第九十三話 「合流」
三十分程して秀樹が目を覚ますと個人対決イベントは終わっていた。
「俺が気絶してる間に終わったのかよ、三十分だぞ、それで準決勝と決勝が終わるのかよ」
釈然としない様子の秀樹の肩を恒夫がポンッと叩く、
「三十分どころか十分ほどしか掛かってないぜ、まあ予想してたけどな、狼男のロアスが女エルフのマーサに棄権した。魔族のイゴルと亀の獣人が戦ったがイゴルに瞬殺だ。決勝戦でマーサとイゴルが戦うが五分もしないでマーサがギブアップだ」
「魔族のイゴルが優勝で準優勝がマーサさんで準々がロアスさんだ。せっかく準々まで勝ち残ったのに亀の獣人は殺されたよ」
栄二が続けて説明してくれた。
「やっぱ魔族かよ…… 」
険しい顔で呟いた秀樹の背を恒夫がドンッと叩いた。
「みんな無事だったんだから由としようぜ」
「そうだよ、恒夫の言う通りだよ」
「そうね、これからはラグやスギナちゃんが一緒だから今まで以上に安心だし」
嬉しそうな栄二の隣で菜穗が笑顔で言った。
恒夫がぐいっと顎を上げる。
「俺が入ってないぞ」
菜穗がニヤッと意地悪顔で口を開く、
「戦力外は数に入れてないわよ、あんた只のヘンタイじゃない」
「ちょっ、菜穗さん……冗談だからね、気分悪くしないでよね恒夫」
慌ててフォローする栄二の向かいで恒夫が体をクネクネさせて嬉しそうだ。
「そんなに褒めるなよ、俺に惚れても無駄だぜ」
「誰が惚れるか! 褒めてないでしょ、マジでヘンタイだ」
菜穗が怒鳴ると恒夫が益々嬉しそうに頬を赤く染めて体をくねらせる。
「おおぅ、もっと言ってくれ、もっと罵ってくれ、その蔑んだ目が最高だぜ、菜穗は女王様タイプだぜ」
「ひぃぃ……止めろ、近付くなヘンタイ! 秀樹くんヘンタイを何とかしてぇ~ 」
恒夫に迫られて菜穂が秀樹の後ろに逃げる。
「ヘンタイはそれくらいにしとけ」
菜穗を庇った秀樹が来るなと言うように両手を前に突き出す。
「病み上がりの体で俺のヘンタイを止められると思うなよ」
恒夫が両手を上げた変な構えで秀樹に迫る。
ラグが笑いながら恒夫の背におぶさるように抱き付く、
「にゃひひっ、ツネは面白いにゃ、ヘンタイって言ったら喜ぶぞ」
「なっ、邪魔すんな、せっかく菜穗が俺の女王様になってくれるっていうのに…… 」
「何言ってんのよ! なるわけ無いでしょヘンタイ! 」
じゃれるラグを振り払おうとする恒夫を菜穗が怒鳴りつけた。
「まったく…… 」
疲れた様子で溜息をつく秀樹の腕をスギナが引っ張る。
「気分はどうじゃ? 無茶な戦い方をしおるから手間が掛かったぞ」
「ごめん、世話を掛けて済まない、でもスギナちゃんが居てくれて助かったよ」
微笑むスギナに秀樹がペコッと頭を下げる。
「礼はよい、これからチームを組む仲間じゃからな、じゃから言っておくぞ」
スギナの笑顔が無くなりマジ顔に変わった。
「先程のような戦いは二度とするな、勝ち目など万に一つも無かったじゃろ? 失敗したとしても策があって命を懸けるのは構わん、じゃが先の戦いは策では無く無謀なだけじゃ、後の無い戦いなら仕方ないがいつでもギブできるゲームじゃぞ、そんなもので無謀な真似をすればチーム全てに迷惑が掛かる」
「ごめん、初めの作戦が失敗した時にギブすればよかった。不死身だからどうにかなるかもって…… 」
口籠もる秀樹をスギナがジロッと睨む、
「それが甘いんじゃぞ、不死身は確かに便利じゃが相手に知られた時点で効果は半減じゃ、魔族はもとより上級魔法使いや強い獣人に掛かれば通用せんぞ、この先はイベントも厳しくなるからのぅ、不死身を当てにした戦法が通用せん場が何度も出てくるじゃろう、じゃから身を引き締めて当たるんじゃぞ」
「わかった。本当にごめんな」
深く頭を下げる秀樹の背を恒夫がドンッと叩いた。
「その辺で許してやってくれよ、秀樹は充分わかってるさ」
「お前は怒らないのかよ? 」
顔を上げた秀樹が不思議そうに恒夫を見る。
「俺も無茶するからな、人のことは言えん、それにスギナちゃんが叱ってくれたからな、俺も全部同意だ」
恒夫の後ろからラグがひょいっと顔を出す。
「にゃひひひひっ、心配無いぞ、これからはあたいがリーダーだからにゃ、大船に乗ったつもりでいいぞ」
「そうだな、ラグがリーダーで秀樹がサブだ。それでどうにかやっていけるだろ、なぁ栄二」
肩越しに出ているラグの頭をポンッと叩くと恒夫が栄二に振り向いた。
「うん、恒夫だけじゃなくてラグさんやスギナちゃんが一緒ならこの先厳しくなっても安心だよ、本当に良かったよ」
嬉しそうな栄二を見て秀樹が大きく頷く、
「だな……でもよく承諾してくれたな、よく戻ってくる気になったな」
「そうだよね、いくらスギナちゃんが言ってくれたっていってもあれだけ嫌がってたのに」
栄二と秀樹に見つめられて恒夫が薄い頭を掻く、
「50マスから先は厳しくなる。今回の対決イベントのようなものに度々あったらとてもじゃないが俺一人じゃ持たん、ラグやスギナちゃんに迷惑を掛ける事になる。その点、秀樹や栄二にならいくら迷惑掛けても心が痛まないからな」
「まったくお前ってヤツは…… 」
呆れる秀樹の隣で栄二が笑いながら口を開く、
「うん、いくら迷惑を掛けてもいいよ、僕たちも遠慮無く恒夫に迷惑を掛けるからね」
「だな、じゃあそういう事でいこうぜ」
秀樹と栄二と恒夫が互いの顔を見て笑う、普段の学校でのオタ三人組のように心から笑った。
天使のヘカロとロロフィがやって来た。
「よくやったな、どうにかイベントクリアだ」
「負けたからクリアじゃないですよ」
笑顔のヘカロに秀樹が浮かない顔でこたえた。
「何言ってんですぅ~、あれだけ戦って皆さん無事じゃないですかぁ~、ポイントも貰ったし、立派にクリアですよぉ~ 」
間延びした声で話すロロフィの隣でヘカロが頷く、
「ロロフィの言う通りだ。危険なイベントだ。無傷というわけにはいかないが誰一人欠けることなく終えたんだ。全員無事ということは勝つこと以上に大事だと私は思っているよ」
「勝つ以前に俺と栄二は初めから棄権したけどな」
恒夫がヘカロの前に出てくる。
「それでヘカロさん、俺とラグとスギナちゃん、三人纏めて秀樹のチームと合流したいから手続き頼むよ」
「ほぅ、やっと戻る気になったのかい? 」
ヘカロが驚き顔で恒夫を見つめる。
「50マス以降が本番なんでしょ? だから勝てるように動いただけです。戦力としては今一頼りないけど秀樹と栄二なら信頼できるから」
とぼけ顔で言う恒夫の薄い頭をロロフィがポンポン叩く、
「六人チームか……大所帯ねぇ~、まあ私は担当止められるから楽できるけどね」
恒夫の頭に手を乗せたままロロフィが秀樹たちに振り向く、
「それじゃあ、ポイントの確認しましょうか、今回のポイント入れると恒夫は520に参加賞の50ポイント足して570ポイントだし、ラグは510に150足して660だよ、スギナちゃんなんか610に100足して710ポイントだからね」
そっちは? と言うようにロロフィがヘカロを見る。
「うむ、此方は秀樹くんが220に150を足して370、栄二くんが210に50を足して260、菜穗さんが225に100を足して325だ」
話を聞いて秀樹たちが恒夫を見つめる。
「570って……いつの間にそんなに稼いだんだ? 」
「凄いな……僕の倍だよ………… 」
驚く秀樹の隣で栄二が暗い顔で呟いた。
「私たちだってバッドイベントが無かったらそれくらいいってるわよ」
菜穗は悔しそうに対抗意識丸出しだ。
恒夫がニヤッと意地悪顔で笑う、
「当たり前だぜ、勝てるメンバーでチームを組んだんだからな」
ロロフィが恒夫の薄い頭をポンポン叩きながら口を開く、
「だよねぇ~~、恒夫以外のラグちゃんとスギナちゃんは凄いもんねぇ~~ 」
「悪かったな、どうせ俺は役立たずのハゲだよ」
ムッとして頭を叩く手を払う恒夫を見てロロフィが楽しそうにニッコリ笑う、
「でも楽しかったよ恒夫と一緒にいると、初めは担当なんて面倒だって思ってたけどね」
ロロフィが天使の翼を広げた。
「それじゃあ、行くね、これでもいっぱい仕事があるんだからね、ヘカロ頼んだわよ、私が初めて担当した恒夫とラグちゃんとスギナちゃんに何かあったら許さないからね、じゃあね」
笑いながら手を振るとロロフィが飛んでいく、
「俺も楽しかったぞ、今度会ったらまた蹴ってくれよな」
「ロロフィちゃん、あたいも楽しかったぞ、今度はラッキーイベントで会おうにゃ」
大声で見送る恒夫とラグに手を振りながらロロフィが消えていった。
「気紛れなロロフィが本気で気に入ったみたいだな」
恒夫とラグを見てヘカロがフッと微笑んだ。
「では近くの町まで送ろう、三日間ゆっくり休むといい」
秀樹が疲れた様子で息をつく、
「やっと休めるぜ、今回はマジで疲れたからな」
「当たり前じゃ、下手をすると死んでおったんじゃぞ」
スギナが秀樹の腕をポンと叩いた。
「ははっ、それを言われると…… 」
「秀樹もスギナちゃんには形無しだね」
「Aクラスだし幼女に見えても一番年上だしね」
恥ずかしそうな秀樹を栄二と菜穗がからかった。
ヘカロが天使の翼を広げる。
「良いチームになれそうだな、では行こうか」
白い光が秀樹たち六人を包み込んだ。
ヘカロの空間魔法で秀樹たちは大きな町へと運ばれた。
秀樹と恒夫が町を見回す。
「中々いい町だな」
「デカいな、カジノが三軒くらいありそうだ」
菜穗がシャツの胸元を触りながら口を開く、
「早く宿を探しましょうよ、汗を流したいわ」
「そうだね、風呂に入ってベッドで横になりたいよ」
一度も戦っていない栄二が疲れ顔だ。
あれだけの戦いを見たのだ応援するだけで疲れたのだろう。
「そうじゃな、デカい町じゃから宿を決めてゆっくりと見て回ろうかのぅ」
大きな町にスギナもわくわく楽しそうな表情だ。
ラグがバッと前に出る。
「んじゃ飯でも食いに行くぞ、リーダー命令だからにゃ」
「宿を探すのが先だろ」
文句を言う恒夫の腕をラグがむんずと掴む、
「宿は一番高い所で間違いないぞ、金はツネが持ってるからにゃ、飯はあたいに任せろ、匂いで美味しい店がわかるぞ、にゃんたってリーダーだからにゃ」
「一番高い店って六人分かよ…… 」
厭そうな顔をする恒夫の手を取ってラグが歩き出す。
秀樹が何とも言えない顔でラグを見つめる。
「美味しい店を見つけるリーダーか…… 」
「有りっていえば有りよね」
「うん、こっちの世界の食べ物って大体美味しいけど外れも結構あるからね」
菜穗が頷く横で栄二が苦笑いだ。
前を歩くラグが自作の歌を歌い出す。
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ ジュウジュウお肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ モクモク煙ぃ~~焼き魚ぁ~~♪ ベチョベチョトマトは大嫌いぃ~~♪ ツルツル頭ぁ~ツネ頭ぁ~~♪ モシャモシャ頭ぁ~ツネ頭ぁ~~♪ 」
「変な歌に俺を出すのは止めろって言っただろ」
腕を引かれながら歩く恒夫が顔を顰める。
「変じゃないぞ、あたいの好きなものと嫌いなものの歌だぞ」
ケロッとした顔でこたえるラグを恒夫が見つめた。
「好きと嫌いって…… 」
俺のことは本当はどう思っているのだろう? 本心から好いてくれているのだろうか?
訊いてみたい気もしたが今の関係が崩れるのも嫌なので恒夫は黙って歩き出す。
後ろから秀樹の大声が聞こえる。
「恒夫も戻ったことだし、今日はパーティーやろうぜ」
「そうだね、これでお金の心配しなくて済むからね」
栄二が嬉しそうに賛成だ。
菜穗が恒夫の背に甘えるように声を掛ける。
「私欲しい物いっぱいあるんだぁ~、恒夫くんが居たら全部買って貰えるんでしょ? 」
ラグがバッと振り返った。
「そだぞ、何でも買ってくれるぞ、ツネはあたいの家来だからにゃ、リーダー命令で何でも買ってもいいぞ、みんなで遊び捲るにゃ」
「それはいいのぅ、旨いものを食えるなら儂は文句ないのぅ」
恒夫を挟んでラグとは反対側を歩くスギナが楽しそうに言った。
「お前らなぁ~~、俺はお前らの財布じゃないからな」
顔を顰める恒夫にラグがガバッと抱き付いた。
「そんなのわかってんぞ、ツネはあたいの家来でインチキギャンブラーでヘンタイで、そんで……そんで、大事な仲間だぞ」
可愛いラグに抱き付かれて恒夫は何も言えなくなる。
笑顔の六人が楽しそうに町中を歩いて行った。




