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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
53/158

第五十三話 「猫女ラグ」

 15マス目に来た恒夫の目の前に砂丘が広がっていた。


「砂漠かよ…… 」

「砂漠と言うより荒野ですね」

「こんな場所で何をするんだ? 近くに町も無さそうだし休みは野宿かよ」


 愚痴る恒夫の顔をロロフィが覗き込む、


「どうやら秀樹さんたちは戦闘イベントらしいですね」

「なに!? ああ、そうかラッキーイベントやバッドイベントならロロフィちゃんが呼ばれるんだったな」


 一瞬驚いて直ぐに納得するように頷く恒夫の向かいでロロフィがニッと笑う、


「そうですよ、私が呼ばれてないって事は戦うイベントって事ですよ」

「戦闘イベントか」


 死ぬなよ秀樹、栄二……、

 心の中で祈る恒夫を見てロロフィが微笑んだ。


「優しいんですねぇ、そんなに心配なら秀樹さんのチームに戻ればいいじゃないですか」

「一応友達だからな、優しいとかじゃないからな、戻る気も無い」


 ムスッとした顔でこたえる恒夫の頬をロロフィが指で突っついた。


「全く強情なんだからぁ~~、元に戻れば私は楽になるのにぃ~~ 」

「それが本音か! ロロフィちゃんは完全に遊んでるよね、ヘカロさんやリーアさんは俺たち人間の事を心配してくれてるのに…… 」


 頬を突く指を払い除ける恒夫を見てロロフィが脳天気な声を出す。


「だってぇ~、人間がどうなろうと私には関係ないしぃ~~、ヘカロやリーアと違って直接人間と関わらないからね」

「まったくロロフィちゃんは…… 」


 文句の一つでも言ってやろうとした時、他の参加者たちがやって来るのが見えた。


「結構いますねぇ、恒夫さん入れて十一人ですね、どんなイベントかなぁ~~ 」


 他人事としか考えていないのか楽しそうなロロフィを厭そうに見つめていた恒夫が視線をやってきた参加者たちに移す。


「ラグさんだ」


 スタート地点で仲間になろうと誘った褐色の猫女ラグがいた。


「初めのイベント失敗したのかな? 」


 ラグの様子がおかしいのに気付く、酷く落ち込んでいる様子だ。

 ロロフィが恒夫の肩をトントン叩く、


「何です? 」


 恒夫が振り向くとロロフィがニタリと悪い笑みをして反対側を指差していた。


「マジかよ」


 ラグの指差す先に魔族がいた。

 角を生やした大男と一緒に居た長髪に髭を蓄えた優男といった感じの魔族だ。


「二人は組んでなかったんですねぇ~、一人でも充分強いですけどねぇ」

「怖い事言わないでくれ、一人たりとも相手なんてしたくないぜ」


 楽しそうなロロフィの前で恒夫がブルッと震えた。

 恒夫が気を取り直して口を開く、


「ラグさんの事が先決だ。まだ時間ありますよね? 」

「イベント担当の天使が説明するまで五分くらい大丈夫かな」

「ちょっと行ってきます」


 ロロフィにペコッと頭を下げると恒夫はラグの元へと向かった。


 力無く地べたに座り込むラグの向かいに恒夫がしゃがんだ。


「ラグさんどうしたの? 」

「何だ人間か…… 」


 ラグは顔を上げて恒夫を見ると直ぐに俯いた。


「何かあったのか? イベント失敗したのか? 1回くらい失敗しても気にするなよ」

「煩いどっか行け! 失敗なんかするはずないだろ、あたいはチャトラン族のラグだぞ」

「チャトラン族って…… 」


 恒夫が絶句した。

 頭にネピアやクロエが鮮やかに蘇る。


「ネピアやクロエと同じチャトラン族か? 」


 ラグがバッと顔を上げる。


「クロエを知ってるのか? お前らだな前のゲームで一緒になった人間って」

「うん、俺たちだ。ラグさんがチャトラン族だとは思わなかったよ」


 恒夫はネピアやクロエの事を聞きたかったが時間が無いので本題に入る。


「それで何で落ち込んでるんだ? イベントは旨くいったんだろ? 」

「煩い、関係ないって言っただろ…… 」


 断るラグの言葉に先程のような棘が無い、クロエの名前を聞いて警戒心が緩んだのだろう、チャンスだとばかりに恒夫が続ける。


「クロエの知り合いを放っておけないな、俺にできる事があったら言ってくれ、何でも力になるからさ」


 ラグがじっと恒夫を見つめる。


「イベントは旨くいったにゃ、あたいがトップで100ポイントだぞ、でも…… 」

「でもどうしたんだ? 」

「でも休みの町でお金無くなったにゃ、カジノで全部負けて一文無しだぞ」

「カジノかよ…… 」


 獣人ってのは後先考えないんだな……、ギリーとバッグスを思い出して恒夫が必死で笑いを堪える。


「にゃ! なんだよ、その顔は……バカにしてんだろ」

「違うよ、バカになんかしてないからさ」


 恒夫が鞄から百万ギギルを取り出した。


「これでラグを雇うよ」

「雇う? どういう事だ? 」


 怪訝な顔のラグに恒夫が畳み掛ける。


「俺は弱い人間だから用心棒がいる。ラグは金がいる。だから百万ギギルでラグを雇う、仲間になろう、俺とチームを組んでくれ」

「チーム? 何言ってんだ。人間とチームなんて組むわけ無いだろ、何度も言わせるな」


 牙を剥いて威嚇するラグに恒夫が続ける。


「だから用心棒として雇うんだ。クロエに聞いてるんだろ俺たちと一緒に旅をした事、それと同じようにラグを雇いたい、俺と組めば金には不自由させないぜ、ホテルも一番高級なところに泊まって飯も好きなだけ食わせてやるぜ、だからチームを組んでくれ」


 ラグの猫耳がピクッと動いたのを恒夫は見逃さない。


「本当に食い放題なんだろうな? ふかふかのベッドで寝れるんだろうな? 」

「約束する。嘘だったらその場でチームから抜けてくれてもいい」


 ラグがじっと恒夫を見つめる。


「このイベントで試してやる。お前が組む価値があるならこの先も組んでやる。無かったらこのイベントだけで終わりだ。その代金としてこの百万ギギルは貰っとくぞ」

「わかった。俺を試してくれ、じゃあこれは渡しておく」


 ラグに百万ギギルを渡すと恒夫がロロフィを呼んだ。


「なんですか? 担当天使が来たからイベント始まりますよぉ」

「この娘と、ラグとチームを組みたいんだ」


 ロロフィの顔が驚きに変わる。


「どうやって口説いたんです? ヘンタイの特殊交渉術ってヤツですか? 」

「そんな特殊な技なんて持ってるわけ無いでしょ、とにかくチームを組むからよろしくお願いします」


 恒夫が弱り顔だ。

 流石の恒夫もロロフィ相手だといつもの調子が出ない。


「わかりました。早くしないとイベント始まっちゃいますからね」


 ロロフィがラグの担当天使を呼ぶ、二人で何やら話した後、ラグの担当天使が空高く飛んで消えた。


「これでオッケーでぇ~~す。私が二人の担当になったからねぇ~~ 」

「ロロフィちゃんが? 面倒臭いって嫌がってたのに? 」


 不思議そうに訊いた恒夫の前でロロフィがニヘッと悪い笑みになる。


「だってぇ~~、人間嫌いの獣人が組むなんて面白そうじゃない、しかも恒夫はヘンタイだしぃ~~、昼寝してるより楽しそうだからねぇ~~ 」

「ああそうですか…… 」


 恒夫が厭そうな顔で力無く呟いた。

 気を取り直した恒夫がラグの元へと行く、


「チーム申請したからな、これからよろしくな、担当天使はロロフィちゃんだ」

「はぁ~~い、私が担当のロロフィですよぉ~~、でも人間と組むなんて珍しい獣人だよねぇ~~、変な趣味でもあるのかな? 」


 ロロフィは口が悪いと言うよりも天然なのである。


「ちょっ、ロロフィちゃん」


 恒夫が慌てて止める。

 折角組んでくれたのに気が変わっては大変だ。

 ニコニコ顔で鞄に百万ギギルを入れていたラグがバッと振り返る。


「にゃ! 取り敢えずこのイベントだけだ。イベントが終わったらその先も組むか考えるからな、一時的なチームだぞ」


 一文無しで落ち込んでいたのが嘘のような笑顔でラグが言った。


「もちろんだ。1回だけでも組んでくれて感謝してるぜ」


 恒夫がマジ顔で頭を下げた。

 ラグの気が変わるのを恐れてヘンタイは一切出していない、本心ではキツい感じのラグにいじめて貰いたくてウズウズしている。



 イベント担当天使の説明が始まった。


「今回のイベントは障害物競走です。この荒野を走破してもらいます。10キロ先がゴールですから早ければ本日中にクリアできるでしょう、今回参加者は11名でチーム数にすると5チームですので一番にゴールしたチームには300ポイント、二番は200ポイント、後はゴールに辿り着けたチームに50ポイントです。規定時間内にゴールできなかったものはポイント無しです。各所に設置された障害物だけでなく参加者同士の戦いも有効です。参加する相手も障害物という事です」


 担当天使の説明は続いているが参加者たちの言葉が恒夫の耳に入ってくる。


「バトル有りかよ、面白そうじゃねぇか」

「へへへっ、スタート地点で他の奴らを殺してもいいって事だよな」


 恒夫が振り向くと頭に角を生やしたクワガタムシのような昆虫人間や毛むくじゃらの大男などが周りを威嚇するように睨みを利かせていた。


 チラッと長髪の魔族を窺うと精神統一でもするように静かに目を閉じているのが見えた。

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