ってるの? 僕たちの持ってるお金と合わせたら一つ買えるならそれでいいよ」
「さっきのカジノで四千万近くは稼いだから今晩にでも倍にしてやるぜ、それで菜穂とスギナちゃんの分が買えるだろ」
疲れた様子で言うと恒夫が唐揚げに似た揚げ物を口の中へ放り込む、向かいで丼を掻っ込んでいた秀樹が箸を止めた。
「それで充分だ。俺たちは不死身だからな、これでラグちゃんとスギナちゃんと菜穂の防御ができる」
「私が今持ってる魔法のマントやスギナちゃんが持ってる魔法の鎧を下取りに出せば少しは安くなるんじゃない? 」
テーブルの上に身を乗り出したままで菜穂が訊いた。
口の中のものをお茶で流し込むと恒夫がこたえる。
「二つ売れば五百万ギギルくらいは安くなるだろうが反対だ。今持ってるヤツは普段の戦いで使う、上級魔法が防げるヤツは強い相手の時に使う」
横でグラタンに似たグラングランをフーフー冷ましていたスギナが振り向いた。
「成る程の、使い分けじゃな、低級魔法と違って上級魔法と中級魔法は防ぐ回数制限があるからの、中級魔法の攻撃で上級魔法を防げる鎧を消耗するのは愚策じゃな」
「そういう事だ。金は心配無い、カジノは夜が本番だ。一晩掛けて俺が稼いでやるからな、その代わり明日は一日中寝るからラグの面倒は頼んだぜ」
「にゃん! 」
ラグが恒夫の頭をガシッと鷲掴みだ。
「誰が誰の面倒を見るんだにゃ? 返答次第で毛を毟るからにゃ」
「いっいや、違う、聞き間違いだ。ラグの聞き間違いだって……ラグの面倒は頼んだじゃなくてラグが秀樹たちの面倒を見てくれって言ったんだ」
必死で言い訳する恒夫を見て秀樹が笑いながら口を開く、
「明日は恒夫が寝てる間にリーダーのラグちゃんが俺たちを引き連れて町を見て回るって事だぜ、リーダーと一緒に遊べるなんて幸せだよな」
秀樹が栄二に目で合図を送る。
「本当だよ、ラグさんと散策できるなんて今から楽しみだよ」
「鎧を買った後は町でショッピングね、服とか靴とかアクセを見ましょうよ」
「そうじゃな、旨いもの食べ歩きじゃな」
菜穂とスギナも乗ってきてくれた。
「にゅへへ、そんなにあたいと遊びたいのか? 仕方にゃいにゃぁ~~、そんじゃ明日は恒夫放って置いてみんなで遊びに行くぞ、食べ放題なら任せるにゃ」
ラグの機嫌が良くなって恒夫も一安心だ。
翌日、午前中に魔法の鎧を買いに行って昼食を一緒に取ろうと宿に戻ると恒夫はまだ眠っていた。
明け方に帰ってきて相部屋の秀樹と栄二に九千万ギギルを渡すとそのままベッドに倒れるようにして動かなくなったのだ。
「ツネぇ~~、起きるにゃん、飯食いに行くぞ」
ベッドの上の恒夫をラグが揺すって起こす。
秀樹と栄二はドアの近くで様子を見ている。
恒夫が不機嫌になるとわかっているので自分たちでは起こさない、男の部屋に入るのを躊躇しているのか菜穂とスギナは廊下で待っている。
「ツネぇ~~、飯だぞ、肉でも魚でもツネの食べたいのでいいから起きるにゃ、にゃ~にゃ~ツネぇ~~、早く起きるにゃ、ペコペコペコにゃんこだぞ」
何度も揺するが恒夫は起きない、ラグがポンッとベッドに飛び乗った。
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ ジュウジュウお肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ モクモク煙ぃ~~焼き魚ぁ~~♪ ベチョベチョトマトは大嫌いぃ~~♪ 」
恒夫の上に跨がると体を前後に揺すって変な歌を歌い出す。
それでも恒夫は起きない、跨がったままラグが薄い頭をペシペシ叩く、
「にゃぁ、にゃぁ、ツネオぉ~~、早く起きてお昼食べるぞ」
「うぅ……うぅう……眠いから………… 」
恒夫が寝返りを打つとラグがバッと飛び降りた。
「起きたかツネぇ~~ 」
甘え声を出すラグの目の前で恒夫が毛布に潜って頭も見えなくなった。
「にゃん! 起きないつもりだにゃ」
毛布を掴むとガバッと捲る。
「にゃひひひひっ、無駄な抵抗は止めてさっさと起きるにゃ」
毛布を剥かれた恒夫がベッドの上で丸くなる。
「丸まったぞ、防御態勢だにゃ、徹底抗戦する気だぞ」
ラグが恒夫の薄い頭をガシッと掴む、
「にゃっへっへっ、起きるまで1本ずつ毛を抜いてやるからにゃ、早く起きないとハゲの領土が増えて独立国になんぞ」
悪い顔をしたラグが恒夫の薄い頭の毛を1本摘まむ、
「先ずは一つにゃ、早く起きるにゃ、本当に抜くぞ」
力を入れたラグの腕を秀樹が掴む、
「ストップだぜ! 」
「そうだよ、やり過ぎだよラグさん」
見かねた秀樹と栄二がラグを止めた。
「だってだって、ツネ起きないぞ、あたいが優しく起こしてやってるのに…… 」
何処が優しいんだろう……、苦笑いしながら栄二が口を開く、
「恒夫は朝まで頑張ってくれたから眠いんだよ、晩御飯まで寝かせてやろうよ」
「そうだぜ、無理に起こしても機嫌が悪いだけだ。晩飯までには起きるだろうからさ」
プクッと頬を膨らませたラグが二人を睨む、
「わかったぞ、でも晩御飯で起きなかったら頭毟ってやるからにゃ」
「了解だ。その時は俺も止めないぜ」
「あはははっ、流石に腹減って起きるよ、だから毛を抜くのは止めようよ」
ニヤッと笑う秀樹の隣で栄二が乾いた笑いを上げた。
ベッドの上で丸まっている恒夫の頭をラグがペシペシ叩く、
「一先ず毛の安全は保証してやんぞ、晩御飯までゆっくり眠ってろ」
ラグが秀樹と栄二に向き直る。
「んじゃ飯食いに行くぞ、ツネの分まであたいが食ってやるぞ」
「おぅ、早く行こうぜ、腹ペコペコだ」
ラグと秀樹が部屋を出て行く、
「恒夫ありがとうね、菜穂さんとスギナちゃんの魔法の鎧買えたよ」
ベッドの脇に落ちている毛布を恒夫に優しく掛けると栄二も二人に続いて部屋を出る。
部屋の外で待っていた菜穂が秀樹の腕を掴んだ。
「起きないの? 魔法の鎧買って貰ったお礼が言いたいんだけど」
「ダメだな、晩飯まで起きないぜ」
呆れ顔の秀樹の後ろで栄二が苦笑いだ。
「普段なら眠そうでも返事するんだけど今日は毛布に潜って出てこなくなったよ」
「毛布捲ったら丸まって突いても動かないぞ、頭モシャモシャしても反応無いんだぞ、死にかけの虫でももっと反応すんぞ」
ラグは不機嫌な膨れっ面だ。
「死にかけの虫って……酷い言いようね」
同情する菜穂の前でラグがくるっと後ろを向いた。
「死にかけのハゲかけだぞ、も1回起こしてくるぞ、起きなかったら毛を毟ってやんぞ」
部屋に戻ろうとするラグの腕をスギナが掴む、
「ゆっくり眠らせてやれ、大金を動かすギャンブルをしてきたんじゃ、イカサマサイコロを使って勝率が上がるとはいえ神経を使うことに代わりあるまい、此奴は口は悪いが己のできることをしっかりやる男じゃ」
栄二と秀樹が追従する。
「そうだよ、それより早く御飯に行こうよ」
「だな、飯食った後はショッピングしていいぜ、恒夫が頑張ってくれたから一千万ギギル残ってる。半分は次のカジノ資金にするから引いて残りから宿代と飯代を引くと三百万ギギルくらい使えるぜ」
菜穂の顔がパッと明るくなる。
「好きなの買ってもいいの? アクセとか服とか」
「いいぜ、三百万ギギルを六人で割るから一人五十万ギギルまで好きなもの買っていいことにしようぜ、楽しまなきゃ損だからな」
「やったぁ~、町中歩いていると欲しいのいっぱいあったんだよね、無駄遣いできないから我慢してたけど……早く御飯して見に行こうよ」
大喜びする菜穂を見て栄二が笑いながら口を開く、
「夢の中の世界だからゲームが終わると持って帰れないけどね、でも思い出にできるから沢山遊ぼうよ」
「んじゃ出発進行だぞ」
ラグを先頭に元気よく歩き出す。
昼食を終えて町で遊んであっと言う間に時間が過ぎた。
結局恒夫は夕食まで起きなかった。
というか夕食で呼びに行っても起きなかったのでラグと秀樹が半分寝たままの恒夫を無理矢理レストランへと連れて行ったのだ。
恒夫が目を覚ますと秀樹とラグに支えられるようにしてレストランのテーブルに着いていた。
「な……なん……どゆこと? 」
呆然とする恒夫に秀樹と栄二が説明する。
「寝たまま連れ出すなんて何考えてんだ…… 」
「儂が木の蔓を使って運んでやったんじゃぞ、乗り心地良かったじゃろ、正に夢の中じゃ」
幼女のような可愛い意地悪顔のスギナを見て文句も言えなくなる。
テーブルの上に菜穂が身を乗り出す。
「恒夫くんありがとう、素敵な魔法の鎧が買えたわ、強そうな相手でも互角に戦えるわよ」
「儂も礼を言うぞ、中級魔法ならともかく上級魔法がまともに当たれば流石にダメージを受けるからのぅ、これで不意打ちを食らっても安心じゃ」
二人に頭を下げられて恒夫が照れまくる。
「よしてくれ、礼なんていいからさ、俺はこんな事しかできないからな、その代わりに戦いは任せたからさ」
「にゃははははっ、任せろ、ツネは怪我しないようにあたいの後ろに居ればいいぞ、何たってあたいはリーダーだからにゃ」
隣に座るラグが恒夫の薄い頭に手を伸ばす。
「怪我しない……毛が死ない……毛が無い………… 」
ハッとしたマジ顔で恒夫を見つめる。
「怪我しないようにしてるから毛が無くなったのかにゃ? それとも怪我してハゲになったのかにゃ? 」
「ハゲじゃねぇ! 人の頭をモシャモシャしながら変な事言うのは止めろ」
恒夫が怒鳴りながら薄い頭を触るラグの手を振り払った。
「そんなに怒るとハゲるぞ、もうハゲてるけどな」
「ハゲじゃねぇ! 他より少し成長が遅れてるだけだ。スローライフだ」
恒夫がラグの手を払い落とした。
「あはははっ、やっぱり恒夫がいると明るくなるよね」
「ハゲだけにな」
楽しそうに笑う栄二の隣で秀樹がニヤッと意地悪顔で言った。
「お前らなぁ~~ 」
大声を出しながら恒夫も楽しそうな顔だ。
秀樹がマジ顔に変わる。
「ここからが俺たちの本当のスタートだぜ」
栄二が元気よく頷いた。
「うん、そうだね、秀樹と恒夫と僕、菜穂さんとラグさんとスギナちゃん、六人のゲームはここからが本番だよ」
「所詮神様の手の中だ。気軽にやろうぜ」
恒夫がとぼけ顔で言った。
夕食を終えて六人全員で夜の町へと繰り出す。
カジノへ行くという恒夫をスギナが止めた。
体だけでなく心の休暇も必要だと言われて恒夫は素直に従った。
次のイベントに備えて少し遊んでたっぷり休んだ。
翌日、町外れの草原で待つヘカロの元へと集まった。
「みんな良い顔をしているな、三日間ゆっくりと休むことができたようだね」
爽やかに微笑むヘカロの前で六人全員笑顔で頷いた。
秀樹が力強い声を出す。
「時間は関係ないです。気持ち的にゆっくりと休めましたから」
「ラグさんとスギナちゃんっていう力強い仲間もできたし、装備も揃えたし、50マス以降の本番でも充分やれる気がするよね」
「ショッピングしてストレス発散できたし、今までで一番調子良いわよ」
栄二も菜穂も自信有りの顔だ。
恒夫が大きな欠伸をする。
「俺はまだ眠い……ラグが起こすからここ暫くずっと朝はダメだ」
ラグが恒夫の背をバンバン叩く、
「にゃに言ってんだ。早起きすると気持ちいいんだぞ」
「早起きは一人でやってくれ! 俺を起こしに来るな! 俺は夜型なんだぞ」
痛そうに体を捩りながら恒夫が怒鳴った。
「すっかり目が覚めたようじゃの、流石リーダーじゃ、部下の目を覚まさせるのもリーダーの役目じゃからのぅ」
意地悪顔で言うスギナを見てラグが嬉しそうに照れて恒夫の背をバンバン叩きまくる。
「にゃははははっ、リーダーだからにゃ、毎朝恒夫を起こしてやんぞ」
「痛てて、痛てっ、痛いから叩くな」
身を捩ってラグの手から逃げると恒夫が振り返る。
「スギナちゃんの言ってる目を覚まさせるってのは寝てるのを起こすって事じゃないからな、間違いや迷いを起こしたときに解くっていう意味の目を覚まさせるって事だからな」
「違っておらんぞ、恒夫の場合は朝起こすことも含んでおるからのぅ」
スギナが悪戯っ子のような可愛い笑みをして言った。
「スギナちゃん冗談止めてくれ………… 」
弱り顔の恒夫を見て秀樹と栄二と菜穂が大笑いだ。
「フフッ、良いチームだ。君たちなら期待できる」
愉しそうに微笑みながらヘカロがサイコロを取りだした。
「ではサイコロを振ってくれ」
秀樹にサイコロを渡そうとすると横からラグが手を伸ばす。
「あたいが回すぞ、なんたってリーダーだからにゃ」
いいのか? と言うようにヘカロが秀樹の顔を伺う、
「ラグちゃんに任せるぜ」
「了解だ」
ヘカロがラグにサイコロを渡す。
「にゃへへへっ、リーダーの特権だぞ、100出して一気にゴールしてやるぞ」
「100なんて出るか!! 」
怒鳴る恒夫に構わずラグがサイコロを振った。
「4と6だぞ、4と6だから……きゅう……10だぞ」
指を使って数えながらラグが言った。
「流石ラグちゃん、中々良い数字だぜ、今は44マスだから54マスへ移動だな」
「50マス越えか……ここからが勝負だね」
マジ顔で言った栄二を見て秀樹と恒夫が頷いた。
ヘカロが微笑みながら天使の翼を広げた。
「君たちなら大丈夫だ。では行こうか」
翼から空間魔法の白い光が溢れ出て六人を包み込む、
「んじゃ、出発進行だぞ」
元気よく言ったラグの声と同時に秀樹たちが消えていった。




