第六十五話 「サバイバル」
秀樹たちが話しをしている間にも同じマスに止まった参加者が次々と現われる。
一ブロック200名で70程のチームが参加する双六だ。
序盤戦で誰一人同じマスに止まらない方が少ないだろう、このイベントにも16名程が集まっていた。
「スギナちゃんだ! 」
獣人や鬼などに混じって幼女がいるのを見つけて恒夫のテンションが上がる。
「にゃんだ? あのちっこいの知り合いか? 」
スギナの所へ行こうとする恒夫の腕をラグが掴んだ。
「何すんだよ…… 」
振り返った恒夫が動きを止める。
ラグの指差す先で天使が台に上がるのが見えた。
「話しはちゃんと聞いとけよ、あたい難しい説明覚えられないぞ」
「偉そうに言うな、まったく」
スギナの事は後にして恒夫が天使に注目する。
「ではイベントの説明をする」
今回のイベントは『三日でジャングルを抜けろ!! 』とタイトルが付いていた。
毒虫や猛獣はいるが強力な魔物や敵対種族などはいない普通のジャングルを三日で走破するサバイバルイベントだ。
掛かった時間やサバイバル能力によってポイントが付く、もちろん三日以内に走破出来なければイベント失敗で0ポイントだ。
結界が張ってあって魔法で空を飛んだりは出来ない、飛行能力のある参加者はジャングルを飛んで抜けると失格だ。
猛獣に襲われたときなどは魔法を使うのも飛んで逃げるのも可能である。
あくまで自分の足で歩いてジャングルを抜けるというイベントだ。
強力なモンスターはいないが毒虫や猛獣に襲われて死ぬこともある。
戦いメインでは無いがそれなりに危険なイベントだ。
「障害物競走の次はサバイバルかよ、嫌な予感が当たったぜ」
「ジャングルを抜けてゴールするだけだぞ、猛獣なんかあたいがやっつけてやるから楽勝だにゃ、ツネは大船に乗ったつもりでいいぞ」
顔を顰める恒夫の背中を笑顔のラグがバンバン叩いた。
「猛獣は任せたぜ、俺の治癒力を使えば毒虫もどうにかなる。でも食料と水が問題だ。必要最低限は町で買って持ってるがサバイバルとなると別だ。三日間も歩き回れるほどの水は用意してない、サバイバルをするイベントだから他と違ってゲーム前に水や食料をくれるわけないだろうし、食料集め特に水が問題だぜ」
険しい顔で考え込む恒夫の薄い頭をモシャモシャしながらラグが口を開く、
「食い物は任せたぞ、家来の役目だからな、フルコースの食べ放題だぞ」
頭を触るラグの手をバッと払った。
「フルコースなんてできるか!! ジャングルの中だぞ、食べ放題どころか水や果物とか見つからなかったら毎日クッキーと缶詰だけだからな」
「にゃえぇぇ~~、そんなんじゃ力でないぞ、肉食わせろ」
プクッと頬を膨らませるラグを見て恒夫が薄い頭を掻く、
「肉って缶詰と乾燥肉しかないからな、缶詰のレバーパテをクッキーに塗って我慢しろ」
「我慢できるか! 分厚いステーキが食いたいぞ、そだ、猛獣焼いて食うか? 」
いいアイデアだとでも言うようにピクッと猫耳を立てるラグを見て恒夫が溜息をつく、
「ダメだからな、猛獣に襲われてもできるだけ殺すな、俺たちが猛獣のテリトリーに入っていくんだ。できるだけ争わずに逃げる事を考えてくれ」
「逃げるなんて面倒だぞ、猛獣なんてぶっ殺して進めばいいぞ」
恒夫がラグの頭に手を置いた。
「魔族が俺たちを簡単に殺すようにか? 弱ければ殺してもいいのか? 」
「にゃ……そんな事言ってないぞ、襲われたら仕方ないぞ、だから…… 」
「ゲームとか遊びで殺したくないだけだ。そんな事したら俺たちを使って遊んでる奴らと同じになっちまう、そんな真似したくないだけだ。生きるか死ぬかになったら殺すよ」
「わかったぞ、できるだけ殺さないようにするぞ」
恒夫が頭の上に置いた手でラグを撫でた。
「にゃへへへへっ、ツネは優しいんだにゃ、秀樹たちの事も心配してるし、あたいの事も心配してくれてるぞ」
上目遣いで見つめられて恒夫の頬が赤く染まっていく、
「そんなんじゃねぇ、ただな……天の上から俺たちを見てる奴らの思い通りになりたくないってだけだ。奴らからしたら俺の行動なんて全てお見通しなのかも知れないけどな」
赤い顔をして恒夫が吐き捨てた。
自分たちの存続をゲームにした神に対する当てつけだ。
少し離れた所で円陣を組んで何やら話し合っていた秀樹たちがやって来る。
「このイベント一緒に行かないか? 」
様子を伺う秀樹の隣で栄二が頼むように口を開く、
「恒夫はキャンプとか詳しいだろ、動物や虫の知識もあるし、助けると思って一緒にやろうよ」
菜穗が魔法の杖を振りながら恒夫を見つめる。
「猛獣が襲ってきても私たちがいれば安心よ、食料集めるのも人数多い方が楽でしょ、料理も纏めて作れるし、寝る時も交代で見張りができるでしょ」
「そうだぜ、ポイントは個々に付くから競うイベントじゃないし協力した方が得だぜ」
「一緒にやろうよ、チームに戻れなんて言わないからさ」
「できる範囲でフォローしてくれるんでしょ? 」
どうやら三人で話し合って恒夫がいた方がクリアしやすいと考えた様子だ。
恒夫の口元がニヤッと意地悪に歪んでいく、
「水だ。お前ら水をどれだけ持ってる? 」
「水? 俺は2リットルほど持ってるぜ」
秀樹の隣で栄二が背負っていた鞄からアルミニウムのような金属でできた水筒を取り出す。
「僕はこれだけだ。1リッターくらいだよ」
栄二の水筒を菜穗が指差す。
「私も栄二くんと同じくらいだわ、始めに貰った水筒に入れてる分だけよ、長いイベントなら水や食料は配給されるから荷物は必要無いでしょ」
恒夫が意地悪顔のまま口を開く、
「水が無いんじゃダメだな、お前らと組むメリットが無い」
「何言ってんだよ水くらい…… 」
秀樹が途中で言葉を止めた。
「サバイバルだからいつものイベントと違って水や食料を配ってくれないって事か」
「そういう事だ。水や食い物があるなら只のジャングルを抜ける競争になっちまう、サバイバルは自活するって事だぜ、食料はともかく水が無きゃ一日で倒れちまう」
意地悪顔の恒夫の腕を栄二が掴む、
「だから恒夫が必要なんだよ、水の作り方とか知ってるんだろ」
「水なんて魔法で出せばいいじゃない」
縋り付く栄二の横で菜穗がケロッとした顔で言った。
「そんな事してポイント貰えると思ってるのか? 各自のサバイバル能力を見るイベントだぜ、魔法で水なんか出したら貰えるどころか引かれるぜ」
意地悪顔の恒夫の前で菜穂がハッとした顔で恒夫を見つめる。
「あっ、そうか……だったら恒夫くんはどうするのよ? 」
「俺か? ジャングルには水を溜めてる植物は沢山ある。そこらに絡まっている蔓を切れば水が出てくるヤツがある。その水を溜めればいい、それに川や池があれば濾過して煮沸すれば飲める水になる。イベントで使うくらいだから化学物質や重金属で汚染されてる川や池はないだろうしな、水溜まりの水は腐ってる事があるから飲むなよ、濾過は靴下に砂と木を燃やした炭を交互に重ねて水を入れればできる。後は沸騰させればどうにか飲める水になる」
秀樹が恒夫の薄い頭を撫でる。
「やっぱ恒夫は凄いな、他にも色々知ってるんだろ? 助けると思って一緒に行こうぜ」
得意気にうんちくを垂れる恒夫を褒めてどうにか一緒に来て貰う作戦だ。
並んで栄二が縋るように頼む、
「本当だよ、頼むよ恒夫、サバイバルなんて僕じゃ無理だよ」
「私からも頼むわ、お願い、助けると思って、ねぇ恒夫くん」
菜穗が恒夫の手を握り締めて自分の胸に押し当てる。
ラグがバッと二人を引き離す。
「何やってんだ! ツネはあたいの家来なんだぞ、あたいのだからな気安く触るにゃ」
爪を立てて菜穗を睨み付けるラグを恒夫が手で制した。
「ラグ止めろ、喧嘩は無しだ。心配無い、俺はラグと一緒だからさ」
ラグの爪が引っ込んだのを見て恒夫が秀樹たちに向き直る。
「悪いが俺は一緒に行かないぜ、秀樹たちと一緒に行っても俺たちに何の利も無い、食料集めは楽にならない、人数が増えた分多く集める必要があるからな、サバイバルの料理は基本火を通すだけだ。煮るか焼くかだから多いから楽になる事はない、見張りはいらない、寝るのは木の上にベッドを作って寝る。オランウータンみたいにな、俺が下でラグが上になって寝れば木を登る猛獣に襲われても対処できる。俺は猛獣に襲われても再生できるから平気だ。と言うわけで秀樹たちと組む必要は無い、大勢で騒いで目立つと却って狙われやすくなるだけだ」
秀樹がムスッとした顔で口を開いた。
「んだよ、これだけ頼んでもダメなのかよ」
「そうだよ恒夫、僕たち友達だろ」
「恒夫くんは義理堅いって聞いたわよ、頼むわ、一緒に行きましょうよ」
大きな溜息をついた恒夫の前にラグがバッと飛び出した。
「ダメだって言ってるぞ、ツネはあたいと勝ちを狙うんだからにゃ、大体こんなイベントクリアできないようじゃこの先やっていけないぞ、わかったらあっちへ行け」
「ラグの言う通りだぜ、お前らだけでやってみろ」
追い払うように手を振るラグの後ろで恒夫が言った。
「んだよ、わかったよ、もう頼まん!! 」
怒鳴る秀樹を栄二と菜穗が止めようとした時、イベント担当天使の声が聞こえてきた。
「ではスタートする。各自の健闘を祈る」
天使の号令でイベントが始まった。
恒夫が辺りをキョロキョロ見回す。
「スギナちゃんは…… 」
秀樹たちと話をしていてすっかりスギナのことを忘れていた。
「あのちびっ子か? ツネの知り合いなのか? あいつ強いぞ」
怪訝な顔で訊くラグの手を払い除ける。
ベタベタしているところをスギナに見られたくないと思ったのか無意識に払っていた。
「ちびっ子なんて言ったら怒られるぞ、スギナちゃんは数百年生きてる木の精霊だ。見掛けは幼女だけど俺たちより年上なんだからな」
辺りを探したが既にジャングルへ入ったらしくスギナの姿は無かった。
「スギナちゃん一人みたいだったから仲間に入って貰おうと思ったのに…… 」
「仲間にするんだな、あたいも賛成だぞ」
恒夫がラグに振り返る。
「賛成なのか? てっきり反対するかと思ってた」
驚き顔の恒夫の前でラグがニヘッと悪い笑みをする。
「あいつ強いぞ、強いヤツと組むなら反対しないぞ、それにちびっ子で面白そうだしな」
「流石だな、見ただけでわかるのか、スギナちゃんはAクラスだからな、それほど人間を嫌っている様子も無かったし旨く話せば仲間になってくれると思うんだ」
「Aクラス……あのちびっ子がか? 歩く人形みたいに小さいのがAクラスなのか? 」
今度はラグが驚き顔だ。
恒夫は日本人形を思い出して吹き出しそうになるのを堪えると誤魔化すように大声を出した。
「ちびっ子って言うな、歩く人形とか絶対に言うなよ、機嫌悪くして仲間になってくれなかったらどうする? でも面白そうってのは俺も賛成だけどな、どんな能力持ってるのか知りたいって思ってる。だから仲間になって貰うんだ」
ラグが耳をピンッと立てて辺りを見回す。
「でも居ないぞ、匂いも音もしないぞ、スタートしたからとっとと行ったんだぞ」
「秀樹が話し掛けてくるから……折角のチャンスだったのに………… 」
がっくりする恒夫の背中をラグがバンバン叩く、
「にゃははははっ、落ち込むな、イベント終わった休みにでも探せばいいぞ、あたいも手伝ってやるからにゃ、それにしてもツネは凄いな、水の事なんてあたい何にも知らないぞ、そこらの川の水飲むからな、そんでお腹壊した事もあるぞ、でも今度のはツネが居るから安心だぞ」
「任せろ、敵と戦う以外なら俺は役に立つぜ」
「んじゃ、あたいたちも行くぞ、サバイバルやるぞ」
調子よく戯ける恒夫と楽しそうにはしゃぐラグがジャングルへと入っていった。
少し離れた所で見ていた秀樹が面白くなさそうに口を開く、
「あのバカ調子に乗りやがって…… 」
「一緒にイベントやってまた仲間に戻らせようと思ってたのがバレたのかな? でも何だかんだ言って濾過の仕方を教えてくれたね、水溜まりの水は腐ってるかも知れないから飲んじゃダメだって言われなきゃ飲んでるよ」
まだ脈がありそうだと栄二は安心顔だ。
二人に菜穗が意地悪顔を近付けた。
「後を付けましょうよ、一緒に行かなくても近くで同じようにすればサバイバルできるんじゃない? 真似するのは勝手だし」
秀樹と栄二が顔を合わせてニヤッと笑う、
「ナイスだ。無理矢理一緒になればいいんだぜ」
「同じゴール目指すんだから同じ道を通っても仕方ないよね、一緒になるのも不可抗力だよ」
「じゃあ早く行きましょうよ」
秀樹たちは慌てて恒夫の後を追っていった。




