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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
90/158

第九十話 「秀樹vs熊男ギガル」

 秀樹が戦っている試合場に行くとラグが駆け寄ってきた。


「何してたんだ! 秀樹が危ないぞ」

「なん!? 秀樹が」


 恒夫が慌てて試合場の脇に向かう、


「熊の獣人か、あれくらい秀樹ならどうにかなるだろ」


 秀樹が熊男ギガルと睨み合っていた。


「どうにもならないぞ、あの熊強いぞ、そんで姿を消せるにゃ、あたいも吃驚だぞ」

「姿を消す? 」


 後ろから抱き付いてきたラグに恒夫が首だけを回して訊いた。

 先に来ていた栄二と菜穗が横に来る。


「あの熊男はギガルさんって言うんだ。エルフのケリウスさんの仲間だよ、ケリウスさんってのはマーサさんのいるチームのリーダーだよ」


 栄二の話を聞いて恒夫の眉がピクッと動く、


「マーサさんの仲間か…… 」

「そうよ、山奥育ちで気が荒いって言ってたわ、神様に俊足を貰ったみたいね、それと栄二くんが持ってるのと同じ影マントを持ってるみたいよ、さっき姿を消したから」


 険しい顔の恒夫に菜穗が付け足して教えてくれた。


「俊足に影マントか、こりゃ秀樹に勝ち目は無いな」

「うむ、力はもちろん熊は大柄じゃが動きも素早い、それが更に速くなったら人間に敵う相手ではなくなるのぅ、その上姿を消せるとなれば不死身を持っていても難しいのぅ」


 後からきたスギナも厳しい表情だ。

 恒夫に抱き付きながらラグが続ける。


「そうだぞ、あたいら猫族からすれば熊はノロマだぞ、それを俊足で補ってんだ。あたいが怪力でパワーを補ってるのと逆だぞ、でも姿消せるマント選んだのは失敗だぞ、熊は他の獣人より匂いがきついから直ぐにわかるぞ」

「ラグにはわかるだろうけど人間には無理だ。匂いで見つけるなんてできない、怪我する前にギブさせたほうがいいぜ」


 恒夫が栄二に向き直る。


「僕も言ったんだけど…… 」

「任せろって言って利かないのよ」


 心配顔の栄二の横で菜穗が顔を顰めた。


「任せろか……暫く様子を見るしかないな」


 恒夫が前に向き直る。



 試合場の真ん中で秀樹と熊男ギガルが睨み合う、


「がっはっはっ、人間にしてはやるじゃねぇか、俺の一撃を食らって起き上がるなんて思ってもみなかったぞ」

「あんた強いんだろ? 人間相手に姿なんか消さなくても戦えるだろ、小細工しなきゃ戦えないのか? 」


 左半身を真っ赤に染めた秀樹が肩で息をつきながら厭味を言った。

 ギガルの攻撃を魔法で避けていたのだが影マントで姿を消した連続攻撃を受けて防御魔法を掛ける暇もなく左脇腹に直撃を喰らった。

 魔法の鎧を着ていたのでダメージはたいしたことなく不死身の能力で傷も直ぐに治ったが出血が酷く服が血塗れだ。


「がはははっ、お前が魔法を使うからな、此方も小細工無しじゃ勝負がつかないだろ」


 楽しそうに黄色い牙を見せて笑うギガルに向けて秀樹が魔法の杖を構える。


「ウォーターニードル! 」

「うぉう!! 」


 無数に飛んでくる水の針をギガルが俊足を使ってサッと避けた。


「がははははっ、問答無用か、面白い、敵の隙をつくのは戦いの基本だ。人間のくせに戦い慣れしてるな、面白いぞ」


 笑いながらギガルが突っ込んでいく、


「水の結界、ウォータードロップアーマー 」


 秀樹の水の鎧にギガルの大きな熊の手の鋭い爪が突き刺さる。

 ギガルがサッと後ろに跳ぶ、攻撃を防いで防御魔法も消えた。


「くそっ、また消えた」


 ギガルの姿が無い、影マントで姿と気配を消したのだ。


「がははははっ、人間はダメだな、獣人なら俺などとっくに見つかってるぞ」


 声の聞こえた方を向いて秀樹が魔法の杖を構えて警戒する。


「だからダメだって言ってんだ」


 秀樹がぐるっと後ろを向いた。


「何処を見ている? ここだぜ」


 左でギガルが影マントをサッと脱いで姿を現わした。


「くそっ…… 」

「もう止めろ、降参しろ、お前らはマーサが気に入っているみたいだから殺したくない、これ以上戦いを続けると野生の本能が疼いて手加減できなくなる。人間にしては強い、それは認めてやる。だから降参しろ、今なら怪我しなくて済むぜ」


 悔しげな秀樹の前でギガルが黄色い歯を見せてニヤッと笑った。


「降参なんてできるかよ、やっと仲間が揃ったんだ。ここで俺の力を見せておきたい、役に立つんだって事を見せておきたいんだよ」


 秀樹が魔法の杖をサッと振った。


「タバスコファイヤー 」

「中級か、当たらなければどうって事はないぞ」


 ギガルが中級魔法の大きな炎を俊足を使って余裕で避けていく、


「これが最後だ。降参しろ、悪いことは言わない、まだゲームを続けたいんだろ? 」


 今まで笑っていたギガルがマジ顔で言った。


「だから降参なんてしないって言ってるだろ」


 秀樹が魔法の杖を振る。


「プラズマボール! 」

「バカが……ならば死ね! 」


 雷光をあげる電気の塊を避けながらギガルが突っ込んでくる。


「ぐふっ!! 」


 ギガルに殴られて秀樹が吹っ飛んだ。


 床に転がって動かない秀樹を確認するようにギガルが近付いていく、顔面を殴られた秀樹は首が有り得ない方に曲がってぴくりとも動かない。


「苦しまずに殺してやったのが情けだ」


 ギガルがくるっと背を向けて試合場の端へと歩き出す。


 ボンッ! 軽快な音を立てて魔法の弾が飛んでいく、


「ガワァッ! 」


 ギガルの体が炎に包まれた。


「勝手に殺すなよ」


 炎に包まれたままギガルが振り返る。


「なっ!? 貴様! 」


 驚くギガルの前で秀樹が曲がった首を両手で持ってゴキッと音を鳴らして元に戻す。


「痛てて、まだ首の調子は戻ってないみたいだな」


 言いながら秀樹が魔法銃の弾を入れ替える。

 ギガルに炎魔法のヒ弾を使ったので入れ替えなければ次が撃てない。


「くそっ、こんな火など直ぐに消してやる」


 ギガルが大きな手で叩いて魔法の炎を消していく、分厚い毛皮の御陰か低級魔法一発程度では倒せる相手ではない様子だ。


「確かに殺したはずだ……そうか、お前も不死身なんだな、仲間のヒョロッとした男だけじゃなく、お前も不死身の力を貰ったんだな」


 驚くギガルを見て秀樹がニヤッと笑う、


「正解だぜ、あんたみたいに強い相手と戦うにはこれしかないからな」

「がははははっ、がはははっ、不死身かよ、それを早く言え、がははははっ」


 楽しそうに大笑いするとギガルの目付きが変わった。


「久し振りだ。遠慮なく本気が出せる。ギブなんてするなよ、俺がぶっ殺してやるからよ」

「なん…… 」


 秀樹が血相を変えて走って逃げる。

 猛獣のようなギガルの睨みに本能が恐怖を感じて自然と逃げていた。


「がははははっ、逃げるなよ」


 大笑いしながらギガルが追ってくる。


「ぐはぁ~~ 」


 ギガルに払うように殴られて秀樹が転がった。


「がははっ、これでどうだ」


 倒れた秀樹をギガルが蹴り上げた。

 秀樹は5メートルほど宙を舞うと呻きも上げずに床に転がる。


「不死身の力を見せてみろ、さっきは後ろ向いてたから見てないんでな」


 ぴくりとも動かない秀樹にギガルが近付いていく、

 秀樹は骨が折れたのか首も手足も有り得ない方向へと曲がっている。

 とても生きているとは思えない、その指がピクッと動いた。


「うほほっ、凄いな、マジで生き返りやがる」


 観察するように見つめるギガルの前で秀樹の体が元に戻っていく、


「くそぅ……遊びやがって…… 」


 倒れたままで秀樹が魔法の杖を向ける。


「ハラペーニョファイヤー 」

「おおっと、当たるかよ」


 低級魔法の炎を避けたギガルに電気の塊がぶち当たる。


「グガガァ~~ 」


 バチバチと雷光に包まれてギガルが呻きを上げた。


「魔法銃じゃ足止めにしかならないなんて化け物だぜ」


 秀樹は立ち上がると魔法銃の弾を詰め替えてギガルから距離を取る。

 攻撃したいのは山々だが神様から貰った魔法力は魔力の代わりに気力を使う、不死身能力による体の再生をしたばかりで低級魔法を使うのが精一杯だ。

 低級魔法ではギガルは倒せないと間合いを取って気力の回復を待つ作戦だ。


「グガガッ、ががっ、がははははっ 」


 体に纏わり付く電気を手足を使って払い落とすとギガルが楽しそうに牙を見せて笑った。


「がははははっ、面白い、面白いぞ、人間、殺し甲斐のある獲物は久し振りだ」


 笑っているが目は爛々と輝いていた。


「くそっ平気かよ、やっぱあの手しかないか…… 」


 ギガルの鋭い目に臆しながらも秀樹も睨み返す。

 焦げた体をパンパンと大きな手で叩いて払うとギガルが影マントを取りだした。


「がははははっ、いくら低級魔法でも何度も喰らうわけにはいかん、ここから本気を出させて貰うぞ」


 ギガルの体がすっと消えた。


「くそっ! 」


 慌てる秀樹の左からギガルのパンチが飛んでくる。


「ぐはっ」


 秀樹が仰け反るようにして倒れた。


「どうした。軽く撫でただけだぞ」


 ギガルの声だけが聞こえてくる。



 脇で見ていた栄二が心配そうに呟く、


「何で防御魔法を使わないんだよ…… 」

「考えがあるんだろ、でもそれが通じる相手かどうか…… 」


 険しい表情の恒夫の後ろでラグが悔しそうに薄い頭をむんずと掴む、


「ふにゅにゅにゅ……あたいなら負けないのに、見えなくても匂いで何処にいるか直ぐにわかるぞ、今も秀樹の後ろにいるってわかってるのに…… 」

「痛だたた……止めろ! 毛が抜ける。俺の頭の心配もしてくれ」


 恒夫が怒鳴りながら薄い頭をガードする。


「静かにせんか、秀樹は何やら考えがある様子じゃぞ」


 スギナに一喝されて恒夫とラグが試合場に注目する。



 見えないギガルに何度か倒されても秀樹は魔法を使わない、


「がはははっ、どうした? もう気力が残ってないか? 魔法も使えないようだな、では止めを刺してやる。知ってるぞ、細切れにされれば不死身でも生き返れないんだろ、首と手足引っこ抜いて踏みつぶしてミンチにしてやるよ」


 ギガルの声が近付いてくる。


「ぐぅ! 」


 殴られた秀樹が必死にギガルの体にしがみついた。


「炎の檻、タピチェケージ」


 中級魔法の炎の壁が秀樹とギガルを取り囲む、


「なっ何だ? ぐぐぅ……貴様俺と死ぬ気か? 」


 タピチェケージは炎で囲んで相手を捕まえる魔法だ。

 大きさは術者により自由に変えることができる。

 秀樹が今使っている炎の檻は一辺が3メートルもない、大柄の熊男ギガルと秀樹が入るのがやっとといった大きさだ。


「捕まえたぜ、これなら見えなくても逃がさないぜ」


 燃え移って火達磨になりながら秀樹がニヤッと笑った。


「なっ、何を考えている…… 」


 今まで余裕だったギガルの顔に焦りが浮ぶ、もっとも姿を消しているので秀樹たちには見えないが震える声でそれがわかった。


「何ってこうするのさ」


 ボンッという軽快な音を立てて魔法銃から弾が飛び出す。


「グワアァアァ~~ 」


 バチバチと雷光をあげてギガルの体が浮かび上がる。


「ぐぅうぅ…… 」


 秀樹は自身も痺れながら魔法銃の弾を入れ替えると続けざまに撃った。


「グガッ! グガガァ~~、グヒィイィ~~ 」


 魔法銃を3度喰らってギガルが大きな悲鳴を上げた。


「ググ……参った。俺の負けだ。俺の負けでいい、早く魔法を解いてくれ、息が苦しい、このままじゃ焼け死んじまう………… 」

「くうぅ……審判……俺の勝ちでいいんだな………… 」


 秀樹も相当苦しいらしく言葉が途切れ途切れだ。

 審判がサッと手を上げた。


「15番の熊男ギガルがギブアップしたため13番の江藤秀樹の勝利とする」


 勝利宣言を聞いて秀樹が魔法を解いた。


「やったぜ、勝ったぜ………… 」


 崩れるように秀樹が倒れた。


「いかん! 治療するぞ恒夫! 」

「わかった」


 スギナと恒夫がバッと試合場へと上がって駆け寄っていく、それを見て栄二と菜穗とラグも後に続いた。


 恒夫が抱きかかえる秀樹をスギナが診る。


「いかん! 煙を吸い込んで中毒を起こしておる。これでは次は戦えんぞ」


 秀樹は気を失っているだけでなく呼吸まで止まっていた。


「不死身で体は治るが毒の効果は消えないからな、俺の治癒力で…… 」


 秀樹の胸の上に置いた恒夫の手をスギナが掴む、


「儂がやる。秘密なんじゃろ? 」

「ありがとう任せるよ」


 後からきた栄二と菜穗が心配そうに覗き込むのを見て恒夫が秀樹の胸から手を離す

 恒夫が不死身ではなく治癒能力を貰ったことは秀樹たちには内緒にしている。

 バレないようにスギナが気を利かせてくれたのだ。


「任せておけ、儂は治癒にも長けておるからのぅ」


 スギナの手から髪の毛よりも細い糸のような植物の蔓が数本出てきた。


「気管に入った煙を吸い出して、その後で肺や血管に流れた毒素を抜いてやる」


 細い蔓が秀樹の鼻の穴から体に入っていく、


「よしっ、旨くいったぞ」


 3分ほどしてスギナが植物の蔓を抜いた。


「よかった……毒じゃ不死身も利かないからね」

「あんな戦いするなんて吃驚したわよ、でもスギナちゃんがいてくれて助かったわね」


 呼吸を始めた秀樹を見て栄二と菜穗がほっと安堵した。


「あんなの作戦じゃない、一か八かの賭だぜ、熊男がパニくらずに秀樹を殴って気絶させれば逆にやられてたぞ」

「あの場合ああする他なかったのじゃろう、じゃが無茶する場面ではないぞ、ギブすればよかったんじゃ、後で叱らんといかんの」


 険しい顔の恒夫に同意するようにスギナが頷いた。


「じきに目を覚ますじゃろ、向こうへ運んで寝かせてやれ」


 審判が持ってきた担架を使って秀樹を試合場から降ろして床に寝かせた。

 暫くして目を覚ました秀樹は恒夫とスギナに説教された。

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