第五十四話 「戦闘イベント」
同じ頃、秀樹たちのイベントも始まっていた。
「なんだここ? こんなとこで何するの? 」
菜穗が振り返るとヘカロが首を振った。
「開始早々ラッキーイベントは無いとわかっていたが…… 」
ヘカロの声に張りが無い。
秀樹たちは四方を壁に囲まれた空間にいた。
建物の中だとすれば広すぎる。
サッカーを3試合纏めて行えるほどの広さがあった。
「バッドイベントじゃ無いですよね、それじゃあ戦闘イベントって事か」
他の参加者たちがやって来るのを見て秀樹はピンときた様子だ。
ラッキーやバッドイベントなら一つのチームだけで行うからである。
ヘカロが溜息をついた。
「ロロフィが言ったんだね、本当はダメなんだよ、仕方ないな……黙っていてくれよ」
「あっ、わかりました。すいません」
恒夫に誰にも話すなと言われていた事を思い出して秀樹が頭を下げた。
菜穗がひょいっと顔を出す。
「何? 何のこと? ダメって何? ねぇ秀樹くん」
「何でもない、個人的な話しだ」
とぼける秀樹を見てヘカロがフッと笑ってから口を開く、
「恒夫くんの事を聞かれたんだよ、他のチームがどんなイベントをするのかは教えられないと言っていたんだ」
菜穂の顔からスッと興味が失せていく、
「何だ彼奴の事か……本当に戻らせるつもりなのね、私が居るからいいじゃない、あんなヤツより役に立ってみせるわよ」
「恒夫は必要だ。戦いだけなら菜穗さんだけで充分だけどな、戦い以外じゃ恒夫は役に立つんだよ、だから戻ってきてもらう、栄二と話し合って決めた事だ」
そんな事かと軽口を叩く菜穗を見て秀樹が旨く誤魔化せたと安心顔だ。
「何よ! あんなヤツいないほうがいいわよ」
ムッと怒る菜穗の隣で栄二がしみじみと話を始める。
「こっちの世界は恒夫がいてくれると落ち着くんだよ、他種族がいて魔法がある。僕たちの常識じゃ考えられない世界だよ、とんでもない事が起きても恒夫なら突拍子も無い事を思い付いて対処してくれるんだ。それに野生の勘って言うのかな、恒夫にはそれがあるんだよ、いつもヘンタイしてるから誤解される事が多いけど、恒夫は頼りになるヤツなんだよ」
秀樹が大きく頷く、
「だな、俺たちは三人で一人前だ。何処まで行ってもオタ三人組なんだよ、恒夫は本物のヘンタイだから迷惑掛けられてばかりだが助けられた事もある。あいつがいないとしっくりこないんだ。怒鳴る相手もいないしな、だから菜穗さんが反対しても恒夫には戻ってきてもらうぜ」
「なっ、何よ……わかったわよ、二人が決めたなら反対しないわよ」
これ以上反対すれば自分が追い出されるとでも考えたのか菜穗は渋々といった様子だ。
「イベントの説明が始まるよ」
やりとりを見ていたヘカロが優しい顔で微笑んだ。
だだっ広い部屋の端に参加者を集めてイベント担当天使が説明を始める。
「今回のイベントは戦闘イベントだ。参加者同士で戦ってもらう、ルールは簡単だ。チームから代表者を出してトーナメントで戦ってもらう、50マス以内の初級レベルなのでハンデを付ける。Aクラスにはハンデは無い、Bクラスにはハンデ一つ、Cクラスにはハンデ二つが付く、参加者の中にAクラスが一人いるが試合に出れるのは一度だけだ。続けて出る事は出来ないので勝ち抜いた場合は他のチームメートに代わってもらう事になる…… 」
担当天使の説明が終わった。
今回の戦闘イベントは同じマスに止まった6チーム18名で行う事になる。
① 秀樹と栄二と菜穗 三人組の人間チーム
② 外骨格を纏ったクモ男とカマキリ男 二人組の昆虫人間チーム
③ 狼男が三人 三人組の獣人チーム
④ 男の鬼が二人に種族のわからない黒い毛むくじゃらが一人 三人組の鬼チーム
⑤ 男のダークエルフと女のハーピィと男のミノタウロス 三人組のダークエルフチーム
⑥ カップルだろうか? 男女ペアが二つ合計四人 四人組の人間チーム
以上の6チーム18名だ。
戦いはトーナメントだ。
各チームから代表者を一人出して戦わせる。
勝ち抜けば次の戦いで他のチームメートに交代する事もできる。
もちろん初めの代表者が続けて戦う事も可能だ。
戦い方はポイント制だ。
頭と腹と背中に魔法で刻印を付ける。
有効打を受けると消える刻印だ。
3ポイント失った方が負けである。
但しハンデがある。
人間やエルフなどのCクラスはハンデが二つあるのであと一つ取れば勝ち抜けだ。
つまり相手の刻印を一つ消すだけでいい。
獣人や昆虫人間などBクラスはハンデが一つなので相手の刻印を二つ消せばいい、Aクラスはハンデが無いので三つ全ての刻印を消す必要がある。
剣や弓に槍などの武器や影マントや無敵札などのアイテムの使用も可能だ。
もちろん魔法もOKである。
だが刻印自体は1センチも無い小さいものなのでクリーンヒットさせるにはそれなりの技や術がいる。
今回は6チームなので次の戦いは3チームとなり1チームあぶれてしまう、そこで負けた3チームから一つをクジで選んで敗者復活させて4チームにして準決勝を行う事になった。
勝ち抜いた一位に300ポイントが付いて二位に100ポイントが付く、それ以外は0ポイントだ。
チーム戦なのでポイントはチームで分ける事になる。
殺し合いでは無いが場合によっては死者が出る事もある危険なイベントだ。
「どいつがAクラスだ? 」
秀樹が参加者を見回した。
「あいつね」
菜穗が鬼チームにいる何の種族かわからない黒い毛むくじゃらを指差した。
毛むくじゃらの左胸に付いているバッジにキュキュと言う名前とその下にAと書いてあった。
「キュキュって名前かよ……デカい毛玉って感じだな」
「ほんとだね、種族どころか男か女かもわからないよ」
「それどころか何処が顔だか毛玉から手足が出てる以外は何もわからないじゃない」
三人顔を見合わせて困惑する。
キュキュは身長2メートルほどで頭は付いていない、ボールのように丸い体から50センチ程の短く太い足と1メートルほどの細い鼻のようなものが一つ伸びている。
体だけでなく足含め全身が黒い毛に覆われているので目の位置さえわからない、デカい毛玉とは言い得て妙である。
菜穗が顔を顰める。
「強いのかな? 」
「Aクラスだぜ、強いに決まってるだろ」
険しい表情でこたえる秀樹に栄二が振り向く、
「強いとは限らないよ、戦いじゃなくて特殊な能力を持っている人もAクラスにしてるって聞いたよ」
「同じ事だぜ、特殊能力が戦闘に使えるかどうかは問題じゃねぇ、今回は戦いだが他のイベントじゃ役に立つって事だろ? どっちにしろ強敵には違いないぜ」
「そうだね、慎重に運ばないとね」
栄二が安心した様子で秀樹を見つめる。
「なんだよ、気持悪い目で見るなよ」
「冷静だから安心したんだよ」
秀樹が照れるようにスポーツ刈りの頭を掻いた。
「一応リーダーだからな……恒夫が居たらとぼけながら同じような事言ったんじゃないかって思ってな、だから油断はしない、こんな所で負けたら恒夫に笑われるぜ」
「うん、慎重に行こう、順調にいけば3回戦う事になるけど準優勝でも100ポイント貰えるから無理しないようにしようよ」
「だな、まだ先は長いんだ。怪我しないようにしようぜ、俺たちは不死身だけどな」
秀樹と栄二が互いの顔を見てニッと笑う、それを見て菜穗が怒りながら口を開いた。
「何言ってんのよ! 絶対に勝って300ポイント貰うわよ、三人で分けても一人100ポイントよ、始めに貰った10ポイントを足して一人110ポイントだよ、ヘンタイの90ポイントより上よ、だから一番を目指すのよ」
秀樹や栄二が褒めるのが気に入らないのか菜穗は恒夫に対して対抗意識剥き出した。




