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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
72/158

第七十二話 

 食器や鍋を汲んでおいた川の水で洗うと筏を見に行った。


「マジで凄いな、スギナちゃん一人で作ったなんて信じられないぜ」


 恒夫が感嘆の声を上げる。

 目の前に全長7メートルほどの船があった。

 平たい筏ではない、渓流渡りに使うような船だ。

 幼女のようなスギナが一人で作ったとは思えない立派な船だ。

 時間は恒夫とラグが食事を作っていた30分程しか掛かっていない。


 驚く恒夫を見てスギナがペッタンコの胸を張る。


「この程度、儂の力を持ってすれば造作も無い」

「いやいや、凄いよ、飯作ってる間どころか俺なら三日掛かっても無理だぜ」

「植物の事なら任せておけ、ジャングルなど儂の庭みたいなものじゃからな」

「本当凄いよ、これなら安心して川を渡れるぜ」


 凄いという言葉しか出てこない、正直言って恒夫も大ワニにビビっていた。

 自分で作った筏で渡れるのか不安しか無かった。

 大ワニに川に引きずり込まれたら対処のしようがない、最悪ギブして助けて貰う事になっていたかも知れない、それが目の前の船を見て全て払拭された。


「この船ならあたいも安心だぞ」


 ラグが意地悪顔で恒夫に振り向く、


「ツネが不味いパスタ作ってる間にちびっ子はこれ作ったんだぞ、あたいのスープと同じで100点満点だぞ」

「へいへい、どうせ俺は30点ですよ」


 厭そうに言った後、恒夫がスギナに向き直る。


「それじゃあ早速川を渡ろうぜ、川まで運んでくれスギナちゃん」

「了解じゃ」


 スギナが船に片手を向けた。

 小さな掌から植物の細い蔓が伸びて船に突き刺さる。


操蔓そうづる! 」


 術を唱えると同時に船が持ち上がっていく、


「おおぅ、凄いにゃ、船に足が生えたぞ」

「足って言うより根っこだな、あれで歩くのか、凄いな」


 幼女にしか見えないけどAクラスは伊達じゃないな、スギナちゃんを仲間にできればマジで勝ちが狙えるぜ……、驚くラグの隣で恒夫がマジ顔だ。


「その気になれば100メートル四方の植物全て操れるぞ、植物に関しては神に負けんくらいの自信はあるのじゃ」


 スギナが可愛いドヤ顔を見せた。

 恒夫のマジ顔を驚いていると思った様子だ。


「うん、凄いよ、スギナちゃんは本当に凄い、だから………… 」


 仲間になって貰おうと恒夫が話を切り出そうとした時、30メートルほど離れた下流の岸で爆音が聞こえた。


 ラグが一番に反応する。


「んにゃ! 魔法だぞ」


 マジ顔で恒夫に振り向く、


「この匂いはツネの友達だぞ、秀樹って言ったか? あいつらだぞ」

「秀樹か…… 」


 険しい顔で考え込む恒夫をスギナが見上げる。


「スタート地点に居った人間じゃな、恒夫の友達じゃな」

「どうすんだ? 大ワニと戦ってるぞ」


 ラグもじっと見つめている。


「あいつらなら大丈夫だ。菜穗って女は上級魔法使いだぜ、秀樹も中級魔法が使える。頭の良い栄二もついてるし自分たちで何とかするだろ」


 秀樹も栄二も不死身だしどうにかなるだろう、筏くらい作れるだろう……、

 考えていた恒夫がバッと顔を上げる。


「スギナちゃん頼みがあるんだが…… 」

「何じゃ? 」

「あいつらも一緒に船に乗せてくれないか? この船ならあと三人くらい余裕だろ、頼むよ」


 マジ顔で頼む恒夫の向かいでスギナがフフンと鼻を鳴らす。


「何を言っておる。三人どころか十人乗っても平気じゃぞ」


 とぼけるように言った後でスギナが鋭い目を恒夫に向けた。


「じゃが敵は別じゃ、予選通過は40名だけじゃぞ、周りは皆敵じゃろ? 」


 恒夫がバッと身を乗り出す。


「敵じゃない! 秀樹も栄二も敵なんかじゃない、俺が勝手にチームを離れたんだ……このゲームはなあなあで勝てるほど甘くはない、そう思ったから……俺自身の甘さもどうにかしたかったし、勝つために強い仲間が必要だと思ったから…………頼むから一緒に船に乗せてやってくれ」


 恒夫が頭を下げた。

 スギナがポンッと頭を叩く、


「合格じゃ、やはりお主はいいヤツじゃな、友を見捨てるようなら儂もこの場で別れておる」


 恒夫が照れ臭そうに顔を上げる。


「スギナちゃん、ありがとう……俺はいいヤツなんかじゃないヘンタイだ。俺もバカだがあいつらもバカだし、頑丈な筏なんて作れないだろうからさ、だから川を渡るのだけ手を貸してやろうと思っただけだ」


 ラグが恒夫の背をバンバン叩く、


「にゃははははっ、そんな事言って心配だって顔に出てるぞ、そっか、ツネは心配性でハゲたんだぞ」

「ハゲじゃねぇ、薄いだけだからな、まだ望みは捨ててないからな」


 ドォオォ~~ン、恒夫の怒鳴り声を大きな爆発音が遮る。


「んにゃ!? まだ逃げてないぞ、何やってんだ? 大ワニと戦ってるんか? 」


 ピンッと猫耳を立てるラグの腕を恒夫が掴む、


「何やってんだあいつら! ラグ行くぞ」


 駆け出そうとする恒夫の手をラグが振り払う、


「行ってもいいけどツネが戦うんだぞ、ワニはヤダからにゃ、あたいは遠くから援護するだけだからな、川には近付かないからにゃ」

「わかった。わかったから一緒に来てくれ、俺一人じゃ無理だからな」

「仕方無いにゃぁ~~、ツネはあたいが居なきゃダメだからにゃぁ」


 走り出す二人の背にスギナが声を掛ける。


「お主ら二人で充分じゃろ、儂は船を川に運んでおく」

「ああ頼んだよ、あいつら連れてきたらそのまま直ぐに川を渡ろう」


 恒夫が振返って手を振ると直ぐにラグと一緒に駆けていった。



 駆け付けると栄二が魔法銃で大ワニと戦っているのが見えた。

 魔法銃の弾を入れ替えている栄二の左に大きな水柱が立つ、


「危ねぇ! 」


 恒夫の魔法銃が火を噴く、水柱から飛び出てきた大ワニがバチバチと青く光って仰向けに倒れていった。

 電気魔法の弾であるデン弾だ。


「恒夫! 」


 気付いた栄二が大声だ。


「何やってんだ? 何で栄二が一人で戦ってんだよ」


 恒夫とラグが駆け寄る。


「にゃんだ? 向こうに二人居るぞ」


 ラグが指差す先に倒れた菜穗を介抱している秀樹が居た。


「何があった栄二? 」

「菜穗さんが毒虫に刺されたらしいんだ。それで倒れて秀樹が治療魔法を掛けてて動けないから僕が戦ってるんだ」


 必死で戦っていたのだろう栄二はマジ顔だ。


「毒虫……スギナちゃんが噛まれた毒アブラムシだな」


 話している間にも大ワニが次々に襲ってくる。


「プラズマボール、連射だぞ」


 大ワニが怖いのかラグが見ずに魔法を連続で使う、連射すれば狙わなくても当たると考えたのだろう、当てずっぽうだが大ワニを牽制するには充分だ。


「毒か……ラグはここで援護頼んだぞ」


 恒夫が秀樹の元へと駆けていく、


「その女は俺に任せろ、秀樹は大ワニを頼む、ラグと交代してやってくれ」

「恒夫、来てくれたのか、助かったぜ」


 秀樹の強張った顔に安堵が浮ぶ、


「菜穗は俺に任せてお前は大ワニを倒しにいけ、トカゲ嫌いのラグと交代してくれ」

「任せろって治癒できるのかよ? 」

「ゴチャゴチャ言ってる暇無いだろが! 俺に任せろ!! 」


 怪訝な顔をする秀樹に恒夫が怒鳴った。


「わかった。任せるぜ」


 恒夫のマジ顔を見て秀樹は任せると栄二の所へと走って行った。

 入れ替わりにラグが跳ねるようにしてやってくる。


「呼んだか? その女運ぶのか? 」

「いや、ここで治療する。俺の力を見せてやるよ」


 不思議そうに訊くラグを見て恒夫がニヤッと意地悪顔で笑った。


「治癒能力……神に貰ったけど初めて使うぜ」


 ぐったりしている菜穗の脇にしゃがむと恒夫は額と毒アブラムシに噛まれたらしい首筋に手を当てた。


「集中して気を注ぐ、俺の力を分け与える感じだ」


 目を閉じると確認するように呟いた。


「なっにゃんにゃ? ツネが光ってるぞ」


 ラグが驚くのも無理はない、恒夫の全身がぼうっと白く光っている。


「何にゃんだツネ? 」

「手から気を注ぐ感じだ」


 ラグにこたえずに恒夫は目を閉じたまま掌に気を集中した。

 全身を覆っていた白い光が手に集まっていく、一瞬眩しく光ったと思うと菜穗の体に吸い込まれるようにして消えた。


 直ぐに菜穗が目を覚ます。


「うっ、ううぅ……ここは………… 」


 辺りを見回すとバッと上半身を起こした。


「いやっ! 嫌ぁあぁ~~、私死にたくない、こんなとこで………… 」


 叫ぶ菜穗の頭を恒夫がポンッと叩く、


「落ち着けよ、もう大丈夫だ。ワニも秀樹たちが倒したぜ」


 恒夫を見つめながら菜穂が記憶を手繰っていく、


「恒夫くん……どうして? 私……そうだチクってして体が痺れたんだ。それで……そっから先は覚えてない………… 」

「毒アブラムシに刺されたんだ。死ぬ事は無いが獣人でも丸一日痺れて動けなくなるほどの毒だ。人間なら気を失ってもおかしくない、俺が毒消しを持ってたんで助けてやったんだ」


 戸惑う菜穗に恒夫が説明した。

 毒消しを持っていたというのは嘘だ。

 神様に貰った治癒能力を使って助けたのだ。


「そうだったの……ありがとう、秀樹くんと栄二くんは? 」

「向こうでワニ退治してるぜ」


 菜穗が振返ると魔法の爆発が見えた。

 秀樹と栄二の二人掛かりでも倒せないほどにワニはうようよいるらしい。


「動けるなら秀樹と栄二に一旦逃げるように言ってきてくれ」

「わかったわ」


 頷くと菜穗が立ち上がって秀樹たちの元へと駆けていった。


「完全に治ってるみたいだな、治癒能力、使えるみたいだ」


 しゃがんだままで恒夫が自分の手を見つめた。

 恒夫の頭をモシャモシャしながらラグが不思議そうに口を開く、


「毒消しなんて持ってたんだな、でも何で体光ったんだ」

「毒消しってのは嘘だ。俺は神様に治癒能力を貰ったんだ。それを使っただけさ」

「うにゅ? 何で嘘ついたんだ? 」


 怪訝な顔をするラグを恒夫が見上げる。


「敵じゃないが別チームのヤツに自分の力を教えるなんてダメだろ、だから嘘をついたんだ。ラグに言ったのは同じチームだし、あいつらよりずっと信用してるからだぜ」

「ふにゃ? あたいを信用してる。人間の友達よりもか、本当か? 」


 ラグの顔が嬉しそうに緩んでいった。


「ああ、本当だ。だから本当の事を話したんだろ、ラグはあいつらよりも大事な仲間だ」


 ラグがバッと抱き付く、


「にゃははははっ、あたいが好きなんだにゃ、仕方無いにゃぁ~~、そんなに好きなら彼女になってやんぞ」


 ラグの爆乳が恒夫の顔を包み込んだ。


「うおぅ…… 」


 一瞬吃驚したが直ぐに黙り込む、ラグのおっぱいは物凄く柔らかで温かくて気持ち良かった。

 このまま胸に顔を埋めていたいと思ったが恒夫は直ぐにラグを引き離す。


「秀樹たちは……よかった。こんなとこ見られたら何言われるか………… 」


 秀樹や栄二に見られていないのを確認すると恒夫が立ち上がる。


「おぅっと、体がふらつく、魔法と同じように気力を使うって事か」


 倒れそうになった恒夫の頭をラグのおっぱいが包み込んだ。


「にゅひひひっ、彼女だからなツネのしたいようにしていいんだぞ」

「ちっ、違うから、ふらついただけだからな」


 悪戯っぽく笑うラグに真っ赤な顔をした恒夫が必死に言い訳だ。


「にゃははははっ、照れるにゃよ、もうラブラブなんだからにゃ、恋人同士だぞ」

「てっ照れてねぇから、そんな事よりワニに襲われる前に逃げるぞ」


 話を変えようと必死に言った恒夫の言葉でラグの顔が青くなっていく、


「ワニ……そうにゃ、ここはワニがウジャウジャいるにゃ、あたいトカゲ大嫌いにゃ、早く逃げるぞ」


 恒夫の腕を引っ張るようにしてラグが走り出す。


 川から離れた所で秀樹たちが呼ぶ声が聞こえてくる。


「恒夫ぉ~、こっちだよ」

「恒夫、こっちだ。こっちに来てくれ」


 栄二と秀樹が大声を出しながら手を振るのが見えた。

 ラグは直ぐに気付くと方向転換して恒夫と共に走って行った。


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