第七十話
暫く歩いて川岸へと着いた。
ここから川沿いに上流へと向かう。
猛獣から逃げながら進んでいたのでゴールへの最短距離から離れた下流の川岸だ。
上流へ行ってから渡らないと流されて更にコースから離れてしまう。
バカ話をしながら上流へと向かって歩き出す。
「高い木が無くて歩きやすいぞ」
「雨期か何かで水嵩が増して洪水みたいになって木は流されたりするんじゃないかな、それとも今は乾期でここは本来川だから大きな木は生えないのかもな」
「ふ~~ん、よく知ってるにゃ」
感心した様子で鼻を鳴らすラグを見て恒夫がニヤッと笑う、
「当てずっぽうだぜ」
「また当てずっぽうだぞ、今までの全部当てずっぽうだぞ」
「全部じゃねぇ、どんだけ適当なんだ俺は」
「頭の毛も当てずっぽうで生えてるし、ほんと仕方ないにゃ」
ラグがニヤッとやり返す。
「どんな頭だ。当てずっぽうで生えてるんじゃねぇ、どっちかって言うと当てずっぽうで抜けていったって感じだぜ」
「仕方無いモシャ頭だにゃ、当てずっぽうのハゲずっぽうだぞ」
立ち止まったラグが振り返って恒夫の薄い頭をモシャモシャ触り始めた。
「モシャ頭って言うな、っていうかモシャモシャ触るな」
「何言ってんだ。モシャ頭いつでも触れるから仲間になってやったんだぞ、ゲーム終わるまでモシャモシャして最後にツルツルにしてやんぞ」
「頼むからツルツルだけは止めてくれ」
頭を触るラグの後ろ、川岸に生えている葦のような草が不自然に揺れるのが見えた。
岸を埋めるように生えている草の一部、ラグの後ろだけが揺れている。
「危ない!! 」
咄嗟にラグの手を掴むと恒夫は前に走り出す。
「にゃっ、にゃんだ!? 」
叫ぶラグの後ろ、川岸の葦を押し退けるようにして巨大なワニのような爬虫類がガバッと顔を覗かせた。
「うにゃにゃぁあぁぁ~~ 」
巨大ワニを見た瞬間にラグが恒夫を置いて逃げ出した。
「逃げるな、魔法で退治してくれ」
「あたいトカゲはダメだぞ、見るのも嫌だぞ、トカゲで大丈夫なのはリザードマンくらいだぞ」
慌てて後を追うが獣人のラグにはとても追い付かない。
幸いなことに巨大ワニは追ってこなかった。
普通のワニなら陸上でも素早く走れるが10メートル近い大ワニだ。
水中ならともかく陸上では重くて走るのは苦手らしい。
50メートルほど走った先の大木の上にラグがいた。
「あんなにデカいトカゲがいるなんて冗談じゃないにゃ、あんな川怖くて近寄れないぞ、筏で渡るなんて無理だぞ」
木にしがみつきながらラグが青い顔で震えている。
走ってきた恒夫が息を整えながらその場に座り込む、
「トカゲじゃないワニだ。けど確かにデカ過ぎる。小さい筏だと本当に食われるな、デカい筏を作るなんて一日じゃ無理だぞ」
「ギブアップだぞ、0ポイントでいいぞ、トカゲに食われて死にたくないぞ」
「だからワニだって……そんなに苦手なのか? 」
走って喉が渇いたのか恒夫が水筒を出すとラグがくれというように手を伸ばした。
「小さい頃に大トカゲに食われそうになったんだぞ、腰まで呑まれてたのを助けられたんだぞ、近くに大人がいなかったら食われて死んでたにゃ、小さいトカゲも見るだけで嫌だぞ、トカゲで大丈夫なのはリザードマンくらいだぞ」
本当に苦手らしい、水筒を奪うように取ると水をゴクゴク飲み出した。
恐怖で喉が渇いているのだろう。
「あんなにデカいトカゲがうようよいる川なんてダメだぞ、ギブアップするぞ」
強張った顔のラグが水筒を差し出す。
間接キスか……、ラグの顔をチラッと見てから恒夫が水筒に口を付ける。
何も意識していないラグを見て少し残念だと思った。
「トラウマは自分で克服するしかないぜ、魔法だって使えるんだ。今のラグなら大丈夫だろ、素手で大熊を倒せるんだからな」
「勝てるとかじゃないぞ、トカゲ見ると体が竦むんだぞ」
震えるラグの前で恒夫が顔を顰める。
「こんな所でギブなんてしてたまるかよ、ワニは俺が魔法銃で倒すから筏作って川渡ろうぜ」
「何言ってんだ? 水の中で襲われたらどうすんだ? 沢山いたらツネの銃だけじゃ無理だぞ、食われて死ぬぞ、あたいはギブするからにゃ」
戦意喪失しているラグを恒夫がじっと見つめる。
「勝って魔法使いになるんだろ? 俺と一緒に色んな世界に行くんだろ? だったらこんなイベントクリア出来なくて勝てるわけないだろ」
「ワニがいなかったら勝てるぞ、トカゲ以外ならどんな化け物でも戦ってやんぞ、でもトカゲだけは怖いんだぞ」
マジ顔で睨むラグの向かいで恒夫がフッと表情を緩ませた。
「俺も怖いよ、ワニだけじゃなくてジャングルの中にいた猛獣も全部怖かった。ラグがいなければトラか熊に襲われて死んでたよ……だからラグをこんな所でギブさせたくない、ワニは大丈夫だ。俺がいた世界のワニと同じなら自分より体の大きな獲物を襲うことは滅多にない、ワニは目がいいんだ。大きな筏を作れば大丈夫だ。俺たちが乗るところだけしっかり作って後は葦で大きく見せればいい、それなら一日で作れるよ」
睨んでいたラグの目が優しく変わっていく、
「ツネ……あたいもツネがいなければ死んでたにゃ、魔族の時も、さっきのワニだって気配感じなかったぞ、それをツネが助けてくれたにゃ、だから信じて頑張るぞ」
ラグがはにかむように微笑んだ。
その時、川辺で大きな水音が聞こえた。
「なん!? 誰か襲われてるのか? 」
「止めるにゃ、危ないぞ、デカいワニがいるぞ、今のうちに先に進むぞ」
走り出そうとした恒夫をラグが止めた。
「力のある獣人なら筏を作るのに役に立つ、このイベントはポイントを分けるものじゃないから力を合わせてクリアすることを考えたほうがいい」
「他の奴らなどほっとくにゃ! 」
走って行く恒夫の背にラグが叫ぶように声を掛けた。
「 ……ツネはあたいだけを大事にしてくれればいいんだぞ」
追って行こうか迷っていたラグが走り出す。
恒夫が向かう川辺で大きな水柱が上がった。
「体さえ自由に動けばこんな奴らなどに…… 」
女の声が聞こえてくる。
聞き覚えのある声に辺りを警戒しながら恒夫が近付く、どこから大ワニが襲ってくるか分からない。
「スギナちゃん! 」
地面に横たわったスギナが木の蔓を伸ばして大ワニと戦っていた。
1匹のワニを木の蔓がグルグル巻きにしていた。
その後ろ、濁った川に水柱が立つ、
「危ない!! 」
恒夫が魔法の銃を躊躇なくぶっ放す。
水柱の中から飛び出してきた大ワニに魔法の弾が当たってワニが炎に包まれる。
炎魔法のヒ弾だ。
川に落ちても消えずに大ワニを焼いていく、大ワニが尻尾を使って立ち泳ぎをしてジャンプしながら襲ってくるのが水柱に見えたのだ。
単発式の銃の弾を入れ替えながら倒れているスギナに駆け寄る。
「大丈夫か? 動けないのか? 」
また水柱が立った。
恒夫がまた魔法の銃をぶっ放す。
青い雷光を上げた大ワニが川に浮かんで流されていく、先程の炎の魔法に続けて今度は電気魔法のデン弾だ。
「お主は……すまん、毒アブラムシにやられて痺れて動けん」
「話しは後だよ」
恒夫はスギナを抱きかかえた。お姫様抱っこだ。
「デカいトカゲがいっぱいだぞ……ワニって言ってたにゃ、あんなのがいっぱい居る川なんてあたいヤだぞ」
川に浮んで流されていく大ワニを見てブルッと震えるとラグが恒夫に駆け寄っていく、
また水柱が立つ、二つ同時だ。つまり大ワニが2匹同時に襲ってくる。
「プラズマボール、ダブルだぞ」
ラグが振り向きもせずに魔法を使う、ワニを見るのも嫌なのだ。
青く光る電気魔法のプラズマボールがぶち当たって2匹の大ワニは水しぶきを上げて倒れると川に流されていった。
「ラグか、サンキューな、やればできるじゃないか」
スギナを抱えた恒夫が川から離れていく、
「やりたくてやってんじゃないにゃ、ツネが行くからだぞ、もうヤケだぞ」
川に向かってラグが両手を伸ばす。
「プラズマボール、連発だぞ」
プラズマボールを幾つも飛ばして牽制するとラグも走って逃げていった。




