第九十四話 「願い事」
個人戦のイベントを終えた秀樹たちは大きな町で休んでいた。
昼食を終えて町を散策した後、オープンカフェで御茶をする。
丸い小さなテーブルを三人で一つ、六人で二つのテーブルを囲む、
「やっぱデカい町は食べ物美味しいぞ」
ラグが大きなケーキに齧り付くようにしながら嬉しそうに笑った。
後ろのテーブルに居た栄二が振り返る。
「うん、そうだね、恒夫がラグさんとスギナちゃんを連れて戻ってきてくれたし、大勢で食べると更に美味しく感じるよね」
「栄二くん、さっきから同じ事ばかり言ってるじゃない」
丸いテーブルの左に座る菜穗が栄二をからかう、
「あははっ、うん、嬉しくてつい…… 」
「だな、恒夫はともかくラグちゃんやスギナちゃんが仲間に入ってくれるなんて嬉しくて俺もはしゃぎたくなるぜ」
右に座る秀樹も満面の笑顔だ。
「充分はしゃいでるだろが」
もう一つのテーブルを囲む恒夫がボソッと言った。
ニヤつき顔で秀樹が続ける。
「当たり前だ。ネピアやクロエと同じチャトラン族のラグちゃんだけでなくAクラスのスギナちゃんまでチームに入ってくれたんだぞ、おまけに恒夫も戻ってきたしな」
「俺をおまけ扱いするな! 俺は別に戻りたくて戻ったんじゃないからな」
声を荒げる恒夫の右に座るスギナがコーヒーのカップをテーブルに置いた。
「儂のやり方に不満か? 」
「いや、そういう訳じゃ……不満なんてないよ、いずれ戻るつもりだったからさ」
「ならよい、お主はサポートに回ると能力を発揮するタイプじゃ、じゃからこれでよいのじゃ」
しどろもどろになる恒夫を見てスギナがニコッと微笑んだ。
「スギナちゃんには敵わないな」
観念した様子の恒夫の薄い頭に左からラグが手を伸ばす。
「にゃはははっ、ちびっ子の言う通りだぞ、みんなあたいの家来なんだから仲良くするんだぞ、にゃんたってあたいがリーダーにゃんだからにゃ」
恒夫の薄い頭をモシャモシャしながらラグが楽しそうに大笑いした。
秀樹や栄二にリーダーと持ち上げられてすっかり舞い上がっている。
「モシャモシャする暇があったら口を拭け! ケーキのクリームで口の周りべったりにしたリーダーなんて厭だからな」
頭を触るラグの手を払うと恒夫が紙ナプキンを差し出した。
「んっ!! んん! 」
ラグが身を乗り出して恒夫に顔を近付ける。
「なんだよ」
「口を拭くにゃ、あたいはケーキのスプーンとツネのモシャモシャで手が離せないからにゃ」
「俺の頭を触るのを止めたら手が空くだろが! まったく、なんで俺が…… 」
「リーダー命令だぞ」
厭そうな恒夫にラグが更に口元を近付ける。
「服に付くだろが! わかったよ、拭けばいいんだろ…… 」
ラグの口を嫌々拭く恒夫を秀樹たちがじとーっと見ていた。
「いいなぁ~~、僕も早くネピアに会いたいよ……他の獣人でもいいけどネピアがゲームに参加してるならバレたら言い訳できないし……恒夫いいなぁ~~ 」
「見せ付けやがって、年上のお姉さん以外に興味は無かったんじゃないのかよ」
羨ましそうな栄二と厭味を言う秀樹に恒夫が弱り顔で口を開く、
「ラグとは何もしてないからな、それと基本的に好きなタイプがおねーさんってだけで別に他がダメっていうわけじゃねぇ、ラグは美人だし………… 」
「にゃははははっ、あたいに気に入られるなんてツネは幸せ者だぞ」
美人と言われて照れまくるラグを見て菜穗が身を乗り出す。
「からかってるんじゃなくてマジで好きみたいだけど、鞭でしばいてくれとか、ハゲブタと罵ってくれって言うヘンタイよ、何処がいいの? 」
ラグがニッコリ笑いながら恒夫の薄い頭に手を伸ばす。
「全部だぞ、美味しいもの食べれるしベッドもふかふかでお湯の出るシャワー付きの宿に泊まれるぞ、それにツネは優しくて強いぞ、強いっていっても力じゃないぞ、頭がいいにゃ、作戦とか考えてくれるぞ、あたいの命の恩人だぞ、ツネが居なかったら障害物競走イベントで他の獣人と同じように魔族に殺されてるぞ、だから全部好きだぞ、特にこのモシャモシャが気に入ってるんだぞ」
「まぁ、そこまで言い切られたら返す言葉も無いわ、恒夫くんが狡賢いってのは認めるけどね、でもハゲが好きなんて変わってるわね」
菜穗が呆れ口調で言うと恒夫がバッと振り返る。
「ハゲじゃねぇ! 少し薄いだけだ! 人見知りして生えてこない毛があるだけだ」
「薄いのに少しも多いもないぞ、薄毛なんて無駄な抵抗止めてハゲって素直に言うにゃ、干しがりません勝つまではって感じだぞ、そんで干上がって結局負けるからにゃ」
薄い頭をモシャモシャするラグの手を恒夫が払い除ける。
「モシャモシャするな! 俺の髪は玩具じゃねぇ! 」
「髪で思い出したぞ、みんなは神様に何を願ったんにゃ? 」
「俺の髪で思い出すな! 」
怒鳴る恒夫を余所にラグが秀樹たちに振り向いた。
「勝った時の願い事か…… 」
思い出したように言うと秀樹が考えるように腕を組んだ。
栄二が秀樹を見つめる。
「そういや今回は考えてなかったね」
呟くと秀樹が続ける。
「ネピアとクロエに会えればいいって参加しただけだからな、正直言って勝つ事なんて考えてなかったしな」
「だよね、チャトラン族の村へ行ってネピアとクロエに会って前みたいに一緒にゲームをして思い出を作ることしか考えてなかったもんね」
「だな、でも俺たちの力が結構通用するってわかったことだし、ラグちゃんやスギナちゃんが仲間になってくれたことで勝ちが狙えるようになったぜ」
「うん、今から願い事考えとかないとね」
互いの顔を見て頷くと秀樹が恒夫に振り向く、
「恒夫はハゲを治してもらうって事で決まってるだろうが俺たちは考えないとな」
「決まってねぇ! 命懸けのゲームの賞品がハゲを治すって嫌すぎだろが、ハゲのために命賭けてるみたいだろが! 」
怒鳴る恒夫の頭をラグがポンポン叩く、
「そだぞ、ツネは魔法使いにして貰うんだぞ」
「魔法使い? 」
不思議そうに訊く秀樹にラグが大きく頷いてから話し出す。
「あたいは色んな世界を旅したいんだぞ、ツネの人間の世界や昆虫人間の世界とか色々見て回るんだぞ、時空魔法を使って色んな世界に行けるようにゲームに勝って神様に魔法使いにして貰うんだぞ、そんでツネも魔法使いになってあたいと一緒に旅するって約束したんだぞ」
ラグがバッと恒夫の腕に抱き付いた。
「にゃぁ、恒夫ぉ~~ 」
甘えるように喉を鳴らすラグの横で恒夫が何とも言えない顔になる。
首を傾げると秀樹が口を開く、
「魔法使いは無理だろ、住んでいる世界に影響を与えるような願いは無理だって前のゲームでも言ってたぜ」
隣で栄二もうんうん頷いた。
「そうだね、死にそうな病人を治したり百億円くらいの大金持ちにして貰えたり個人的な願いなら大抵叶えてくれるって言ってたけど歴史を変えちゃうような願いは無理ってヘカロさんも言ってたよね」
「にゃん!? ほんとか……ツネと一緒に居られないのか? 」
ラグの笑顔が一瞬で曇るのを見て恒夫が『しまった』と言う様子で顔を顰める。
「本当だ。だからさ…… 」
どうにか慰めようと言葉を考える恒夫の右でスギナがケーキを食べる手を止めた。
「いや、不可能ではないぞ、二つの願いを合わせることによって荒唐無稽と思えるような願いも叶えてくれるというのが今回のゲームじゃ、じゃから本戦でも勝てば魔法使いになることも可能じゃ」
バッと恒夫が振り向く、
「スギナちゃん、二つの願いって何だ? 」
「本当かスギナちゃん? 」
「荒唐無稽って? 」
秀樹と栄二が同時に訊いた。
「なんじゃ、お主ら聞いておらんのか? 」
逆に驚くスギナを見て三人が無言で頷いた。
「あたいは聞いたぞ、勝てば魔法使いになれるって天使が言ってたぞ」
ラグが不安顔でスギナを見つめる。
「心配無い、ラグの願いは叶うぞ」
優しく微笑むとスギナが話を始める。
「先ずはゲームで上位30名に入ると神様が願いを叶えてくれるのは皆知っておるじゃろ? それが予選と本選で2回あるのは聞いておるのか? 」
「2回って本戦だけでなく予選に勝てば願いが叶うっていうのか」
驚く恒夫を見てスギナが小さく溜息をついた。
「そんな事も聞いておらんのか? お主たちもか? 」
「ああ、俺たちも聞いてない」
「って言うか予選があるのも知らなかったからね」
秀樹と栄二がこたえるとスギナが半場呆れながら話を続ける。
「予選に勝てば小さな願いが叶う、金持ちにして貰うとか病気を治してもらうなどじゃ、敢闘賞みたいなものじゃな、本戦に勝つことができれば大きな願いが叶う、不老不死になることもできるし自分たちが住む世界の王になることも可能じゃ、このゲームに参加しておる種族の住む世界は何もせんかったら神様に滅ぼされておる世界ばかりじゃからな、今更世界の歴史どうこう関係ないのじゃろう、じゃから支配者でも不死でもなんでも有りじゃ」
「それで本戦に勝てば魔法使いも有りって事なのか? 」
恒夫が訊くとスギナが軽く首を振った。
「本戦の願いだけでは住む世界を超えるような願いは叶わん、じゃが予選の願いと二つを合わせると可能じゃ」
「それで二つの願いって言ってたのか」
成る程と頷く恒夫を見てスギナが続ける。
「混乱を避けるために何でも使える魔法使いは無理じゃろうが空間魔法や治癒魔法など限定的に2~3の魔法を使える魔法使いなら可能じゃ、現に儂も棲んでおる山を守るために三つほどの魔法が使えるようにして貰うつもりじゃったから担当天使に聞いたら可能じゃと答えてくれたのじゃ、でないとこんなゲームに参加はしておらん」
「それでかよ、力を持ってる妖怪たちや鬼が命懸けで参加する訳がわかったぜ、金持ち程度の願いで何で参加するのか不思議に思ってたんだ」
納得した様子の恒夫を腕に抱き付いていたラグが見上げる。
「ふにゃ? そんで魔法使いにはなれるって事でいいんだな」
難しい話しは理解できないのか不安気に首を傾げながら訊いた。
「可能じゃ、但し本戦に勝つのが条件じゃぞ」
「やったぁ~~、もちろん勝ってやんぞ、勝ってツネと一緒に魔法使いになってやるにゃ」
両手を上げて喜ぶラグを横目に恒夫がスギナに優しい目を向ける。
「山を守るか……魔法使いになったらスギナちゃんの世界にも行ってみたいな」
「何を言っておるんじゃ? 儂はお主らと同じ世界の住人じゃぞ」
恒夫の動きがピタッと止まる。
「同じって俺たち人間の世界って事か? 」
秀樹と栄二と菜穂もスギナに注目だ。
「そうじゃ、儂は四国の山で生まれた妖怪じゃぞ、他の妖怪たちもそうじゃ、じゃが今の人間は妖怪を感じとる力が劣って見えんようになっておる。そういう意味では別の世界といってもよいのぅ、じゃが守るのは同じじゃから妖怪たちが勝てば人間の住む世界も失われんで済むじゃろう」
「スギナちゃんが同じ世界……じゃあゲームが終わっても会うことが出来るって事か? 」
パッと顔を明るくする恒夫を見てスギナが複雑な顔で口を開く、
「儂は恒夫に会うことは出来る。じゃが恒夫は儂には会えん」
「なんで? どういう事だ? 」
恒夫だけでなく秀樹や栄二もスギナに注目する。
「さっき話したじゃろ、今の人間は妖怪を感じる力を失っておる。じゃから儂が近くに居っても恒夫は気が付かん、儂が話し掛けても聞こえん、意思の疎通ができねば居ないのと同じじゃ、じゃから会えんのじゃ」
「一方通行って訳か…… 」
「ゲームが終わったら見えなくなるって事か? 」
呟く恒夫の向かいのテーブルで秀樹が訊いた。
「そうじゃ、ゲーム内では神の力によって互いの存在を認識できるようになっておるからのぅ」
「力を貰ったら……本戦に勝って魔法使いになったらスギナちゃんに会えるんだな」
寂しそうにこたえるスギナを恒夫がマジ顔で見つめた。
「うむ、お主が望むなら妖怪世界を見れるようになるじゃろう」
恒夫の顔がキリッと締まる。
「わかった。俺の願いが決まったよ、魔法使いにでも何でもなってラグやスギナちゃんといつでも会えるようにして貰うぜ」
「にゅへへへへっ、だから言ってるだろ、魔法使いになってあたいと一緒に旅するって決まってるって、ツネはあたいの家来なんだからにゃ」
嬉しそうに抱き付くラグの頭を恒夫が優しく撫でた。
恒夫が改まった様子で向き直る。
「正直言って人間の世界がどうなろうと知ったことじゃなかった。滅んでも仕方無いって思ってた。俺自身は苦しまずに死ぬなら殺されてもいいって思ってた。でもな……でも、ラグと一緒に旅をするのも悪くないって考えたら死にたくないって欲が出てきた。魔法使いになれるなんて思ってなかったからラグの住むこの世界に居られるように神様に願うつもりだった。人間の世界に戻れなくてもいいからさ、こっちの住人になろうって、そう考えてた。だから勝てるかどうかわからないが俺のできることは全部やってやろうと思ってな、それでスギナちゃんに言われるまで秀樹のチームに戻る気は無くなってた」
マジ顔の恒夫が秀樹と栄二に頭を下げた。
「すまん、身勝手なことばかりして、何か嫌になってたんだ。人間の世界がさ、人間がさ、神様がさ、中二病全開って感じだろ、まったく自分でも呆れるぜ」
「恒夫……そんなこと考えてたのかよ」
「僕も同じ事を考えたよ、ネピアとずっと一緒に居たいって、でもさ、家族や友達のこと考えたら僕にはできないよ、全部捨てるなんてできないよ、恒夫はできるの? 」
驚く秀樹の隣で栄二が悲しそうに訊いた。
「できるな、俺の相手してくれるのは秀樹と栄二だけだからな、お前たちと別れるのは辛いけどそれだけだ。後は親も他の奴らも振り切れるからな、そんな考えだから出来ると言うかやっちゃうんだろうな」
自嘲するように笑う恒夫を見て秀樹が口を開く、
「お前ならやりかねんな、でも今は違うんだろ? 俺たちと一緒にやってくれるんだよな」
恒夫が大きく頷いた。
「ああ、もちろんだ。勝とうぜ」
「おう、俺たち三人と菜穗とラグちゃんとスギナちゃんの六人なら勝てるぜ」
「うん、この六人なら絶対に勝てるよ」
互いの顔を見回してニッと笑う三人を見てスギナが優しく微笑む、
「うむ、儂も己のためだけで無くお主らのために全面協力するぞ」
「にゅははははっ、勝ちは貰ったぞ、何たってあたいが居るからにゃ、リーダーのあたいに任せればいいぞ、大船に乗った気でいいぞ」
恒夫に抱き付いたままでラグが楽しそうに笑った。
栄二が秀樹に話し掛ける。
「僕たちの願いも決まったね、本戦に勝ったら魔法使いになってネピアとクロエにいつでも会いに行けるようにしようよ」
「だな、イケメンにして貰うってのよりずっといいぜ」
恒夫が意地悪顔で横から口を出す。
「本戦がダメだったらどうするんだ? 」
「それは考えとくぜ、恒夫は楽でいいよな、ハゲを治すって願うだけだろうし」
「そうだね、ハゲもしくはヘンタイを直してくださいって願えばいいよ」
秀樹と栄二にやり返されて恒夫がバンッとテーブルを叩く、
「誰がハゲだ! そんな事に願いを使うか! もし予選だけなら初めの通り俺はこっちの世界に残れるように願うぜ」
「怒るなよ冗談だろ、もしこっちの世界に残っても友達だぜ」
「恒夫がこっちの世界に残りたいっていうなら止めないよ、恒夫の選んだ道だもんね」
「秀樹、栄二…… 」
秀樹と栄二の優しい目を見て恒夫が言葉を詰まらせる。
湿っぽいのを嫌ったのか栄二が戯けて口を開く、
「でもさ、僕たちの願いはともかく人類にとっては安心だね、妖怪も一緒って事は青鬼のビギさんたちが勝てば人間世界も助かるって事だよね」
秀樹がパンッと手を鳴らす。
「おお、そうだぜ、ビギさんも味方って考えると心強いぜ」
スギナが呆れ顔を二人に向けた。
「呑気じゃのぅ、鬼どもが勝って人間を支配するとは考えんのか? 有史以来、味方というより敵じゃったほうが多いじゃろ? 他の妖怪も同じじゃぞ」
「それはヤバいな、鬼に支配されるなんて御免だぜ」
「奴隷だけじゃなくて食料にされたら大変だよ」
顔を青くする二人を見て恒夫がとぼけ顔で突っ込む、
「滅ぼされるよりマシなんじゃないか? 鬼と知り合いになったんだろ? 上手く取り入れば良い暮らしができそうだぜ、そん時は俺も紹介してくれよな」
「自分さえ良ければいいのかよ」
「そうだよ、全人類の運命が掛かってるんだよ」
ムッとした顔で見つめられても恒夫は平気だ。
「俺自身と家族や知り合いが助かればそれでいいぜ、他の奴らだって自分のことしか考えてないだろ、大体そんなだから神様は人間を滅ぼす候補に入れたんだろ」
「そだぞ、ツネは魔法使いになるんだからにゃ、人間とか関係ないんだぞ」
何も考えてないラグが味方に付いた。
「お前の言うことももっともだと思うけどよぉ、もうちょっとなぁ」
言葉が浮ばないのか秀樹の歯切れが悪い。
「そんな事言っても助けてくれるんだよね、恒夫はいつもそうだからね」
笑顔の栄二を秀樹が指差す。
「そう、それだ! 恒夫は何だかんだ言っても見捨てるようなヤツじゃないって言いたかったんだぜ」
「 ……ったく、俺に変な期待をするな、もうこの話は止めだ」
照れたのか、恒夫はアイスコーヒーをガブ飲みすると氷を齧りながらコップを置いた。
「最後に一つ聞きたいのを忘れてたぜ」
恒夫が菜穗に向き直る。
「菜穗は何を願うんだ? さっきから一人だけ黙ったままだぜ」
その場の全員が菜穗に注目する。
「そうだ。菜穗に聞いてなかったぜ」
「ラグさんと僕たちは他の世界に行けるように魔法が使えるようにして貰うって事で決まりだよね、スギナちゃんは住んでいる四国の山を守るために幾つか魔法を使えるようにして貰うって事だし、菜穗さんも魔法にすればいいんじゃないかな」
興味津々の秀樹の隣で栄二がにこやかに勧めた。
「私は……何でもいいでしょ、願い事を言わないとダメってルールなの? 」
キッと睨む菜穗に恒夫がとぼけ顔で続ける。
「いや、いつもは話しに加わるのが黙ったままだから気になっただけだ」
「ならいいでしょ、勝ったらわかるわよ」
恒夫が身を乗り出す。
「何を隠してんだ? 俺たちに言えないことか? 後ろめたい事じゃないのかよ」
「そんな事あるわけないでしょ、私はただ………… 」
言い淀む菜穂を見てスギナが助け船を出した。
「無理強いは止さんか、チームじゃからと言ってプライベートなことまで話す必要は無かろう、それよりも先ずは予選に勝つ事を考えるのじゃ、それで各自の能力と装備の確認をしておきたい、何も知らんのでは協力して戦えんからのぅ」
「そうだな、一度整理しておいたほうがいいな」
話題を変えるスギナに恒夫が乗った。
「じゃあリーダーのラグからだ」
「うにゃ? あたいから? 何にゃ? 」
子猫のように首を傾げるラグを見て恒夫が頭を抱える。
「だから……能力と装備をみんなに教えてくれ」
「にゃ!? あたいのことを聞いてどうするんだ? スリーサイズとか聞くんだにゃ、そんでエッチな事しようって企んでるんじゃ…… 」
怪訝な目で睨むラグの横で恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「するか! もういい、ラグの事は俺が話す」
恒夫が秀樹たちに向き直る。
「ラグは見ての通り猫の獣人だ。運動神経抜群で特にスピードはそこらの獣人じゃ敵わない、俊足を使った奴らに負けないくらいに素早い、だがパワーが無い、軽いし筋肉もパワータイプじゃない、それを補うように怪力を貰っている。これで素早さとパワーを持ったバランスのいい戦いができる。アイテムは魔法のペンダントを貰って低級魔法が使える。装備は三千万ギギルもした魔法の鎧を持っている。これは上級魔法でも3回防ぐことのできる最高ランクの鎧だ。戦い方さえ間違わなければラグはそこらの獣人には負けないって事だぜ」
「にゃははははっ、そんなに褒めるにゃよ、お礼にモシャモシャしてやんぞ」
照れまくったラグが恒夫の薄い頭に手を伸ばす。
「悪い時だけじゃなくて良い時も結局モシャモシャするのかよ」
鬱陶しそうに手を払い除けると恒夫が秀樹を指差した。
「次は秀樹な、大体知ってるけど一応報告してくれ」
了解というように軽く手を上げてから秀樹が話し出す。
「俺は神様に不死身を貰った。アイテムは魔法の杖と魔法のペンダントだ。杖とペンダントの魔力を合わせて中級魔法が使える。装備は魔法銃と中級魔法を3回防ぐ鎧を持ってる。不死身だと悟られないように体張って戦うって事だな」
続けて栄二が話す。
「僕も不死身だよ、アイテムは影マントと空気玉を持ってる。装備は魔法銃と鎧で秀樹と同じだ。影マントで姿を消して魔法銃で戦うって戦法だけどはっきり言って強い相手には通用しないね、他の人をサポートできるようにアイテムを選んだんだ。影マントや空気玉を貸して戦うことができるからね」
「成る程のぅ、恒夫と同じでチーム戦を考えておるんじゃな」
頷くとスギナが話し出す。
「儂はAクラスじゃから神からは何も貰ってはおらん、儂の能力は植物を操る事じゃ、攻防どちらでも役に立つのじゃ、それと治癒もできる。その気になれば細切れや灰になったものを再生できるぞ、まあ力を消耗するから余り使いたくはないがのぅ、装備は恒夫に買って貰った中級魔法を6回防げる鎧を持っておる」
秀樹と栄二がバッと顔を上げた。
「本当かスギナちゃん! 」
「不死身の僕たちでも灰や細切れになったら再生できないのにスギナちゃんは治せるんだね」
驚く二人を見てスギナが得意気に鼻を鳴らす。
「ふふん、そういう事じゃ、儂が仲間になったからにはそう簡単には死ねんと思っておけよ」
「大歓迎だよ、これで強い相手にも思い切った戦いができるよね」
「おお、強いだけじゃなくてサポートもできるなんて流石Aクラスだぜ」
大喜びする二人を見て恒夫が顔を顰める。
「無茶してスギナちゃんに迷惑掛けるのは禁止だからな」
庇ってくれたのが嬉しいのかスギナが可愛い笑みを恒夫に向ける。
「そうじゃな、儂の妖力にも限界はあるからのぅ、灰から再生など二人で精一杯じゃぞ」
「んじゃ次だぞ、次は菜穗だぞ」
ラグに指差されて菜穗が話し出す。
「私は魔法の力にアイテムは魔法の杖とペンダントを貰って上級魔法使いになったわ、装備は中級魔法を6回防げる魔法のマントを持ってるわ、魔法なら私に任せてよ」
「上級魔法が使えるのが一人いると心強いか……んじゃ最後に俺だな」
ちらっと菜穂を見てから恒夫が話を始めた。
「俺はイカサマサイコロと無敵札だ。3枚しかない無敵札はいざって時に使う、俺一人じゃなくチームのメンバー全員が十五分間無敵になる。この前のパワータイプのバカな魔族なら今の俺たち全員で掛かれば倒せると思うぜ、イカサマサイコロは説明いらないだろ、俺がいる限り金のことは心配しなくてもいい、宿も飯も装備も俺が全部面倒見てやるぜ」
「にゃはははっ、ツネは髪は無いけど金は有るんだぞ…… 」
笑顔のラグがハッとして恒夫に振り向く、
「もしかして髪が無くなれば無くなるほど金が入ってくるシステムなのか? 知ってるぞ、反比例ってヤツだぞ」
ラグの言葉でその場の全員が恒夫の薄い頭を見つめる。
「全部無くなると世界一の金持ちになるかもにゃ、試してみるしか…… 」
「止めろ! そんな事あるか! 髪は関係ない、神様に貰ったイカサマサイコロで稼げるだけだ。頼むから止めてくれ」
頭に伸ばすラグの手を払いながら恒夫が泣き出しそうな顔だ。
秀樹がニヤッと笑いながら口を開く、
「神様は関係があるけど髪には関係ないってか」
「バカ言ってないで助けろ! 」
ラグを引き離しながら恒夫が怒鳴った。
「にゃははははっ、心配無いぞ、毛が抜けてもちびっ子の治癒で治して貰えばいいからにゃ」
大笑いするラグをどうにか引き離すと恒夫がスギナに振り返る。
「治せるのか? 毛は生えてくるのか? 」
「できん事はないじゃろうが、そんな事で力を使うのは御免じゃぞ」
厭そうにこたえるスギナに恒夫が手を合わせる。
「頼む、治してくれ、夢の中の世界じゃなく現実の世界で治してくれ、スギナちゃんは俺たちと同じ世界なんだろだったら…… 」
「悪いが無理じゃ、儂が治せるのはあくまでパーツが揃っておる場合じゃ、灰になったとしても全ての灰が揃っておれば再生できる。じゃが恒夫の毛根は既に失われておる。無いものを作ることは儂にはできん、抜け落ちた毛根があれば再生できるがのぅ、見たところ無理じゃろ」
「そんな…… 」
泣き出しそうな恒夫の肩にラグが手を置く、
「現状維持だぞ、残された毛の余生を見守るだけだぞ」
「だったらモシャモシャしないでくれ」
反対の肩を秀樹が掴む、
「勝って神様に魔法使いにして貰って髪の毛を生やすことのできる世界を探すしかないぜ」
向かいで栄二もからかう、
「ラグさんと一緒に毛を探す旅に出るんだね」
「お前ら他人事だと思いやがって………… 」
恨めしげに睨む恒夫、楽しそうに笑う秀樹と栄二、三人を菜穂が見つめる。
「本当に仲の良い友達なんだね、何か羨ましいな」
秀樹が振り向く、
「まあな、栄二とは小学校からで恒夫とは中学からの腐れ縁だからな」
「うん、秀樹と恒夫は一番気の許せる友達だよ」
「友達とか置いといてバカやってられるのも今のうちだけだからな」
笑顔でこたえる栄二の横で恒夫がとぼけ顔だ。
「そっか……私にはそんな友達居ないな、小さい頃から引っ越しばかりで親友なんてできなかったよ、今の高校も友達は居るけど上辺だけの付き合いだから………… 」
寂しそうな菜穂を見て恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「だったら作ればいいだろ、ここに居る秀樹や栄二なら良い友達になってくれるぜ、お前が隠してることを話すなら俺だってな」
「恒夫くん…… 」
菜穂が何とも言えない顔で恒夫を見つめる。
「そうだよ、僕たちはもう菜穂さんの友達だよ」
「だな、命懸けのゲームをした仲だぜ、そこらの上辺だけの付き合いの奴らと違うぜ」
栄二と秀樹の優しい顔を見て菜穂が嬉しそうに微笑んだ。
「秀樹くん、栄二くん……そうだね、友達だよね……ありがとう」
とぼけ顔の恒夫がマジ顔に変わる。
「言いたくなけりゃいいけどな、でもこれだけは言っとくぜ、秀樹と栄二だけは裏切るなよ、こいつらお人好しだからな、二人に何かしやがったら俺が本気で怒るぜ、何かするなら俺にしろ、俺は元々付き合いでゲームに参加したんだ。二人がいなきゃやってない、俺はゲームから除外されたって別にいい、だから秀樹と栄二だけは騙すなよ」
「 ……わかった」
恒夫をじっと見つめて菜穂が頷いた。
「了解した。今まで絡んで悪かったな、ここから俺もお前を信用してやる」
「恒夫くん……私ね、私………… 」
表情を緩める恒夫を見て菜穂が何か話そうとするが思い止まる。
スギナがその場の全員を見回す。
「人それぞれ事情があるものじゃ、じゃが儂らはチームじゃ、自分のことよりチームで動くことを優先しろ、それができねば勝ちは無いと思え」
「そだぞ、勝つために組んだんだからにゃ、リーダーのあたいに従って勝ち進むんだぞ」
ラグが元気に立ち上がる。
「んじゃ、食べ放題行くぞ」
「食べ放題じゃねぇ! ケーキ食べたばかりだろが! 今の装備よりもっと良いものがないか調べるのが先だ。この町はデカいから上級魔法を防ぐ鎧があるかも知れないからな、できたら全員に装備させたい、その為に俺は今からカジノで稼ぎまくってやるぜ」
怒鳴りながら恒夫も立ち上がった。
「だな、休みは三日だけだからな」
「そうだね、遊びは今回無しだね、六人揃ったからゆっくりしたいけどコロセウムの決闘イベントみたいなのが次もあるといけないから準備万端にしとかないとね」
秀樹と栄二が笑いながら立ち上がる。
「じゃな、旨いものを食って宿でゆっくり休めるだけでも有難いと思わんとな」
「そうね、恒夫くんの御陰で良いホテルに泊まれるし休みはゆっくりできそうね」
スギナと菜穂も笑顔だ。
「へいへい、みんなのために頑張りますよ、俺の仕事はカジノで稼ぐことだからな、戦いはお前らに任せたからな」
戯ける恒夫の腕をラグが引っ張る。
「んじゃ出発だぞ、あたいはツネとカジノで頑張ってくるからにゃ、後はサブリーダーの秀樹に任せたぞ」
「いや、ラグは邪魔だから…… 」
引き離そうとする恒夫に逆にラグがしがみつくように抱き付いた。
「にゃははははっ、ツネは冗談旨いぞ、リーダーのあたいが邪魔なわけないぞ、んじゃ早くカジノ行って遊ぶぞ」
「そうじゃな、儂もカジノで頑張るとしようかのぅ」
「晩飯までにたっぷり稼ぐからここで待ち合わせだぞ」
「スギナちゃんまで……わかった。そっちは任せたぞ秀樹」
がっくりと肩を落とす恒夫を左右から挟むとラグとスギナが歩き出す。
恒夫を見て笑いながら秀樹が荷物の入った鞄を肩に掛けた。
「じゃあ、俺たちも行くか」
「そうだね、武器と薬草と携行食糧を買わないとね」
栄二の隣で菜穂が嬉しそうに話し出す。
「上級魔法を防ぐ鎧なんかあったのね、3回防げるだけでも魅力だわ、此方が防御魔法使わないで反撃できるからね」
頷いてから栄二が続ける。
「でも三千万ギギルするって恒夫が言ってたよ」
「高い分だけあるって事だぜ、今日と明日じゃ全員分は無理だがスギナちゃんと菜穂の二人分くらいは稼げるだろ、俺たちは不死身だしラグちゃんはもう持ってるしな」
「それじゃあ、あったら買ってもいいの? 」
パッと顔を明るくする菜穂を見て秀樹と栄二が頷いた。
「その為に恒夫がカジノへ行ったんだぜ」
「僕らが今持ってる二千万ギギルは魔法銃の弾や他の装備を揃えるのに使おうよ」
「やったぁ~~、じゃあ早く行きましょうよ」
喜ぶ菜穂を先頭に秀樹と栄二が町中へと消えていった。




