第七十六話
駆け寄る二人の前で恒夫が照れ臭そうに薄い頭を掻いている。
「恒夫大丈夫か? 不死身だっていっても毒は効くからね、動けなくなったら大変だよ」
「心配無い、もう少しでヘビのウンチになるところだったけどな」
心配そうに訊く栄二の向かいで恒夫が戯ける。
「ヘビに食われそうになっても大丈夫なんて流石不死身ね」
感心する菜穗の向かいでラグが不思議そうに口を開く、
「んにゃ? 恒夫は不死身じゃ…… 」
「わあぁ~~、止めろラグ! 」
本当の事を言おうとしたラグを恒夫が大慌てで止めた。
「どうしたの? そんなに慌てて? 」
菜穗が疑うようなじとーっとした目で見つめる。
「何でもない、もう大丈夫だ。毒消しが効いたよ、菜穗が毒アブラムシで倒れた時に使ったヤツだ。高いだけあってヘビの毒にも効果があったぜ」
恒夫が大丈夫だというようにその場で上半身を捻って軽く運動して見せた。
「ふ~ん、ならいいけど…… 」
「恒夫、作戦があるんだ」
まだ疑いの目を向ける菜穂の隣で栄二が逃げる作戦を説明した。
「逃げるのは俺も賛成だ。こんなとこでヘビと戦っても何の得にもならないからな」
「んじゃさっさと逃げるぞ、あたいの手でぶっ殺してやりたいとこだが菜穗が上級魔法で丸焼きにするならそれで勘弁してやるぞ」
恒夫の手を取ってラグが走り出す。
栄二が魔法銃の弾を普通の火薬の弾に詰め替える。
「菜穗さん用意はいいね」
「オッケー、猫娘やスギナちゃんだけに良い格好させないからね」
頷く菜穂を見て栄二が空に向かって銃を撃った。
バァン! 魔法の弾と違い普通の弾の音は大きくて派手だ。
「合図じゃ」
スギナと顔を見合わせると秀樹が頷く、
「スギナちゃん先に行ってくれ」
「了解じゃ」
駆けていくスギナを見送ると秀樹が魔法の杖を構えた。
「プラズマボール」
バチバチと青い雷光をあげる電気の塊が地面を覆う、大蛇が逃げるように砂に潜ったのを見て秀樹も走り出した。
暫くして砂から大蛇たちが出てくる。
秀樹たちが逃げたのがわかったのか直ぐに砂に潜ると追いかけてきた。
砂漠の砂が盛り上がりそれが秀樹たちに近付いてくる。
砂の中を潜って進むのが大蛇のやり方らしい。
秀樹とスギナが通り過ぎるのを確認した後で菜穗が魔法の杖を向けた。
「フラッシュオーバーファイヤー 」
魔法の杖から出た炎が一気に燃え広がっていく、多数の相手に使う面制圧用の上級魔法だ。
『シュシュー、シュッ、シュッ、シュシュシューー 』
大蛇が音を鳴らしながら砂から飛び出す。
出てくると同時に炎に包まれて燃えていく、慌てて潜った大蛇が砂にうねりを付けて悶え苦しんでいるのがわかる。
蒸し焼きになっているのだ。
砂の上では広がった炎の海で大蛇たちが燃えている。
「へへっ、私にかかったら大蛇もそこらのミミズと同じよ」
得意気に鼻を鳴らすと菜穗は秀樹たちを追って走って行った。
砂漠を抜けて草原に出ると3キロ先にゴールが見えた。
そこからは何の障害もなくゴールすると天使ヘカロとロロフィが飛んできた。
ヘカロが秀樹たちだけでなく恒夫やラグにスギナを見回す。
「上々の成績だ。まだ六人しかゴールしていない、一人は毒にやられて棄権した」
「皆さんポイントも中々ですよぉ~~、数々の困難をよく乗り越えましたねぇ、見てて面白かったですよ」
参加者の様子は全部見ていたらしい屈託の無い顔で笑うロロフィを見れば怒る気も無くす。
「ロロフィちゃんはいつも楽しそうでいいよな」
「でへへへっ、恒夫が毎回面白い事するから退屈しなくていいからねぇ」
恒夫の厭味にも動じない、と言うか厭味を言われたのに気付いていない。
「フフフッ、とにかくゴールおめでとう」
微笑むヘカロの向かいで恒夫が振り返ってジャングルを見つめた。
もう二度と行きたくない場所だ。
「十六人いたから先にゴールした六人と俺たち六人に棄権が一人、残り三人がまだジャングルの中にいるのか」
秀樹も同じように振り返ってジャングルを見つめる。
「猛獣はともかく、水の心配に毒虫、二度とごめんだな」
「体力的より精神的に疲れたよ、恒夫に蔓から水が取れるって聞いてなかったら川まで持たなかったよ」
栄二も同じ思いらしい、菜穗もうんざりした表情だ。
「あたいは結構楽しかったぞ、ツネの格好いいところも見れたからにゃ」
楽しそうに抱き付いてくるラグを恒夫が引き離す。
「くっつくな、俺は汗かきだから汗だくで服がべとついて気持悪いからな」
二人を見てロロフィがニヤッといやらしい顔になる。
「おぅおぅ、いつの間に仲良くなっちゃってぇ~~、もうエッチな事したのぉ~~ 」
「変な事なんかしてないからな! サバイバル中の行動見てたなら知ってるだろ、大体俺は年上のお姉様がタイプなんだからな、まったくロロフィちゃんは変な事ばっかり言うんだからな」
ラグにキスされた事を思い出したのか恒夫が真っ赤になって怒鳴った。
「でへへへへっ、ほんとかなぁ~~、なぁ~んにも無かったのかなぁ~~ 」
ロロフィが厭らしい表情のままで恒夫の頬を突っついた。
サバイバルの点数を付けるために全参加者を監視していたのだ。
キスの事も当然知っているはずである。
「いや、だからさ……ヘカロさん助けてよ」
恒夫に泣きつかれてヘカロが助け船を出す。
「ロロフィその辺にしておけ、ポイントが決まったみたいだよ」
ヘカロが指差す先からこのイベントを仕切る天使が飛んできた。
「おめでとう、君たちが掛かった時間は一日と十七時間だ。一日と七時間早くクリア出来た。一時間5ポイントなので各155ポイントにそれぞれのサバイバル能力点を加える」
恒夫は200ポイント貰い今までの分と足して390ポイントとなる。
ラグは180ポイント貰って足すと380だ。
スギナも180貰って合計480となる。流石Aクラスだ。
秀樹たちは170ポイント貰って各自280ポイントとなった。
「やったぁ、170ポイントも貰えるなんて思ってなかったわよ」
「だな、決闘イベントじゃないから100ポイントくらいだと思ってたぜ」
「やったね、ヘビ退治で魔法の弾殆ど使っちゃったけど170ポイント貰ったら満足だよ」
大喜びする三人をチラッと見ると恒夫がロロフィに向き直る。
「今日の残りと明日一日は休みでしょ? 近くに町があったら送ってくれ、ジャングルと砂漠で汗かいて物凄く気持悪い、飯も缶詰と乾燥肉ばかりだし、シャワー浴びて旨いもの食ってベッドでゆっくり眠りたいよ」
「そうだぞ、肉食い放題の約束だぞ、シャワー浴びたら直ぐに食い放題行くぞ」
思い出したのかラグも身を乗り出してロロフィを見つめる。
横からヘカロが口を出す。
「町へは私が送るよ、ジャングルを開いてできた小さな町だが一通りの設備は揃っているからゆっくりと休めるだろう」
天使がゲーム内で空間魔法を使える距離は決まっている。
その範囲内なら町や村へ送って貰うことが可能だ。
常時大きな町へ行けるのなら魔法アイテムや薬など簡単に手に入れることが出来る。
それでは何の緊張感も生まれないので空間魔法を使える範囲を決めてある。
各参加者が計画的にアイテムや薬などを入手することも重要な要素ということだ。
「魔法の弾の補充もできそうだな、じゃあ町まで送ってください」
恒夫が秀樹たちに振り返る。
「秀樹たちも行くだろ? 」
「当たり前だ。ジャングルに居ても仕方無いしな」
即答する秀樹の隣で栄二がニヤッと笑いながら口を開く、
「僕たちにも食べ放題奢ってくれる約束だよね」
「おぅ、そうだった。ついでに魔法の弾の補給も頼んだぜ、恒夫がヘビにやられてる間俺たちが戦ったんだからな」
「高級ホテルにも泊まってみたいなぁ、それも頼むわよ」
秀樹と並んでおねだりする菜穗に恒夫が嫌そうな顔を向ける。
「イベント前に金渡しただろが、高級ホテルは自分たちでやれ、飯と魔法の弾は俺が奢ってやる。手元に五百万ギギルあるからカジノが無くてもどうにかなるからな」
言い終わると恒夫がスギナに向き直る。
「と言うわけだからさ、スギナちゃんも付き合ってよ、奢るって約束したからさ、みんなで飯食おうよ」
秀樹たちを出汁にスギナと話しをする機会を持つつもりだ。
恒夫の顔をスギナがじっと見上げる。
「お主何故五百万も持っておるのじゃ? 」
「悪い事はしてないぜ、イカサマサイコロを使ったんだ」
恒夫が神様に貰ったイカサマサイコロを使ってカジノで稼いだ事を説明した。
「成る程のぅ、お主と居れば金には困らんと言う事じゃな」
「一緒に居ればって…… 」
恒夫がバッと身を乗り出す。
「困らせない! 俺と一緒に居てくれるのなら金には絶対不自由させない約束する。だから………… 」
期待顔で見つめる恒夫の前でスギナが考えるように俯いた。
暫くしてスギナが顔を上げる。
「そうじゃな、お主は普通の人間じゃと思っておったが中々やりおる。助けて貰った恩もあるしの、儂でよければ協力するぞ、恒夫とラグとなら良いチームが組めそうじゃからな」
恒夫がギュッとスギナの両肩を掴んだ。
「本当か? こっちから頼もうと思ってたところだ。勿論喜んでチームを組むよ、スギナちゃんがいればマジで勝てるよ」
嬉しさで声が1オクターブ高くなっている。
恒夫の肩が後ろからポンポンと叩かれた。
「んじゃ、あたいがリーダーだぞ、ちびっ子もわかったにゃ」
振り返るとニコニコ顔のラグがいた。
「ちょっ……リーダーってラグがか? 勝手に決めるなよ、俺はいいけど…… 」
「にゃんか文句あるのか? ツネはあたいの家来だぞ、ちびっ子は小さいぞ、だからリーダーはあたいしか居ないぞ」
「小さいって失礼だぞ、大体スギナちゃんは俺たちよりずっと年上なんだぞ」
「にゃんか文句あるのか? あたいの言う事が聞けないってのか? 」
ムッとした顔で爪を伸ばすラグを見て恒夫が弱り顔でスギナに振り向く、
「儂は文句ないぞ、ラグがリーダーじゃ、ラグなら立派なリーダーになってくれるじゃろう」
悪戯っ子のように笑いながらスギナが言った。
「スギナちゃん、ラグが調子に乗るからさ…… 」
弱り顔の恒夫の薄い頭をラグがモシャモシャと触る。
「文句あるなら毛を全部引っこ抜くからにゃ」
「 ……文句ありません、モシャモシャは勘弁してください」
怖い目で睨むラグを見て恒夫がガクッと項垂れた。
秀樹が前に出てくる。
「スギナちゃんが恒夫のチームに入るのかよ」
「Aクラスでしょ? 恒夫くんじゃなくて私たちのチームに入ってよ」
羨ましそうに見つめながら菜穗が言った。
「六人までチームが組めるんだよ、恒夫と合流したら丁度六人だよ」
栄二は期待顔で恒夫を見つめている。
「お前らなぁ…… 」
何か言おうとした恒夫の肩をヘカロがポンッと叩く、
「続きは町でゆっくりしてくれ、私は他にも仕事があるんでね」
ヘカロが天使の羽を広げた。
ロロフィも羽を広げると空へと登っていく、
「んじゃバイバァ~~イ」
「バイバイじゃないだろ、ロロフィちゃんは俺たちの担当天使なんだからな」
「でへへへへっ、わかってるわよ、ちゃんとするから心配無いわよ、じゃあね」
空高く登るとロロフィの姿がパッと消えた。
「まったく……心配しなくていい、あれでもやる事はやる娘だからね」
溜息をつくとヘカロの立つ地面が白く輝き始めた。
「では行こうか」
秀樹たち六人が白い光に包まれていく、ヘカロの空間魔法だ。




