第七十九話 「バッドイベント」
白く光る空間魔法の通路を抜けると秀樹たちは小さな部屋にいた。
入ってきた場所以外に窓もドアもない八畳ほどの部屋に小さな机と椅子があり、そこに天使ロロフィが座っていた。
「おめでとうございまぁ~~す。バッドイベントですよぉ~~ 」
ロロフィが満面の笑みで出迎える。
「バッドかよ…… 」
「バッドが何でめでたいのよ! 」
呟く秀樹の隣で菜穗が大声だ。
秀樹が菜穗の背をポンッと叩く、
「ロロフィちゃんに言っても無駄だぜ」
「ロロフィさんはお祭り騒ぎならバッドでもラッキーでも関係ないからね」
栄二は苦笑いだ。
「その為にラッキーとバッドの担当になったって言ってたからな」
「だね、楽しければ僕たちの事などどうでもいいって感じだよね」
ロロフィの性格を知らない菜穂が二人に突っ掛かる。
「どういう人、いや天使なのよ! 」
「見ての通りだぜ、ヘカロさんも呆れてたからな」
「でもバッドイベントは初めてだよね、どんな事するんだろうね」
「だな、戦いは無いらしいから安心だぜ」
悪い事に違いないが栄二も秀樹も興味有りといった様子だ。
「何で二人とも落ち着いてるのよ、バッドよ悪いって事よ」
ヒステリックに叫ぶ菜穗を見てロロフィが笑いながら手を振った。
「まぁまぁ、そういきり立たないでさぁ~、バッドイベントを楽しみましょうよぉ~~ 」
「楽しめるわけ無いでしょ! 」
叫ぶ菜穗の腕を取って止めさせると秀樹が前に出る。
「それでどんなイベントなんですか? 」
「行き成りポイント引かれるとかは勘弁して欲しいよね」
秀樹と栄二を見てロロフィがニヤッと意味ありげに笑う、
「にひひひひっ、そんな簡単な事しませんよ、やっと私に回ってきたイベントなんですからね、私ルールで勝手に変更しました」
秀樹と栄二が顔を顰める。
「変更って? 」
「そんな事していいの? 」
ロロフィが構わないとでも言うように顔の前で手をブンブン振る。
「いいの、いいの、只でさえゾロ目が出た時だけなのにラッキーとバッドの担当天使は私の他に数人いるのよ、だから私に回ってくるのも数回に一度なの、だからこのイベントだけは私の自由にしていいのって言うか自由にするのよ」
ニコニコ笑顔だが言い返せない威圧感というものがある。
「ゾロ目が出た時だけって言ってもいいのか? 」
話を変えるように秀樹が訊いた。
ロロフィがハッとして辺りを見回す。
「あっ、うっかり言っちゃった。聞かなかった事にしてねぇ~~、誰か他の参加者に話したらお仕置きしちゃうからね」
可愛い笑みの目が笑っていないのを見て秀樹と栄二だけでなく菜穗もうんうん頷いた。
栄二が秀樹に向き直る。
「それでか、ゾロ目の事を秀樹は知ってたんだね、それで浮かない顔してたんだ」
「ああ、恒夫に聞いてな、人に言うなって言われたからさ…… 」
ニコニコ笑顔のロロフィが割って入る。
「そうですよ、言っちゃダメなんですからね、ルール違反ですからね、だから誰にも言っちゃダメですよ」
「ロロフィさんが言ったんじゃない」
呆れる菜穗の前にロロフィがグィッと顔を突き出す。
「だから聞かなかった事にしてください、他に言ったらお仕置きしますよ」
「いっ、言わないわよ、他人が有利になる事なんかしないわよ」
マジ顔のロロフィを見て菜穗が声を震わせる。
「それじゃあイベント始めましょうか」
マジ顔から一転して笑顔のロロフィがパチンと手を叩くと後ろの壁に扉が浮かび上がった。
「さぁさぁ、入った。入った。楽しいバッドイベントが始まるよぅ」
笑顔のロロフィに背を押されて秀樹たちが扉の中へと入っていった。
「こっ、これは…… 」
「なん、これって? 」
「何なのよ! カラオケボックスじゃない」
長細い部屋の奥に大きなモニターと小さなステージ、テーブルを挟むように左右に大きなソファ、部屋の四隅には大きなスピーカーが置いてある。
テーブルの上には2本のマイクに選曲の本が置いてあり、軽食などを注文するメニューまであった。
そこらにあるカラオケボックスと同じ作りだ。
スポットライトがパッとロロフィを照らす。
「歌は道連れ、世は情け、歌う角には福来たる。さあ今宵も始まります。歌って歌って3曲分、カラオケバッド祭りの開催でぇ~~す」
マイクを握り締めて言うロロフィを秀樹と栄二と菜穗がじとーっとした目で見つめる。
「カラオケって歌うのか? 」
「歌うってどんなバッドイベントなのよ」
「僕、歌はちょっと…… 」
ニコニコ笑顔でロロフィが説明を始める。
「あそこを見てくださぁ~~い」
ロロフィが指差す先、ステージの上にモニターが3個付いていた。
「歌の上手い下手であそこに点数が出ます。始めにある200ポイントから歌の得点分が引かれます。一人3曲歌って200ポイントの残った点数が今持っているポイントから引かれる事になりまぁ~~す」
「なに? どういう事? 」
不安気にキョロキョロする菜穗に栄二が分かり易く教える。
「始めに200点あってそこから3曲分の歌の得点を引いていく、それで残った点を僕らのポイントから引くって事だよ、例を出せば3曲歌ってその合計得点が150点だとしたら200点から150点を引いた残りの50点を今持っているポイントから引かれるって事だよ」
ロロフィがビシッと栄二を指差す。
「そう、その通りです。私説明苦手だから助かったよ、ありがとね」
じゃあ何でイベントの担当なんてやってるんだよ……、
秀樹だけでなく栄二と菜穗も呆れ顔だ。
ロロフィが両手を突き出してふるふると振った。
「皆さんが言いたい事はわかります。戦いのゲームだと思ってやって来た人にはカラオケなんて大変だと思います。こんな事でポイントを引かれるとは思ってもみなかった事でしょう、私も辛い、バッドイベントなんて心苦しい、でも歌は魂です。心の叫びです。貴方たちの魂を聞かせてください、心に響く歌声ならバッドをラッキーに変える事も可能です」
感極まった様子のロロフィに秀樹が声を掛ける。
「ラッキーに変えるって? 」
「そこ、いい事を言いましたねぇ~~ 」
バッと秀樹を指差してロロフィが続ける。
「高得点を上げればいいのです。3曲の合計が200点を超えるといいのです。残りの点数が引かれるのと同じように200点を超えた分はポイントにプラスされるのです。バッドイベントなのにポイントを取得できるチャンスまであるとは私に感謝してよねぇ~~ 」
自慢気に胸を張るロロフィを見て菜穗がうんざりとした様子で口を開く、
「完全に趣味じゃない、イベントに事欠いて遊びたいだけじゃない」
「でも良かったぜ、カラオケならどうにかなりそうだ」
自信があるのか秀樹は余裕顔だ。
「へぇ、そうなんだ。でも私だって負けないからね」
菜穗も自信あるらしい、二人の横で栄二一人が浮かない顔だ。
「僕はちょっと……カラオケ苦手なんだよね」
「制限時間は1時間、その間に各自3曲歌ってください、得意な歌をじっくりと選んで歌いましょう、軽食もトイレもオッケーです。ではバッドイベントスタートでぇ~~す」
ニコニコ顔で言うとロロフィが椅子にちょこんと座った。
三人が同時に振り返る。
「ロロフィちゃんも歌うのか? 」
「あははははっ、何言ってんですかぁ~~、私はここで歌を聴きながら御飯食べます。寝坊して朝食べてないのよねぇ~~ 」
怪訝な顔で訊く秀樹にロロフィが笑顔でこたえた。
「完全に遊びじゃない」
呆れ果てて菜穗はそれ以外言葉が出てこない。
「 ……カラオケ苦手なんだよな………… 」
栄二は始終浮かない顔だ。




