第六十七話
ドォオォ~~ン、直ぐ傍で音が聞こえた。
バナナの葉のような大きな茎から秀樹たちが覗くとエルフの男女と熊のような獣人がサーベルタイガーの群れと戦っていた。
「こいつで最後だ。牙付きの猫なんて俺の敵じゃねぇ」
熊のような獣人がサーベルタイガーの首根っこを掴んで捻り殺した。
「ギガル殺すなんて止めなさい、かわいそうでしょ」
女エルフが叱ると熊男ギガルが笑いながら頭を下げた。
「悪い悪い、獣人の本能でつい殺しちまう、できるだけ気を付けてるんだがな」
「マーサ、仕方ないさ、ギガルは山育ちだ。気が荒いのさ」
男エルフは言葉を止めると秀樹たちの隠れているバナナの茎を見つめた。
「それに引き替えロアスは紳士だね、その方たちを此方へ呼んでくれないかい? 」
自分たちの事だと秀樹が身を堅くしたその時、後ろから声が聞こえた。
「了解しましたケリウス様」
三人がバッと振り返ると狼男が立っていた。
「ひぅっ!? 」
「うわぁっ! 」
「くそっ!! 」
同時に悲鳴を上げる三人を見て狼男のロアスが牙を見せてニヤッと笑った。
「そんなに驚くな、何も取って食いはしない、ケリウス様が呼んでいる。失礼の無いように前に出ろ、変な真似はするなよ、俺がいるのに気が付かない相手など一瞬で殺せるからな」
「わっわかった。別に戦おうとか思ってないから…… 」
震える声で言うと秀樹を先頭に菜穗と栄二が続いて隠れていたバナナの葉から出て行く、
「人間の皆さんでしたか、そんなに怖がらないでくださいよ、私たちエルフは人間とも友好関係の間柄ですよ」
爽やかに笑いながら男エルフのケリウスが秀樹たちを手招く、
「ギガルがサーベルタイガーを捻り殺したりするから驚いてるじゃない、だから野蛮な獣人と組むのは嫌だったのよ」
女エルフのマーサが熊男ギガルに軽蔑の目を向ける。
「がははっ、悪いって謝っただろ、大体獣を殺すのにビビってたんじゃこのゲームやっていけないぜ」
マーサの視線に動じもせずにギガルが下卑た声で笑った。
「その辺で止めておけ、人間の皆さんが怖がるだろう」
爽やかな優男といった感じのケリウスがチームのリーダーらしい、ケリウスとマーサのエルフ二人に熊男ギガルと狼男ロアスの四人チームだ。
前に立つと秀樹が頭を下げた。
「ごめん、敵意は無い、魔法を感じたから見に来ただけだ」
「このイベントはポイントを取り合うものじゃ無いから戦うつもりなんてありません、隠れて覗いた事は謝ります。ごめんなさい」
隣で栄二も頭を下げる。
菜穗がじっとマーサを見つめた。
「私と違う感じの魔法を感じたから気になって見に来たの、そしたらエルフさんたちがいたから……ごめんなさい、怖かったから隠れて見てたのよ」
マーサの眉がピクッと動いた。
ケリウスが菜穗に視線を向ける。
「ほう、マーサの魔法に気が付きましたか? あなた魔法のセンスがありますね」
「センスですか? 」
物怖じしないのか相手がエルフで安心したのか菜穗は普段の顔に戻っている。
マーサが秀樹と栄二に優しく声を掛ける。
「頭を上げてくださいな、私たちも戦うつもりなんてありませんからね」
秀樹と栄二が下げていた頭を上げた。
「あっ、ありがとうございます」
「はっ、話がわかる人たちで良かったね秀樹」
二人の声がどもっている。
ビビっているのでは無い、大人の美女といった感じのマーサの妖艶な微笑みに緊張していた。
「ふふふっ、面白い人たちですね、私はマーサ、ご覧の通りエルフですよ」
秀樹と栄二が姿勢を正す。
「あっ、俺……いや、自分は江藤秀樹です。普通の人間で神様に力を貰って魔法が使えます」
「僕は野方栄二です。神様から不死身を貰いました」
二人が慌てて自己紹介をする。
緊張の余り言わなくてもいい能力の事まで話していた。
不死身と聞いて狼男ロアスの目がギラッと光る。
当然秀樹たちは気が付かない。
「私は緒方菜穂っていいます。魔法使いです。それでセンスって何ですかケリウスさん」
二人と違い菜穗はケロッとした顔だがイケメンのケリウスが気に入ったのか頬が少し赤くなっている。
「私はエルフのケリウス、このチームのリーダーだ。君たちの後ろにいるのが狼男のロアス、向こうが熊男のギガルだ。ロアスは紳士だがギガルは粗野なので気を付けてくれ」
ケリウスに紹介された狼男のロアスが前に来ると秀樹たちに頭を下げた。
「脅かして済まない、敵か味方かわからなかったのでな」
「がははっ、気を付けろよ、ロアスは音も無く忍び寄って喉元を掻っ捌くからな」
少し離れた所で熊男のギガルが黄色い歯を見せて笑った。
マーサが優しく微笑みかける。
「下品な男でごめんなさいね、あれは気にしなくてもいいからね」
「はい、マーサさんたちが悪い事するようには見えませんから、ねっ、秀樹」
「ああ、ロアスさんにはビビったけど、優しい人で安心しました」
見つめられて秀樹と栄二が真っ赤になっていく、
ケリウスが菜穗に向き直る。
「センスの話しだったね、菜穗さんには魔法のセンスがあるんだよ」
「私に魔法のセンスが? 」
驚き顔の菜穗にケリウスが続ける。
「私は元から魔法使いでね、神様に力を貰わなくても魔法が使えるんだよ、菜穗さんが感じた違和感は本物の魔法さ、本物の魔法を感じられるセンスを持っているって事だよ、魔法に対する適性があるって事だ。上級魔法使いだろ? 経験と訓練次第でそれを越えるセンスがあるって言っているのさ」
「私にそんな力が……本当ですか? 」
驚く菜穗に今度はマーサが話し始めた。
「見込みがあるって事よ、人間にしておくには惜しいわね、魔力の代わりに体力や気力を使うからどうしても限界があるのよ、あなたがエルフや妖怪だったら上級魔法使いを越える事ができたのに、本当に勿体無いわ」
「そうなんですか……限界があるんですか」
がっかりする菜穂を見てケリウスが優しく微笑む、
「使える力に限界はある。人間だからね、でも一度や二度くらいは上級魔法を越える特級魔法や禁術を使えるようにはなれるかも知れないよ、だから鍛錬を積む事だね」
「本当ですか? 本当なら頑張ります。私はこのゲームどうしても勝ちたいんです」
「本当さ、進んで戦い魔法を何度も使うといい、魔法のコツというか、感覚を掴めば更に上が見えてくるさ」
顔を明るくした菜穗にケリウスが優しく微笑んで頷いた。
話を聞いていた秀樹が感心した声を上げる。
「元から魔法使いなんて凄いよな、俺たちじゃ敵わないぜ、ケリウスさんたちが敵じゃ無くて安心したよ」
「うん、そうだね、オーラが違うよね」
栄二はマーサに惚れたのか真っ赤である。
菜穗がもじもじしながら口を開く、
「私たち一緒に行ってもいいですか? 」
ハッと秀樹も口を開く、
「そうだぜ、ケリウスさんと一緒なら安心してジャングルを抜けられるぜ」
「うん、僕も賛成だ」
三人とも恒夫の事はすっかり頭から消えた様子だ。
ケリウスが顔を顰める。
「済まない、それはダメだ。私のチームと一緒に行動すれば菜穗さんたちのポイントが減るよ、このイベントは各自のサバイバル能力を見ている。各チームのレベルに合わせてどういう行動を取ったのかでポイントは決まる。序盤から私たちと行動を共にすれば私たちのレベルで判断される事になる。そうなると本来菜穗さんたちが貰うポイントの半分以下になってしまうよ、猛獣や毒虫などに気を付けていれば死ぬ事の無いイベントだ。個々に動いたほうがいい」
「そうなんだ…… 」
残念そうな菜穗の隣で秀樹が頭を下げた。
「そうですね、ありがとうございました」
「では我々は先に行くよ、菜穗さんも秀樹くんも栄二くんも気を付けてな」
爽やかに笑うとケリウスたちはジャングルへと消えていった。




