第七十七話
ジャングルを切り開いた小さな町へと来た。
「早く食べ放題行くぞ、肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ 」
腕を引っ張って歩き出そうとしたラグを恒夫が止める。
「先に宿だろ、飯はシャワーを浴びて着替えてからだ。みんな汗だくなんだからな」
「じゃあ宿探そうぜ、恒夫に貰った金があるから良い宿にしようぜ」
秀樹がドンッと恒夫の背を叩いた。
「まて……まさかお前ら一緒の宿にするつもりじゃないだろうな? 」
「食べ放題奢ってくれるんでしょ? 宿も一緒の方が待ち合わせしなくていいじゃない」
満面の笑みを浮かべる菜穗に恒夫が厭そうな顔を向ける。
「奢るのは1回だけだからな、泊まる所を一緒にして戻って来いって説得しようとしても無駄だからな」
「あははははっ、そんな事しないよ、小さい町だし高級ホテルなんて少ないだろ? だから別々に探し回らないで一緒のほうが楽だよ」
乾いた笑いを上げる栄二の目がニヤッと笑っている。
「おおぅ、みんなで一緒だぞ、町の旨いもの全部食ってやんぞ」
賛成するように大声で喜ぶラグを見て恒夫がガクッと肩を落とす。
「まったく……勝手にしろ」
スギナが恒夫を見上げる。
「高い宿でなくともいいぞ、恥ずかしい話しじゃが儂は百万ギギルしか残っておらん、じゃから高い宿は使えんのじゃ」
申し訳なさそうなスギナの背に恒夫がそっと手を当てた。
「金の事は心配無いって言っただろ、イカサマサイコロがあれば幾らでも稼げるからさ、スギナちゃんは仲間なんだからな、チームの資金関係は全部俺に任せてくれ」
「そだぞ、金はツネが稼ぐから湯水の如く使っていいんだぞ、あたいなんか一緒にカジノに行って五百万ギギルは軽く負けるからにゃ」
横で偉そうに言うラグを見て恒夫が嫌そうに顔を顰める。
「湯水じゃねぇ、俺が神経磨り減らして稼いでるんだ。ラグは少し自重しろ」
「何言ってんだ? 何でも買ってやるって約束だぞ、そんでチームに入ってやったんだぞ、そんであたいがリーダーだぞ、だからツネの稼ぎは全部あたいのものなんだぞ」
「確かにそういう約束だけど……わかった俺の負けだ」
申し訳なさそうに見つめるスギナだけでなく秀樹たちもじとーっと見ているのに気付いて恒夫が折れた。
「にゃははははっ、と言うわけだぞ、みんなで宿探して食い放題に行くぞ」
「流石チャトラン族の戦士だね、可愛くて強いだけじゃなくて太っ腹だよね」
言いながら栄二が肘で秀樹を突く、
「んん? おおぅ、そうだぜ、ラグさんは凄いぜ、美人だし強いし格好いいし、おまけに話もわかる。ラグさんがチームのリーダーなら幸せだよな」
横に居た菜穗に秀樹が目で合図を送った。
「ああ、そっか……うん、そうよね、人間はバカばかりだから優秀なリーダーが必要ね、猫娘……じゃなかったラグがリーダーなら絶対勝てるわよ、だから私もラグのチームに入りたいなぁ~~ 」
菜穗が褒めまくりながらラグを見つめた。
ラグの方が落としやすいと攻める相手を代えたのだろう、同じチームになれるなら恒夫を引き戻さなくてもいい、秀樹たちが恒夫のチームに入ればいいのだ。
リーダーであるラグを煽ててどうにか取り入ろうという作戦だ。
「にゃははははっ、あたいの凄さがわかったんだにゃ、そんでお前らも家来になりたいのか? 」
嬉しそうに大笑いするラグの爆乳がブルンブルンと揺れる。
「何で私が猫の家来に…… 」
本音を出した菜穗の腕を秀樹が慌てて引っ張った。
「なりたい! ラグさんの家来になりたいなぁ~~ 」
「うっ、うん、私も家来でいいわ、勝てるのなら何だってするわよ、だからラグの家来になりたいなぁ~ 」
「僕も家来になりたい、って言うかもう家来になってるよ、砂漠で先頭を歩くラグさんに僕たちは付き従ったからね、もう家来と同じだよ、知らないうちに家来になってたんだよ、ラグさんはリーダーの素質があるからね、僕たち凡人と違って天才だからね」
慌てて言い直す菜穗の隣で栄二も作り笑いを浮かべておべんちゃらだ。
「にゃへへへへっ、そうか? あたいってそんなに凄いか? 仕方ないにゃ~~ 」
照れまくるラグの腕を恒夫が慌てて引っ張った。
「騙されるなラグ! あいつら旨い事言ってチームに入ってくる気だぞ、ポイントの取り分減るぜ、俺と二人でラブラブするんじゃなかったのか? 」
ラグがハッとして恒夫を見つめる。
「おおぅ、そうだったツネとラブラブ二人旅をするんだったぞ」
キッと秀樹たちを睨み付ける。
「もうちょっとで騙されるとこだったぞ、人間はやっぱりズルいぞ、お前らなんかと組まないからにゃ」
「チッ、失敗したか…… 」
目を伏せる秀樹の隣で菜穗が怖い顔で恒夫を見つめる。
「やっぱり恒夫くんをどうにかしないとダメね」
「でも恒夫さえどうにかしたらみんなチームになれそうだね」
一瞬だがラグが賛成しそうになったのを見て栄二は笑顔だ。
恒夫がじろっと三人を睨む、
「聞こえてるからな、そんな話しはお前らだけの時にしろ」
ラグがサッと恒夫の腕に手を回す。腕組みだ。
「んじゃラブラブ二人旅を始めんぞ」
「二人旅じゃなくてスギナちゃん入れて三人だからな、旅じゃなくて休む宿を探すんだ」
「んじゃ三人で食べ放題と休み放題しにいくぞ」
「休み放題って何だ? ニートみたいに言うな! まったくラグは…… 」
ラグに引かれて歩き出す恒夫の反対側の手をスギナが握る。
「金に困らんのは楽で良いな、町へ行くと色々目移りして使ってしもうてな、正直言って資金には困っておった所じゃ、それだけでもお主と組む価値ありじゃ」
「俺は戦いはダメだからなそれ以外で役に立とうと思ってさ」
恒夫が照れて薄い頭を掻いた。
後ろで秀樹たちが顔を見合わせて頷く、
「恒夫はもちろんラグさんとスギナちゃんが居れば大きな戦力になる。どうにか組めるように頑張ろうぜ」
「恒夫くんさえ落とせれば後の二人はついてきそうね」
「うん、反対しなかったしスギナちゃんも来てくれそうな感じだよね、でも力押しは絶対ダメだよ、恒夫は捻くれてるからさ」
「だな、押してもダメなら引いてみなってヤツだぜ」
互いの顔を見て頷くと秀樹たちが恒夫を追って歩き出す。
町で一番のホテルに宿を取った。
小さな町なので一番といっても設備は知れているが宿賃だけは一流並みだ。
一部屋一泊十万ギギルもした。
恒夫は二部屋取った。
一つは自分でもう一つはラグとスギナの部屋だ。
別にしようとしたがスギナが一緒で構わないと言ってラグと二人で一部屋になった。
ラグに異存は無い、と言うかラグはふかふかのベッドとお湯の出るシャワーがあれば何処でもいいのだ。
秀樹たちも同じホテルだ。
一緒に探したのだから当然である。
秀樹も菜穗の部屋と男たちの部屋で二部屋だ。
シャワーを浴びて着替えると早速食事へと向かう、
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ ジュウジュウお肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ モクモク煙ぃ~~焼き魚ぁ~~♪ ベチョベチョトマトは大嫌いぃ~~♪ ツルツル頭ぁ~ツネ頭ぁ~~♪ モシャモシャ頭ぁ~ツネ頭ぁ~~♪ 熊に齧られツルッツル~~♪ 」
「変な歌に俺を出すな! 」
手を繋いで元気に歩き出すラグを恒夫が怒鳴りつけた。
「変じゃないぞ、食べ放題ハゲ放題の歌だぞ」
「ハゲてねぇ、薄いだけだ。縁起でも無いからハゲ放題なんて止めてくれ」
ケロッとした顔のラグを睨み付けた。
「にゃははははっ、怒るなよ、そんなに怒ると益々ハゲるぞ……そだぞ、生え放題にすればいいんだぞ、食べ放題生え放題モシャモシャ放題で抜き放題だぞ」
ラグが大笑いしながら薄い恒夫の頭をモシャモシャ触る。
「モシャモシャは止めろ、抜き放題って俺の毛を抜くつもりか? 俺の頭を玩具にするな」
弱り顔の恒夫を見てその場の全員が大笑いだ。
「そんじゃ、肉食いに行くぞ」
元気なラグを先頭に歩き出す。
宿を探す際に見て回ったので行く店は決まっている。
高いレストランで楽しい食事があっと言う間に終わった。
店を出るとラグが満足そうに伸びをする。
「やっぱ大勢で食うと美味しいぞ」
「一人五万ギギルも出して不味かったら困るからな」
うんざりした様子の恒夫に秀樹たちが笑顔を向ける。
「ご馳走様、美味しかったわよ」
「ジャングルの中にある町にしては旨かったぜ」
礼を言う秀樹と菜穗の隣で栄二がスギナに視線を向ける。
「それよりもスギナちゃんがあんなに沢山食べるなんて思ってなかったよ」
驚くのも無理はないスギナは大食らいだ。
獣人のラグよりも沢山食べたのだ。
小さな体の何処に入るのか不思議である。
「そだぞ、あたいよりいっぱい食ったぞ、ちびっ子なのに吃驚だぞ」
流石のラグも驚いている。
「えへへっ、儂は旨いものには目がないのじゃ、それで始めに貰った金も百万ギギル残して使ってしまっての、困っておった所じゃった」
恥ずかしそうに笑うスギナを見て恒夫が微笑む、
「これからは金を気にせず好きなだけ食べていいぜ、んじゃ俺はカジノへ行って来るからな、約束通り奢ったし後はお前ら好きにしろ」
じゃあと手を上げる恒夫の隣りにラグが並ぶ、
「そだぞ、あたいは恒夫と一緒に稼いでくるからな、ちびっ子は帰ってお留守番してろ」
恒夫がバッと横を向く、
「いや、ラグも帰って留守番してろ、稼ぐんじゃなくて邪魔だからな、スギナちゃんがいるから寂しくないだろ」
「にゃはははっ、ツネは冗談旨いぞ、ギャンブラーの血が騒ぐぞ、腹ごなしに一稼ぎするぞ」
「わくわくするのぅ、カジノは行った事が無いからのぅ」
大笑いするラグの向かいでスギナも行く気満々だ。
恒夫がガクッと肩を落とす。
「わかった。ラグとスギナちゃんはレートの低いゲームで遊んでくれ、その間に俺が何とか稼ぐからさ、ラグはスギナちゃんにゲームのやり方教えてやってくれよ」
力無く歩き出す恒夫の両脇からラグとスギナが腕を取って抱き付いた。
秀樹が帰ろうと歩き出す。
「じゃあ俺たちは宿で休むとするか」
栄二と菜穗が恒夫の背に言葉を掛ける。
「恒夫、お土産楽しみに待ってるからね」
「そうね、今度はいつ一緒になれるかわからないからね」
恒夫がバッと振り返った。
「お前らなぁ~~、サバイバルイベント始まる前に二千万ギギルやっただろが」
帰ろうとした秀樹が前に向き直る。
「そうだっけ? 忘れたな、魔法銃の弾を奢ってくれるって約束は覚えてるけどな」
恒夫が薄い頭をクシャクシャと掻き毟る。
「くそ~~、人が気を利かせてやれば……わかった。弾は奢ってやる。50発もあれば充分だろ金は余分に稼げれば分けてやる。それでいいだろ、だから仲間に戻れとか誘うな」
ラグとスギナを引き連れて恒夫が怒りながら歩いて行った。
翌日、恒夫がカジノで稼いだ金で魔法銃の弾などの補給をしに行く、
「栄二の魔法銃の弾40発に俺の分30発、合計70発で七百万ギギル、それにスギナちゃんに中級魔法を防ぐ魔法の鎧が六百万ギギル、秀樹と栄二も中級魔法を防ぐ魔法の鎧が四百万ギギルずつ、全部で二千百万ギギルだ」
ぶつくさ言いながら計算する恒夫の肩を秀樹がポンッと叩く、
「サンキューな、これで安心して戦えるぜ」
「そうだね、魔法の弾が54発もあれば充分だよ」
隣で栄二もニコニコ笑顔だ。
「あとは薬に食料と水ね、それと夕食は豪勢に行きましょうよ、頼んだわよ恒夫くん」
菜穗がこれでもかという可愛い笑みを見せた。
「昼飯だけでなく晩飯もかよ…… 」
嫌そうな顔の恒夫の肩をまた秀樹が叩く、
「食い放題奢るって約束だろ、この休みは全部恒夫の奢りだぜ」
「悪いとは思うけど、僕たちと一緒の休みになったのは運の尽きだと思ってよ」
少しも悪いと思っていないニコニコ顔のままで栄二が言った。
二人を睨んで恒夫が愚痴る。
「飯と魔法銃の弾は約束したから仕方ないけど、スギナちゃんは仲間だから当然としてお前らまで魔法の鎧買わせやがって…… 」
スギナが買った魔法の鎧は中級魔法を6回防ぐ事のできるもので上級魔法を防ぐラグの鎧のように特殊な繊維に対魔の術を織り込んであるものだ。
鎧と名付けてあるがシャツのように薄くて軽いものである。
秀樹と栄二が買って貰ったのは中級魔法を3回防ぐ事のできるもので鎧帷子状のものだ。
スギナのものより格下である。
「そう言うなよ、チームに戻らないが協力はするって言ってただろ? 」
ニヤつく秀樹の向かいで恒夫が疲れたように息を吐いた。
「協力はしてやるけどな、昨日の稼ぎを殆ど使ったんだぞ、手元に二百万しか残ってないからな」
ラグが恒夫の薄い頭をモシャモシャする。
「固い事言うにゃ、ギャンブラーツネの名が泣くぞ」
「そうじゃぞ、お主なら二百万あれば直ぐに増やせるじゃろ」
昨晩のカジノが気に入ったらしくスギナも楽しそうな笑顔だ。
一寸待てというように恒夫が手を伸ばす。
「いやいや、ラグはカジノで四百万ギギル負けただろ、スギナちゃんも百五十万ギギル負けたよね? 金が無くなったって貰いに来る二人がいなければ集中してもっと勝てたんだぜ」
「にゃははははっ、男が細かい事言うにゃ」
「イカサマサイコロを持っておるお主と違ってギャンブルは時の運じゃからな」
大笑いするラグととぼけ顔のスギナを見て恒夫が大きな溜息をついた。
「あぁ~~もうっ! わかった。何か旨いもの食べに行こう、旨いもの食べて嫌な事全部忘れてやるぜ」
「にゃひひひっ、それが一番だぞ、んじゃ食べに行くぞ」
ヤケになった恒夫を先頭にして夕食を食べに行く、その後で薬や携帯食などを買って宿で休んで休日が終わった。




