第四十七話
能力とアイテムの授与が終わり、大きな切り株の前に参加者全員が集まった。
壇上の大天使キケロが参加者を見回す。
「これよりゲームスタートです。危険なゲームですが夢の世界なので実際に死ぬ事はありません、ですが傷付けば痛みを感じます。精神にダメージを受けて実生活に支障が出る場合もあります。それを承知で参加してください、このゲームの経験が皆様の糧になれば嬉しく思います。では各自の健闘を祈ります」
キケロの激励でゲームが始まる。
続けてロロフィが前に出てきた。
「ゲーム中の資金として300万ギギルと地図にテントなどの備品を貰ったものからサイコロを回してゲームを開始してください、資金が無くなっても補填などはしませんよ、計画的に使ってくださいね、では担当天使に従ってゲームスタートでぇ~~す」
陽気に言うとロロフィが天使の羽を広げて飛んでいった。
秀樹が悩むように腕を組んだ。
「300万ギギルか、前のゲームの10倍だぜ」
「双六のマップが120マスで前の30マスの4倍だからね、300万ギギルなら余裕だね」
栄二は前のゲームでの宿賃や食事代を思い出して安心顔だ。
「恒夫がいれば金の心配しなくて済むんだがな…… 」
「そうだね、こんな事になるなら僕もイカサマサイコロ選べばよかったよ」
二人が見つめる先、秀樹や中津と少し離れた場所に恒夫が立っていた。
一人でいるところを見ると仲間は見つけられなかった様子だ。
「恒夫ぉ~~、お金貰ったな、そんじゃサイコロ振るぞ」
飛んできたロロフィが恒夫の前に降り立った。
「おおぅ、ロロフィちゃん、サイコロ振るから景気づけにケツを蹴ってくれ」
「あははははっ、よっしゃぁ~~、思いっきり蹴ってやるぞ」
ヘンタイ全開で体をくねらせる恒夫にロロフィが大笑いしながら蹴りを食らわした。
「うぉっ! たまんねぇ~、ロロフィちゃんが担当で幸せだぜ」
前につんのめって転がった恒夫が幸せそうな声を出した。
「あははははっ、恒夫は本物だな、本物のヘンタイだぞ、んじゃ早くサイコロ回せ、私は忙しいんだからな」
ロロフィがサイコロを二つ恒夫に手渡した。
様子を見ていた秀樹が何とも言えない顔で口を開く、
「あのバカ…… 」
「でもあの調子じゃ大丈夫そうだね」
栄二は少し安心した様子だ。
ヘカロが秀樹にサイコロを手渡す。
「我々も始めようか」
秀樹がサイコロを回した。
「4と3の7か」
「行き成り12とか出なくてよかったよ、前のゲームと同じで初めの方のイベントは簡単なんでしょ? 」
栄二がヘカロの顔を伺う、
「そうだね、50マス目くらいまでは初級と言ったところだね、前のゲームをクリアした秀樹くんや中津くんなら突破できるだろう」
「それなら問題ないぜ、前よりもアイテム一つ多いからな」
「そうだね、どうにかなりそうだね」
余裕にこたえる二人を見て近くで聞いていた中津たちも安心顔だ。
「よかった。やっぱり秀樹くんと栄二くんと仲間になってよかったよ」
菜穗がこれでもかという可愛い笑みをして二人を見つめる。
「任せろ、勝ちを狙うぜ」
菜穗の前で格好を付ける秀樹の元へ中津が歩いてきた。
「俺たちは9だ。同じイベントをして俺たちの方が優れてるって菜穗さんに見せられなくて残念だぜ」
栄二が厭そうな顔で口を開く、
「敵みたいな事言うなよな」
「戦闘イベント以外では戦うつもりはないよ、前のゲームと違って俺たちが戦う必要は無いからな、でもどちらが上かはっきりさせたいって気持ちはあるぜ」
栄二には義理を感じているのか中津がすぐに言い直した。
「それならいいけど…… 」
「実際お前ら強いからな、できれば戦闘イベントはやりたくないな」
言い淀む栄二の隣で秀樹がニッと笑った。
「そろそろ行こうか」
ヘカロの言葉で秀樹と栄二がマジ顔に変わる。
「慎重にな秀樹、くたばるなよ栄二」
「お前こそ無理すんなよ、中津がついてりゃ安心か」
秀樹が佐伯と握手して別れる。
ふと栄二が見ると恒夫とロロフィの姿はもう無かった。
今回のゲームのマップは大きな島をぐるっと一周するように120マスに区切られた本道がありそこから何本もの脇道が島の中心へと伸びている。
イベントによって脇道を通って近道をしたり逆に遠回りになったりもする。
イベントがメインなのでマップ自体は単純なのだ。
ヘカロに連れられて秀樹と栄二と菜穗が7マス目に進んだ。
「うわっ、凄い! 一瞬で移動した」
驚く菜穗の隣で秀樹が辺りを見回す。
緑が映える小高い丘にいた。
「こんな場所で何をするんです? 」
「向こうに村が見えるよ」
栄二が指差す先に小さな村が見える。
「イベントはあの村で行う、戦いは無いので安心するといい」
ヘカロが指す丘の下に小さな集落が見える。
「なんだ。ヘカロと一緒か」
飛んできたロロフィが気さくに話し掛けてきた。
「ロロフィさんがいるってことは恒夫と一緒かよ」
「恒夫、協力できるイベントなら協力しようね」
顰めっ面の秀樹の横で栄二が手を振った。
恒夫も二人に気付くがぷいっと顔を背ける。
「無視かよ!! 」
怒鳴る秀樹の腕を栄二が引っ張って止める。
「恒夫、一人じゃ無理だよ、いつでもいいから戻ってきてよね」
優しく声を掛ける栄二に恒夫がそっぽを向いたまま小さく手を振った。
「待ってるからね」
嬉しそうに一段高い声で栄二が言った。
そうこうしているうちに参加者が揃う、全部で九人だ。
秀樹たち三人組の他は獣人二人組にリザードマンとエルフの男と人間に似ているが何の種族か分からない女の三人組、それと個人参加の恒夫、全部で四つのグループが同じイベントをするということである。
「ではイベントの説明を始める」
ヘカロが初めのイベントの説明をしてくれた。
丘から見える下の集落で財宝が出た。
財宝の分配を巡って村人たちが対立している。
発見者や村長など村の有力者数名が多目に取ろうとしたが村人が反対して暴動が起きそうになった。
下手に分けると禍根が残り村が維持出来なくなるだろう、そこで全ての村人が不服無く従うように財宝を分けろというのが今回のイベントだ。
具体的には42戸の村で142枚の金貨を公平に分けろということである。
「村人の不服がない分け方を提案した者ほど高いポイントが貰える。満点で100ポイントだ。アイデアが浮かんだら村長に言ってくれ、村長の家には天使が一人いる。その天使が判断してくれる。全員の意見を聞いて一番ポイントの高い分け方を採用する。つまり実際に金貨を分ける。それでこのイベントは終了だ。早くクリアして時間が余れば村で休むことも出来るし離れた町へ行くことも可能だ。モンスターに襲われることもないし簡単だろ? 」
楽しそうに微笑みながらヘカロが参加者を見回した。
魔物や参加者同士で戦わないという点に置いては確かに楽である。
菜穗が顔を顰めて口を開く、
「どこが簡単です。割り切れない数を割るなんて無理でしょ」
「命を懸ける危険が無いのは簡単だろう、この先はもっと難しくなるんだよ」
優しい笑みを絶やさないヘカロが少し意地悪顔になっている。
「割り切れない数を公平に分けろってことか…… 」
考えるように腕を組むと秀樹が『どうする』と言うように栄二を見つめた。
秀樹はリーダーとして先頭に立って戦うが頭を使うことは栄二や恒夫に任せている。
「時間はあるんでしょ? 」
栄二がヘカロに訊いた。
他の参加者も注目している。
「イベント期間は四日ある。これは全てのイベントで共通だ。だから今回も四日以内にアイデアを出せばいいよ、但し先着順だ。納得のいく金貨の分け方が提示されれば村人はその場で分けるからね、金貨を分け終えればイベント終了となる。逆に納得いく分け方を提示されるまでは各チーム何度でも提示できる。不採用となったアイデアにも点が付くが実際に貰えるポイントは出したアイデアで一番得点が高かったもの一つだ。それをチームの全員で分ける事になる。端数が出た場合は担当天使が預かって次にポイントを分ける際に端数となった時に使う事になるのでポイントの分け合いで喧嘩する事はないよ」
「早ければ早いほどいいって事か…… 」
呟く秀樹の後ろから恒夫が質問する。
「どんな分け方でもいいんですか? 例えば村長が全部独り占めとか」
秀樹が振り返ると口元を不敵に歪めた恒夫がいた。
「構わないよ、どんな分け方でもOKだ。余った金貨は分けずに捨ててもいい、但し村人が納得しなければ貰えるポイントが低くなる。余った金貨を村長が捨てれば村長が恨まれて不服が生まれるので不採用だ。そうなれば当然ポイントが低くなる。村人全員を納得させる方法が一番ポイントが高い、各自よく考えてくれ」
爽やかな笑みを湛えてヘカロがこたえた。
大きな笑い声が聞こえて秀樹だけでなく恒夫も振り返る。
「力尽くで従わせたらいい、村長や権力者が多目に取るのが当たり前だ」
「がははははっ、村人など金貨1枚でいい、残りは権力者で分けろ」
獣人の二人組が大笑いしていた。
エルフの男がさわやかな笑みを湛えながら口を開いた。
「全て村の共有財産として公共的に使えばいいのです」
「もうっ!! 面倒臭いから元の場所に埋めればいいでしょ、初めから無かったことにして真面目に働けばいいのよ」
人間にそっくりだが何の種族か分からない女がヒステリーに言った。
「落ち着けよ、それじゃあ村人全員の恨みを買うぞ」
三人組のリーダーらしいリザードマンが女を宥める。
「いい考えが浮かんだ。耳を貸せ」
リザードマンがエルフと女を呼んで何やら耳打ちする。
「成る程、それが一番ですね」
「それなら文句は出ないわね、私もそれに賛成するよ」
リザードマンとエルフと種族の分からない女のチームはアイデアが浮かんだらしい。
「どんな方法でもいいって事は金貨そのものじゃなくて両替するのもありなのか、何でもありなら意地悪クイズみたいだな…… 」
考える栄二を秀樹と菜穗が期待顔で見つめる。
秀樹はもちろんだが菜穗も頭を使うものは苦手の様子だ。
「ではイベントスタートだ」
ヘカロに連れられて秀樹たちは村へと入っていった。




