第六十四話
休みが終わってロロフィの元へと集まる。
「はいはぁ~い、たっぷり休みましたかぁ~~ 」
「ふかふかのベッドに温かいシャワーに美味しいものいっぱい食べたぞ、ツネとチームを組んで良かったぞ、これからも旨いもの食べ放題だぞ」
元気いっぱいのロロフィにラグが大きな声でこたえた。
この二人なんか似てるな……、恒夫は苦笑いだ。
ニヘッといやらしい笑みをしたロロフィが恒夫を肘で突く、
「親密ですなぁ~、何処まで行ったの? 全部やっちゃった? 」
「ばっ、バカ言わないでくれ、変な事何もやってないからな、だいたい天使がそんな事言ってもいいのかよ」
慌てた恒夫の声がどもっている。
ロロフィ相手ではヘンタイ恒夫も形無しだ。
「なぁんだ。つまんないの、恒夫はヘンタイだから特殊プレイでもしてるんじゃないかと気になってたのになぁ~~ 」
「いや、ヘンタイなのは否定しないけど、一応わきまえてるからな、折角仲間になってくれたラグに嫌われる事なんかしないから、棄権させられると厭だからロロフィちゃんにも変な事してないだろ……変な事はそういう店でするから、さっきの町じゃラグが付きっ切りだったから行けなかったけど………… 」
俺一人じゃ好きな店にも行けないんだ。
秀樹たちのとこへ戻るかな、でもな……、恒夫の顔が苦悩に歪む、
「にゃん? ツネはヘンタイなのか? 」
耳をピンッと立てたラグが顔を覗き込む、
「そうですよ、只のヘンタイじゃありませんよ、恒夫はドヘンタイでぇ~~す」
「マジか! ドヘンタイなのか」
驚くラグの前にロロフィが身を乗り出す。
「そうですよ、前にいたチームも恒夫のドヘンタイのせいで追い出されたんですよ、女だけじゃなくて男も他種族も天使も関係無しにヘンタイ行為をするんですよ」
「にゃにゃ、あたいにヘンタイしたら引っ掻くからな」
恒夫の向かいでラグが両手の爪を伸ばして見せる。
「しないから、ロロフィちゃん滅茶苦茶言わないでくれ、それよりさっさとサイコロ回して次のイベントに行こうぜ」
弱り顔の恒夫がどうにか話題を逸らそうと必死だ。
「そうですね、さっさとサイコロを回しなさい、私は忙しいんですからね」
自分が振ったくせに……、
恨めしげに見つめながら恒夫がサイコロを受け取って回す。
「5と6の11で~す。今は15マス目だから26マス目に行きますよぉ~~、じゃあ出発進行ぉぉ~~ 」
ロロフィが天使の羽を広げた。
「ヘンタイするなよ、引っ掻くからな」
「しないから、ロロフィちゃんの羽の中にいないと転送できないだろ」
距離を取るラグの腕を恒夫が引っ張る。
白い光に包まれて恒夫とラグの姿が消えていった。
光が収まりふらつく足下を踏ん張る恒夫の目に緑が映る。
日本にある森では無く熱帯地方にあるジャングルだ。
「マジかよ、荒野の次はジャングルかよ、なんか嫌な気がするな」
「木がいっぱい生えてるぞ、あたいは砂漠とか沼よりこっちのほうが好きだぞ」
顔を顰める恒夫の隣でラグが楽しそうに辺りを見回す。
「虫とかカエルとか好きだからジャングルは好きだけど俺の言ってるのはそんな事じゃない、こんな場所でどんなイベントをするのかってのが気になるんだ」
ラグがバンバン恒夫の背を叩く、
「どんなイベントでも心配無いぞ、あたいがついてるからな、ツネは大船に乗ったようにド~ンって構えとけ」
「大船ねぇ……沈まない事を祈ってるぜ」
呟く恒夫の近くに白い光が現われた。
他の参加者が来た光だ。
「マジかよ…… 」
光の中から秀樹たちが現われたのを見て言葉を詰まらせる。
一番に気付いた栄二が手を振ってきた。
「恒夫! 」
「よぅ、お前らまだ生きてたのかよ」
軽く手をあげる恒夫の元へ秀樹たちがやって来た。
「何言ってやがる。こっちの台詞だぜ」
「そうよ、私たちは前のイベント300ポイントでクリアしたんだからね」
秀樹の隣で菜穗が自慢気に胸を張る。
そこそこ大きな胸がプルッと揺れた。
「300かそいつは凄えな、でも俺たちも200ポイント貰ったぜ」
大袈裟に驚く振りをしながら恒夫が言った。
「200ポイント? 恒夫一人でか? 」
「俺たちって言ったよね」
驚く秀樹の横で栄二が不思議そうに訊いた。
「ああ、俺たちは…… 」
恒夫の後ろからラグがぴょこっと頭を出した。
「にゃん? ツネぇ~、そいつら何だ? 」
後ろから抱き付くラグに恒夫が首を回して説明する。
「ああ、俺の友達だ。こいつが秀樹でこっちが栄二って名前だ」
「ツネの友達? そんじゃこいつらが前のゲームで一緒だった人間だにゃ」
恒夫からバッと離れるとラグが前に出て秀樹と栄二を観察するように見つめた。
栄二が驚き顔でラグを指差す。
「その猫娘、スタート地点で恒夫がナンパしてた娘だよね」
「おおぅ、本当だ。褐色の猫姉ちゃんだ」
おっぱい星人である秀樹の目がラグの爆乳に釘付けだ。
「その娘とチームを組んだの? あんなに嫌われてたのにどうやったんだ? 」
「そうだぜ、その猫姉ちゃん人間なんかとは組まないって言ってただろ? 」
信じられないといった顔の二人を見て恒夫がニヤッと口元を歪めた。
「俺の人徳だ。本当の俺を知って貰えれば獣人だろうと魔族だろうと何でも仲間になれるのさ」
両手を広げて自身の言葉に酔うように言った恒夫の向かいで秀樹と栄二が顔を顰める。
「ヘンタイに人徳などあるかよ、本当の事を話せ、どうやったんだ? 」
「恒夫の事だから弱みを握って無理矢理とか……かわいそうにラグさんヘンタイの毒牙に掛かったんじゃ………… 」
「何もしてないからな、人を鬼畜みたいに言うな」
厭そうに言い訳する恒夫の腕にラグがしがみつく、
「ツネがお金くれたんだぞ、そんで高級ホテルに泊まれるし旨いものいっぱい食えるから仲間になったんだぞ、おまけに魔族から助けてもらったしな」
「おまけじゃなくてそこが一番肝心なところだろ、まあそれ以外は合ってるからいいけどな」
褐色巨乳のラグに抱き付かれている恒夫を秀樹がじとーっと見つめる。
「買収かよ、まったくなんてヤツだ」
「恒夫らしいね、でも良かったよ、恒夫一人でどうしてるか心配だったから」
栄二は安心顔だ。
秀樹を挟んで反対側にいた菜穗が自身を指差す。
「私は紹介してくれないの? 恒夫くんが私の事嫌ってるのは知ってるけど無視は酷いんじゃない? 」
「無視なんてしてないだろ、話しの流れだ」
恒夫が縋り付くラグから腕を引っこ抜くようにして引き離す。
「この娘はラグ、獣人の猫娘、チャトラン族のラグだ」
「ラグさんね、私は…… 」
挨拶しようとした菜穗の言葉を秀樹と栄二の大声が遮る。
「チャトラン族!! 」
「チャトラン族ってネピアと一緒の? 」
二人を見て恒夫がニッと笑った。
「そうだぜ、ネピアとクロエのいるチャトラン族だ。ラグはクロエと同じ村を守る戦士団の一員だぜ、ネピアとクロエの事もよく知ってるぜ」
「本当かよ、それでネピアとクロエの事は聞いたのか? 」
「ネピアは? ネピアは元気なの? 」
身を乗り出して訊く秀樹と栄二、二人のマジ顔に恒夫は少し引き気味だ。
「そうがっつくなよ、二人は無事だ。クロエはイカサマサイコロ旨く使って町に買い出しに行ってるらしいぜ、低級魔法だがネピアも村で唯一の魔法使いって事で重宝されてるらしい」
「ほんとう? よかった…… 」
「クロエが買い出しか、人間の町へ出ても旨くやってるみたいだな」
安堵する二人を見て恒夫が続ける。
「取り敢えず無事なのは確かだが会えないぜ」
秀樹がガバッと恒夫の両肩を掴んだ。
「何でだ? チャトラン族の村へ行けば会えるだろ」
「そうだよ、僕はその為にゲームに参加したんだからね」
睨むように見つめる栄二の前で恒夫が秀樹の手を振り解く、
「ここに居るラグと同じさ、二人ともゲームに参加してるんだよ」
「なっ! ネピアとクロエが…… 」
絶句する秀樹の隣で栄二は言葉も出ない、
「スタート地点で見掛けなかったところを思うに俺たちとは別のブロックに居るらしいな、そうだろヘカロさん」
先程から黙って話を聞いていた天使ヘカロに恒夫が向き直る。
ヘカロが持っていた石版のようなものから目を離して微笑んだ。
「恒夫くん元気そうだね」
軽く挨拶してからヘカロが続ける。
「隠していたわけじゃない、私も知らなかったから今調べてみたら確かにネピアさんとクロエさんも参加している。二人はAブロックだ。本当は言ってはいけないんだが特別に二人の現状を教えてあげるよ、二人とも無事だ。他の獣人とチームを組んでポイントも順調に取っている。前のゲームで秀樹くんから譲り受けたアイテムに今回神様から貰ったアイテムを足して予選に参加している者たちの中でも上位の実力を持っている。二人とも本戦へと進む本命だよ」
「よかった…… 」
安堵する秀樹の隣で栄二が険しい顔だ。
「二人に会うためには本戦へ進まないとダメって事だよね」
「そういう事になるな、でも秀樹くんたちならやれるだろう? 私はそう思ったからこそ誘ったんだ」
秀樹が拳を反対側の手に打ち付けてパシッと手を鳴らした。
「ああ、やってやるぜ、中津のフォローに回る話は無しだ。俺たちも勝ちを狙うぜ」
「そうだね、本戦に進んでネピアとクロエとチームを組もうよ、勝ちを狙えるチームだよ」
マジ顔の栄二が秀樹を見て頷いた。
「期待しているよ、私はイベントの説明があるから少し失礼するよ」
フッと笑うとヘカロが天使の羽を広げて飛んでいった。
ネピアとクロエの事を話したのは秀樹たちを焚き付ける意味もあったのだろう。
二人の間に菜穗が割り込んできた。
「ちょっとネピアとかクロエって何なのよ? 私の紹介はどうなったのよ? 」
恒夫が意地悪顔で口を開く、
「おっとそうだったな、ラグは紹介したな、んじゃそっちの紹介してくれ」
ムッとした顔で恒夫を睨むと菜穗が自己紹介を始める。
「私は緒方菜穂、人間だけど上級魔法使いよ、ミノタウロスを倒したくらいの力はあるからバカにしないでよね、私は勝ちたいの、だから秀樹くんとチームを組んだのよ」
「ミノタウロス? あんなのあたいの相手じゃないぞ、焼き肉にして食っちまうぞ」
バカにした様子で言うラグから菜穗が視線を恒夫に移す。
「チームを組んだのがわかったわ、おバカ同士だから気が合ったんでしょ、ヘンタイとバカ猫で丁度いい感じだわ」
「んだと、誰がバカ猫だ。あたいはチャトラン族の戦士だぞ」
飛び掛かりそうなラグを恒夫が後ろから押さえ込む、
「ラグ、止めとけよ、言っただろ人間はバカばかりだって、ラグは賢いんだからバカな人間に構ったりするな、勝って見返してやればいいだけだぜ」
「ふにゅ、そうだな、ツネの言う通りだぞ、こんなとこで怒っても仕方ないからにゃ」
賢いと言われて一瞬で機嫌を良くしたのかラグが嬉しそうに恒夫に抱き付いた。
菜穗が軽蔑するように恒夫を見る。
「旨く手懐けたものね、狡賢いって本当みたいね」
恒夫がやれやれという感じで首を振った。
「戦闘イベントをやったんだろ? 命懸けで戦ってそれかよ、何も学んでないのな」
「何ですって! 」
声を荒げる菜穗の前に秀樹が出る。
「止めろよ菜穗、勝ちたいんだろ? 恒夫の事はわかっただろ、やり方はともかく人間嫌いの獣人を仲間にしたんだぜ、勝つためには必要ってわかるだろ」
「う……うん、そうよね、勝つためよね、勝つためなら何でもするわ」
不服そうに顔を歪めながらも菜穗が頭を下げる。
「ごめんなさい、バカとかヘンタイとか言ったのは謝るわ、だからお願い、秀樹くんのチームに戻ってきて、あなたの力が必要なの、お願いよ」
恒夫の表情が緩んだ。
「俺はヘンタイだから謝らなくてもいいぜ、ラグに謝ってくれたのはサンキューな」
すかさず秀樹が続ける、
「そういう訳だ。戻ってきてくれ、50マスから厳しい戦いになる。お前が居てくれると何かと助かるからな、一緒に勝とうぜ」
秀樹と並んで栄二が頼む、
「戻ってきてよ恒夫、恒夫が居ないと何かダメなんだよ、調子が出ないんだ。前みたいに一緒にゲームしようよ、ネピアやクロエに会いたいんだ。恒夫の協力が居るんだよ、僕たち三人なら勝てるよ」
普段の飄々とした顔で恒夫がダメだと手を振った。
「悪いな、戻る気は無い、ラグと一緒ならこの先もやっていけるしな、他にも他種族を仲間にしてこのゲームを勝ち進む予定だ。チームを組めるのは六人までだ。だからお前たちとは組まない、予選を使って本戦で勝てるチームを作るのが俺の目標だ」
秀樹の顔が険しく変わる。
「俺たちより他のヤツと組むって言うのかよ、見損なったぜ、ヘンタイでバカだけど裏切ったりしないやつだって思ってた……友達だって思ってた……くそっ!! 」
やり場のない怒りをぶつけるように秀樹がその場で土を蹴り上げた。
栄二がおろおろして恒夫の顔を覗き込む、
「冗談だよね? 僕たち友達だよね、オタ仲間だよね」
恒夫が意地悪顔でニヤッと笑う、
「悪いな栄二、初めは適当にゲームを楽しむつもりだったんだが気が変わった。他の人間が一人でも勝てば人類は救われる、そう考えてた。だが魔族や強い他種族を見てたら他の人間が勝てるのか疑問になった。仕方ないから俺が勝ちを狙う事にしたんだ」
「だったら僕たちと一緒でいいじゃないか、菜穗さんや秀樹は凄いんだよ、アイテムで強化したミノタウロスや鬼に勝ったんだよ」
縋るように見つめる栄二の前で恒夫がマジ顔で首を横に振る。
「ダメだ。前のイベントで魔族と戦った……いや尻尾巻いて逃げたって言ったほうがいいな、別次元だぜ魔族は……お前らと組んでも絶対に勝てない、だから少しでも勝てる見込みの奴らと組むんだ。だから俺は戻らない」
「魔族と…… 」
驚く秀樹と栄二と菜穂を見てラグが割り込んで話し始めた。
「六人の獣人や昆虫人間が一瞬でやられたぞ、昆虫人間は知らないけど獣人は全部強い奴らだぞ、それが魔族に引っ掻き傷一つ付けられずに全滅だぞ、あんなの反則級の強さだぞ」
マジ顔のラグを見て秀樹たちの顔が強張っていく。
秀樹たちを見回してから恒夫が続ける。
「ラグの言う通りだ。俺が会ったのは長髪の魔族、ハオロさんだ。話のわかる人でどうにか助かった。でないと今頃現実世界に戻ってるぜ、ハオロさんなら話しくらいは聞いてくれる。だから絶対に戦うな、どんなに良い作戦を思い付いても絶対に戦うな、次元が違いすぎる。俺が強いチームを作るのはハオロさんに対抗するためじゃない、ハオロさん以外の魔族やAクラスの他種族を相手にするためにチームを組む、俺の持ってる無敵札を使えば魔族相手でもそれなりに戦えるだろうからな」
「勝てるチームか……菜穗が嫌いだからって訳じゃないんだな」
秀樹が訊くと恒夫がいつもの飄々とした顔に戻った。
「それもあった。この女は信用できねぇ、何か隠してる。でもそんな事は魔族の戦いを見て吹っ飛んだよ、戦闘イベントで頑張ったんだろ? なら俺はこれ以上文句は無い」
恒夫が背負っていた鞄から袋を取り出す。
「これを渡しとくよ、二千万ギギル入ってる。戻る気は無いができる範囲でフォローはする。一緒に本戦に進みたいからな」
「貰っとくぜ、金は必要だからな、お前が認めるくらいに強くなればいいんだろ? 」
前と同じように断ると思ったが秀樹が素直に受け取ったのを見て恒夫が微笑む、
「そういう事だ。期待しないで待ってるぜ」
「吃驚するくらいに強くなってやるよ」
「恒夫が組んでくださいって頭を下げてくるくらいにね」
秀樹と栄二と恒夫が互いの顔を見てニッと笑う、学校でバカ話をするいつものオタ三人組がそこに居た。




