第四十八話 「ゲームスタート」
村の中央にある広場に集まっていた村人たちが参加者を笑顔で迎えてくれた。
ゲームの趣旨を知っているのではない、ゲームのためにこのイベントが神によって作られたのだ。
「おお、天使様、その方々が問題を解決してくれるのですね」
村長らしき白髪に長い髭をたくわえた老人が秀樹たちを見回した。
「彼らに任せればいい、神様が選んだ者たちだ。何も心配は無い」
「ありがとうございます。仰せの通りに従いましょう」
村長がヘカロに一礼するとと集まっていた村人たちも一斉に頭を下げた。
ヘカロが参加者たちに振り返る。
「では任せたよ、アイデアが出たものから村長の家に行ってくれ、時間はたっぷりあるが早い者勝ちだ。アイデアが浮べば躊躇せずに行くといい」
「そうは言ってもな…… 」
秀樹が栄二を見つめた。
頭を使うものは栄二に任せてある。
「何か考えてみるから焦らせないでね」
菜穗にも注目されて栄二が必死に考える。
「じゃあ俺たちが一番に行かせて貰うぜ」
リザードマンとエルフと種族の分からない女のチームが一番に村長の家に行った。
十五分ほどして三人が出てくる。
「あれで50ポイントかよ、他にどんな分け方があるって言うんだ」
リザードマンだけでなく全員が不服そうな表情だ。
「次は俺たちだ」
獣人二人組が村長の家に入っていくと五分も立たずに出てきた。
「なにが10ポイントだ。バカにしやがって」
「村人全員で殴り合いして勝った者が多目に貰う、これほど公平な分け方があるかよ」
大声で不満を漏らす二人をリザードマンたちも迷惑そうに見ている。
「筋肉脳のバカが…… 」
菜穗の呟きが聞こえた。
「じゃあ僕たちも行こうか? 」
「何か浮んだの? 」
バッと菜穗が振り返ると栄二が悩みながら微笑んだ。
「自信は無いけどね、何度でもいけるのなら思い付いたら他がいく前に出したほうがいいだろ、小手調べってところだよ」
「なんでもいいぜ、俺はさっぱり浮ばないからな」
行こうぜと言うように秀樹が栄二の背を叩く、
「恒夫はどうするの? 僕たち先に行くよ」
振り向いた栄二を見て恒夫がにっと笑った。
「俺は最後でいい、たぶん誰とも意見は被らないと思うからさ」
余裕にこたえる恒夫を菜穗がマジ顔で見つめる。
「自信あるのね……なんでチームを離れたの? 私の事が嫌いなだけじゃないんでしょ? ヘカロさんが言ってたわよ、初めから一人でやるつもりだったって……私は絶対に勝ちたいの、だから恒夫さんにも力を貸して貰いたいのよ、だから………… 」
「止めてくれ、あんたが嫌いなのは確かだ。それだけでチームを出る理由になるだろ」
必死に頼む菜穗の正面で恒夫が薄い頭を掻き毟る。
「誰だって勝ちたいよ……でも何でそんなにこだわるんだ? 絶対勝たないとダメって感じで必死に見えるんだがどんな願いを叶えて貰うつもりなんだ? 」
「願い事は秘密、でも絶対叶えたいの、だから勝たないとダメなのよ、だからアイデアがあるなら教えてくれない? 秀樹くんや栄二くんの親友なんでしょ」
恒夫がチラッと秀樹と栄二を見る。
秀樹は睨んでいるが栄二は愛想笑いを浮かべていた。
「教えられるかよ、一人だからなポイント取れる時に取っておきたいからな、秀樹と栄二には別の事で手を貸してやるよ」
栄二の顔がパッと明るくなる。
「別の事って? 」
「秘密だ。それより早く行け、お前らが行かないんだったら俺が先に行くぞ、俺のが通ったらお前らアイデア出してないから0ポイントだぜ」
恒夫が早く行けというように手を振った。
「秀樹くんや栄二くんと違って厭な性格ね」
「二人みたいにお人好しじゃないんでな」
菜穗の厭味を恒夫が軽く流す。
「行くぞ!! 」
先程から一言も話さなかった秀樹が怒った様子で歩き出す。
「ちょっ、秀樹…… 」
栄二が慌てて肩を掴むと秀樹が振り返る。
「そいつはもう別チームなんだぞ、俺たちの敵だ」
「敵って……止めようよ秀樹」
怒りを隠さない秀樹を見て栄二が引き気味に言うと後ろから恒夫の笑い声が聞こえた。
「あはははっ、そりゃいいや、確かに敵だな」
「ちょっ、恒夫まで止めろよ」
振り向いた栄二の前で恒夫がマジ顔になる。
「甘いぜ栄二、秀樹の言う通りイベント次第じゃ敵になる」
「そういう事だ。このイベントも早い者勝ちだからな、今の恒夫は敵だ。だからさっさと行ってクリアしようぜ」
栄二の手を振り払って秀樹が歩き出す。
「そんな……秀樹ぃ~ 」
慌てて追っていく栄二の後ろを歩く菜穂がクルッと振り返る。
「私たちのアイデアが通ったら恒夫くんは0ポイントね」
言い捨てると二人に続いて菜穗が村長の家へと入っていった。
「嫌な性格だな……俺も人のことは言えないか」
恒夫が苦笑いだ。
十分ほどして秀樹たちが出てくる。
「なんで30ポイントなのよ、あれ以上の分け方なんてあるわけないじゃない、町まで遠いから期間内に終わらないって何よ、空間魔法で町まで飛べばいいでしょ、魔法を使っちゃダメなんて聞いてないわよ」
ぷんぷん怒りながら出てくる菜穗を見て恒夫は笑いを堪えるのに必死だ。
「それじゃあ、意地悪問題を解きに行ってくるかな」
軽く背伸びをすると恒夫が村長の家に入っていった。
十五分ほどして出てきた恒夫に参加者全員が注目した。
「何ポイントだったのよ」
代表するように菜穗が訊いた。
「さあね、言わなきゃならない決まりはないだろ? 」
恒夫がヘカロに振り向いた。
「今は言う必要は無いよ、終わった後に結果として発表はする」
「勿体振りやがって、だから人間は嫌いなんだ」
獣人が嫌みを言うがヘカロの手前それ以上のことはしてこない。
「では金貨を分けることにしよう、みんなはここで待っていてくれ、恒夫くん行こうか」
その場の全員がバッと二人に注目した。
「分けるってどういう事だ? 」
「もしかして正解が出たのですか? 」
獣人たちの後ろで男エルフが驚き顔で訊いた。
「おっと、忘れていた。恒夫くんが正解を出した。今から金貨を分けるのでこのイベントは終了だ。詳しくは後で話す」
ヘカロと一緒に恒夫が村長の家に入っていった。
「恒夫が…… 」
「流石恒夫だね」
驚く秀樹の隣で栄二が嬉しそうな笑顔だ。
「あいつ……勝つためにはやっぱり必要ね………… 」
悔しそうに呟いた菜穂の小さな声は二人には聞こえない。
「あの人間が一番だと? 」
「人間は狡賢いからな」
獣人が驚きリザードマンが顔を顰める。
「どうにかしないと…… 」
唇をギュッと噛み締めた菜穗が村長の家を見つめた。
十分ほどして恒夫だけが出てきた。
チラッと視線を送ると参加者たちを通り過ぎていく、
「ちょっと、どこ行くのよ? 」
睨む秀樹の隣で菜穗が恒夫の腕を掴んだ。
「流石恒夫だね、どうやって金貨を分けたの? 」
笑顔で訊く栄二の前で恒夫が菜穗の手を解く、
「用事を思い出した。詳しい話しはヘカロさんに聞いてくれ」
言うが早いか恒夫が走り出す。
「用事って何よ? ゲームの途中でしょ」
菜穗が大声で訊くが恒夫は振り返りもしない。
恒夫が村を出て行って少し後、村長が慌てて家から飛び出してきた。
「泥棒だ!! 金貨が盗まれたぞ、泥棒だ! 」
村長の大声に村人たちが集まってくる。
「金貨が盗まれた……全部じゃない、16枚だ。儂が見つけると慌てて逃げおった」
「盗まれたって誰に? 犯人は? 」
村人たちが殺気立つ、慌てながら村長が続ける。
「あの人間だ。城道恒夫とかいう人間だ。あいつが金貨を16枚盗んでいった」
「まだ遠くには逃げてないはずだ。みんな追うぞ」
殺気立った村人たちが恒夫を探して走り出す。
「盗んだって…… 」
「あははっ、冗談だよね? 」
言葉を失う秀樹に振り向いた栄二の顔が引き攣っている。
ゲームの参加者全員に何とも言えない空気が漂う、そこへヘカロがやってきた。
リザードマンが近くにいた菜穗を睨み付ける。
「何をしてもいいからといって盗むとはな、やはり人間は最低だな」
「あいつ……何考えてんのよ」
菜穗が険しい顔で呟いた。
「がははははっ、泥棒かよ、人間のやりそうなことだ」
獣人二人組は大笑いだ。
「なんで全部取らずに16枚だけを…… 」
暫く考えてからエルフがハッとしてヘカロを見つめた。
「これが彼の答えなんですね」
ヘカロがニコニコしながら頷いた。
「そうだよ、142枚の金貨から恒夫くんの盗んだ16枚を引くと126枚だ。126枚なら42戸に3枚ずつで割り切れる。不満無く公平に分ける恒夫くんの作戦だ」
「一寸待ってよ、だからって盗んでもいいの? 」
「そうだぜ、盗んでもいいなら俺たちが全部貰うって事でもいいはずだ」
菜穗に続いて獣人たちも不満をぶつける。
「何でもありだと言ったはずだよ、でも君たちはどうやって盗むつもりだい? 村長の家には見張りがいる。三人の有力者に口煩い村人も三人、村長入れて七人が交互に見張っている。それだけじゃないこのイベントを仕切る天使もいる。盗むなんて不可能だよ」
「じゃあどうやって……あいつはどうやって盗んだのよ? 」
菜穗と同じ意見なのか獣人たちも怪訝な顔をヘカロに向ける。
黙って聞いていたエルフが口を開いた。
「盗んだのではなく交渉したんですね」
「その通りだよ、全て狂言だ。村長と有力者と三人の口煩い村人の合わせて七人に口封じとして2枚ずつ金貨を渡した。16枚から七人に渡した14枚を引いて余った2枚は恒夫くんが本当に貰ったよ、泥棒という汚名を被った代金として村長たちも納得している」
何か言いたそうな菜穗を手で制してヘカロが続ける。
「このイベントの目的は出来るだけ不満無く金貨を分けることだ。村人同士が争わないようにすることだ。その点に置いて恒夫くんの策は優れている。村人たちの恨みの殆どが盗人である恒夫くんに向いた。金貨を管理していた村長も少しは恨まれるが有力者だけでなく口煩い村人三人が庇ってくれる。村長の家以外に金貨を保管出来るような厳重な場所は無いので村人も納得するほかはない。村長たちも2枚多めに金貨を貰って何の文句も無いだろう、満点ではないが90点を与えてもいい策だとイベントを仕切る天使の判断だ」
「90点…… 」
菜穗が絶句した。
「俺たちが10ポイントであいつが90ポイントかよ」
獣人たちはまだ納得がいかない様子だ。
エルフの男が長い耳を撫でながら口を開く、
「公平に分けることばかり考えていました。町で両替するとか公共的に使うとかは浮かんでもこの状況で盗むなんてアイデアは出てきませんよ、村人たちの中に自身が入って盗むなんて思いつきもしませんでした。狡賢いと言うか、人間らしいと言うか、今回は私たちの負けですね」
「私も驚いたよ、彼は頼りなく見えるが頭の回転が速い、このゲームでは力と同じように必要な能力だよ」
楽しそうに言うヘカロに秀樹が突っ掛かる。
「捻くれてるだけだ。彼奴は昔からあんな感じだ」
「恒夫らしいって言えばらしいね……でも、やっぱり恒夫は必要だよ」
秀樹を見つめる栄二の腕を菜穗が握る。
反対の手を秀樹の腕にも回した。
「人間が狡賢いなんて言われて迷惑よ、恨みを買うような事されたらたまらないわ、秀樹くんと栄二くんには私が居るじゃない、私が頑張るからあの人の事は忘れましょう」
秀樹と栄二の間に入った菜穗が二人を引き寄せるように自分の腕を絡めて抱き付いた。
意外に大きな菜穗のおっぱいが腕に当たって秀樹が頬を緩める。
「そうだな、戻ってこいって言っても戻るようなヤツじゃないからな」
「どうにか話を付けたいけど今は無理だね………… 」
可愛い菜穗に抱き付かれて栄二も満更ではない顔だ。
「そうよ、私が頑張るからね、狡賢いヤツなんていらないわよ」
二人の間で菜穗がこれでもかという可愛い笑みを見せた。
ヘカロが三人を見てフッと笑う、
「そうだね、彼は相当捻くれているな、でもそれが彼の力となるはずだよ」
「ヘカロさんはあいつのこと買っているんですね」
「うん、彼は面白いからね、担当天使になれて良かったと思っているよ」
キッと睨む菜穗を見て楽しそうに笑うと改めてその場に居る参加者を見回す。
「では各自が出した策とポイントを発表しよう」
ヘカロが参加者全員の作戦を話してくれた。
リザードマンとエルフと種族の分からない女の三人組が出したアイデアは142枚の金貨を42戸で3枚ずつ分けて残りの16枚を村の公用として使うという分け方だ。
公用資金を有力者が自分たちのために使うのではないかという疑惑が出たので50ポイントだ。
殴り合いをして勝った方が金貨を貰うという獣人二人組の分け方は即却下されて10ポイントだ。
イベントの参加賞としてポイントが貰えただけである。
秀樹たちが提案したのは金貨を3枚ずつ分けて残りの16枚を町で両替して最後まで分けるというアイデアだ。
このイベントでは魔法を使うことが出来ないので町に行くのに往復五日は掛かる。イベント期間の四日以内に終わらないので却下されて30ポイントだ。
「恒夫くんの策は先程話した通りだ。一番高い90ポイントで採用されて今村人たちは金貨を分けているよ」
「満点の分け方はあるのですか? 」
エルフが訊くと全員がヘカロに注目した。
「勿論だ。満点の解決策は力の強いものが多く取るのではなく力の無いもの、経済的に余裕が無いものに優先して分ける方法だよ、小さな村だが長年暮らしてくると差が出てくるものさ、働き手が病気で亡くなったり怪我をしたり、一部の畑だけで作物に病害が出たりして貧富の差が出てくる。勿論村で助け合うが限度がある。そんな時に金貨が見つかったのだ。下の者に施す分け方に文句を言う村人は居ない、これが100点の分配法だよ」
「確かに不満があっても言い出せない方法ですね、明日は我が身でいつ不幸になるか分かりませんからね」
エルフだけでなくその場の全員が納得した様子だ。
楽しそうに微笑みながらヘカロが口を開く、
「一番初めの簡単なイベントとはいえ半日で終わるとは想定外だよ、次からは少し難しくなる。イベント期間の残りは休みになるのでゆっくり過ごしてくれ」
イベント期間四日の一日目で終わったのでこれから半日と残り三日が休みになった。
少し離れた町で休むのなら空間魔法で送っていってくれるというので参加者全員が町へ行くことになる。




