第六十六話
鬱蒼としたジャングルだ。
5メートル入っただけで辺りは夕方のように薄暗くなる。
「マジでジャングルだな」
「上着着たほうがいいよ」
栄二が背負っていた鞄から作業着のような服を出す。
装備の一つとして町で買ったものだ。
後ろで菜穗も作業着を出して今着ている服の上から着始める。
「こんな服が役に立つとは思わなかったわよ」
「前のゲームでダンジョンやったからな、栄二に言われて買っておいて良かったぜ」
一番後ろで秀樹も同じように服を着ている。
「半袖じゃ草とか虫とかヤバいからね、ジャングルでサバイバルするとは思わなかったけど、虫除けの薬草も買っといてよかったよ」
「虫除けは寝る時に使えそうだな、じゃあ行くか」
三人並んで歩き出す。
栄二が前で菜穗が真ん中、秀樹は一番後ろだ。
戦う武器は魔法銃しか持っていないが不死身の栄二が1番前を歩き、何かあれば上級魔法使いの菜穗が援護する。
後ろから襲われても大丈夫なように不死身の秀樹が最後尾だ。
不死身能力を持たない菜穗を守る隊列である。
獣道を歩きながら時々立ち止まってマップを確認する。
「恒夫居ないね」
「おかしいな、あいつがこんなに足速いわけないんだがな」
栄二の広げるマップを見ながら秀樹も首を傾げる。
マップは方向と距離に地形はゴールの前に川が描いてあるだけで後は緑のジャングルという大雑把な物である。
スタート前に渡されたのはマップとコンパスだけだ。
水や食料などは各自で調達しなければならない、秀樹たちは食料は少し持っている。
食い繋げれば三日は持つだろう、問題は水だ。
秀樹が2リットルで栄二と菜穗は1リットルずつだ。
これでは一日半しか持たない、逆に考えれば水さえ確保できればサバイバルはクリアしたも同然だ。
上級魔法の使える菜穗と中級魔法の使える秀樹がいれば猛獣など怖くはない、虫や植物の毒には町で買った薬草がある。
何より秀樹と栄二は不死身能力を持っている。
菜穗だけ気を付けていればどうにかなるだろう。
「別の道行ってるんじゃないの? 」
菜穗が水筒の水を飲み出した。
「水は大事にしろ、必要以上に飲むなよ」
「わかってるわよ、一口飲んだだけよ」
水筒を仕舞った菜穂に秀樹が続ける。
「恒夫は遠回りなんてしないぜ、面倒なのはしないヤツだ」
「そうだよね、楽しようって考えるタイプだから僕も真っ直ぐこの道を行ったと思うよ」
「だったら何で居ないのよ? 気配さえしないわよ」
突っ掛かる菜穗の前で秀樹が頭を掻く、
「だから悩んでんじゃないか、恒夫のヤツどこかで隠れて見てんじゃないだろうな」
「僕もそれ考えて注意して歩いてたけど気配は感じなかったよ」
菜穗がポケットから飴玉を取りだして二人に渡す。
「走って行ったんじゃない? 」
言うと自分も飴玉を口に放り込んだ。
「ジャングルの中でか? 直ぐに転んで怪我するぜ」
同じ意見なのか秀樹の隣で栄二も頷いた。
「歩いてても木の根っこや草に足が引っ掛かるくらいだから走るのは無理だよ」
「だな、恒夫は走るの嫌いだしな」
秀樹が貰った飴玉を口に放り込む、
「じゃあ何処行ったのよ? 消えたの? 」
「わからん、先に行けば会えるだろ、ゴチャゴチャ行ってないで歩こうぜ」
「そうだね、恒夫がこの道を行ったならその内追い付くよ」
栄二も飴玉を口に含むとまた並んで歩き出す。
ドォオォ~~ン、暫く歩いていると大きな音が聞こえてきた。
「この感覚は魔法だわ、誰か戦ってるようね」
「近いな、猛獣に襲われてるのか参加者同士か…… 」
「そうか参加者同士が戦ったらダメってルールも無かったな、気を付けないとね」
栄二が腰に付けてある魔法銃を出して握り締めた。
「俺が先歩こうか? 」
「いや、秀樹は後ろを頼むよ、戦える二人が怪我したら全員ヤバくなるからね、前は僕に任せてよ、不死身だから心配無いよ」
気を利かせる秀樹に栄二が嬉しそうに言うと歩き出す。
いつも1番前を歩いていた恒夫が居ないので栄二が前になっていた。
5メートルほど進んだ先で栄二が止まった。
右の藪がガサガサと音を立てる。
何かいる! 三人が振り向くと同時に藪から獣が飛び出してきた。
「サーベルタイガーだ」
目の前で長い犬歯を口から出した猫科の大型獣が唸りをあげる。
「危ない!! 」
叫ぶと同時に栄二が菜穂を突き飛ばすようにして一緒に倒れた。
先程まで菜穂が立っていた場所にサーベルタイガーがバッと飛び跳ねて着地する。
「やったわね! 」
倒れたまま菜穂がサーベルタイガーに腕を向ける。
「プラズマボール」
牙を剥いて飛び掛かってきたサーベルタイガーにバチバチと青い雷光を上げる電気の塊がぶち当たる。
ニギャギャーッ、呻きを上げるとサーベルタイガーが遁走していった。
「大丈夫か? 」
一番後ろにいた秀樹が強張った顔で手を差し出す。
「うん、栄二くんが助けてくれたからね」
こたえながら菜穗が秀樹の手を取って立ち上がる。
「助けたなんて大袈裟だよ、それより突き飛ばしてごめんね、服汚れちゃったね」
隣で立ち上がると栄二が引き攣った顔で言った。
「服はいいわよ、その為の作業着でしょ、草がクッションになって怪我も無いし、あの場合は私だって突き飛ばすわよ、サーベルタイガーに噛まれるくらいなら泥とか怪我とか何でもないわよ、これからもその調子で頼んだわよ」
泥を払いながら言う菜穂は恐怖から早口になっていた。
行き成りサーベルタイガーに襲われたのだ。
本能的な恐怖を感じて顔が強張るのも当然だ。
恐怖で魔法を使うのが遅れた秀樹と違い菜穗は栄二に突き倒されたショックで正気に戻るのが早かった。
それで咄嗟に魔法を使う事ができたのである。
「全員無事で良かったぜ、それにしても菜穂の攻撃早かったな、倒れて直ぐに魔法使うから俺が手を出す暇も無かったぜ、流石上級魔法使いだ」
恐怖を紛らわせるためか、秀樹が戯けるように言った。
「電気魔法を使うなんて流石だね、炎だと火事になるかもしれないし、水だと逃げずにまた襲ってくるかも知れないからね」
栄二も落ち着いたのか普段の顔に戻っている。
「火だと殺しちゃうかも知れないからね、私猫好きだからね」
菜穗が笑いながら冗談を言うと栄二は苦笑いで返す。
「家で飼ってるから僕も猫好きだけどサーベルタイガーはごめんだよ」
「猛獣のいるジャングルか……あんなのがいるんじゃヤバいな、油断せずに慎重に行こうぜ」
マジ顔の秀樹を見て栄二が頷く、
「そうだね、もう少し間隔を広げて歩こう、僕が襲われたら僕ごと電気魔法を当てればいいからね、不死身だから死なないからさ、迷わず攻撃してくれ、低級魔法なら少し痺れるのを我慢すればいいだけだからさ」
「わかったわ、できるだけ栄二くんには当たらないように使うわよ」
確認するように互いの顔を見た後でまた歩き出す。
暫く進むと彼方此方から爆音や悲鳴が聞こえてくる。
他の参加者が猛獣と戦っているのだ。
参加者が倒したのだろう狼や熊に似た生物の死骸も幾つか転がっていた。
「生態系が無茶苦茶だ。大型の熊や狼は熱帯のジャングルにはいないはずだよ」
先頭の栄二が辺りを警戒しながら慎重に進む、一番後ろから秀樹が話し掛ける。
「出遅れたのは正解だったかもな、先の奴らが倒してくれてるぜ」
「本当ね、魔力を余分に使わないで助かるわ」
真ん中を歩く菜穗が倒れている猛獣にチラッと視線を送る。
「言葉のわかる獣人と違って猛獣はやっぱ怖いわね」
「昔から野生動物と戦ってきた人間には遺伝子的に恐怖が染みついているからね、低級魔法で倒せるとわかってても竦んじゃうんだよ」
芭蕉のような大きな葉を掻き分けながら進む栄二の足が止まる。
葉の向こう、少し開けた場所で熊のような死骸に犬のような動物が群がっていた。
音が聞こえたのか犬のような動物が三人を見つけて一斉に振り向く、次の瞬間、栄二が菜穂の腕を取って走り出す。
「ハイエナはサバンナだろ、何でこんな所にいるんだよ」
「何が出遅れたのは正解よ、いっぱいいるじゃない」
栄二の手を解くと菜穂が横に並んで走り出す。
足は栄二より速いらしい。
「くそっ、このジャングルは猛獣だらけかよ」
最後尾を逃げながら秀樹が叫んだ。
他にもいたのか左右からハイエナが襲ってくる。
「栄二は右、俺は左をやる。菜穗は後ろの奴らを頼む」
左から襲ってくるハイエナに秀樹が魔法の杖を向ける。
「了解! 」
栄二が右に魔法の銃を構えた。
「わかったわよ、横から襲われないように援護頼むわよ」
止まると同時に菜穂がクルッと振り返る。
「プラズマボール、乱れ打ちよ」
菜穂の両手から青い雷光を上げた電気の塊プラズマボールが幾つも飛び出してハイエナに似た動物にぶち当たっていく、左右から襲ってくるハイエナには秀樹と栄二が攻撃だ。
半分ほどを倒すと残りのハイエナは逃げていった。
「みんな怪我無いか? 」
「私は大丈夫、栄二くん危なかったよね」
「うん、魔法銃の弾入れ替えてる途中で噛まれるところだったよ、菜穗さんの攻撃でビビって逃げだしたから助かったよ」
栄二の声が少し震えている。
目の前にいたハイエナが今にも飛び掛かってくるかと思った時に群れが一斉に逃げ出して助かったのだ。
ドォオォ~~ン、近くで大きな音が聞こえた。
「魔法だわ、さっきと同じ……でもちょっと違うのよね」
「ああ、今のは俺にも分かった。魔法のペンダントが少し光った感じがしたぜ」
顔を見合わせる菜穗と秀樹に栄二が不思議そうな目を向ける。
「魔法がどうかしたの? 何で魔法ってわかるんだ? 」
「神様に魔法能力を貰ったでしょ、近くで魔法が使われるとわかるのよ」
「俺もだ。菜穗ほどハッキリとは分からないが魔法のペンダントが教えてくれるぜ」
二人の話に納得したのか栄二が頷く、
「能力とアイテムの差ってことだね、それで菜穗さんが違うって言ってたのは何? 」
「そうなのよ、魔法には違いないんだけど……何か違う気がするのよ」
首を傾げる菜穗の隣で秀樹が口を開く、
「俺にはわからん、アイテムしか持ってないから魔法が使われたって事くらいしか分からん」
「じゃあ行ってみようか? ポイントを取り合う戦闘イベントじゃないんだから話せば戦わなくても済むはずだよ」
栄二が自ら危ない事を提案するのは珍しい、それほど気になったのだ。
菜穗がパッと顔を上げた。
「そうね、行きましょう、もやもやするのよね」
「わかった。その代わり俺が先頭だぜ」
秀樹が先頭に立って爆発音のした方へと歩き出す。




