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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
58/158

第五十八話 「2回戦開始」

 2回戦目が始まった。


「人間か…… 」


 青い肌の鬼がじろっと秀樹を睨む、


「降参しろ、勝ち目は無いぞ、犬っころのように死ぬだけだ」


 狼男を犬っころ扱いだ。

 厳つい四角の顔をして額の真ん中に一本の小さな角が生えている。

 背は高く3メートルほどだ。

 筋肉隆々で如何にもパワー系の妖怪だとわかる。


「降参なんかするかよ、人間を嘗めるなよ」


 気丈に言い返すが秀樹の足はガタガタ震えている。

 先のゲームで何度も死にそうになったが不死身の力で蘇った事のある秀樹にはこの世界の死は少し痛みを我慢すれば大丈夫という認識である。

 それよりも目の前にいる鬼の気迫にビビって震えていた。


「人間は賢いと思っていたがバカ犬と同じか…… 」


 溜息をつくと鬼がバッと顔を上げる。


「ならば死ね!! 」


 ダッと鬼が飛び掛かる。


「プラズマガード」


 秀樹が咄嗟に防御魔法を唱えた。

 バチバチと雷光をあげる電気の壁に鬼のパンチがぶち当たる。


「ぐうぅ…… 」


 鬼の左拳にバチバチと雷光が巻き付いていく、パンチは秀樹の目の前で止まっている。

 半分ほど電気の壁の中にめり込んでいるのを見て秀樹の顔が引き攣っていく、


「中級魔法でギリギリかよ」


 バッと鬼が飛び退いた。


「うはははっ、やるじゃないか、犬っころより楽しめそうだ」


 大笑いしながら左腕を振って纏わり付いた電気を払った。


「楽しむどころかこっちは必死だぜ」


 引き攣った顔で言い返しながら秀樹は策を練る。

 1回戦で鬼が狼男よりも早く動いてその怪力で瞬殺したのを秀樹は見ていた。


「うははははっ、必死か、いいぞ、必死に抵抗しろ」


 鬼がまた飛び掛かってくる。

 避けようと秀樹が右に走るが鬼は難無く片足を軸にして体を捻ると進路を変えて追ってきた。


「ふははっ、死ねぇ! 」


 パンチが秀樹の背中にぶち当たる。

 鬼のスピードも速いが走っていたので秀樹は魔法を使うのが間に合わなかった。


「がっ!! 」


 吐くように唸ると秀樹が床に転がった。


「秀樹くん! 」

「大丈夫だよ、あれくらいなら直ぐに再生する」


 心配そうに叫ぶ菜穗の隣で栄二が険しい顔だ。

 不死身とはいえ痛みは感じるのだ。

 秀樹が痛みに耐えていると思うと顔が険しくなって当然である。


「うはははっ、逃げるから本気で殴っちまった。もう少し遊びたかったんだがな」


 大声で笑いながら鬼が背を見せた。

 狼男を殴り殺したパンチである。

 人間の秀樹が生きているなど考えもしないだろう。


「プラズマスラッシュ」


 床に倒れたままで秀樹が魔法の杖を振るとバチバチと雷光をあげた電気の刃が飛び出す。

 脇で見ていた褐色の鬼が叫ぶ、


「避けろビギ! 」


 背を向けていた鬼がバッと横に飛び退く、その左腕を電気の刃が掠めた。


「うごぅ!! 」


 呻きと共に鬼が振り返る。

 その左の二の腕から血が流れていた。


「くそっ、避けられたか」


 ヨロヨロと秀樹が立ち上がる。


「何で生きてる? 魔法か? 」


 左腕を押さえながら鬼が怪訝な顔で訊いた。


「ハラペーニョファイヤー」


 秀樹はこたえず魔法の杖を振る。

 横に飛んで避ける鬼に向かって秀樹は魔法の杖を横に動かし炎で追った。


「うははははっ、面白い、俺のパンチが効かん、こんな面白いのは久し振りだ」


 走りながら鬼が心から楽しそうに大笑いした。


「くそっ、パワーもスピードもそこらの獣人より段違いだぜ、低級魔法じゃ無理だ。だが中級は限りがあるしな…… 」


 魔法の杖から炎が消えた。

 秀樹は魔法のペンダントと杖を持つ中級魔法使いだ。

 低級魔法なら連続使用できるが中級魔法は無理である。


「うはははっ、楽しくやろうぜ」


 炎が消えたのを見て逃げ回っていた鬼が突進してくる。


「ふははっ、死ねぇーっ 」


 鬼が血塗れの左腕を振り上げる。

 それなりの深手だがお構いなしだ。


「水の結界、ウォータードロップアーマー」


 秀樹の体を水の鎧が覆っていく、


「ぐうぅ…… 」


 秀樹が吹っ飛んで転がった。


「怪我なんて関係無しかよ」


 バッと秀樹が立ち上がる。

 低級魔法では鬼のパンチは防ぐ事はできないが威力は半減させる事ができた。


「うははははっ、知ってるぞ、お前らが使う魔法には制限があるんだろ? 使えなくなるまで何度でも倒してやるよ」


 鬼がダダダッと走って秀樹の正面に立った。


「だから、まだ死ぬなよ、もっと俺を楽しませろ」


 ヤバい! 秀樹が咄嗟に魔法を唱える。


「プラズマガード」

「ふははははっ、これならどうだ」


 鬼の足が雷光をあげる電気の壁に突き刺さる。

 秀樹が飛ぶようにして後ろに下がった。


「マジかよ…… 」


 言葉が続かない、目の前で鬼が電気の壁をぶち破った。

 バチバチと音を立てて電気の壁が崩れていく、中級魔法の防護壁を生身で破壊したのだ。


「ふははっ、死ねぇ」


 呆然とする秀樹の頬に鬼のパンチがぶち当たる。

 秀樹の体が宙に浮く、3メートルほど飛んで悲鳴も上げずに転がった。


「秀樹くん! 」


 脇で見ていた菜穗が顔を顰めて口元に手を当てた。


「大丈夫だ。大丈夫だよ、殴られただけだから…… 」


 栄二は真剣な表情で自身に言い聞かせるように呟いている。

 鬼が大笑いする。


「ふははははっ、ヤバい、ヤバい、もう少しで場外だぜ、こんな楽しいゲームを場外アウトにしたら勿体無いからな」


 倒れている秀樹の耳に鬼の笑い声が入ってくる。


 冗談じゃねぇ、不死身じゃなかったら一発で死んでるぜ、やっぱあの手しかないな、あれが無理なら降参だ……、

 秀樹がゆっくりと起き上がった。


「うはははっ、まだ生きてる。犬っころどもより余程強いぜ」


 笑いながら鬼が秀樹の正面に回る。


「何で攻撃しない、倒れた時に蹴りでも入れりゃあ勝負つくだろが」


 肩で息をつきながら秀樹が訊いた。


 不死身なので殴られた程度なら体は直ぐに再生されるが精神的なダメージを回復させるために時間が欲しかった。


 鬼の眉がピクッと動いた。


「何でだと? 格下相手にそんな事するかよ、犬っころじゃあるまいし正々堂々正面から殺してやるぜ、それに直ぐに殺したら面白くないだろ、さっきの犬っころはくるくる逃げ回ってムカついたんで速攻殺したがな、お前は魔法で俺の攻撃を受けやがるからな、俺のパンチもキックも効かないなんて面白くて堪らねぇ」


 牙を見せてニヤッと笑った。

 嫌な笑みでは無い本心から戦いを楽しんでいるような笑みだ。


 バカが、逃げたくてもお前が速くて逃げ回れないんだよ……、秀樹もニッと笑い返す。

 余裕があるからではない、怖くて変な笑いが出たのだ。


 話している間に息を整えた秀樹が魔法の杖を振る。


「ハラペーニョファイヤー 」


 低級魔法の炎が鬼に向かって吹き出す。


「うははっ、効くかよ」


 横に飛んで避けた鬼に秀樹がすかさず杖を向けた。


「プラズマスラッシュ」

「ミストガード」


 鬼が叫ぶと白い霧のようなものがボッと地面から立ち昇る。

 バチバチと雷光を放つ電気の刃が霧の壁を切り崩していく、その先に鬼の姿は無かった。


「うはははっ、炎を囮に使って電気の刃で攻撃か、面白い、うははははっ 」


 霧の壁が電気の刃を止めた一瞬で鬼は横に逃げていた。


「なん!? お前も魔法が使えるのか」


 驚く秀樹の向かいで鬼が大笑いする。


「うはっ、うははははっ、アイテムを貰ったからな」


 笑いながら腰布から魔法のペンダントを取り出した。


「俺は神様に俊足の能力と魔法のペンダントを貰った。御陰で犬っころに追い付いて殺す事ができた。俊足は何度も使ってるが魔法は初めてだ。使わせたお前は強敵だって事だ。死んだら天国で自慢していいぜ、うはははははっ」


 大笑いする鬼の前で秀樹の顔が引き攣っていく、


「俊足なのはわかってたけどアイテムに何を貰ったのか気になってたが魔法のペンダントかよ……低級魔法使いかよ」

「うははっ、見ての通り鬼族はパワーはあるがスピードは今一だ。それを俊足で補った。パワーとスピードのバランスを持ち更に魔法が使える。俺たちがこのゲームの勝者だ」


 引き攣った顔で秀樹も笑う、


「あはははっ、やっぱ凄いな、凄いぜ、でも……でも俺も只じゃ負けないぜ」


 不死身じゃなくて良かったぜ……、秀樹が心の中で呟いた。

 鬼が何を持っているのかわからなかったので作戦を実行するかどうか迷っていたのが吹っ切れた。


「うはははっ、お互い手の内がわかったところで殺し合いを再開しようぜ」


 鬼が笑いながら突っ込んでくる。


「プラズマガード」

「ウォーターニードル」


 秀樹が出した電気の壁に鬼が出した水の針が突き刺さる。

 中級魔法の秀樹に低級魔法の鬼だ。

 水の針は電気の壁に弾かれる。


「ふははっ、死ねぇ」


 水の針が突き刺さっていた場所へ鬼が続けてパンチを送る。

 バチバチと音を立てて電気の壁が崩れていき、突き破ったパンチが秀樹の額にクリーンヒットした。


「くはっ! 」


 吐くように呻いて秀樹が仰け反って倒れた。


 審判役の天使がサッと手を上げる。


「有効、鬼のビギにポイント1」


 倒れた秀樹の額に付いていた魔法刻印が消えていく、

 不安顔の菜穗が栄二に向き直る。


「有効どころじゃないわよ、諸に当たったわよ、死んでるわよ、大丈夫なの? 」


 パニックを起こしているのか早口になっている。


「どんなに殴られても大丈夫だよ、炎で丸コゲにされても復活するし、手足を切られても生えてくるんだよ、微塵切りにされたり灰も残らず焼かれたら死んじゃうけどね」


 菜穗を落ち着けようとしてか栄二がとぼけるように言った。

 倒れている秀樹を菜穗が見つめる。


「ふ~ん、不死身ってそんなに凄いんだ……私も不死身にすればよかったかな」

「そんなにいいものじゃないよ、痛みは感じるし毒や術で痺れたりしたら何もできないからね、秀樹や恒夫は大丈夫だけど僕なんか痛みで気を失いそうになるよ」

「ふ~ん、気絶してもダメなんだ」


 他人事のように鼻を鳴らすと菜穗が振り向く、


「秀樹くん動かないね」

「まさか気絶してるんじゃ…… 」


 栄二がバッと向き直る。


「秀樹! なにしてんだよ秀樹! 」


 ありったけの大声で名を呼んだ。

 仰向けに倒れていた秀樹の指がピクッと動く、


「うわあぁあぁ~~ 」


 秀樹が叫びながらガバッと上半身を起こした。


「こんなとこで気絶して堪るかよ、恒夫に笑われるぜ」


 気合いを入れるように両手で頬を叩くと秀樹が立ち上がる。


「リーダーなんて柄じゃないが戦いは俺の役目だ。栄二と恒夫と俺、3人がそれぞれ出来る事をやってんだ。オタってバカにされてる底辺の俺たちがよぅ、必死にあがいて勝ち抜くんだ。だからよぅ、初っぱなで負けてられるかよ……少なくとも全部を出し切るまではな」


 自身を鼓舞するように足を踏ん張り鬼を睨み付ける。


「うははははっ、まだ生きてる。タフなヤツだな」


 楽しそうに笑う鬼を見て秀樹はほっと息をついた。

 バカにしてるのか、余裕なのか、どっちでもいいが倒れた相手に手を出さないヤツでよかったぜ……、殴られたショックなのか目が霞んで体が少しふらつくが息を整えるとどちらも収まった。

 これも不死身の力である。


「よかった……心配させないでよ」

「ほんとに凄いな不死身って、普通なら秀樹くん3回死んでるよね」


 呟く栄二の隣で菜穗が驚きながらも興味津々の目だ。

 秀樹が魔法の杖を握り直す。


「中級魔法をぶち破るなんてやっぱ凄えな」

「うははははっ、褒めるなよ、お前も凄いぞ、人間がここまでやるとは思ってなかったぞ、こんなに殺し甲斐のある獲物は久し振りだ」


 楽しそうに笑う鬼の向かいで秀樹が顔を顰める。


「殺し合いじゃねぇ、ポイントの取り合いだろが」

「ふははっ、相手を殺しちゃいけないってルールが無い以上は殺し合いと同じだ」


 鬼が牙を見せてニヤッと笑うと手を伸ばす。


「ウォーターニードル」

「セラノブロック」


 鬼が飛ばした魔法の針を炎の壁が防ぐ、だがその隙に鬼は秀樹の真横に迫っていた。


「秀樹危ない! 」


 栄二が叫ぶが鬼の速さに秀樹はついていけない。


「ふはっ、死ねぇーっ 」


 鬼の蹴りが飛んできた。


「ぐふっ! 」


 秀樹が腹を抱えて吹っ飛んでいく、負けまいと咄嗟にお腹の刻印を手で塞いだ。

 魔法の刻印はクリーンヒットしないと消えないのだ。


 パンチの数倍の威力のある蹴りをまともに受けて秀樹は試合場の端まで飛んで転がった。


「うははっ、ヤバい、ヤバい、また場外に出すところだった」


 余裕に笑いながら鬼が近付いていく、


「秀樹、しっかりしろ秀樹」

「秀樹くん、立ちなさい、負けたら承知しないわよ」


 二人が叫ぶが秀樹は倒れたまま動かない。


「うはははっ、本当に死んだか? 」


 鬼が間近に来た時、秀樹が魔法を唱えた。


「炎の檻、タピチェケージ」


 二人の周りを炎の柱が檻のように囲む、捕獲用の魔法だ。

 本来の使用法は対象物だけを捕らえるために使うもので魔法使いが一緒に中に入ったりはしない、だが秀樹は鬼と一緒に中に入っている。

 中級魔法なので鬼も簡単には逃げられないだろう。


「何やってんのよ! あなたまで焼け死ぬわよ! 」


 叫ぶ菜穗を栄二が止める。


「大丈夫だよ、秀樹の作戦だ」

「作戦? 敵と一緒の檻に入るのが作戦なの? 」

「そうだよ、前のゲームで中津ってヤツが使った方法だよ」


 怪訝な顔をした菜穗が前に向き直る。

 隣で栄二が旨く行くように祈るようにして秀樹を見つめている。


「うはははっ、ふははははっ、俺を閉じ込めたか、だが貴様も一緒に入ってどうする? 一緒に焼け死ぬつもりか? 焦げる前にお前を殺せばいいだけだ」


 楽しそうに大笑いする鬼の前で秀樹が立ち上がる。


「一緒に焼け焦げようぜ」


 ニヤッと笑うと秀樹はポケットから空気玉を取りだして首に掛けた。


「うははっ、こんな檻直ぐに蹴破れるが……ちょうどいい、お前も逃げられないって事だ。俺を捕らえたつもりだろうが逆だ。自分から罠に入ってきたようなものだ。うははははっ 」


 楽しそうな鬼に向かって秀樹が魔法の銃をぶっ放す。


「うははっ、当たるかよ」


 バッと横に飛んで避けた鬼の足下に炎が上がった。

 秀樹が使ったのは炎魔法の弾、ヒ弾だ。

 炎の檻の中で更に炎が燃え広がる。


「暑苦しい事しやがって…… 」


 鬼の顔から笑みが消えた。


「ウォータードロップアーマー 」


 鬼の体が魔法の水に包まれる。


「これで俺は燃える事は無い、中級魔法のタピチェケージを使っているお前は他の魔法は使えない、焼け死ぬのはお前だけだ」


 ニヤリと口元を歪ませる鬼に向かって秀樹が無言で魔法の銃をぶっ飛ばす。


「なに!? 」


 バッと避けた鬼の周りに炎が広がる。


「何で魔法を……その鉄砲か? 魔法を使える鉄砲だな」


 鬼が険しい顔で秀樹の持つ魔法の銃を見つめた。

 秀樹は何も言わずにまた魔法の銃をぶっ放す。

 またヒ弾だ。

 3回連続の炎の弾で辺り一面火で埋められて真っ赤である。


「くぅぅ…… 」


 炎が秀樹の体に纏わり付いて服を焼いていく、

 脇で見ていた菜穗がバッと栄二の肩を掴んだ。


「何なのよ、燃えてるわよ、どういう作戦なのよ」

「もうすぐだから、もうすぐだから、黙って見ててよ」


 自分に言い聞かせるように不安な表情をして栄二がこたえた。


「もうすぐって何がよ、何が起きるのよ」


 菜穗が栄二の肩を揺すって聞き返す。


 その時、鬼の呻きが聞こえてきた。


「うぐぐ……うがぁ~ 」


 鬼が纏っていた水の鎧が消えていく、


「ぐうぅ……きっ、貴様ぁ~~ 」


 鬼が秀樹を睨み付ける。

 その顔に初めて恐怖が浮んでいた。


「うぅ……息が……息が詰まる…………くそっ…… 」


 鬼がバッと走り出す。

 だが先程までの機敏さは無い、走っているつもりなのだが端から見れば歩いているように見えた。

 息が苦しくて体が思うように動かないのだ。


 秀樹が魔法の銃を鬼に向けて撃った。


「ぐわぁあぁあぁ~~ 」


 バチバチと青い雷光に包まれて鬼が叫ぶ、電気魔法のデン弾だ。


「きっ、貴様は何故平気だ! 何故息ができる? 」


 青い炎に包まれた鬼が引き攣った顔で訊いた。

 秀樹が首に掛けていた空気玉の首輪を指でなぞるように触った。


「俺は息なんて詰まってないぜ、息をしなくても平気だからな」

「きっ、貴様……ぐぐぅ……息が……貴様……きっ、貴様ぁ~~ 」


 酸素不足でふらつく足を駆って鬼が秀樹に殴りかかる。

 秀樹は余裕で避けると鬼の背に向かって魔法の銃をぶっ放した。


「ぐっ! ぐはぁ~~ 」


 青い雷光に包まれた鬼が崩れ落ちた。

 電気魔法のデン弾が鬼の背にクリーンヒットだ。


 審判役の天使がサッと手を上げる。


「有効! ポイント有り、ハンデ2点と足して3点先取、よって江藤秀樹の勝ちとする」


 勝負が付いて試合場を囲っていた魔法の壁が消えていく、


「ふぅ~~っ、どうにか、どうにか勝ったぜ………… 」


 空気玉の首輪を外すと秀樹がその場にへたり込んだ。

 同時に炎の檻が消えていく、鬼の周りで燃えていた炎も電気も既に消えている。


「やった! やったよ栄二くん! 」

「うん、よくやったよ秀樹………… 」


 飛び上がって喜ぶ菜穗の隣で栄二は安堵の大きな溜息をついた。


 秀樹の作戦勝ちだ。

 炎の結界タピチェケージで鬼を包み込み窒息させる。

 以前のゲームで中津が使った方法だ。

 それを応用して自分は空気玉で窒息しないようにして魔法の銃を使って檻の中を更に炎で満たして酸素が無くなるのを早めたのである。


 人間と違い相手は鬼だ。

 炎の檻を破壊して逃げる事も有り得る。

 一緒に檻に入ったのは鬼を油断させるためだ。

 作戦通り鬼は檻を壊して逃げるより秀樹を倒す事を選んだ。

 鬼の驕りが招いた結果である。


 鬼がガバッと起き上がった。


「うははははっ、負けた、負けた。だが面白かったぞ、俺は青鬼のビギ、向こうにいるのが黒鬼のグギと土転びのキュキュだ」


 心から楽しそうに笑うビギを見て秀樹も自然と笑みになる。


「俺は秀樹です。向こうが栄二と菜穗です」


 脇で見ている黒鬼のグギと毛むくじゃらのキュキュにぺこりと頭を下げた。


「うははははっ、お前凄いな、負けても楽しかったのは初めてだ。人間だと甘く見ていた俺の完敗だ。うはははははっ 」


 大笑いするビギに秀樹が頭を下げた。


「まぐれです。ビギさんが卑怯な事をしないで……倒れた俺を攻撃するような事をしなかったから勝てたんです。相手が正々堂々と勝負するビギさんだから無い知恵を絞ってどうにか勝てたんです。ありがとうございました」


 強敵だが相手がビギでよかったと心から思った。


「うはははははっ、まぐれでも勝ちは勝ちだ。堂々としろ、楽しかったぞ、次も勝てよ、またどこかで会おう、その時は負けんからな」


 大笑いするとビギは仲間の元へと歩いて行った。

 秀樹も栄二と菜穗の元へと戻っていく、


「凄いじゃない秀樹くん、あの鬼に勝つなんて凄いよ」


 大喜びの菜穗が抱き付いてきた。


「任せろって言っただろ、これでもリーダーだからな」


 菜穗に抱き付かれて頬を緩める秀樹の前に笑顔の栄二がやって来る。


「やったね、これで100ポイントゲットだよ」

「おぅ、どうにか勝ったぜ」


 栄二が上げた手を秀樹が叩く、ハイタッチだ。


「そうだわ、100ポイント貰えるんだった」


 秀樹から離れると菜穗も二人と両手でハイタッチする。


「流石前回の優勝チームね、あの鬼に勝てるなんて凄いよ」

「えへへっ、そんな事ないぜ、菜穗だってミノタウロスを倒しただろ、菜穗も凄いぜ」


 秀樹が照れてスポーツ刈りの頭を掻き毟る。

 自然と菜穗と呼び捨てするようになっていた。


「そうだよ、二人とも凄いよ、僕たち良いチームになれるよ」


 嬉しそうに言う栄二に秀樹と菜穗が笑顔で頷いた。


「あっ、鬼チームが出て行くわよ」


 秀樹と栄二が振り返ると会場から鬼チームが出て行くのが見えた。


「さっさと休みに入るんだ。決勝戦見ないのね」


 不思議そうな菜穗に栄二が口を開く、


「狼男を瞬殺するほどの強さだよ、このイベントに参加した中で一番強いよ、だから他の勝負なんて見ても仕方ないって思ってるんじゃないかな」

「だな、自分の戦い以外には興味無いって感じだったからな鬼のビギさん」


 秀樹も納得した様子で頷いた。


「パワーだけのバカじゃ無い、ビギさんは頭も良い、次に戦ったら勝てないよ」

「だな、同じ方法は通用しないな、でもあの作戦は他にも使えるぜ」

「そうだね、鬼に効いたんだから獣人にも使えるよ」


 秀樹と栄二が顔を見合わせて頷いた。

 菜穗が栄二の腕を引っ張る。


「ところで土転びって何? あのAクラスの毛むくじゃら土転びって言ってたよね」

「土転びって妖怪だろ? 」


 秀樹にも聞かれて栄二が説明を始める。


「妖怪だよ、山道を歩いてたら上の方から転がってくるから土転びって言うんだ。アニメでは電気を食べたり使って攻撃するとか設定されてるけど詳しくはわからないよ、Aクラスだから何か特殊能力を持ってるのは確かだと思うけど」


 人外好きオタの栄二は妖怪などにも詳しい。

 そこへヘカロがやって来る。


「よくやったね秀樹くん、中級魔法と魔法の銃だけであの鬼に勝つなんて凄いよ」

「あんまり褒めないでください、不死身だから勝てただけですよ」


 秀樹が嬉しそうにスポーツ刈りの頭を掻いた。


「確かに不死身の力があってこそだが青鬼のビギはBクラスの中ではトップクラスの強敵だ。それに勝ったのだから自信を持っていい」

「まあ、確かにビギさんに勝ったのは自分でも凄いって思うけど……自信はつきましたよ」


 自信有りといった顔付きの秀樹を見てヘカロが楽しそうに微笑む、


「その調子で次も戦ってくれ、相手は狼男だ」


 栄二がバッと振り返る。


「やっぱり人間は負けたのか…… 」


 隣の試合場の端で彼女らしき女が倒れた男に縋り付いて泣いていた。


「2回戦を戦った狼男も鬼のビギに倒された狼男も俊足の力を貰っていた。只でさえ動きの素早い獣人が更に速くなる。ビギに負けた狼男は魔法のペンダントを貰って低級魔法使いになっていたが2回戦を戦った狼男は魔剣を持っていた。人間チームは上級魔法使いだったが魔法を全て避けられて魔剣で切られて亡くなったよ」

「上級魔法を使えたのにそんなに簡単に殺されたのか…… 」


 絶句する秀樹にヘカロが頷いてから続ける。


「魔法に頼りすぎた戦いだと私は感じた。1回戦も派手に上級魔法を使って後が続かなくなってカマキリに腕を切られた。単純なカマキリは倒せても狼男には通用しなかった。二人とも上級魔法使いで同じような戦い方だ。見たところ女の子たちも魔法使いらしい、全て同じ魔法使いならチームを組む意味がない、チームというのは得手不得手を補うために組むのものだ。あれではこの先も勝てないよ」


 ヘカロの辛辣な物言いに秀樹が苦笑いだ。


「それを言われると俺たちも同じようなのばかりだからな…… 」

「何を言うんだい? 秀樹くんたちは全く違うよ、そもそも戦うために力やアイテムを貰っているのは秀樹くんと菜穗さんだけだ。栄二くんは戦いをサポートできるアイテムを貰った。今の鬼との戦いでも使った空気玉のようにね、恒夫くんは資金調達できるようにイカサマサイコロを貰い、サポートもできるように無敵札も貰った。戦いに勝つためではなく生き残ってゲームを続けられるようにと貰った力だろ、他の者たちと基本的に考えが違うんだ。同じような考えで参加しているのはこのブロックには秀樹くんたちと中津くんたちとあと数チームだけだよ、だから私は希望を持っている。秀樹くんたちなら勝利を手に掴んでくれるとね」


 珍しく感情を出して熱く語るヘカロを見て秀樹が慌てて口を開く、


「ちょっ、止めてくださいよ」

「そうですよ、買い被りすぎですよ」


 恥ずかしそうに照れる秀樹の隣で栄二が慌てて違うと手を振った。


「生き残るためか……やっぱ秀樹くんと栄二くんと組んでよかったわ、勝つためには先ず生き残らないとね、私は力さえあれば勝てるとばかり思ってたから……本当勉強になるわ」


 寂しそうなマジ顔で菜穗が言った。


「どうした? 悩みがあるのか? 」


 心配そうに声を掛けた秀樹の肩にヘカロが手を置いた。


「そうだね、秀樹くんたちのやり方をよく見ているといい、菜穗さんの道もその先にあると私は思っているよ」

「ヘカロさん…… 」


 菜穗がハッとしてヘカロを見つめる。


「天使は全ての参加者の事情は知っている。人それぞれ思うところはあるだろう、だからこのゲームは面白い、頑張りなさい菜穗さん」


 優しい笑みをして言うとヘカロは観覧席へと戻っていった。

 秀樹は何かあるのか聞きたかったが菜穗の悲しそうな顔を見ると何も訊けなくなった。

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