第四十六話 「仲違い」
恒夫と別れて50メートルほど歩いた所へヘカロが飛んでくる。
「何かあったのかい? 恒夫くんがチームを抜けると報告してきたよ」
「実は…… 」
険しい表情で訊くヘカロに秀樹が事の経緯を説明した。
「そうか…… 」
ヘカロが菜穗に向き直る。
「君が緒方菜穗さんだね」
値踏みをするように見つめながら続ける。
「担当天使は……ヘルカか………… 」
ヘカロが秀樹と栄二に振り返る。
「二人だけで話しをする。秀樹くんたちはそこで待っていてくれ」
ヘカロが菜穗を連れて少し離れた木陰へと向かって行く、秀樹と栄二の頭の上を天使の影が横切った。
「菜穗さんの担当天使だね」
「菜穗さんも可愛いけど天使さんも美人だぜ」
秀樹と栄二が見つめる先でヘルカが菜穗の隣りに降り立った。
「久し振りだねヘカロ、元気にしていたかい? 」
ヘルカは天使といっても堕天使である。
嘘つき悪魔ベリトの部下だ。
短い赤毛に吊り上がった目をしたやんちゃなタイプに見える。
7メートルほど先で三人が何やら話を始めた。
「そうか……仕方ない、それでか…… 」
ヘカロの話し声が漏れてくる。
何を話しているのかわからないが三人ともマジ顔なのを見て秀樹と栄二も緊張気味に待っている。
暫くしてヘカロがやって来た。
「恒夫くんは残念だが菜穗さんとチームを組んでゲームクリアを目指すといい」
「えっ? 恒夫を説得してくれるんじゃ…… 」
驚く栄二の隣で秀樹も顔を顰める。
「そうですよ、恒夫を説得してください、ヘンタイだけど役に立つ、金だけじゃない、あいつは知恵が回るし……とにかく大事な仲間なんです。恒夫がいないと困るんです」
冷静に戻った秀樹がヘカロに頭を下げた。
「無理だな、説得して戻る恒夫くんじゃないよ」
「そんな…… 」
縋るように見つめる栄二の前でヘカロが溜息をついた。
「秀樹くんや栄二くんが悪いんじゃない、もちろん菜穗さんもね、恒夫くんは初めからチームを組む気は無かったんだよ」
「始めからって? 」
秀樹が怪訝な顔で訊いた。
「私の所にチームを抜けたいと言ってきた時に事情を聞いた。恒夫くんは初めからこうするつもりだったと言っていた。丁度良いから抜けたとね、本当は町のカジノで稼いでお金を全て二人に渡してからチームを抜ける話を切り出すつもりだったらしい」
「初めからって……恒夫が? 何で? 」
信じられないという様子の栄二に向かってヘカロが首を振った。
「込み入った話しは聞いていない、恒夫くんには恒夫くんの考えがあるんだろう、我々はあくまでサポートだ。参加者に強制はできない、もちろん相談を受けたら問題解決できるように力は貸すがね」
「それで恒夫はどうなるんです? 」
秀樹が心配そうに訊いた。
喧嘩別れしたといっても心配なのだろう。
「取り敢えず個人で参加すると言っていたよ、仲間も探すと言っていた」
「恒夫のヤツ…… 」
「安心するといい、状況がわかるように私の知り合いを恒夫くんの担当に付ける」
「ありがとうございますヘカロさん」
頭を下げる二人の前でヘカロがフッと微笑んだ。
「私も心配だからね、来たよ、恒夫くんの担当天使だ」
ヘカロが指差す先から中津の担当天使リーアと一緒にロロフィが飛んでくるのが見えた。
「もしかして恒夫の担当って…… 」
「ロロフィさんかよ」
「フフッ、あの娘はああ見えてしっかりしているからね」
驚く二人を見てヘカロが楽しそうに笑った。
ロロフィはラッキーイベントとバッドイベントの担当で本来は参加者に付く担当天使ではないがヘカロが無理を言って恒夫の担当に頼んだのだ。
「これでも忙しいんですよぉ~~、ラッキーイベントやバッドイベントのお祭り担当なんだからね、担当天使なんて面倒な事しなくていいように選んだのにぃ~~ 」
ロロフィは降りると不満たらたらといった様子でヘカロに突っ掛かる。
「わかっているよ、イベントがある時は私とリーアがフォローするさ、ロロフィはゲームの説明やポイントの管理をしてくれればいい」
ヘカロが苦笑いしながら言った。
天使としての位はヘカロの方が遙かに上だがロロフィはお構いなしだ。
それほど仲の良い友人という事である。
「仕方ないなぁ~~、貸しにしておくからね、いつか返してよヘカロぉ~~ 」
「わかったよ、覚えておくよ」
ロロフィがニヤッと口元を歪めて悪戯っ子のように笑いながら言うとヘカロが優しく微笑みながら返した。
リーアに連れられて中津たちがやって来る。
「恒夫が抜けたってマジかよ? 」
驚き顔の佐伯の隣で中津が菜穗を指差した。
「そっちの娘が新しい仲間か? 」
「緒方菜穗って言います。菜穗って呼んでください」
ぺこりと頭を下げる菜穗を見て中津の頬が緩む、
「菜穗さんって言うのか可愛いな、秀樹と組むの止めて俺たちと組まないか? 」
「あはははっ、ごめんなさい、もうチーム組んだから、私どうしても勝ちたいからね、前回優勝した秀樹くんのチームしか考えられないわ」
菜穗が楽しそうに声を出して笑った。
先程までのですます調の言葉使いではなくタメ口だ。
これが普段の菜穗なのだろう。
観察するように菜穗を見ていた東條が秀樹に振り向く、
「ふ~ん、ヘンタイよりもそっちの娘を選んだんだ……所詮その程度の仲だったのね」
「そんな言い方しないでよ東條さん、僕たちは恒夫が抜けるのは反対したんだよ、でもどうしても抜けるって……だから仕方ないだろ」
弱り顔で言う栄二の隣で秀樹が少しムッとした様子で話し出す。
「そうだぜ、どんなゲームかお前らもわかってるだろ、危ないゲームに菜穗さん一人で参加させられないぜ、恒夫も引き留めたさ、でもどっちか選べとか言いやがって……恒夫だってゲームが危ないの知ってるんだぜ、女の子助けるのが当たり前だろが」
「そりゃヘンタイよりは菜穗さんを取るよな」
中津の軽口に秀樹が突っ掛かる。
「んだと! 」
佐伯と栄二が慌てて二人を止める。
「止めろよ中津、今のはお前が悪いぜ」
「秀樹もダメだよ、こんな所で喧嘩はよそうよ」
ヘカロが秀樹と中津の肩をポンポンッと叩いた。
「諍いはその辺りで止めとこうか、恒夫くんは自分で選んだんだよ、誰も強制していない、何か考えがあるんだろう、暫く様子を見るしかない、長いゲームだ。同じマスに止まる事もある。休みに町で会う事もあるだろう、その時に話し合えばいいさ」
栄二がバッと振り向いた。
「町で会って誘えば同じイベントじゃなくてもチームを組めるんですか? 」
「可能だよ、但し後ろのマスに合わせる事になる。5マス目と3マス目でイベントをこなして近くの町で休んでいて意気投合してチームを組んだ場合は5マス目に進んでいた参加者が3マス目に戻る事になる」
「そうなんですか、それならまた恒夫と組める可能性もありますね、よかった」
嬉しそうに言う栄二の後ろで秀樹も安堵していた。
「よかったぁ~~、私の所為で喧嘩したから心配してたのよ」
菜穗が安心したように大きな声で言った。
わざとらしくも見えるが可愛い菜穗を見て秀樹と栄二は頬を緩めている。
「旨い事やりやがって……菜穗さん見てて思い出した」
中津がリーアに振り向く、
「今回のゲームでも奴隷を連れて行く事はできるんですか? 前のゲームで秀樹が猫娘を連れてたみたいにできますか? 」
「奴隷じゃないからね、ネピアもクロエも仲間なんだからね」
文句を言いながら栄二もリーアに注目する。
今回のゲームもネピアとクロエを誘って一緒に旅をしたいと考えていた。
「同伴者ですか? そういえば前のゲームでは許可されてたな……今回も可能ですよね?」
リーアがヘカロに確認を取る。
ヘカロが頷くと話を始めた。
「連れて行くのは可能だがイベントに参加する事はできない、今回のゲームはあくまで参加者個人が行うものだ。外部から助っ人を頼む事はルール違反だ」
「イベントはダメって事は休みにしか会えないって事なのか…… 」
がっかりする栄二を見てヘカロが微笑みながら続ける。
「イベント内に連れて行く事は可能だ。戦いに参加する事や手を貸す事はできない、それと前のゲームのダンジョンのようなイベントには参加できない、終わるまで私たち天使と外で待つ事になる。つまりポイント取得に関係のある事はできないと思えばいい、身の回りの世話や荷物運びとして手伝う事は可能だ」
「じゃあ一緒に旅をする事は可能だな」
「よかった」
安堵する栄二の背を秀樹が叩いてニッと笑った。
中津と佐伯も大喜びだ。
「今回は俺たちもイカサマサイコロがあるから可愛い獣人をゲットするぜ」
「だな、命懸けのゲームなんだからこれくらいの楽しみがないとな」
「まったく、男共は………… 」
にやける二人を見て東條が怖い顔をして呟いた。




