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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
56/158

第五十六話 

 菜穗とミノタウロスの勝負が始まった。

 審判の天使が二人の間に立って説明を始める。


「魔法の刻印だ。上級魔法を使っても正確に当てないと消える事は無い、刻印を消すか、相手が負けを認めるか、結界の外へ相手を出して場外アウトにすれば勝ちだ。質問は無いね? 」


 審判が菜穗とミノタウロスを交互に見る。


「では勝負始め! 」


 審判の天使が翼を広げて飛び上がる、少し浮んで斜め上から試合を見るのだ。


 菜穗がバッと後ろに走る。

 町で買った魔法のマントを着て手に魔法の杖を持つ姿は一目で魔法使いだとわかる。

 接近戦は不利だと力自慢のミノタウロスから距離を取った。


「ハラペーニョファイヤー 」


 魔法の杖を振ると炎が吹き出しミノタウロスへと向かっていく、


「グヒヒヒ、なんだ。こんな火くらい、オデは平気だで」


 炎に包まれたミノタウロスが低い声で笑うと持っていた石棒を振り回して体を包む炎を消していく。


「オデはこんな火じゃ焼けないで、この程度なら降参しろ、今なら怪我しなくて済むで」

「降参なんてするわけないでしょ、低級魔法じゃ焼けないみたいね、皮が分厚いのか? 筋肉質だから油もなさそうだしね」


 菜穗も余裕だ。

 低級魔法のハラペーニョファイヤーで相手の出方を見たのである。


「なら一気に丸焼きにしてあげるわよ」


 魔法の杖をミノタウロスに向ける。


「バックファイヤースラッシュ! 」


 菜穗が下から上に杖を振ると灼熱化した鉄のような炎の刃が飛び出した。

 飛んできた灼熱の刃をミノタウロスが石棒で受け止める。


 ビギン!! 音を立てて石棒が折れ灼熱の刃がミノタウロスの左肩口にぶち当たった。


「ギヒィーッ 」


 ミノタウロスが叫びを上げた。

 体を反らせたミノタウロスの左肩が血に染まっていく、石棒が折れる瞬間に体を反らせて避けたので肩を切るだけで済んだ。


「ギヒィ、ギギィ、なんだ? なんだ今のは? 」


 焦りを顔に浮かべるミノタウロスに菜穗が余裕で口を開く、


「上級魔法よ、私は上級魔法使いなの、わかったら降参しなさい、今なら怪我……怪我はしちゃったわね、それ以上怪我をしたくなければ降参したほうがいいわよ」


 先程ミノタウロスに言われた事をドヤ顔で言い返した。


「何やってんだ! 直ぐに止めを刺せ! 」


 脇で見ていた秀樹が大声だ。


「いいじゃない、降参する時間くらいあげないとね」


 菜穗はもう勝った気になっている。


「何言ってる! 相手を嘗めるな、早く止めを刺せ」


 秀樹がイライラしながら怒鳴った。


「わかってないんだ……戦いがどんなのかって…… 」


 栄二の顔が不安で歪む、前のゲームで中津たちと戦った事を思い出していた。

 知り合いでも相手を殺すような覚悟で戦ったのだ。

 ましてや人間の事を良く思っていないものが多い他種族相手だ。

 人間を殺す事など気にも掛けないだろう。


「早くしろ!! 攻撃しろ手を止めるな! 」


 怒鳴る秀樹に菜穗が振り返る。


「戦いの最中に振り向くな! 」

「何心配してるのよ、あいつ魔法も使えないみたいだし上級魔法使いなら余裕よ」

「ダメだ………… 」


 秀樹が絶句した。

 甘すぎる。

 恒夫ならチャンスは逃さない、こんな時に恒夫がいてくれたら旨く言ってくれたのに……、秀樹は自然と恒夫の事を考えていた。


 痛みに呻いていたミノタウロスがバッと顔を上げる。


「グヴヴヴ、オデに……オデにこんな事をして只で済むと思うなよ女! 」


 ミノタウロスが大声を出す。

 同時に左肩の筋肉が膨らみ流れていた血が止まっていく、


「殺す! もういい、せっかく助けてやろうとしたのに……もう殺す」


 白濁する涎を垂らしながらミノタウロスが菜穗を睨み付ける。


「なっ、降参しないのね、なら次は怪我だけじゃ済まないわよ」


 一瞬怯んだが菜穗も気丈に言い返した。


「ギヒッ、ギヒヒヒッ、これでも食らえ! 」


 ミノタウロスが折れた石棒を投げ付ける。

 怪力なので物凄く速い。


「水の結界、ウォータードロップアーマー 」


 菜穗が咄嗟に魔法結界を張って石棒を防いだ。

 結界魔法ウォータードロップアーマーは5センチくらいの厚さの水で体を覆う、ただの水ではなく魔法の水だ。

 普通の剣や銃弾などは簡単に防げる強力な鎧である。


「こんなもの…… 」


 余裕にこたえようとした菜穗の直ぐ右にミノタウロスがいた。


「死ね! 」


 ミノタウロスが右の拳を振り落とす。


「ぐはぁ~~っ 」


 菜穗が吹っ飛んで転がった。

 石棒を投げたのはフェイントだ。

 その間に近付いたのである。

 脇で見ていた秀樹の顔が引き攣っていく、


「ウォータードロップアーマーを貫いたぞ、何だあのバカ力は…… 」

「低級魔法を消し飛ばすなんてどんな怪力なんだよ」


 栄二は泣き出しそうだ。

 二人の話が聞こえたのかミノタウロスがニヤリと不気味に笑う、


「オデは怪力だ。怪力に怪力の力を貰った。最強のパワーを持ってるのがオデだ」

「くっ、かはっ…… 」


 血の塊を吐き捨てて菜穗が上半身を起こした。


「なにが……私の魔法をバカ力で破るなんて……くそっ! 」


 太股をパンッと叩いて気合いを入れると菜穗が立ち上がる。


「これならどう? タバスコファイヤー 」


 魔法の杖から炎が吹き出す。

 中級魔法の大きな炎がミノタウロスを包み込んだ。


「ギヘヘヘッ、こんなものがオデに効くか! 」


 ミノタウロスが手足を振って炎を払い落とす。


「バカな……中級魔法も効かないっていうの」


 菜穗の顔が引き攣っていく、魔法は無限に使えるものではない、本当の魔法使いは魔力を消耗する。

 神様に一時的に力を貰った菜穗のような即席魔法使いは魔力の代わりに体力と気力を消耗するのだ。

 消耗度は魔法レベルに左右される。低級魔法なら20回以上使っても平気だが中級魔法だと15回も使えばへたばってしまう、ましてや上級魔法になれば普通の人間では5回使うのがやっとである。


 マジ顔で見ていたヘカロがぽつりと呟く、


「無理だな、あと2回ほど上級魔法を使えば倒れてしまう、狡猾な娘だと思っていたんだが只のお調子者だったのかな」


 顔を引き攣らせた菜穗が魔法の杖を何度も振った。


「ハラペーニョファイヤー、サンダーボール」


 魔法の杖から炎と共にバチバチと雷光をあげる電気の塊が飛んでいく、上級魔法使いは低級魔法なら二つまで同時に使う事ができる。

 だが体力の消耗は2倍以上だ。


 炎に包まれながらミノタウロスが電気の塊を叩き落としていく、


「ギヒヒヒッ、効かないって言ってるだで」


 体をブルッと震わせて炎を消した。


「何で! 何で魔法が効かないのよ! 」


 ヒステリックに叫ぶと菜穗が低級魔法を連続で放った。


「サンダーボール、ハラペーニョファイヤー、サンダーボール」

「効かないって言ってるだで、オデを嘗めてるのか? 」


 またかというような顔をしてミノタウロスが全て叩き落とした。


「何で……何でよ……何で………… 」


 菜穗はパニック状態だ。

 栄二が思わず大声を出す。


「ダメだよ菜穗さん! 低級魔法なんて何度出しても効かないよ」


 言った後でバッと秀樹に振り返る。


「菜穗さんは体力が無さ過ぎるよ、あれじゃあ短時間しか戦えないよ」

「折角の上級魔法が活かせないって事かよ」


 秀樹が渋い顔で菜穗を見つめた。

 ミノタウロスが白濁した口元をニヤッと歪める。


「今度はオデの番だで」


 バッと走って向かって行く、


「炎の結界、セラノブロック」


 菜穗の足下から炎の柱が立ち昇り壁を作る。

 防御の低級魔法だ。


「だから効かないだで」


 ミノタウロスの右パンチが炎の壁を突き破って菜穗の腹にぶち当たる。


「くぁっ」


 菜穗が仰向けに吹っ飛んだ。


「有効! ミノタウロス1ポイント先取」


 審判役の天使がサッと腕を上げた。


 床に転がった菜穗の腹に付いていた魔法の刻印が消えていった。

 栄二がバッと秀樹に振り向く、


「ポイント取られちゃったよ、ミノタウロスはBクラスだから後1ポイント取られたら負けだよ、でもこのままじゃ菜穗さんが殺されちゃうよ」

「わかってる。止めさせよう」


 秀樹がマジ顔で頷いた。

 ヨロヨロと立ち上がる菜穗に向かって秀樹が大声を出す。


「もういい、棄権しよう、負けを宣言しろ菜穗」

「何言ってんのよ、私はまだ負けてないわよ、まだ上級魔法だって使えるんだから…… 」


 振り返って言い返すがその足下がふらついている。

 2回吹っ飛ばされただけなのに菜穗は満身創痍といった様子だ。

 無理もない、相手は元から怪力を持つミノタウロスが更に神の怪力を授かった低級魔法など吹き飛ばす化け物である。


「なら死ぬといいだで」


 ミノタウロスがダダダッと地響きを立てて突進してきた。


「なん!? 」


 菜穗は走って逃げようとしたが足がふらついて動かない、それに今立っている場所は試合場の魔法の壁の直ぐ近くだ。

 何も考えていないように見えてミノタウロスは菜穗を壁際に追い込んでいたのである。


「雷の結界、プラズマガード」


 菜穗の前に青い雷光をバチバチとあげる電気の壁が立ち昇る。


「菜穗さん、魔法のマントだ」


 栄二の大声が聞こえたのか菜穗がサッと魔法のマントを被った。


「魔法なんて効かないだで」


 ミノタウロスが大きな拳を振り上げる。


「これで終わりだで、鉄牛ハンマー 」


 ギラリと目を光らせるとパンチを振り下ろした。


「菜穗さん」

「菜穗」


 栄二と秀樹が見つめる先で中級魔法の結界であるプラズマガードを突き破ったミノタウロスのパンチが魔法マントの上を滑って空を切る。


 観覧席で見ていたヘカロが感心したように息をつく、


「中級魔法の結界に魔法のマントか、上級魔法の結界には及ばないが良い方法だ」


 魔法のマントをバッと捲ると菜穗は走ってミノタウロスと距離を置く、


「マントが……高いだけあるわね、ムカつくけどヘンタイには感謝だわ」


 パンパンとマントを叩くと菜穗がほっと安心顔だ。

 脇で見ていた栄二と秀樹も顔を見合わせる。


「よかった。魔法のマント買っといてよかったね」

「ギリギリだぜ、マントが無かったら場外だったな」


 先程と同じように吹っ飛ばされていたら今頃場外アウトになっていただろう、


「でも場外の方がよかったんじゃない…… 」


 栄二の呟きが聞こえたのか菜穗が振り返る。


「何言ってんのよ、私は負けないからね、中級魔法とマントであいつのパンチは防げる。あとは刻印を一つ消すだけでいい、やってやるから」


 菜穗がバッと顔を上げた。


「バックファイヤースラッシュ! 」


 菜穗が下から上に杖を振ると灼熱化した鉄のような炎の刃が飛び出した。


「グギャァアァァ~~ 」


 ミノタウロスの右腕がボタッと床に転がった。灼熱化した刃が切り落としたのだ。


「くそっ、頭を狙ったのに足が………… 」


 上級魔法を使った菜穗が肩で息をついている。

 その足がガタガタと震えていた。

 脂汗を流し苦しそうな表情は素人目にも疲れ切っているのがわかる顔だ。


「グヴィヴィヴィヴィ~~、よくも、よくも、オデの腕を…… 」


 ミノタウロスが奇妙な声で吠えた。


「お前如きに使う事は無いって思ってたで」


 ミノタウロスの背中からバッと羽が飛び出した。

 観覧席で見ていたヘカロの顔が曇る。


「天使の羽を使うか……これでスピードも上がる。菜穗さんでは避け切れん」


 二本足で立つ羽を広げた大きな牛、今のミノタウロスは悪魔のような姿に見える。


「何なのよそれ…… 」


 菜穗が絶句した。


「天使の羽だよ、気を付けて菜穗さん、天使の羽は飛べるだけじゃなくて素早さもアップするんだ。今までのように避けられなくなるよ」


 アドバイスする栄二の顔が引き攣っている。

 あの怪力に速さが加わったのだ。


「潮時だな」


 ぽつりと呟くと秀樹が大声を出す。


「無理すんな! 負けを認めろ、試合放棄だ。菜穗はよく戦ったよ、俺たちも充分満足だ」

「そうだよ、こんなところで怪我したら大変だよ、まだ先は長いんだからさ」


 栄二が優しい声で追従した。

 菜穗が振り返る。


「棄権? 誰が、誰が………… 」


 鬼気迫る顔で菜穗が叫ぶ、


「棄権なんかするか!! 私は満足なんかしてない! 私は負けられないのよ! 」

「菜穗…… 」

「菜穗さん……何でそんなに………… 」


 心配そうに見つめる二人を一瞥すると菜穗が前に向き直る。


「勝負よ化け物! 私は負けない、何処からでも掛かってらっしゃい」


 怒りが体の怠さも足の震えも消していた。


「ギヘヘッ、それでいいだで、お前は殺す。もう降参しても許さないだで、オデは失格になってもお前を殺すだで」


 ミノタウロスがギラリと目を光らせた。

 残った左腕の拳を振り上げてミノタウロスがバッと走り出す。


「くあっ!! 」


 パンチを受けて菜穗が吹っ飛んで転がった。

 咄嗟に魔法のマントを被ったので致命傷は受けてはいない、天使の羽を使ったミノタウロスの速さに魔法を使う暇も無かったのだ。


「なんて速さなの……魔法のマントが無かったら死んでたわよ」


 ふらつきながら立ち上がった菜穗の目はまだ光を失っていない。


「止めてよ秀樹、菜穗さん殺されちゃうよ」


 縋り付く栄二を見て秀樹が首を振った。


「俺たちが何を言っても無駄だぜ、恒夫も言ってた何かあるんだよ、菜穗には…… 」

「菜穗さん………… 」


 心配そうに見つめる先で菜穗とミノタウロスの戦いが再開された。


「ハラペーニョファイヤー、サンダーボール」


 菜穗が逃げ回りながら低級魔法で連続攻撃だ。


「ギヒヒッ、そんなもの効かないし避けられるだで」


 天使の羽を使ったミノタウロスが炎を避けて電気の塊を左手で叩き落としていく、


「いいぞ、逃げ回って隙を付いて上級魔法で一気に片を付けてやれ」


 秀樹が大声を出す。

 菜穗が止めない以上少しでも勝ち目があるようにアドバイスするしかないと考えていた。


「ギヒヒヒッ、逃げても無駄だで、おらの方が速いだで」


 ミノタウロスがバッと飛んだ。


「水の結界、ウォータードロップアーマー」


 菜穗が低級魔法の鎧を身につけるとその上から魔法のマントを被る。

 ミノタウロスのキックが空から落ちてくる。


「あうぅ! 」


 菜穗が呻いて転がった。

 パンチの数倍威力があるキックも魔法とマントでどうにか致命傷にならずに済んだ。


「逃げられない……上級魔法もあと1回使ったらお仕舞いよ………… 」


 小声で呟きながら立ち上がる。


「避けられたら終わりだし……逃げられないなら…… 」


 菜穗が顔を上げた。

 覚悟を決めたようなマジ顔だ。

 ミノタウロスが白濁した涎を左腕でぐいっと拭う、


「そのマントが邪魔だで、捕まえて引き剥がしてやるで」

「誰が捕まるか! 」


 威勢よく言い返す菜穗の前にミノタウロスがバッと現われた。


「ギヘヘヘッ、捕まえただで、さっきのお返しだで、手を握り潰してやるだで」


 ミノタウロスが菜穗の右手を掴んだ。


「腕くらいくれてやるわよ! 」


 叫んだ菜穗が魔法の杖を振り上げる。


「バックファイヤースラッシュ! 」


 杖を振ると灼熱化した鉄のような炎の刃が飛び出しミノタウロスの首にぶち当たる。


「ギヘェーーッ 」


 断末魔の叫びを上げてミノタウロスの頭が床に転がる。


「きゃあぁあぁ~~ 」


 菜穗も大声を上げる。

 頭を失ったミノタウロスが菜穗の右腕を握り潰したのだ。


「くぅ、離せ! プラズマスラッシュ」


 中級魔法の電気の刃でミノタウロスの腕を切り落として菜穗がバッと離れる。


「ぐぅぅ、腕が……早く治療しないと………… 」


 苦しげに言いながら菜穗がその場に崩れていく、腕の痛さもあるが魔法を使いすぎて気力と体力を失って気絶したのだ。


 審判役の天使がバッと手を上げた。


「有効! ポイント有り、ミノタウロス戦闘継続不可、よって緒方菜穗の勝ちとする」


 勝負が付いて試合場を囲っていた魔法の壁が消えていく、同時に秀樹と栄二がバッと菜穗に駆け寄った。


「菜穗さん、秀樹治療を…… 」

「わかってる」


 秀樹が魔法の杖を菜穗に向けた。


「緑の治癒、アロエグリーン」


 中級の治癒魔法によって菜穗の腕が治っていく、


「ううぅ…… 」


 菜穗が目を覚ます。

 秀樹が心配そうに菜穗を抱きかかえる。


「大丈夫か? 治ったと思うけどもう何処も痛くないか? 」

「勝つって言ったでしょ……思いっきり痛かったわよ」


 秀樹の腕の中で菜穗が疲れた笑みを見せた。


「まったく心配したぜ、でも頑張ったな、見直したぜ」

「当たり前でしょ、だって私は上級魔法使いなんだからね」


 秀樹が褒めると菜穗が照れ臭そうに微笑んだ。


 菜穗はわざと捕まえられたのだ。

 上級魔法を使えるのは後一度、失敗は許されない、それで自分の腕を犠牲にしても確実に当たるように仕向けたのである。


「もう大丈夫よ」

「ああ、ごめん、床に倒れたままだったから…… 」


 恥ずかしそうに秀樹が抱えていた手を離すと菜穗が起き上がる。


「あいつはどうなったの? 」


 秀樹が無言で首を振った。

 倒れて動かないミノタウロスに菜穗が近付く、


「ごめんね、殺すつもりなんかなかったけど……手加減なんてできなかった。私は死ぬわけにはいかないのよ、絶対に勝たなきゃいけないの、でないと私が…………だから……だからごめんね」


 強気な菜穗が泣いていた。


「菜穗さん……向こうで休もうよ」


 優しい顔の栄二が菜穗の背にそっと手を当てる。


 疑わしいと思っている恒夫が見たらどう言うだろう……、秀樹はそんな事を考えながら相手に泣いて謝る菜穗を見つめていた。


「どうにか勝ったか……あの娘も大変だな」


 観覧席で見ていたヘカロが神妙な面持ちで呟いた。

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