第六十三話
ど派手なレストランで晩飯をとる。
ピカピカ光る電飾を見てラグが決めた店だ。
はっきり言って高い割には大した事の無い味だったがラグが美味しいと喜んでいたので由とした。
店を出て暫く歩いた所で恒夫が足を止めた。
「宿と食事で殆ど使ったし、装備も揃えたいから少し稼ぐか」
体が怠くて眠たくて行きには気付かなかったがカジノがあった。
前払いでホテル代七十二万ギギルを払って今の食事で恒夫の手元には十七万ギギルしか残っていない、少しでも増やさないとこの先やっていけないのだ。
ラグが恒夫の腕を引っ張った。
「ダメだぞ、もうすっからかんはごめんだぞ」
前の休みでカジノで大負けして無一文になったのが堪えたのかラグは険しい表情だ。
「心配するな俺は負けないからさ」
恒夫がニッと悪戯っぽく笑うとポケットからイカサマサイコロを取りだした。
「こいつはイカサマサイコロだ。クジとか選択物の勝率を上げるアイテムだ。当然ギャンブルでも力を発揮する。と言うよりギャンブル用に作られたようなもんだ。これを使ってカジノで稼げる。俺が持ってる魔法の銃も弾もこれで稼いで買ったんだ。だから少し金を貸してくれ、ホテルと食事で殆ど使って手持ちが足りないんだ」
「にゃんであたいが……十万なら貸してやるぞ」
宿代も食事も全て恒夫の奢りだ。
ラグは悪いと思ったのか渋々といった様子だ。
「五十万ギギル貸してくれよ、直ぐに返すからさ」
「貸してもいいけど返さなかったらチーム止めるからな」
「4倍の二百万ギギルにして返すからさ、絶対勝てるから心配するなって」
疑いの目を向けるラグに恒夫が苦笑いだ。
ラグから五十万ギギルを借りた恒夫がカジノへと入っていく、もちろんラグも一緒だ。
五十万ギギルを十万ギギルのチップ5枚に代えるとルーレットの台に向かう、
「手始めに倍に増やすか」
ポケットの中でイカサマサイコロを振ると黒に全てのチップを賭けた。
「にゃ!? 何やってんだ。全部賭けたら一瞬で無くなるぞ」
「勝てば倍の百万ギギルだぜ」
慌てて止めようとするラグを手で制した。
「何言ってんだ負けたらどうする? もう知らないからにゃ」
プイッとそっぽを向くラグの前でルーレットが回り始めた。
黒に止まって恒夫の前にチップが倍になって戻ってくる。
「にゃにゃ! やったにゃ、勝ったぞ」
大喜びするラグの前で恒夫がチップ全てを赤に置いた。
「にゃん!? バカ止めろ! 次も全部なんて何考えてるんだ」
「いいから黙って見てろよ」
止めるラグを恒夫が手で押さえつける。
二人の前でルーレットが回り暫くして赤で止まった。
「これで二百万ギギルだ」
「凄いぞ、また勝ったぞ」
喜ぶラグを見て恒夫がニヤッと悪い笑みをする。
「勝負はこれからだぜ」
そう言うと恒夫は黒の12にチップの半分、つまり百万ギギル分を置いた。
ラグは何も言わない、ルーレットの上を走る玉をじっと見つめている。
黒の12で玉が止まる。ストレートアップだ。
一つの数字にチップを置いて的中させれば36倍以上になって戻ってくる。
『おおぅ、凄いな、運がいいぜ』
見ていた客から歓声が沸いた。
恒夫の前にチップの山ができた。ラグが抱き付いて喜ぶ、
「にゃ……凄いぞ、ツネはギャンブルの天才だぞ」
「だから言っただろ俺に任せろって」
得意気に言ったが内心冷や冷やものだった。
イカサマサイコロは3分の1の確立でハズレが出る。
そろそろハズレが出る番なので全額を賭けなかったのだ。
ラグに籠を持たせてチップを全て入れると台を離れてカウンターへと向かう、
「やったぞ、36倍だから三千万ギギルだぞ」
「三千六百万だ。残りの百万と合わせて三千七百万ギギルだ」
「にゃははははっ、計算なんてどうでもいいぞ、とにかく大金だぞ」
腕組みをして歩いていたラグが恒夫の顔を覗き込む、
「あたいの取り分は? 二百万だけじゃないよにゃ」
「半分やるよ、ラグは大事な仲間だからな」
「半分……千二百万ギギルもくれるのか? やったぞ」
恒夫が大きく溜息をつく、
「計算できないのか? 三千七百の半分だから千八百五十万だ」
「にへへへへっ、数は苦手だぞ、大金に違いないから何でもいいぞ」
大喜びするラグの前で恒夫がカウンターにチップの入った籠を置いた。
「半分は金に換えて残りは高レートのチップに交換してくれ」
千八百五十万ギギルをラグに渡すと残りを1枚百万ギギルのチップ18枚に交換して貰った。
恒夫の取り分の余りの五十万ギギルは低レートの一万ギギルのチップ50枚に換えて貰うとラグに渡す。
「俺はVIPルームに行くからラグはこの50枚で遊んでろ」
「帰んないのか? 千八百万もあれば充分だぞ、この先ずっと高級ホテルに泊まってフルコースが食えるぞ」
「装備を揃えたいからな、それに…… 」
秀樹たちに会ったら金を渡したいと言おうとして止めた。
ラグに根掘り葉掘り聞かれるのも厭だし説明も面倒臭いと考えたのだ。
「50枚のチップを全部使い終わったら迎えに来てくれ」
「仕方ないにゃ、あたいも大勝ちしてツネを吃驚させてやんぞ」
ラグがニヤッと笑ってこたえた。
神様のゲーム開始時に貰った三百万ギギルを使い込んですっからかんになるほどギャンブルは好きなのだ。
「1枚ずつ賭けろよ、一度で賭けたら無くなるぞ」
「わかってるって、1枚から3枚くらいで遊ぶぞ、あたいはルーレットよりもスロットが好きだぞ、クルクル回って面白いからな、んじゃ遊んでくるぞ」
嬉しそうな笑みを見せるとラグはスロットマシンが並ぶ部屋の隅へと駆けていく、
「ルーレットか……三十分持たないな」
溜息をつくと恒夫は階上にあるVIPルームへと向かった。
順調に稼いでいる恒夫の元へラグがやって来る。
「嘘だろ……もう負けたのか? 」
驚くのも無理はない二十分も経っていなかった。
五十万ギギルを十五分足らずで使い切ったらしい、その間に恒夫は二千万ギギルほど稼いでいた。
「にゃへへっ、調子悪かったんだぞ、ちゃんと止めたのにクルって回って揃わないんだぞ」
ラグが可愛い顔をして照れるように手をクルクル回した。
「スロットってのはそういうもんだ。遅れて止まるのも計算に入れてボタンを押さないと」
言っても無駄かと籠に入っていたチップを3枚掴んで渡す。
「1枚百万ギギルのチップだ。下のカウンターに行って1枚一万ギギルのチップ300枚に交換して貰って遊んでこい、それを使い切ったら帰るから向かいに来てくれ」
「わかったぞ、今度こそ勝つからにゃ、勝ったら夜食でも奢ってやるぞ」
「一遍に使うなよ、大勝ちなんて狙わずに少しずつ遊ぶんだぞ」
ニコニコしながらVIPルームを出て行くラグを心配顔の恒夫が見送る。
「50枚で十五分だから三百枚あれば九十分は大丈夫だな、五千万は稼げるかな、俺一人だからなギャンブルばかりしてられないし、折角仲間になってくれたラグに愛想尽かされたら困るからな……秀樹と一緒なら面倒な事は全部任せられたのにな……仕方ないか」
溜息をつくと恒夫はカードゲームの台に歩いて行った。
恒夫は観光で来た金持ち相手に勝ち続けていた。
ハイ&ローという予め捲った数に対して次に捲る数が大きいか小さいかを当てる単純なカードゲームだ。
「大でお願いします」
恒夫の前でディーラーがカードを捲る。
「7、恒夫様の勝ちです」
恒夫の元にチップが倍になって戻ってきた。
一騎打ちをしていた金持ちが恒夫を睨む、
「くっ……くそっ! もう一勝負だ」
「いいけどこれで最後にして貰うぜ、俺は他の人とも遊びたいんだ」
目の前の金持ちからは一千万ギギルほど勝たせてもらっている。
変な恨みを買いたくないので適当なところで切り上げるつもりだ。
「わかった。最後だ。その代わり大勝負を受けて貰うぞ」
「大勝負? 」
恒夫の眉がピクッと上がった。
「ああ、一千万の大勝負だ。今まで負けた分を取り返してやる」
金持ちは負け続けて冷静な判断ができなくなっている。
「わかった。受けるよ、その代わりこれが最後だぜ、みんなも聞いたよな、これが最後の大勝負だ。勝っても負けても恨みっこ無しだぜ」
そろそろハズレが出る頃だが恒夫は受ける事にした。
受けなければ周りで見ている他の金持ちたちも勝負を受けてくれなくなるだろう。
「ポズワン様、次は必ず勝てますよ、あんな田舎者など懲らしめてやりましょう」
金持ちの周りにいた取り巻きや奴隷女が囃し立てる。
獣人やエルフなどの奴隷を侍らせ、辺鄙な観光地まで遊びに来るほどの大金持ち相手だ。
恒夫は遠慮無く稼がせて貰っている。
「7で宜しいですね? 」
ディーラーが今のカードでいいか確認を取る。
「ああ丁度良い数字だ」
恒夫が言うと金持ちのポズワンも無言で頷く、
「では御賭けください」
「大…… 」
「待て、私も大だ」
恒夫の言葉を遮ってポズワンが大を選んだ。
ディーラーが伺う、
「恒夫様も大では勝負は流れます。カードを捲って次に致しましょうか? 」
「フフフッ、逃げるなよ、男なら受けろよ、最後の大勝負だろ次なんてあるのか? 」
ポズワンが煽る。
イカサマサイコロは大だと出ている。
このまま受けるのは自ら負けを引くようなものである。
周りの連中も逃げるのかと騒ぎ出す。
「 ……わかった受けよう、俺は小でいい」
負けを覚悟で恒夫が受けた。
ギャラリーを敵に回す事を避けたのだ。
ディーラーがカードを捲る。
「3です。恒夫様の勝ちです」
「なん!? 」
唖然とする恒夫の横でポズワンが台を叩き出す。
「くそっ、くそっ、くそがっ! もう一勝負だ」
騒ぐポズワンを見て恒夫が落ち着いていく、
「最後って言っただろ、こんなバカな勝負はもうしないぜ、ここに居るみんなが証人だ」
周りを囲むギャラリーたちに確認を取るように手を振った。
『いい勝負だった。最後の大勝負だ。負けを認めろ、みっともないぞ』
ギャラリーが味方についてくれたのを確認すると恒夫が席を立った。
「ふぅ~、危ない、危ない、イカサマサイコロが丁度外れてくれたぜ、こんな勝負なもうごめんだ。儲けがチャラになるところだったぜ」
安堵する恒夫の後ろから誰かが抱き付く、
「おぅわぁ! 」
思わず叫んだ恒夫の背に二つの柔らかい感触が伝わる。
「何だラグか……吃驚させるなよ」
「にひひひひっ、見てたぞ大勝ちしたな、ツネは凄いにゃ、魔法使ってないのに魔法みたいだぞ、ツネは予知でもできるのか? 」
嬉しそうな満面笑顔のラグが居た。
「予知って言うか……話し全然聞いてないんだな、取り敢えず向こうへ行こう」
VIPルームに備え付けてあるラウンジにラグを連れて行くとイカサマサイコロの事を再度説明した。
「神様のアイテムか、それで勝てるんだな、そんなのあったなんて知らなかったぞ」
「全部で四千六百万ギギルだ。これで装備が揃えられる」
「んじゃ、あたいの取り分は二千万ギギルだぞ」
笑顔で差し出すラグの手を恒夫が叩き落とす。
「さっき千八百五十万ギギルやっただろ、この金は魔法銃の弾や鎧を買うんだからな」
「にゃんだよ、そんなのいらないぞ、敵なんかあたいが全部やっつけてやるぞ、だから二千万よこせよ、にゃ~、にゃ~、半分こだぞ」
ラグが甘え声を出して抱き付いてきた。
爆乳が物凄く気持ちいい。
頬を赤くした恒夫が首を振って口を開く、
「ダメだからな、ラグは強いけど魔族やAクラスと戦う事になったらどうする? そんな時に少しでも有利に戦えるように魔法の鎧を買うんだ。強いラグを更に強くするんだよ」
「強いあたいが更に強くなるのか? 」
考えるように首を傾げるラグに恒夫が畳み掛ける。
「ラグは魔法のペンダントと怪力だろ、元から俊敏なラグが怪力を貰って獣人としてはトップクラスになっただろ、でも魔法は低級しか使えない、だから中級魔法を防ぐ事のできるアイテムを買うんだ。中級以上の魔法使い相手でも対等以上に戦えるだろ、その為に使う金だから分け前とかは無い、俺が自由に使う金でも無い、二人の装備を揃えるのに使うんだ」
「わかったぞ、あたいが強くなるのに使うんだな、そんじゃ今回は分け前無しでいいぞ」
ニパッと可愛い笑みを向けるラグを見て恒夫がほっと溜息をついた。
「それにしても偉く早く来たな、スロット飽きたのか? 」
話を変えてラグに訊いた。
先程別れてから二十五分ほどしか経っていない。
「にゅははははっ、スロットに飽きる事なんて無いぞ、全部使ったから迎えに来たんだぞ、やっぱカジノは面白いぞ、勝った時は最高だぞ」
笑って誤魔化すラグを見て恒夫が弱り顔だ。
「いや、勝ってないからな、俺が渡した三百万ギギル全部負けただろ」
「にゅはははっ、男が細かい事言うな、勝負はトキのウンチだぞ、今日はついてなかっただけだぞ、インチキサイコロがあれば幾らでも勝てるんだろ? 」
「ウンチじゃないからな、インチキでもないからイカサマサイコロだからな……まあ同じようなもんだが」
呆れる恒夫にラグがまた抱き付く、
「にひひひひっ、今度あたいにも貸せよ、バ~ンって儲けてやるぞ」
「見つかったら只じゃ済まないんだからな、ラグは落ち着きがないから失敗しそうで怖いんだ。クロエみたいにどっしり構えてるんなら安心して渡せるんだが…… 」
クロエという言葉を聞いてラグがピンッと猫耳を立たせる。
「にゃにゅ!? クロエに貸せてあたいじゃダメってか、家来のくせに生意気だぞ」
羽交い締めするように抱き付いてラグが耳元で言った。
恒夫の頬に息が当たる。
胸の間で爆乳が押し潰されて柔らかくて凄く気持ちいい、相手が普通の人間ならこのまま押し倒しているだろう、獣人のラグ相手に変な事をすれば100%負けるのはわかりきっているのでエロい気持ちをぐっと堪えて引き離した。
「わかった、わかった、今度じっくりレクチャーしてから貸してやるから、それまで俺の稼ぎで好きなだけ遊んでもいいから」
「今度っていつだ? 明日か? 」
バッと離れたラグが笑顔で催促だ。
「明日はダメだ。装備買いに武器屋を回るんだからな、そうだな……ゲームの終わり近くにラグにあげるよ、貸すんじゃなくてあげるからそれまでは普通に遊んでてくれ」
「イカサマサイコロくれるのか? 」
目をキラキラ光らせるラグを見て恒夫が笑いを堪えて続ける。
「ああ、クロエが持ってるの知らないのか? あれも俺があげたんだ。ゲームが終わったらラグにもあげるからさ、だからゲーム中は俺の邪魔はしないでくれ」
「わかったぞ、サイコロくれるなら何でもするぞ、クロエのヤツ時々町に行って色々買ってくると思ったらイカサマサイコロで稼いでいたんだにゃ、剣も旨いしギャンブルも旨いって自慢してやがったんだぞ、とんだインチキ野郎だぞ」
恒夫が思わず吹き出した。
「ぷっ、ぷははははっ、そっかクロエのヤツ旨く使ってるんだな、安心したぜ」
ラグも釣られるように笑い出す。
「にゃははははっ、二人は元気だぞ、あたいが人間の町に来れるのもクロエが許可証を買ってくれたからだぞ、ネピアもクロエも人間の事褒めてたぞ、ツネを見てたら二人の言った事が少しわかったぞ、良い人間も居るってわかったぞ」
可愛い笑みをするラグの向かいで恒夫がマジ顔に変わる。
「ラグ……余り人間を信用するな、人間は狡賢いんだ。だから………… 」
ラグがバッと恒夫に抱き付いた。
「あたいはツネを信用するぞ、お前を信じてなかったらさっきのイベントで魔族に殺されてたからな、ツネと一緒だとこのゲーム勝てる気がするんだぞ」
「 ……ありがとう、負けないように努力はするぜ」
恒夫がラグの巨乳に頭を埋める。
柔らかで温かくて物凄く気持ちがよかった。
翌日、町にある武器屋を回って装備を整えた。
恒夫は魔法銃の弾を30発買って今持っているものと合わせて50発とした。今回のゲームは前回と違って危険だと改めて認識して用意したのだ。
ラグには魔法を防ぐ事のできる魔法の鎧を買った。
一本一本に魔法が掛けてある糸で編んだ絹のように薄い鎧だが上級魔法を3回、中級魔法なら30回は防いでくれる優れものだ。
値段も高く三千万ギギルもした。
数も流通していない様子で町中の武器屋を回っても一つしか無かったものである。
「薄くてシャツみたいだぞ、これなら走り回っても邪魔にならないぞ」
服を買って貰ってはしゃぐ少女のようなラグを見て恒夫の頬も緩んでいく、
「高いだけはあるな、まさか上級魔法を防ぐアイテムまで売ってるとは思わなかったぜ、観光地に来る金持ち相手に売れると踏んで仕入れたんだろうな」
「にゃへへへっ、武器はもういいんだよな? そんじゃ何か食べに行くぞ」
「だな、旨い物でも食いに行くか」
ラグに腕を引っ張られて恒夫が歩き出す。
「残り千三百万ギギル、三百万は当座の資金に使うとして一千万を倍に増やして秀樹に渡すか……どこかで会えればいいんだがな」
呟く恒夫の声は食べ物屋を探すラグには聞こえない。
夕食を終えた後、またカジノに行って一千万を二千五百万に増やした。
ラグもたっぷりスロットで遊んだ。
装備のために使うという事で納得したのかもう分け前をよこせとは言わなかった。




