第五十九話 「決勝戦」
決勝戦に誰を出すのか円陣を組んで話し合う、
「次も俺が出るぜ、鬼に勝った俺が出れば狼男も警戒して迂闊に攻撃してこないだろ」
「ダメだよ、逆に警戒して慎重になられたら打つ手が無くなるよ」
鬼に勝って自信が付いたのか鼻息荒い秀樹を栄二が止める。
菜穗が身を乗り出す。
「じゃあ私が出るわよ、上級魔法で仕留めてやるわよ」
「ダメだよ、2回戦戦った男が殺されただろ」
「そうだぜ、上級魔法でも避けられたら無いのと一緒だ」
二人同時に反対されて菜穗がムッとして言い返す。
「じゃあどうやって戦うのよ、秀樹くんは中級魔法でしょ、栄二くんは魔法の銃しか無いじゃない、私が一番強いんだからね」
「絶対にダメだ。菜穗を死なせるわけにはいかない」
強い口調の秀樹の隣で栄二もマジ顔で口を開く、
「そうだよ、僕たちは不死身だから獣人くらいなら殺されても生き返る事ができる。負けたとしても死ぬ事は無い、でも菜穗さんは違うだろ、僕たちには菜穗さんの力が必要だ。だからここで死ぬのはもちろんあの人間チームの残りの男のように腕とか足を失わせるわけにもいかないんだ。だからここは僕に任せて欲しい」
「そうだぜ、菜穗はミノタウロスと立派に戦っただろ、次は…… 」
秀樹がバッと栄二に向き直る。
「僕に任せろってどういう意味だ? 」
「言葉通りだよ、決勝戦は僕が戦う、菜穗さんも秀樹も立派に戦っただろ次は僕の番だ」
「何言ってんだ……どうやって戦うんだよ」
栄二のマジ顔を見て秀樹の声のトーンが落ちる。
「影マントと空気玉を使って完全に気配を消す。あとは魔法の銃を使って腹か背中の魔法刻印を狙えば勝てるよ」
「相手が悪いぜ、狼じゃなかったらそれでいいけど鼻の良い犬には通じないぜ、姿と気配を消しても匂いでバレるぜ」
「大丈夫だよ、作戦があるんだ」
栄二が秀樹と菜穗に耳打ちする。
「薬草か……そういや町で買ってたな」
「犬や猫の好きな匂いの出る薬草と嫌いな匂いの出る薬草を買ってたわね、猫にマタタビって言うけど犬にも効くのかしら? 」
「店の人が言ってたのが嘘なら負けるよ、その時は勘弁してよね」
疑うように首を傾げる菜穗に栄二が笑いながら言った。
「わかったわ、栄二くんに譲るわよ」
菜穗が素直に引いたのを見て秀樹が栄二の肩を叩く、
「俺より賢いお前が自信あるなら任せるよ、無理だけはするなよ」
「任せてよ、我慢できる範囲で無理してみるよ、不死身だからね」
ニッと笑う栄二を見て秀樹がしょうがないなという様子で溜息をついた。
イベント担当天使が壇上へと上がる。
「それでは決勝戦を始めます。代表者は試合場に出てください」
「じゃあ行ってくるよ」
手を振って試合場へと向かう栄二に菜穗が声を掛ける。
「栄二くん! 負けてもいいから無理しちゃダメだよ、死なないでね、この先も一緒に旅を続けるんだからね」
「菜穗さん……了解したよ、やれるところまでやってみるよ」
笑顔で言うと試合場へと上がっていった。
勝ち負けより僕を心配してくれた。
あの菜穗さんが……この勝負絶対に負けられない、勝って300ポイント貰うんだ……、後ろ向きで秀樹や菜穗には見えないが栄二が今までに無い覚悟を決めた男の顔になっていた。
決勝戦が始まる。
相手は2回戦で人間を殺した狼男が続けて出てきた。
「これより決勝戦を始めます。人間秀樹チームの野方栄二と獣人狼男チームのゲンガリ、両者ルールに従って戦ってください」
イベント担当の天使に続けて審判役の天使が口を開く、
「では勝負始め! 」
狼男のゲンガリがダダッと走り寄り左手に持つ魔剣を栄二の腹に突き刺した。
「悪く思うな、鬼を倒した人間だ。初めから全力でやらせて貰う」
刺した剣を横に捻りながら引き抜いた。
「ぐぶっ! 」
栄二が腹を押さえて前のめりに倒れ込む、
「栄二くんがっ……大丈夫だよね」
脇で見ていた菜穗が青い顔で振り向いた。
「心配無い、あれくらい大丈夫だ。物凄く痛いけどな」
顔を顰めながら秀樹がこたえた。
倒れている栄二の周りの床が赤く染まっていく、大量の出血だ。
普通なら死んでいる。
「審判、どうした? 」
狼男が栄二に背を向けて審判を見る。
「ゆっ、有効、ポイント有り」
開始から一分も経っていない、あまりの事に審判も唖然とした様子だ。
「何がポイント有りだ。死んでるぜ、さっさと勝ちを宣言しろ」
狼男のゲンガリが審判を睨み付けた。
2回戦の人間もこれで殺したのだ。
同じ技を使って同じように倒れて大量に出血している。
これで死んでいないわけがない。
「狼男のゲンガリ、1ポイント先取」
審判役の天使が声高に告げた。
「何言ってやがる…… 」
ゲンガリが言葉を止めて横にバッと跳んだ。
「ぐわぁあぁ~~ 」
悲鳴を上げるゲンガリの右腕に雷光がバチバチと纏わり付いた。
「なん…… 」
ゲンガリがバッと振り返ると同時に魔法の銃を握った栄二が立ち上がる。
「何で生きてる? 」
ゲンガリが顔を顰めた。
ふらつく足を踏みしめて栄二が口を開く、
「僕は負けない、勝ってネピアに会うんだ。チャトラン族の村へ行くんだ。秀樹や恒夫と3人で……菜穂さんを入れて4人で勝つんだ。こんな所で負けていられないんだ。佐伯や秀樹みたいに強くはない、中津や恒夫みたいに知恵も回らない、僕に出来るのは秀樹や恒夫のサポートだ。それでいいんだ。秀樹が戦いやすいように手を貸すのが僕の役目だ」
マジ顔の栄二がゲンガリを睨み付ける。
「でもね……でも、僕だって戦えるって事を証明してやるよ、戦いは力だけじゃないって事を証明してやるよ、恒夫がいつ戻ってきてもいいように、胸を張って勝ったって言えるようにさ」
心の内を吐き出す栄二の向かいで険しい顔をしてゲンガリが再度訊く、
「確かに殺したはずだ。只の人間なら死んでいるはずだ。何で生きている? 」
こたえる代わりに栄二が魔法の銃をぶっ放した。
「おわっ! 」
ゲンガリがサッと避けた。
速い、元から素早い狼男が俊足の力を貰ったのだ。
普通の人間に追える速度ではない。
栄二が使った魔法の弾はデン弾、電気の弾だ。
ゲンガリがいた場所にデン弾が落ちて半径3メートルに電気が走りバチバチと青い火花を散らせる。
「何で生きてるか知らんが面白い、上級魔法か何か知らんがさっき殺した人間より強いのだけは確かだな、鬼に勝っただけはあるって事か」
左手で剣を構えるとゲンガリが黄色い牙を見せてニヤリと笑った。
始めにデン弾が当たった右腕をだらりと下げている。
痺れているのか暫くは使えない様子だ。
「あんまり話すなよ、弱く見えるぞ」
栄二がニヤッと笑い返す。
余裕ぶっているが心臓はバクバクだ。
「貴様ぁーーっ 」
怒鳴るゲンガリに栄二が魔法の銃をぶっ放す。
ゲンガリがバッと横に走って避ける。
「さっきは油断してただけだ。二度と当てられると思うなよ」
牙を見せて笑うゲンガリの横でデン弾がバチバチと雷光をあげている。
「俺は鬼に負けたグリガとは違うぞ、グリガのバカは粋がって出ていった癖に一瞬で鬼に殺されやがった。だが俺はグリガのバカとは違う、お前を殺して証明してやるぜ」
ゲンガリがバッと走り寄る。
栄二が慌てて逃げるが一瞬で追い付かれた。
「死ね! 」
ゲンガリが剣を振る。
「ぐわっ!! 」
呻いた栄二の左腕が床に転がった。
首を落とそうとした剣を左手で防いだのだ。
左腕の肘から先を切り落とした剣は滑って頭の上を通っていった。
狼男はBクラスだ。
ハンデが1ポイント付いている。
3ポイント先取で勝ちだ。
先程の1ポイントとハンデを合わせて2ポイントだ。
後1ポイント取られれば負けである。左腕を犠牲にして頭を守ったのだ。
脇で見ていた菜穗が秀樹の腕に縋り付く、
「手が……栄二くんの手が………… 」
「心配無い、不死身の力が前と同じなら生えてくるぜ」
「本当なの? 」
信じられないといった様子の菜穗に秀樹がにっと悪戯っ子のように笑った。
「本当だ。でも生えてくる時も凄く痛いって言ってたからな、何回もやられたら気絶するかもな、それだけが心配だ」
栄二が呻きながら魔法の銃を腰に仕舞う、
「ぐうぅ……薬草を…… 」
薬草を取り出して傷口に当てる栄二を見てゲンガリが大笑いだ。
「あははははっ、そんな薬草で血を止めても無駄だぞ、次は足でも切り落としてやろうか」
「あっ、ああ…… 」
栄二が薬草を床にばらまいた。
片手では旨く傷口に当てる事ができない様子だ。
「くそっ 」
栄二は逃げるようにダダッと走って反対側に行くとまた薬草を取りだして傷口に当てる。
「ああっ、あああ………… 」
薬草を派手に床にばらまいた。
それを見てゲンガリがまた笑い出す。
「あははははっ、無様だな、鬼を倒したのは別のヤツらしいな」
笑うゲンガリを尻目に栄二はまた走って傷口に当てる振りをして薬草をバラ撒いた。
脇で見ていた秀樹がニヤリと笑う、
「作戦通りだな、旨くやってるぜ」
「そっか、傷を治す振りして匂いのする薬草を撒いているのね」
気付いた菜穗に秀樹がにやけながら無言で頷いた。
「でももう直ぐ腕が生えてくるぜ、あと一箇所撒けば狼を囲めるんだがな」
秀樹の見つめる先で栄二が苦しみ始めた。
「ぐぅ……うぐぁあぁ~~ 」
呻きながら栄二が反対側に走っていくとその場にしゃがんだ。
「何のつもりだ? 」
訝しがりながらゲンガリが魔剣を構える。
その目の前で栄二の左肘から腕が生えてきた。
「ぐわぁーーっ 」
叫びながら栄二が薬草をバラ撒いた。
脇で見ていた秀樹が呟く、
「旨い! これで四方を囲んだ」
秀樹の言う通り、栄二は逃げる振りをしてゲンガリの四方に犬の嫌いな匂いと好きな匂いの出る薬草を撒く事に成功した。
見ていたゲンガリの顔が引き攣っていく、
「腕が……お前人間じゃないのか? 」
「くぅぅ……痛かった。やっと生えたよ」
生えてきた左腕を振りながら栄二がゲンガリに向き直る。
「人間だよ、只ちょっと他の人間と違うだけさ」
ニヤッと笑う栄二を見てゲンガリも牙を見せて笑い返す。
「面白い、流石鬼を倒した人間だ。チャンスをやる。降参しろ、さっきの人間にもチャンスをやった。断った結果死んだ。よく考えろよ、俺の右腕を使えなくした事は褒めてやる。首を落とされる前に降参しろ」
栄二が魔法の銃を抜いた。
「降参なんてするわけないだろ、僕は何処も怪我してない、腕も生えてきた。そっちこそ降参しろ、右腕だけじゃ済まなくなるよ」
ゲンガリから笑みが消えた。
「調子に乗るなよ人間! ぶっ殺してやる! 」
突っ込んでくるゲンガリに向かって魔法の銃をぶっ放す。
「当たるかよ」
先程までゲンガリがいた床が燃え上がる。
栄二が使ったのは炎魔法のヒ弾だ。
「くそっ、外れた。次は当ててやる」
軽々と避けるゲンガリに魔法の銃を向ける。
魔法の銃は単発なので弾は空だ。
警戒したのかゲンガリがバッと横に跳んだ。
その隙に栄二は魔法の銃に弾を込める。
魔剣を構えてゲンガリが横から走り寄る。
栄二が魔法の銃をぶっ放す。
当然のようにゲンガリが避ける。
栄二が空の魔法の銃を向けるとゲンガリが横に跳んで避けた。
空とわかっていても反射的に避けてしまうのだ。
それほど戦いの経験があると言う事である。
「くそっ、チマチマ嘗めやがって、次は引っ掛からんぞ」
目の前で弾を入れ替える栄二を見てゲンガリが叫ぶと突撃してきた。
栄二は何も言わずに魔法の銃をぶっ放す。
ゲンガリがサッと避けて別の角度から突っ込んでくる。
空の銃を向けても今度は避けずにそのまま走ってきた。
ヤバい、やられる……、身構える栄二の前でゲンガリが止まった。
「何だこの匂いは!? 」
ゲンガリがバッと後ろに跳んで栄二と距離を置く、
栄二は慌てて魔法の銃の弾を詰め替えるとゲンガリとは逆方向に向けてぶっ放した。
弾が落ちた床がバッと燃え上がる。炎魔法のヒ弾だ。
ゲンガリを囲むように炎が上がっている。
先程から撃っていたのは全てヒ弾だ。
「ぐうぅ……なんて匂いだ。鼻が利かん」
鼻を押さえるゲンガリの前で栄二は炎に隠れるように移動した。
「くそっ、俺の鼻を効かなくして隠れる作戦か、そんなものが効くか、炎が収まれば直ぐに殺してやる」
キョロキョロと辺りを警戒するゲンガリの後ろから魔法の弾が飛んできた。
「うおぅ! 」
ゲンガリが反射的にバッと避けた。
直ぐ前に着弾するとバチバチと雷光をあげる。
電気魔法のデン弾だ。
「気配だけで避けるなんて流石だね」
声の聞こえる方へゲンガリがバッと振り向く、
「そこか! 」
炎の間からチラッと見えた栄二にゲンガリが突っ込んでいく、
「なん!? 何処だ? 」
ゲンガリが栄二を見失った。
有り得ない、
元から素早い狼男が俊足の力を貰って最高クラスの素早さを手に入れたのだ。
薬草によって嗅覚が削がれたとはいえ普通の人間を見失うなど有り得ないのだ。
「ここだよ」
栄二の声にゲンガリがバッと振り返る。
横から魔法の弾が飛んできてゲンガリの左足に直撃した。
「ぐぉう! 」
ゲンガリの左足首にバチバチと雷光が纏わり付く、咄嗟に避けたが避けきれずに足先が犠牲になった。
「やったね、これで少しスピードが落ちるね」
反対側から声が聞こえてゲンガリが振り向いて魔剣を構える。
「くぅ……嘗めるな、これしきの傷どうという事はない」
魔剣を構えながら辺りを窺う、視線が左右に動いている。
栄二の居場所はバレてない。
「じゃあ、これでどうだ」
栄二が魔法の銃をぶっ放す。
「嘗めるな! 」
ゲンガリがバッと飛び上がった。
5メートル以上跳んでいる。
今までで一番高いジャンプだ。
「なん!? 」
思わず栄二が声を出す。
「そこか! 」
声のする方へ魔剣を振るゲンガリの姿が変化している。
先程までは人間30%狼70%といった半獣人姿だったが今は狼が90%くらいあり殆ど二足歩行する狼といった姿である。
これを獣人たちは猛獣モードと呼んでいる。
「 ………… 」
栄二が悲鳴を上げそうになって咄嗟に手で口を塞いだ。
直ぐ脇を魔剣が掠めたのだ。
ヤバい、後5センチで腕を切られてたよ……、栄二は影マントを被り空気玉の首輪を付けている。
影マントは姿と気配を消す。
空気玉は呼吸を止める。
床に撒いて燃やした薬草によって狼男の鼻も効かない、栄二は完全に消えているのと同じだ。
後は音を立てないようにすれば獣人にも見つからない。
「くくぅっ……この姿になってもわからん、この匂いの所為だ」
猛獣モードのゲンガリがバッと後ろにジャンプすると燃えている薬草を踏み消し始めた。
「どうやって姿を消しているのかわからんが待っていろ、匂いさえ戻ったら直ぐに見つけ出して殺してやる。この姿になれば運動能力はもちろん嗅覚も数倍上がる。直ぐに見つけてやるからな、忌々しい人間め! 」
バッとジャンプすると反対側の炎も消し始めた。
ゲンガリを囲むように燃えていた薬草は残り2箇所になっている。
姿を消した栄二がゲンガリから一番近い炎に向かう、
「そう旨く行くかな」
栄二の声に反応してゲンガリがバッと跳んできた。
「どこだ! くそっ、逃げたか…… 」
吐き捨てると炎を踏み消し始める。
ボンッ! 魔法の銃の音にゲンガリがバッと振り返る。
次の瞬間、ゲンガリの腹に弾が当たってバチバチと青い雷光が身体全体を覆っていった。
「ぐわぁーーっ、ぐっぐがぁあぁあぁ~~~ 」
青い雷光に包まれてゲンガリが仰向けに倒れていく、栄二は逃げずに切られるのを覚悟してその場に留まって至近距離から魔法の銃を撃ったのだ。
スピード自慢の獣人も2メートルも離れていない距離から撃たれれば逃げる間もない。
「有効、ポイント有り、ハンデ2ポイントと合わせて3ポイント先取、よって野方栄二の勝ちとする」
審判役の天使がサッと手を上げた。
脇で見ていた秀樹がガッツポーズだ。
「やったぜ」
「きゃ~~、やった。やったぁ~、栄二くんが勝ったぁ~~ 」
菜穗が秀樹に抱き付いて喜ぶ、
栄二が空気玉の首輪を外して影マントも脱いだ。
「やったよ、秀樹、菜穗さん、僕勝ったよ」
満面の笑みで二人に手を振るが直ぐに苦しげな呻き声に振り返る。
「ぐぅ……ぐががぁあぁ………… 」
バチバチと雷光に包まれながらゲンガリが上半身を起こす。
「負けた……俺が人間に……負けた………… 」
悔しそうに歯を噛み締めて栄二を睨み付けた。
栄二がゲンガリの前に立つ、
「ゲンガリさんは強かったよ、2回戦の鬼も強かった。でも二人とも勘違いしてた。だから負けたんだよ」
「勘違いだと? 」
怪訝な顔のゲンガリに栄二が続ける。
「そうだよ、ゲンガリさんは何のために戦ってたの? 僕は相手の魔法刻印を消してポイントを得るために戦った。それがこの戦闘イベントの目的だからね、でもゲンガリさんも鬼も相手を殺す戦いをしていた。魔法刻印なんて関係なく相手を殺す事だけを考えていた。ゲンガリさんのスピードなら魔法刻印を2箇所消すなんて簡単にできたはずだよ、それをしないで僕を殺すのに夢中だった。最初は僕の刻印を瞬殺しただろでも途中から目的が変わったんだ。だから負けたんだよ」
「そうか……そうだな……くそっ 」
悔しげに床をバンッと殴るとゲンガリが立ち上がった。
「わかってはいるんだが戦いに夢中になっちまう、本能が獲物を仕留めろと疼くんだ。お前ら人間みたいに冷静じゃいられない、それが敗因だな」
マジ顔を栄二に向ける。
「さっき戦った人間と同じだと侮っていたのも敗因だな、俺の負けだ。完敗だ」
猛獣モードを解いたゲンガリが手を差し出す。
「たまたま町で薬草を買ったんです。あれが無ければ負けてました」
差し出した手を取って栄二が握手をする。
「勝ちは勝ちだ。自信を持て、でないと俺が惨めになる」
「ハイッ! 自信は付きました。ゲンガリさんのような強い獣人に勝てたんだから当然です」
ニッと牙を見せて笑うゲンガリの向かいで栄二が照れるように笑った。
「フフッ、楽しかったぞ」
手を振るとゲンガリは笑顔で仲間の狼男のところへ戻っていった。
秀樹と菜穗が試合場へと駆け上がる。
「やったな栄二、優勝だぜ」
「300ポイントよ、一人100ポイントよ、やったわね、私たち」
「うん、やったよ、本当に優勝だよ、信じられないよね」
二人に挟まれて栄二も心から嬉しそうだ。
そこへヘカロがやって来る。
「やったな栄二くん、まさか優勝するとは正直思っていなかったよ」
「それは俺たちも同じです」
「そうだよね、準優勝の100ポイント狙いだったもんね」
照れる二人の間に菜穗が割り込む、
「何言ってんのよ、私は初めから300ポイント狙いだったわよ」
「そうだっけ? でも栄二に負けてもいいからとか言わなかったっけ? 」
秀樹が意地悪顔でとぼける。
菜穗の頬がみるみる赤く染まっていく、
「なっ、言ってないわよ、死んでも勝ちなさいって言ってたわよ」
それを見て栄二が嬉しそうに口を開いた。
「うん、死なない程度に頑張れって言ってた。また旅を続けたいからって……菜穗さん優しいんだって思ったよ」
「なっ、何言ってんのよ、私は勝ちたいのよ、勝たなきゃいけないからこんな所で仲間を失うわけにはいかないだけ、わかったらこれからも私のために頑張るのよ」
真っ赤になった菜穗が秀樹と栄二の背中をドンッと叩いた。
秀樹がニヤッと意地悪に笑う、
「また高ピーに戻ったな、へいへい、菜穗女王様のために頑張りますよ」
栄二が楽しそうに口を開いて笑い出す。
「あははははっ、女王様って恒夫が喜びそうだね」
菜穗がハッとして二人を見つめる。
「そうだ。思い出した。恒夫を仲間に戻すって話し、私も協力するから実行しましょう、私が頭を下げればいいなら謝るからさ」
「菜穗さんが下手に出るなら恒夫もキツく言わないね、ああ見えて女の子には優しいからさ」
「だな、菜穗が謝るなら後は俺に任せてくれ、それでも戻らないって言うならあいつとは絶交だ。菜穗は頑張ってるんだからな」
栄二と秀樹も笑顔で賛成する。
イベント担当天使が壇上へ立った。
「結果発表とポイントの授与を行います。各チーム集まってください」
「待ってました。早く貰って休もうぜ」
「そうだね、何度も死にそうになって身体はともかく精神的に参ってるよ」
秀樹と栄二が駆けていく、後を追うようにヘカロも歩き出す。
「頑張ってるか…… 」
菜穗が寂しそうに呟いた。
ヘカロが振り返る。
「どうした? 心が揺らぐか? 」
菜穗がキッとヘカロを睨む、
「知っているんですね」
「言ったはずだ参加者のデーターは全て見る事ができると」
「私はどうしても勝たないといけないんです。どんな事をしても絶対に………… 」
「それなら秀樹くんたちを信じればいい、彼らなら君を救ってくれるよ」
「信じる? 何を信じろって言うんですか? 私に手を差し伸べてくれたのはヘルカさんだけ……もう誰も信じるなんてできません」
強張った顔の菜穗とマジ顔のヘカロが見つめ合う。
秀樹が大声で二人を呼んだ。
「ヘカロさん何してるんです? 菜穗も早く来ないとポイント貰っちまうぞ」
「早く終わらせて休みに行こうよ、町でゆっくりと休みたいよ」
栄二も手を振りながら大声で呼んでいる。
いつもの爽やかな笑顔でヘカロが振り返る。
「悪い悪い、菜穗さんの腕は治ったのか確認していたんだ」
「そっ、そうなのよ、私のポイント取ったりしたら承知しないからね」
慌てて言いながら菜穗が駆けてくる。
その後ろを歩きながらヘカロがぽつりと呟く、
「信じないか……苦しいな………… 」
各自ポイントを受け取るとヘカロに連れられて建物の外へと出る。
「わあぁ~~、綺麗ぃ~~ 」
歓声を上げる菜穗の隣で秀樹が眩しそうに額に手をかざす。
「砂漠の夕日か、結構綺麗だな」
室内で時間がわからなかったが外は夕暮れだ。
「もうこんな時間だったんだね、今日は良い宿に泊まろうよ、ゆっくり眠って明日買い物に行こう、魔法の弾が後3発しか残ってないよ」
栄二に振り返ると秀樹が頷く、
「そうだな、恒夫に貰った残りの百万ギギルに足して魔法の弾は20発くらい買っておかないとな、今回のゲームはキツいからな」
「早く恒夫を仲間にしないとね、今のままじゃお金はギリギリになっちゃうよ」
「だな、イベントで一緒になるかどこかの町で捕まえなきゃな」
秀樹がヘカロに向き直る。
「町まで連れて行ってくれるんですよね? 恒夫のいる町とか無理ですか? 」
「済まない、連れて行けるのは一番近い町だけだ。恒夫くんが近くでイベントをしているなら一緒の町で休む事もあるがそれ以外は無理だよ、だから今は無理だ。ここから一番近い町、というか大きな村だな、そこには恒夫くんは来ないよ」
「そうですか、じゃあ仕方ありませんね」
がっかりする秀樹の肩に栄二が手を置く、
「いいじゃないか、近くなら一緒の町で休むチャンスがあるって事だよ、前のゲームと違って今回は天使さんが毎回近くの町まで連れて行ってくれるんだからね、恒夫と会うチャンスもきっとあるよ」
「だな、じゃあ休むとするか」
二人を見てヘカロが頷いた。
「では町まで送ろう、三日間ゆっくりと休むといい」
ヘカロが天使の翼を広げる。
秀樹と栄二と菜穗が白い光に包まれて消えていった。




