第五十二話
四日間の休みが終わり、町外れで待っていたヘカロの元へと集合する。
ヘカロが参加者たちを見回した。
「休みは終わりだ。またゲームを再開する。ゲームそのものを棄権するものがいたらこの場で言ってくれ、イベントによってはその場で棄権できないものもあるからね」
各チームの担当天使たちも飛んでくる。
長い双六だ。また会うかも知れないと各自が相手を観察するように目に焼き付けていた。
「よぅ、人間」
獣人二人組が軽く手を上げながら恒夫に近付く、
「世話になったな、俺は炎虎のギリーだ。昨日は酒飲んで名乗るのを忘れてたからな、お前の名前を聞いておこうと思ってな」
恒夫がペコッと頭を下げる。
「俺は城道恒夫って言います。昨日は楽しかったですよ」
もう一人の獣人がニヤッと笑った。
「俺も楽しかったぜ、俺は風河馬のバッグスだ。最強の水陸両用獣人が俺だ。よく覚えておけ」
「恒夫か、覚えたぞ、人間にしておくには惜しいヤツだ」
楽しそうに牙を見せて笑うギリーに恒夫が引き攣った顔で笑い返す。
二人とも獣成分が多い、獣70%に人間が30%といった感じでギリーの顔は虎そのものである。
間近で虎が牙を見せて怖がらないものはいないだろう。
少し離れた所で秀樹たちが見ていた。
「なんだ仲間になったんじゃないのか」
「やっぱしね、人間を仲間にするわけがないわよ」
秀樹と菜穗が呆れながらも惜しそうである。
「でも恒夫なら他種族でも仲間にできそうだよ」
怖そうな獣人と仲良く話している恒夫を見て栄二は嬉しそうだ。
秀樹がマジ顔で栄二を見つめる。
「彼奴は調子がいいからな、変なところで頭も回るし……やっぱ必要だな」
栄二がパッと顔を明るくする。
「そうだよ、恒夫は必要だよ、恒夫がイカサマサイコロで稼いでそのお金で装備を揃える。リーダーの秀樹が先頭に立って戦う、僕が作戦を考えたり戦いのサポートをしたりする。そうやって前のゲームは勝てたんだよ、三人で力を合わせたから勝てたんだよ、だから喧嘩しないで恒夫を引き戻す方法考えようよ」
「分かってるよ、喧嘩なんてしたくてしてんじゃねぇよ、恒夫と話すとつい喧嘩腰になるんだ……恒夫が居なきゃ前のゲームは勝てなかったのは俺でもわかるよ、恒夫だけじゃないぜ、栄二も居たから勝てたんだ。俺自身も頑張って戦ったから勝てたんだ。一応リーダーだから必死にやったからな、俺たち三人だから勝てたんだ。そんなの馬鹿な俺でもわかってる。わかってても菜穂はダメだなんて言われたら……怒って当然だろが、女の子一人放って置けるかよ」
なんともいえない表情の秀樹を見て栄二が続ける。
「安心した。秀樹も分かってたんだね、菜穂さんのことについては僕も秀樹と同じ意見だよ、だからもっと話し合わなくちゃダメだよ、恒夫だって分かってくれるよ、だから喧嘩腰はダメだよ」
「つい怒っちまうのが俺の悪いところだな、わかった。気を付けるから恒夫を仲間に戻す方法考えといてくれよ」
照れるようにスポーツ刈りの頭を掻く秀樹を見て栄二が笑顔に変わる。
「わかったよ、考えてみるよ」
笑顔の二人を菜穗が不機嫌顔で見ていた。
「あんなヤツ…… 」
菜穗が話そうとした時、ヘカロが声を大きくする。
「ではゲームを続けよう、各自担当天使と一緒にサイコロを振ってくれ、健闘を祈る」
参加者たちが担当天使の元へと歩き出す。
ギリーが恒夫の背をポンと叩く、
「借りが出来たな、ゲーム中に返せるなら返すよ」
「貸し借りなんていいですよ、二人に会えて楽しかったですから」
「がははっ、俺も助かったぜ、飯も食えなくなるところだったからな、借りは返す。また会おうぜ」
バッグスが笑いながら担当天使の所へ歩いて行く、
「借りを返すまで死ぬなよ恒夫」
虎の顔でフッと笑うとギリーも背を向けた。
恒夫の元へロロフィが飛んでくる。
「何ニヤけてるんです? 気持悪いですよ……あっ恒夫が気持悪いのは元からでしたね」
「えへへっ、そんなに褒めるなよ、可愛いロロフィちゃんに褒められるとキュンってなって惚れちゃうからさ」
ゴン!! ロロフィが恒夫に殴りかかった。
「褒めてない! 惚れるなヘンタイ! 」
「うへへっ、もっとぶってくれぇ~ 」
恍惚の表情の恒夫を見てロロフィの顔が引き攣る。
「本物だ。本物のヘンタイだぞ、ヘカロ何とかしろぉ~~ 」
叫ぶロロフィの元へヘカロが飛んでくる。
「まったく、恒夫くんは少し変わってるんだ。殴ったり蹴ったりすると喜ぶからするな」
ロロフィに注意するとヘカロが恒夫に振り向く、
「天使に変な事をすると最悪棄権だよ、ロロフィは気紛れなところがあるから気を付けたほうがいい、ゲームを続けたいならね」
「わかったよ、冗談です」
恒夫の顔がマジに変わったのを見てヘカロが秀樹たちの元へと戻っていった。
変な顔をしたロロフィがじっと見つめる。
「ヘカロの言う事はちゃんと利く癖にぃ~~ 」
「前のゲームから世話になってるからな、ロロフィちゃんの言う事も利くからさ」
じとーっとした目のロロフィの向かいで恒夫が困った顔で薄い頭を掻いた。
「じゃあ許そう、私は心がだだっ広いからな」
ニッと笑うとロロフィがサイコロを差し出す。
「んじゃ、始めよう、ゾロ目が出たら気を付けるんだぞ、バッドもラッキーもゾロ目で起動するようになってんだよ、それに戦闘イベントもな……本当は言っちゃダメなんだぞ、人間一人で参加してるから恒夫は特別だからな」
ロロフィがそっと耳打ちしてくれた。
「ありがとうロロフィちゃん、出る目は運だから仕方ないけど心構えができるよ」
恒夫が二つのサイコロを振る。
「3と5の8だぞ、いま7マスだから15マスに移動だな、50マスまでは初級だからまだ余裕だぞ」
「余裕か……余裕なのは金だけだぜ」
笑顔のロロフィの前で恒夫が自嘲するように笑った。
少し離れた所で秀樹もサイコロを回していた。
「5と5の10か…… 」
ヘカロの顔が一瞬険しく変わったのに秀樹たちは気付かない。
「では行こうか」
「ちょっ、ヘカロさん少しだけ時間をください、恒夫と少し話がしたいんです」
「ふむ、いいだろう、3分だけだよ」
マジ顔の秀樹を見てヘカロが許可してくれた。
「一寸話してくる」
「僕も…… 」
「いや、お前はここで菜穗さんの相手しててくれ、菜穗さんがいると喧嘩になっちまうから」
「わかったよ、喧嘩はダメだよ秀樹、恒夫によろしく言っといてね」
「ああ、言っとくよ」
心配そうな栄二を置いて秀樹が恒夫の元へと歩いて行く、
「恒夫は15マスか、俺たちは17マスだ」
「なん!? 17マスって事は5と5のゾロ目かよ…… 」
驚く恒夫を見て秀樹が首を傾げる。
「ゾロ目がどうかしたのか? 」
背の低い恒夫が秀樹の耳を引っ張る。
「いてっ、何すんだよ! 」
「いいから黙って聞け」
しゃがんだ秀樹の耳に恒夫が口を近付ける。
「ゾロ目はヤバい、ロロフィちゃんに聞いたんだ。ゾロ目はラッキーやバッドイベントもしくは参加者が戦う戦闘イベントのどれかが出る。ロロフィちゃんはラッキーとバッドの担当だから嘘じゃないぜ」
秀樹がバッと恒夫を見つめる。
「マジかよ…… 」
「他のヤツには内緒だぞ、栄二や菜穗にも言うな、俺が個人参加だから特別に教えてくれたんだからな、人間一人で参加してるのは俺だけらしいからな」
「わかった。教えてくれて助かったぜ」
秀樹がマジ顔で恒夫を見つめる。
「それとな今まで怒って悪かったな、死ぬなよ恒夫、もう一度ちゃんと話し合いたいからな」
「俺の方こそ散々絡んで悪いと思ってるよ、でもな…… 」
恒夫がチラッと菜穗を見る。
秀樹も視線を送る。
菜穗は栄二と何やら話している。
「菜穗さんか……気にしすぎだ。我儘だけど普通の女の子だぜ」
「何でゲームに参加したんだろうな? 前のと違って今回のゲームは訳ありが参加してるって感じじゃない、でもあの女は気になるんだ」
「気にしすぎだぜ、何で参加したのか聞けたら聞いとくよ、だからそれまで死ぬなよ」
ヘカロが手招くのを見て秀樹が慌てて戻っていく、
「お前こそ死ぬなよ、ラッキーならいいけどバッドと戦闘は結構シビアらしいぜ」
秀樹は振り返りもしないでわかったと言うように手を振った。
「恒夫さん、今度やったら棄権ですからね」
可愛い顔でロロフィが睨んでいた。
ゾロ目の事を秀樹に教えたのが不味かったらしい。
「えへへへっ、ごめん、その代わりロロフィちゃんにはヘンタイしないからさ、言う事利くから許してよ」
「今のだけですからね、ヘンタイやったらその場で排除しますからね」
本気で怒っているらしいが幼顔のロロフィは幼女が怒っているようで可愛い顔だ。
「わかったよ、なんでも言う事きくからさ」
「んじゃ、次のマスに進むよ、出発進行ぅ~~ 」
満面の笑みをしたロロフィが天使の羽を広げる。
チラッと秀樹たちを見るとヘカロの羽に包まれて消えていくのが見えた。
恒夫も白い光に包まれて消えて行った。




