第六十二話
小さな町の武器屋から秀樹と栄二と菜穗が出てきた。
「くそっ、ぼったくりやがって」
愚痴る秀樹の隣で栄二も浮かない顔だ。
「仕方ないよ、砂漠まで商品持ってくるのは大変だからね」
宥める菜穂の隣で秀樹がスポーツ刈りの頭を掻き毟る。
「わかってる。でもよぉ、1発十五万ギギルってのはぼったくりすぎじゃないか? 」
「武器屋もこの一軒しかないから足下見られてるのかもわからないしね」
納得いかない様子の秀樹に菜穗が相槌を打った。
反対側で栄二が苦笑いしながら口を開く、
「でも魔法の弾は残り3発だからさ、僕はここで買わないと戦えなくなるからね」
「手間賃ってヤツね、山の上の自販機とかと同じじゃない? 車が入れないほどの山ならわかるけど駐車場のある山でも稀に高い時があるのは納得いかないけどね、流石に砂漠の真ん中じゃ何でも高くなるわよ」
二人と違って菜穗はケロッとした顔だ。
「そうだね、次のイベントで使うかも知れないから10発くらいは買わないとね、恒夫に貰った残りの百万ギギルに僕が自分で五十万ギギル出して買うからさ」
諦め口調の栄二の肩を秀樹がポンッと叩く、
「二十五万ギギルは俺が出すよ、さっきのイベントでは俺もいっぱい使ったからな」
戦闘イベントを終えた三人は砂漠にある小さな町で休んでいた。
町の端から端まで歩いて四十分も掛からないという町とは名ばかりの集落と言った所である。
当然、宿や商店なども少なく品数も豊富とは言えない、何処の町でも1発十万ギギルの魔法銃の弾がこの町では十五万ギギルもした。
砂漠を渡る休憩地として点在している町の一つなので多くは望めない、深い井戸が有り水を補給できるだけでもありがたいといった場所なのだ。
菜穗が服に付いた砂を払う、
「こんな辺鄙な村じゃ仕方ないわね、シャワーが使えただけでも奇跡だわ」
「食い物は今一だけどな」
「今一なんてものじゃないわよ、砂が入ってて油断したらジャリって噛んじゃうわよ、埃っぽいし、さっさと次のイベントに行きたいくらいだわ」
「ヘカロさんに運んで貰える町はここしか無いんだから仕方ないだろ、野宿よりマシだ。それに今の菜穗は砂が滴る良い女って感じだぜ」
先程から事ある毎に服に付いた砂を払う菜穂を見て秀樹がからかった。
「砂なんか滴ってもちっとも嬉しくないからね」
「あははははっ、良い女って言ったんだぜ」
じろっと睨む菜穂を見て秀樹が大笑いだ。
栄二を先頭に歩き出す。
「店も少ないし三日の休みが長く感じるね」
「警戒心が強いっていうか、町の人も素っ気ないしな」
「暑さで伸びてるんじゃない? 昼間動いている人殆ど居ないし」
うだるような暑さの中、三人は宿へと向かった。
初日に町を回った後は三日目に魔法の弾を買いに武器屋へと行っただけで他はずっと宿で過ごした。
退屈だったが戦闘イベントで疲れた身体を癒やすには丁度よかった。
休みが終わりヘカロの元へと集まる。
「浮かない顔だな、休めなかったのかい? 」
「身体は休めましたけど気持ち的に今一って感じです」
苦笑いする秀樹を見てヘカロがフッと口元に笑みを湛えた。
「砂漠にある小さな町だ。多くは望めないよ」
「野宿よりはマシだったわよ、勝って300ポイント貰ったんだし私は文句ないわよ」
「それでか……菜穗さんがずっと機嫌が良いのがわかったよ」
ケロッとした顔の菜穂を見て栄二が溜息をついた。
「勝ったんだから当然でしょ、これからもこの調子でいくわよ」
「へいへい、期待に添えるように頑張りますよ」
張り切る菜穂に家来のようにこたえる秀樹を見てヘカロが笑いながらサイコロを手渡す。
「フフフッ、ではサイコロを振ってくれ」
「次は楽なイベントにして欲しいぜ」
ゾロ目は出るなと祈りながらサイコロを振った。
ラッキーイベントなら良いがバッドや戦闘イベントは御免である。
「3と6の9か、今は17マス目だから26マス目に移動だ」
「50マスまでは初級で楽なんですよね? 」
ほっと胸を撫で下ろすと秀樹が訊いた。
「そうだ。戦闘イベントは別にしてゲームに慣れるように50マスまでは簡単だ。51から100までは中級と言ったところだね、残りの101から200までが本番だ」
「戦闘イベントより楽なら50マスまではどうにかやっていけそうだね」
ヘカロの話しに栄二も安心顔になる。
「どうにかどころか楽勝よ、秀樹くんと栄二くんと組んで本当に良かったわ」
甘く考えている菜穗の前で秀樹が胸を張る。
「任せろ! このまま勝ち進んで予選なんか突破してやるぜ」
「二人とも油断はダメだよ、僕たちは只の人間なんだからね、周り全て僕たちより上だって思って行動しなきゃダメだ」
窘める栄二の背を秀樹がドンッと叩く、
「わかってるって、意気込みを言っただけだぜ」
「そうそう、何事も前向きに考えないとね」
強敵のミノタウロスや鬼に勝った事で二人はすっかり自信が付いた様子だ。
「前向きなのはいいけど…… 」
やる気になっている二人に水を差すのは止そうと栄二の声が尻すぼみだ。
話がついたのを見てヘカロが天使の羽を広げる。
「では26マス目に進もうか」
白い光に包まれて秀樹たちが消えていった。
恒夫とラグも小さな町で休んでいた。
小さいと言っても端から端まで歩いて二時間以上掛かる規模の町である。
観光地らしく小さいが賑やかな所だ。
一泊十万ギギル以上もする高級ホテルに部屋を取ると初日はずっと室内にいた。
障害物競走で走り続けた恒夫は筋肉痛で足が痛くて遊び回る余裕など無かったのである。
こんなに高い部屋を取るなど前のゲームの終わりにネピアとクロエに思い出を作ってやろうとしたとき以来だ。
秀樹たちに気を利かせて恒夫は泊まっていないので高級ホテルに泊まるのはこれが初めてである。
仲間になってくれた猫娘のラグを引き留めるために高い部屋にしたのだ。
自分と組めばこの先も贅沢ができると餌で釣る作戦だ。
恒夫はシャワーを浴びるとパンツ一丁でベッドに転がった。
「ラグの分入れて2部屋で二十四万ギギル三日で七十二万かよ……俺一人ならゲーム終わりまで安宿で泊まれる値段だぜ、イカサマサイコロ様々だ。明日から少し稼ぎに行かないとな」
ベッドでぐったりしているとラグがノックもせずに入ってきた。
高級ホテルに泊まるのは初めてなのかはしゃぎっぱなしだ。
「ツネぇ~、このホテル凄いぞ、でっかい風呂だけじゃなくてプールもあるぞ、一緒に泳ぎに行くぞ、早く起きろよ~~ 」
シャワーを浴びてさっぱりしたのかラグは元気いっぱいだ。
恒夫が首だけを回してラグを見る。
「一人で行ってくれ、俺は足が痛くて歩くのも嫌だ。それよりマッサージ呼んでくれ」
ラグはベッドに駆け寄ると恒夫の薄い頭をモシャモシャ触る。
「何言ってんだ……まったくツネは頭だけじゃなくて体もジジイみたいだぞ、人間って毛が少ないんだな、背中とか生えてないんだな」
「獣人と違って人間は頭にしか長い毛は生えないんだ…… 」
ネピアの時と同じだ……、思い出したのか恒夫がラグを見つめる。
「ふ~~ん、でも恒夫は頭も生えてないぞ」
「頭は放って置いてくれ、それなりに気にしてるんだぞ」
薄い頭をモシャモシャ触る手を払い除けると恒夫が続ける。
「それよりラグは恋人居るのか? 美人だからいてもおかしくないけど」
ラグがバッと後ろに跳んだ。
「にゃんだ? 恋人なんか居ないぞ、あたいに変な事する気だな」
睨み付けるラグの前で恒夫が手を振る。
「違うから、変な事なんてしないからな、ラグが可愛いから気になったんだよ、だいたい俺がそんな事したらラグに殺されるだけだろ」
この警戒心は本物だな、処女か……、
慌てて言い訳する恒夫にラグが近寄ってきた。
「にゅははははっ、そうだぞ、変な事したらぶっ飛ばすからにゃ、あたいが可愛いってか? ツネは煽てるのが旨いぞ、にゃははははっ 」
また頭をモシャモシャ触りながらラグが照れる。
「にゃ~にゃ~~、プールでも行って遊ぶぞ、町でショッピングもしたいぞ」
「今日は休ませてくれ、足が痛くて歩けないからな、ショッピングは明日だ。俺がカジノで稼いで服でも靴でも何でも買ってやるからさ、だから今日は一人でプールで遊んでてくれ、その代わり晩飯は何でも好きなもの奢るからさ」
ラグの耳と尻尾がピンッと立った。
「御飯! 御飯も高級店だぞ、フルコース食べるからな」
「わかった。フルコースでも何でも奢るから今日はおとなしく一人で遊んでてくれ」
「にゅははははっ、約束だぞ、んじゃプール行ってくるぞ」
部屋を出て行こうとするラグを恒夫が呼び止める。
「プール行く前にマッサージ呼んでくれ、筋肉痛に効く薬あったら貰ってきてくれ」
「まったくしょうがないにゃ~~、ハゲに効く薬だな、わかった」
「ハゲじゃねぇ、筋肉痛だ……いや、ハゲに効く薬もあるなら頼む、金は幾らでも出すから」
ラグがバッと振り返る。
「ダメだぞ、ツネのその頭気に入ってるからな、薬あってもやらないぞ、モシャモシャしてあたいが遊ぶんだからな」
「俺の頭は玩具じゃねぇからな」
怒鳴る恒夫を見てラグがニタリと悪い笑みだ。
「お前はそこでハゲていけ!! 」
意味のわからない捨て台詞を吐いてラグは部屋を出て行った。
「ラグの水着姿か……ちょっと惜しかったな」
恒夫がベッドに転がりながら独り呟いた。
ラグが呼んでくれたマッサージが気持ちよくていつの間にか眠っていたらしい、誰かに揺すられて目を覚ます。
「いつまで寝てんだ。もう夜だぞ、早く御飯食べに行くぞ」
「んあっ? 」
瞼を開けた恒夫の目にプクッと頬を膨らませたラグが映った。
「うう……もうそんな時間か? 」
「もうとっくに日が落ちてるぞ、ホテルの食堂でお昼食べただけで腹ぺこだぞ」
「俺は腹より眠たい……晩飯もホテルで食べろよ」
面倒臭そうに寝返りを打った恒夫の薄い頭をラグがガシッと鷲掴みにした。
「にゃに言ってんだ? フルコース食べに行く約束だぞ、約束破ったらこのまま毛を全部引っこ抜くからな」
頭を掴むラグの腕を恒夫がバッと掴んだ。
「止めてくれ! 毛だけは許してくれ、わかった。起きるから、フルコース食べに行くから」
「よしっ、許してやる。さっさと起きろ」
ラグが頭から手を離すと怠い体をベッドから引き剥がして起き上がる。
「障害物競走で走りっぱなしだったのにラグは元気だな」
「チャトラン族の戦士だからな、あれくらい何ともないぞ、ツネが弱すぎるんだぞ」
「俺は頭脳派だからな体力使うのは他の奴らに任せてんだ」
「ツネは頭突きが得意なのか? それで頭使いすぎてハゲたんだな」
「違うからな、頭脳派だ。知恵を回すって事だ。頭使って攻撃なんかしないからな」
怒る恒夫の薄い頭をラグがモシャモシャ触る。
「わかった、わかった、今では立派なハゲ派だぞ、頭突き止めて光を反射させて相手の目を利かなくして戦えるぞ」
「そこまでハゲてないからな、って言うか薄いだけでハゲじゃないからな」
ラグの手を払い除けると恒夫が服を着始めた。
「ふぁ~~あぁ……、まだ眠いな」
大きな欠伸をする恒夫の顔をラグが覗き込む、
「まだ眠いのか? 昼過ぎから五時間くらいずっと寝てたぞ」
「四時間半くらい寝てたな、マッサージが気持ちよくてその後ぐっすり熟睡してた。マッサージの御陰で足の痛みもだいぶマシだ。走るのは無理だけど歩くくらいなら痛くないや」
「んじゃ御飯食べに行くぞ、肉と魚のフルコースだぞ」
「俺も腹が減ってきた。それじゃあ飯食いに行くか、お腹ペコペコペコにゃんこだ」
ラグがピンッと耳を立てた。
「んにゃ? ネピアの口癖だぞ、ほんとにネピアと一緒に居たんだにゃ」
「ああペコにゃんこか? チャトラン族で腹減った時に言うんじゃなかったのか? 」
「ペコにゃんこなんてバカ言うのネピアだけだぞ、あたいは食べ放題って言葉が好きだぞ」
「ネピアだけか……食べ放題ねぇ………… 」
ネピア以上にお馬鹿なんじゃ……、恒夫は思った言葉を飲み込んだ。
ラグが恒夫の腕を引っ張る。
「腹減ったぞ、早くフルコース食べ放題に行くぞ」
「フルコースは食べ放題じゃないからな、まあ好きなだけ注文すればいいから食べ放題と同じだけどな、それじゃあ行くか」
ラグに腕を引かれるようにして恒夫が部屋を出て行った。




