第八十九話
秀樹たちが話し合っている内に最後のグループである25番から32番までの試合が既に始まっていた。
自分たちが出るわけでもないし魔族や知り合いのマーサたちが出るわけでもなく、妖怪や獣人に昆虫人間など見慣れたものばかりなので秀樹は自分たちのチームの話しを優先した。
恒夫たちが合流すればこの先の戦略も全て変わっていくのだ。
スギナが改まって恒夫に向き直る。
「ところでお主が言っておった魔族を試すとは何のことじゃ? 何を試すつもりじゃった? 」
「そうだわ、そんな事言ってたわね」
思い出すように訊く菜穂の隣で秀樹が鋭い視線を向ける。
「無敵札を使って魔族と戦って何を試すんだ? 」
「魔族の力を試すのは分かるけど魔法銃しか持ってない恒夫じゃ無理だよ」
栄二も訊きたそうな顔を向けた。
「ああ……忘れてくれ、只の気紛れだ」
恒夫が何でもないというように顔の前で手を振った。
ラグがガシッと恒夫の首根っこを掴んだ。
「気紛れで約束破るつもりだったのか? そんにゃのあたいは嫌いだぞ」
「ひぃっ!! 」
短く息をついて悲鳴を上げると恒夫が首に掛かるラグの手をペシペシ叩いた。
「ちっ、違うから…… 」
青い顔の恒夫を見てスギナがラグの背をポンッと叩く、
「言い訳くらいさせてやれ、そのままじゃ話せんじゃろが」
「わかったぞ、でも納得できなかったらお仕置きだぞ」
ラグが手を離す。
首を擦りながら恒夫が話を始めた。
「魔族の力を見たかったんだよ、もう1人のハオロさんって魔族の話しはしただろ、あのイゴルって魔族もハオロさんみたいに強いかどうか試したかったんだ」
「そんなの試さなくても分かるぞ、あいつらの強さは次元が違うぞ」
口を挟むラグを見て恒夫が頷く、
「だからだよ、だからどの程度か力を見たかった」
「お主何を考えておる? 」
スギナがマジ顔で恒夫を見つめた。
「次元が違う程の力を持つ魔族が何でこんなゲームに参加している? 俺たちやラグと違って住んでいる世界の生き残りを懸けているわけでもない、何か他に理由があるんじゃないかと思ってな、それがこのくだらないゲームの本当の目的だとしたら…… 」
「このゲーム、裏があるとお主は言いたいんじゃな」
スギナの鋭い眼を見て恒夫がフッと微笑んだ。
「まぁね、初めから胡散臭いゲームだって思ってるよ、スギナちゃんも神様なんて信じてないだろ? 」
「そうじゃな、儂も全てを信じておるわけでは無い、褒美目的で参加したまでじゃ」
とぼけ顔の恒夫の向かいでスギナも表情を緩めた。
囲んで聞いていた秀樹が口を開ける。
「このゲームは俺たちの世界の生存だけじゃなくて他に目的があるって言うのかよ」
「恒夫はヘカロさんたちが僕たちを騙してるって言いたいの? 」
秀樹と栄二の険しい顔を見て恒夫がとぼけ顔のまま話し始める。
「ヘカロさんたちは別に騙しちゃいないと思うぜ、俺たちの世界の他にも目的があるってだけだろ、魔族が参加してるのもその目的の一つだろうな、まぁそれが何なのかは分からんけどな、それを調べるためにも魔族と一度戦ってみようって思ってさ……まぁよく考えたら魔法銃しか持ってない俺じゃ無駄になってたけどな」
「魔族の目的か……言われてみればおかしいよね、でも無茶しすぎだよ、恒夫が居なくなったら勝てないからね、僕たちは一人も欠けずに勝つんだからさ」
「栄二の言う通りだ。お前は危ない真似するな、ラグさんが悲しむだろが、戦いは俺に任せてくれ」
二人の前で恒夫が照れたのか薄い頭を掻きながら続ける。
「魔族の力が何処まで持つか調べるつもりだったんだ。神様に貰った魔法力は元よりスギナちゃんが持っている妖力も限界があるだろ、妖怪や獣人も妖力や体力に限界はある。魔族を相手にするには力を出させて疲労させてから倒すしかないと思う、だから無敵札が有効な十五分の間でどれだけ力を削げるか確かめるつもりだった。あのイゴルって魔族は頭が悪そうだから怒らせれば簡単に力を使うだろう、それで力を使わせてどれほどのものか調べるつもりだった。隙があればそのまま倒せるかも知れないってくらいは考えたぜ」
話を聞いてスギナが大きく頷いた。
「成る程のぅ、確かに限界はある。それも大きくはない、力を制限されておると言ったほうがいいの、でないと他の参加者と比べて余りにも不公平になるじゃろ、これは儂の担当天使に直に聞いた話しじゃから間違いあるまい、ここにおる魔族は持続力は無いが瞬発力はある。そう考えるといい、その持続力が問題じゃから恒夫がやろうとしたように無敵札を使って試すのは良い方法じゃと思う、じゃが何の力も持たんお主でそれができたのかは疑問じゃぞ」
恒夫が掻いていた手を止めて薄い頭を整えた。
「スギナちゃんがそう言うなら、やっぱ無謀かな、あのイゴルってのは単純そうだからいけると思ったんだ。無敵札使えば十五分間はどんな攻撃をされても無敵だ。イゴルをからかいまくって力を出し尽くさせてやろうってさ、十五分終わる前にギブして逃げる予定だった。十五分経っても疲れずにピンピンしてたら作戦の練り直しって事だ」
「それなら恒夫くんじゃなくて私が試してあげるわよ、上級魔法も使えるし、旨く行けば魔族を倒せるかも知れないでしょ」
言いながら菜穗が差し出した手を恒夫が見つめた。
「なんだ? 」
「無敵札を一つ頂戴、魔族の力を見るんでしょ? 」
恒夫が菜穂の手を叩き落とす。
「もう試す必要は無い、スギナちゃんとラグに上級魔法使いの菜穗と中級魔法使いの秀樹、それに俺の持つ無敵札と栄二の影マント、おまけに秀樹たちは不死身まである。魔族は強いが無敵じゃない、これだけ戦力が揃えば充分戦える。試しで無敵札を消費するのは無駄だ。使う時は魔族を倒すと覚悟を決めた時だ」
「同感じゃ、確かに魔族は強敵じゃ、じゃが条件さえ揃えば儂一人でも相打ち覚悟なら戦えると感じた。ましてや今ここにおるチーム全員なら条件が揃わんでも魔族が一人なら勝てるじゃろう、じゃから3枚しかない無敵札を無駄に使うのはよした方がよいのぅ」
「わかったわ、スギナちゃんが言うなら了解よ」
納得した様子の菜穗の向かいで恒夫が自身を指差した。
「俺は? 俺の意見は? 」
「あんたの言うことは信じない、約束破るなんてサイテーよ、約束破ろうとしたあんたとAクラスのスギナちゃんを一緒にしないで欲しいわね」
菜穗が軽蔑の目で恒夫を睨んだ。
恒夫くんから『あんた』に格下げだ。
ニヤつきながら秀樹が恒夫の肩を掴む、
「信用がた落ちだな」
「へん! 元から信用されてねぇよ」
恒夫がぶっきらぼうに言いながら秀樹の手を払い除けた。
2回戦が始まる。
試合場は四つあるので2回戦に上ったラグとスギナと秀樹が一度に戦うことになる。
恒夫が栄二と菜穗に振り向く、
「ラグとスギナちゃんは見なくてもいい、スギナちゃんが棄権するからな、それより秀樹だ。秀樹の試合を見に行くぞ」
「えっ! 何でスギナちゃんが棄権するのよ、スギナちゃんの方が強いんでしょ? 」
驚く菜穗の横で栄二も訊きたそうな顔をしている。
面倒臭そうな顔をして恒夫が話し出す。
「やり合ったらスギナちゃんが勝つだろうな、でも無傷って訳にはいかないと思うぜ、ラグは戦いが始まったら獣人の本能で手加減しなくなる。相手が強ければ強いほどな、50ポイントしか貰えないんだぜ仲間同士で本気で戦うなんて無駄だろ? だから今回は棄権するように頼んだ。ちびっ子と戦うって喜んでたラグに頼んでも無駄だからな」
「1回勝つごとに50ポイントだけど優勝は300ポイントなのよ、準優勝でも200ポイント貰えるのに…… 」
惜しそうな菜穂を見て恒夫がバカにするように口元を歪めた。
「優勝どころか準優勝も難しいってスギナちゃんが言ってたぜ」
「そうだね、魔族がいるもんね」
横から口を挟む栄二に頷いてから恒夫が続ける。
「魔族はもちろん、女エルフのマーサさんも強敵だ。死ぬ気で戦って準々優勝の100ポイントじゃ割に合わない、それにこんな所でスギナちゃんの能力を知られたくないっていうのもある。ゲームは50マスから先が本番だ。イベントも難しくなるが貰えるポイントも大きくなる。それならここで無理する必要も無いって俺の意見にスギナちゃんが賛成してくれた。それでラグに勝ちを譲るんだ」
「そういう事じゃ、旨く行けばラグを使ってマーサとか言う女エルフの力を見れる」
恒夫がバッと振り返るといつの間にかスギナが後ろにいた。
「もう終わったのか? 」
「始まって直ぐに棄権したからの」
「ラグは? 」
「秀樹の試合を見に行ったぞ、儂らも早く行くのじゃ」
歩き出す恒夫とスギナを菜穗が呼び止める。
「一寸待って、マーサさんの力を見るってどういう事? あの人は敵じゃ無いわよ」
「そうだよ、僕らに優しくしてくれたよ」
怪訝な顔の菜穗の隣で栄二も不服そうに二人を見つめる。
「まったく……じゃから人間はダメなんじゃ」
溜息をつくとスギナが振り返った。
「あの女エルフには気を付けるんじゃ、時々悪い気を感じる。腹に一物持っておるぞ」
「マーサさんが? 」
顔を顰める栄二の横で菜穗が声を大きくする。
「嘘よ、いくらスギナちゃんでもそれは信じられないわよ」
「俺もあの女は怪しいと思うぜ」
とぼけ顔の恒夫を栄二が睨む、
「恒夫、根拠はあるのか? 」
「んーっと、根拠は無い、俺の感だ」
「何言ってんのよ、あんたは黙ってて」
戯けるように言った恒夫に菜穗が怒鳴った。
「お前だ!! 」
とぼけ顔から一転マジ顔になった恒夫が菜穗を指差す。
「お前が何か隠しているようにマーサも何か隠してる。俺の感が危険を知らせてるんだ。好みの良い女だがな………… 」
恒夫のマジ顔が直ぐに緩む、
「でもマーサさんが俺の女王様になってくれるなら悪でも何でも染まってもいいかなぁ、マーサさんに縛られて鞭や蝋燭で責められたら気持ちいいだろうなぁ~~ 」
スギナが手から植物の蔓を少し伸ばす。
「縛って欲しいのならいつでも縛ってやるぞ、鞭と蝋燭はないがラグの爪でいいじゃろ」
「いや遠慮しとく、スギナちゃんのは快楽じゃなくて死にそうだから、さっきも気絶したからな、ラグが本気で怒るから言ったことは内緒にしといてくれ」
じゃれる二人を余所に栄二がマジ顔を菜穂に向ける。
「前から恒夫が言ってたけど菜穗さん何か隠してるの? 」
「なっ、何よ、私は何も隠してないわよ、それより早く秀樹くんの試合を見に行きましょう」
誤魔化すように言うと菜穗が歩き出す。
「ごっ、ごめん、気に障ったのなら謝るからさ」
栄二が慌てて追っていく、その後を恒夫とスギナが並んで歩く、
「スギナちゃんが棄権したのラグがよく納得したな、戦いたいってぐずらなかったか? 」
不思議そうな恒夫を可愛い笑みをしたスギナが見上げる。
「彼奴は単純じゃからの、家来がリーダーに勝てるわけがない、儂は付き従うだけじゃ、お主が勝ちじゃ、儂らを導いてくれ、とか世辞を並べ立てたらニコニコしながら納得しおったぞ」
「はは……流石スギナちゃんだ。ラグの事よく知ってるぜ」
「うむ、ここまでは無事で済んだ。次が問題じゃ、あの女エルフとラグ、どういう戦いをするのか見物じゃぞ」
「ラグが無茶をしないかそれだけが心配だぜ」
楽しそうなスギナと違い恒夫は不安顔だ。




