第四十九話
村を出て丘の上に向かう途中の藪の中から恒夫が駆け寄ってきた。
「待ってくれよ、俺を置いていく気かよ」
「すっかり忘れていたよ、旨く逃げてきたようだね」
「捕まえて村に差し出しましょうよ、礼金が貰えるわよ」
とぼけ顔のヘカロの隣で菜穗が意地悪顔だ。
「勘弁してくれ、ゲームだろ、それより町に行くんだろ? 早く行こうぜ、あいつらまだ探してるからさ、荷物が重くてこれ以上逃げられないよ」
焦り顔の恒夫を見てその場の全員が大笑いだ。
栄二が恒夫の背をポンッと叩いた。
「流石だね、初めのイベントはどれも最大100ポイントだってヘカロさんが言ってたよ、90ポイント取るなんてやっぱり恒夫は凄いや、僕たちは30を分けて一人10ポイントだよ」
満面の笑みで喜んでくれる栄二の隣で秀樹が鼻を鳴らす。
「ふんっ! 直ぐに追い抜いてやるさ」
「そうよね、今回は旨くいったけどこの先個人じゃクリアできないわよ、考え直して戻ってこない? 」
すっかりチームの一員といった様子の菜穗を見て恒夫がフッと小馬鹿にしたように笑う、
「クリアできない? 面白い、次に会う時はもっと差が付いてるぜ、それと仲間は見つける。人間じゃなく他種族の腕の立つのを仲間にするさ」
「何言ってんのよ!! 人間なんて誰も組んでくれないわよ、私も始めに声を掛けたけど誰も相手にしてくれなかったのよ、もうわかったわよ、もう誘わないからね」
真っ赤に怒る菜穗の脇を通ってエルフが恒夫の正面に立つ、
「それなら私たちのチームに入りませんか」
「お前は知恵が回る。仲間を探しているなら俺たちのチームに入れ、はっきり言って人間は嫌いだが勝つためだ」
リーダーであるリザードマンがエルフの隣りに立って恒夫を誘った。
恒夫が首を振る。
「悪いな、反りが合わなさそうだから止めとくぜ」
「だから私は反対したでしょ、人間はバカだから止めときなさいって、折角誘ってやってるのに本当に人間はバカね」
人間にそっくりだが種族のわからない女が嘲るように言った。
「バカでもハゲでも結構、利用されてポイなんて御免だからな、俺は誘われて入るんじゃなくて自分から頼んで入れて貰うよ、それなら間違っても全部自己責任で納得できるからな」
恒夫がいつもの飄々とした態度でこたえた。
様子を伺っていたヘカロが前に出てくる。
「フフッ、ではイベントはこれで終了だ」
丘の上まで行くとヘカロを囲むように全員が集まる。
「忘れ物はないね? では空間魔法を使う」
白い光に包まれて全員の姿が消えていく、眩しい光に秀樹が目を閉じる。
次に目を開けると小さな町の外れにいた。
「私は色々と仕事があるんでね、君たちだけで気兼ね無く遊んでくるといい、但し魔法は禁止だ。それと揉め事も気を付けること、最悪ゲームから排除することもあり得る」
ヘカロが天使の羽を広げて空高く飛んでいった。
「点数はともかくイベントクリア出来たんだ。ゆっくり休もうぜ」
獣人二人組に言われるまでもなく、参加者全員が町中へと消えていった。
「カジノあるかなぁ~ 」
恒夫が呟きながらマップを見た。
ゲーム序盤は小さな町ばかりで大都市はゲーム中盤に集中している。
お湯と言うには程遠いぬるいシャワーの出る安宿に恒夫が荷物を下ろす。
一泊千三百ギギルだ。
「何があるかわからんからな、三百万ギギルあるとはいえ初めは倹約だ。暫くは村で貰った金貨2枚が生活費だな、あとは……百万ギギルをカジノで5倍くらいに増やしてくれてやるかな」
宿に入る前に露店で買った薄い生地に肉や野菜を挟んだタコスのようなものを頬張りながら計画を練る。
小さいがカジノが一つあることは宿の主に聞いていた。
独りで食べる味気ない昼飯を終えてシャワーを浴びると早速カジノへと向かった。
入り口にいた厳つい男に金を持っているのかと胡散臭そうに見られたが金貨を1枚握らせると態度を豹変させて笑顔で招いてくれた。
入って直ぐのカウンターで金をカジノで使うチップに替える。
百万ギギルを行き成り全てチップに買えるような事はしない、この世界のチップは数字ではなく色で分けられている。金、銀、青、赤、白の5種類ある。
「金はVIPだけで使うのか、銀チップ1枚が一万ギギル、青が千で赤が百で白が十ギギルだ。取り敢えず三十万ギギルで銀チップ30枚に交換だ」
チップの入った小さな籠を持ちながら何のゲームをしようかと店内をぶらつく、
「やっぱ慣れたルーレットかな、スロットはイカサマサイコロじゃ無理だし、初日だからカードで他の客に覚えられるのも避けたいしな」
恒夫はルーレットの卓に向かった。
カードゲームは客同士の勝負になる場合もあるがルーレットは店と客との勝負だ。
3ゲームほど様子を伺ってから恒夫が銀チップ5枚を卓に置いた。
ルーレットで一番簡単な赤か黒を当てるゲームだ。勝てば倍になって戻ってくる。
「よしっ! 」
小さくガッツポーズだ。
赤の23に止まって恒夫の元に銀チップが10枚戻ってきた。
暫くチップ数枚で赤黒を当てるゲームをしていたがカジノの雰囲気にも慣れたので大勝負に出る。
「黒の7に銀チップ5枚だ」
ストレートアップ、一つの数字にチップを置いて的中させれば36倍以上になって戻ってくる。
盤の上を玉が転がる。
黒の7に止まって恒夫の元に銀チップが180枚積まれた。
170枚を籠にしまうと残りの10枚を赤の10に置く、
「次は赤の10だ」
当然のように赤の10に止まって赤チップ360枚が戻ってきた。
「次は…… 」
300枚を籠に入れて残りを賭けようとした恒夫だが銀チップ30枚だけにした。
周りの視線が気になったのだ。
「黒の3だ」
玉が赤の20に止まって恒夫が賭けた銀チップ30枚が取られていく、
「あぁ~負けた。次は勝つぞ、次は赤の30だ」
赤の30に銀チップ30枚を置いた。
「くそっ、また負けた」
チップ30枚が取られていく、恒夫の元には元金の残り25枚と始めに籠に仕舞った170枚、次に仕舞った300枚、合わせて495枚だ。
店の黒服が恒夫に近付く、
「お客様、VIPゲームはいかかですか? 」
「VIPねぇ…… 」
思案顔の恒夫に黒服が畳み掛ける。
「お客様のように銀チップを軽々と使われては他のお客様が迷惑しますので当店としてはこれ以上はVIPルームでのゲームをお勧めしますが…… 」
あくまで丁寧な口調だが黒服の目が有無を言わせぬように見つめていた。
「そうだな腹も減ったしVIPに行くかな、飯食えるんだろ? 」
「ハイ、たいしたものはありませんが食事やお酒は用意してございます」
「じゃあ案内してくれ」
笑顔の黒服に誘われて恒夫が階上にあるVIPルームへと向かった。
大勝ちすると目を付けられてVIPに誘われる。
一般とは違い桁が二つくらい軽く上がる。
何よりディーラーがプロ中のプロになる。
イカサマサイコロを使うにも細心の注意が必要となるので神経を使うのでここぞという時にしか行きたくないというのが本音だ。
「ではごゆっくりお楽しみください」
カウンターに恒夫を案内すると丁寧に頭を下げて黒服は階下に降りていった。
「VIPねぇ…… 」
「お客様、チップの交換を致しましょうか? 」
カウンターの中にいた美女がメニューのようなものを差し出した。
「銀は一万ギギルそのままで金が十万ギギル、金に銀の縁取りのチップが百万ギギルで銀に金の縁取りが一千万ギギルか、流石VIPだな」
メニューに書いてあった交換レートに目を通した後で恒夫がチップの入った籠をカウンターの机に置いた。
「銀チップが495枚ある。これに五十五万ギギル出すから金チップ55枚に換えてくれ」
恒夫は金チップ55枚を籠に入れるとルーム内を探るように歩き出した。
「前と同じような世界だから情報集めは別にいいや、それより一千万ギギルくらい稼がないとな、装備揃えなきゃ戦えないからな」
恒夫はまたルーレットの卓に行く、イカサマサイコロで慣れているのはカードゲームとルーレットなので自然と足が向かうのだ。
「黒の24と30それと赤の15にそれぞれ金チップ10枚だ」
当然のように黒の24に止まって恒夫の元に金チップ360枚が返ってくる。
「ラッキー今日は付いてるな、それじゃあ大勝負に出るかな、黒の22と7と5、赤の18と26それぞれにチップ20枚だ」
赤の2に止まって金チップ100枚が取られていった。
「くそ~~っ、負けた! 負けた! 」
大袈裟に負けをアピールする。
いつの間にか数人の黒服が監視するように付いていたのでわざと負けたのだ。
その後も勝つのは3~5回に一度にしてイカサマサイコロを使っているのがバレないように慎重にゲームを行った。
勝ったときは静かにチップを籠の中へと仕舞い、負けたときは大袈裟に口に出してアピールするのも忘れない、独り勝ちしていることを悟られないように神経を尖らせる。
勝っていることはディーラーにはバレているだろうが周りの客の中に悪人がいないとも限らないので大勝ちしていることを悟られないようにと考えた。
一時間ほどしてカジノを出る。
「どうにか八百万ギギルほど勝てたな、初めは額が小さいから堂々と勝てるけどVIPじゃ無理だ。大勝ちすると直ぐに黒服どもがやって来る」
愚痴りながら店を出た恒夫の目にすっかり暗くなった町が映る。
カジノに夢中で気付かなかったがもう夜中になっていた。
「この前よりは稼ぎやすいな、前は八百万稼ごうと思ったら一日仕事だったからな、半日で済んだのは楽だな、今日は飯食って帰るか……まだやってる店あるかな」
夕食を取るのを忘れていた恒夫が腹を摩りながら歩き出す。
百万ギギルを八百万にした。
元の残りの所持金二百万と合わせて一千万ギギルである。




