第三十二話「最後の休息」
秀樹たちが町へと入っていく、中津の事も気になるがクロエやネピアと一緒に居られるのも明日までだ。
残りの二日間たっぷりと遊ぶことにした。
恒夫が自分の荷物を秀樹に渡す。
「秀樹、栄二、金いくら持ってる? 有り金全部出せ、お前らが宿を探してるうちに俺がカジノで倍にしてやる」
恒夫が指差す先にカジノが見える。
「俺は二十万ギギルだ。二日なら遊ぶのに充分だが……恒夫に任せるぜ」
「僕は十五万ギギルだよ、恒夫なら一時間で倍に出来るよね、頼んだよ」
秀樹と栄二が恒夫に有り金全部を差し出した。
「お前ら何処で使ったんだ? 俺は七十万ギギル持ってるぞ」
顔を顰める恒夫を見て秀樹と栄二が苦笑いだ。
「仕方ないだろイカサマサイコロで稼げるお前と違うんだからな」
「へへへっ、僕はネピアと一緒に色々使ったからね」
「まったく、三人合わせて百五万ギギルか……取り敢えず五十五万ギギル持っていけ、残りの五十万ギギルを増やしてやる。二~三時間で三百万ギギル以上にしてやるぜ、その間に秀樹は宿を探してろ、最後だから一番いい所にしろよ、遠慮無しだ思いっきり遊ぼうぜ」
恒夫が何か思い付いた様子でニヤッと悪い笑みをする。
「宿の部屋は二つ取るんだろ? ネピアとクロエと俺たちの分の2部屋、なら俺は帰らないからネピアと栄二、秀樹とクロエの部屋にしろ、俺の事は気にすんなカジノで稼いでお姉様の居る店でたっぷりと遊ぶからさ」
「なっ、何考えてんだよ、まったく恒夫は……なぁクロエ…… 」
頬を赤く染めながら秀樹が顔を伺うとクロエがフッと微笑んだ。
「そうだな、最後だからな一緒に泊まるか秀樹? 」
「なっ、なん!? 」
驚いた秀樹が一段高い変な声を出す。
「私とじゃ嫌か? 」
艶っぽい目で顔を覗き込むクロエの前で秀樹がふるふると首を振る。
「いっ、嫌じゃない、くっ、クロエと一緒に泊まりたい」
「じゃあ決まりだ」
どもりながら言う秀樹を見てクロエがニコッと可愛い笑みを見せた。
ネピアが栄二に抱き付く、
「やったぁ~~、栄二と二人っきりでラブラブ出来るにゃ」
「そうだね、最後の思い出作りをしようね」
無邪気に抱き付くネピアの頭を栄二が撫でる。
「見せ付けてくれるぜ、俺はお姉様たちと豪遊するからな、遠慮なく遊んでこい」
恒夫がさっさと行けと手を振るとカジノへと入っていく、秀樹たちは宿探しに向かった。
今までで一番大きな町だ。
人間やエルフだけでなく許可証を持っているらしい獣人たちも沢山居る。
これ見よがしと奴隷の獣人を連れた金持ちも大通りを闊歩している。
裕福な町らしく活気があった。
大通りを歩くネピアが栄二に抱き付く、
「お腹減ったぁ~~、お昼食べに行くにゃ」
「その前に宿を決めないとダメだから少し我慢してね」
苦笑いする栄二の前を歩いていた秀樹が振り返る。
「あのデカいホテルにしようぜ、最上階から町が見渡せるだろ、最後だからな遠慮無しだぜ」
指差す先にこの世界では珍しい10階建て以上の建物が建っていた。
「凄いにゃ、あんな大きな家見た事ないにゃ、1、2、3……全部で12も窓があるぞ、一番てっぺんに泊まるにゃんて王様みたいにゅ」
指を折りながら何階建てか数えてネピアが歓声を上げた。
横を歩いていたクロエが秀樹の腕を引っ張った。
「いいのか? 物凄く高そうだぞ、無理しなくて普通の宿でいいよ」
不安気なクロエを見て秀樹がニッと笑う、
「遠慮無しだぜ、金は心配無い恒夫が稼いでくれる。ヘンタイだけど義理堅くて頼りになる。死にそうな目に何度も遭ったんだ。今日くらい贅沢しようぜ」
「そうだよ、遠慮なんかしたら恒夫が怒るよ、思いっきり遊べって言ってたからね、最後なんだから一番いい部屋で思い出を作ろうよ」
「そうにゃ、あのてっぺんで栄二とラブラブで過ごすにゃ」
優しく微笑む栄二に抱き付きながらネピアが脳天気に言った。
「そうだな、これでお別れなんだな、あんなホテルで過ごせば一生忘れないな、最後に思い出を作ろう秀樹」
クロエが秀樹の腕に手を回して腕組みをする。
「思い出……そっ、そうだな、うん……クロエと思い出を作らないとな………… 」
真っ赤になった秀樹がどもって言葉が続かない。
腕に抱き付くクロエの巨乳が気持ち良すぎて頭の中が真っ白になっていく。
「じゃあ早く行って荷物置いてお昼にするにゃ」
元気に言うとネピアは栄二の腕を引っ張って歩き出す。
「行こう秀樹、たっぷり楽しもう」
真っ赤になった秀樹と腕組みをしたクロエが後に続いた。
ホテルに入るとカウンターにいた支配人がみすぼらしい身なりの秀樹たちを見て胡散臭そうに対応を始めるが金の入った袋を見せると態度を一変させて上機嫌で最上階の部屋へと案内してくれた。
この町で一番の高級ホテルだと言う事である。
大きいだけでなく値段も桁が違っていた。
最上階は一部屋一泊五十万ギギルもした。
二部屋借りて二泊すれば二百万ギギルもかかる。
だが秀樹はこのホテルに決めた。
金は恒夫が何とかしてくれる。
ネピアと栄二はもちろん秀樹もクロエと良い雰囲気になっている。
最上階の部屋で夜景を見ながら結ばれるエロい妄想で頭も股間も弾けそうである。
悔いなく過ごす場所として選んだのだ。
「うわぁ~~綺麗にゃ、部屋の中ピカピカだぞ」
流石最上級のホテルだ安宿とは比べものにならない豪華さである。
「お風呂も大きいにゅ、お湯もたっぷり出るにゃ、これなら一緒に入れるにゃ、あとで一緒に入るぞ栄二」
彼方此方見てはしゃいでいたネピアが浴室から出てくると栄二に抱き付いた。
「うん一緒に入ろうね、外を見てごらん、町が見渡せるよ」
栄二は頬が少し赤くなっているが経験者の余裕か、相手がネピアだからか、以前のような挙動不審にはならない。
ネピアが窓から外を覗いた。最上階の12階だ。
他は精々5階建てくらいの建物しかないので町がぐるっと見通せる。
「ほんとにゃ、町が見えるにゃ、人間どもが小さいにゃ…… 」
笑っているのかネピアの肩がふるふると震えているのに栄二が気付く、
「にゃっへっへっへっ、人間どもがあたしの足下に跪いているみたいにゃ、偉くなった気がするにゅ、最高の景色だにゃ」
単純なんだから……、栄二は呆れて言葉も無い。
くるっとネピアが振り返る。
「大きくなった気分になったらお腹減ったにゃ、御飯食べに行くにゅ」
「ネピアは花より団子だね」
「団子? もっと豪華なのが食べたいにゃ」
「あははははっ、団子はたとえ話だ。お昼も夜も豪華に行くよ、最後だからね」
栄二は大笑いするとネピアの腕を引っ張って部屋を出て行った。
栄二とネピアがはしゃいでいる頃、秀樹もクロエと良い雰囲気になっていた。
「凄い部屋だな、チャトラン族の村に帰ったら自慢できるよ」
物珍しげに部屋を見回っていたクロエがダブルベッドより一回り大きいキングサイズベッドに腰掛けた。
「うわっ! ふかふかだ。浮いてるみたいだよ」
驚き声を聞いて秀樹がベッドに両手をついた。
「本当だ。凄い柔らかいな、流石最高級のスイートルームだぜ」
ベッドの感触を確かめるように両手で押している秀樹にクロエが艶のある目を向ける。
「こんなベッドで眠ればきっといい夢が見られるな、一緒にいい夢を見ような秀樹」
「いっ、一緒にって……俺とか? おっ、俺でいいのか? 」
真っ赤な顔をしてどもる秀樹を見てクロエが優しく微笑んだ。
「お前じゃなきゃ嫌だ。初めてはお前がいい、恩人ってだけじゃない、ヒデキは格好良かった。お前を忘れないように思い出が欲しい、お前が好きだ」
「クロエ…… 」
秀樹がクロエを抱き寄せた。
そのまま唇を重ねる。
直後、ドアのノックが聞こえて秀樹とクロエがバッと離れた。
「姉ちゃん、クロエ姉ちゃん、ヒデキぃ~、お昼食べに行くにゃ」
鍵の掛かっていないドアが開く音が聞こえてダダダッとネピアが走ってきた。
「何してるにゃ? 」
不思議そうに首を傾げるネピアの前に真っ赤な顔をしてベッドに座る二人がいた。
「なっ、なっ、何でもない」
「そっそうだぜ、何もしてないぜ」
秀樹はともかくクロエまで焦ってどもっている。
「ネピア~、ダメだよ、鍵が掛かってなくても勝手に入ったりしたらダメなんだからね」
弱り顔で入ってきた栄二が真っ赤な顔をした二人を見てニヤッと笑う、
「お邪魔だったかな? 」
「なっ、なに言ってやがる。変な事言うな」
「そうだよ、それより早く食事に行こう、ネピアが餓死しちゃうよ」
大慌てで二人が立ち上がる。
「あははははっ、そうだね、じゃあお昼に行こうよ」
大笑いする栄二にネピアが腕組みをして抱き付く、
「早く行くにゃ、お腹ペコペコ、ペコにゃんこにゃ、餓死する前に食べに行くにゅ」
「そうだね、美味しいもの食べていっぱい遊ぼうよ」
優しく声を掛ける栄二の向かいで秀樹ものりのりだ。
「おう、デカい町だからな、遊ぶ所もいっぱいあるぜ」
クロエがフッと微笑む、
「はしゃぎすぎて失敗しないようにほどほどにな」
笑顔の四人が部屋を出て行った。
恒夫がカジノで稼いでいると昼食を終えた秀樹とクロエが入ってきた。
栄二とネピアは外で待っている。
「恒夫、遊びに行こうぜ」
「もう二時間経ったのか? 夢中になっててわからなかったぜ、そういや腹減ったな、俺も休んで飯でも食うかな、その前に…… 」
秀樹が声を掛けると振り向いた恒夫がクロエを見つめた。
「クロエ少し遊んでいけ、イカサマサイコロの使い方を教えてやるよ、秀樹少しクロエを借りるぞ、お前は栄二とネピアとお茶でもしてろ」
何か考えがあるような恒夫の顔を見て秀樹は素直に従った。
戸惑うクロエを連れて恒夫がルーレットの場に並ぶ、恒夫はこのあと秀樹が迎えに来るまで一時間近くカジノでのイカサマサイコロの使い方をクロエに教えた。
秀樹と栄二とネピアがカジノへ入ってくる。
「クロエ姉ちゃん迎えに来たにゅ、ツネオ~、勝ってるか? 」
ネピアが馴れ馴れしく恒夫の薄い頭をペシペシ叩いた。
「おう、順調に勝ってるぜ」
頭を弄られるのには慣れたのか諦めたのか恒夫はネピアの手を払いもしない。
「イカサマサイコロの使い方を教えてもらっていたんだ。見つからないようにするのはドキドキして楽しいよ、これならお金に困らないな」
勝って興奮しているのかクロエの頬が少し赤く上気している。
「クロエは筋がいい、ギャンブラーになれるぜ、んじゃ、サイコロのレクチャーは終了だ」
恒夫がクロエの背をポンッと叩いた。
始めの二時間とクロエに教えていた一時間で四百万ギギルほどになっていた。
「全部で四百三十万ギギルだ。ホテルの代金が二百万ギギルだろ、秀樹と栄二に百万ギギルずつだ。これで今日と明日おもいっきり遊べ、俺は残りの三十万を増やせるだけ増やしてやる。だから遠慮しないでクロエとネピアを連れて悔いのないように遊んで来い」
恒夫が秀樹と栄二に金貨の詰まった袋を渡す。
「お前はどうするんだ? 恒夫も一緒に遊ぼうぜ」
袋を受け取りながら秀樹が言った。
栄二も恒夫を見つめている。
「秀樹と栄二とはいつでも遊べんだろ、だからさ……いっぱい楽しんで来い、俺の事は気にするな、稼いだ金でお姉様のいる店貸しきって悪代官や悪徳商人のように金バラ撒いて遊ぶからな、俺の夢が叶うんだ。だからお前らも悔いのないようにいっぱい遊べ」
恒夫の気遣いがわかった秀樹と栄二は何も言わずにネピアとクロエを連れて町へと遊びに行った。言われた通りにたっぷりと遊んでやろうと二人は思った。
たっぷり遊んで宿に戻った秀樹とクロエが同じ部屋に入っていく、隣の部屋は栄二とネピアだ。
「秀樹、少し話をしようか」
ソファに腰掛けたクロエが落ち着きなく歩き回っている秀樹を呼んだ。
「おっ、おう、何の話しだ? 」
クロエの隣りに秀樹が座る。
「私が奴隷として捕まった話しさ」
「嫌な思い出だろ無理に話さなくてもいいぜ」
落ち着きのなかった秀樹の顔がマジ顔に変わる。
「今は嫌じゃないさ、御陰でヒデキに会えたんだからな」
フッと微笑むとクロエが続ける。
「ネピアがどうして捕まったのか聞いただろ? あの日、カリンとチョチョとメックが血相を変えて村に戻ってきた。直ぐにネピアを救いに捜索隊が組まれたが既に人間もネピアも居なかった。昔から慕ってきたネピアだ。私は諦めきれずに一人で村を出た。一番近い人間の町へ探しに行ったんだ。そこで騙されて痺れ薬を盛られてさ、それでも乱暴しようとした男共を数人倒したんだが、結局捕まったよ」
「乱暴…… 」
顔を顰める秀樹を見てクロエがフッと笑った。
「心配無い、私は汚されてないよ、たまたま近くにいた奴隷商人が男たちから私を買ったんだ。自分のものにするならともかく奴隷商人は高く売れそうな商品には手を出さない、そうして奴隷市に並べられてるところを秀樹に助けてもらったんだよ」
隣に座る秀樹にクロエが抱き付く、
「だからな、お前たちには感謝している。私だけでなくネピアも救ってくれた。この世界の人間と違ってお前たちは余裕があるように感じる。どうしてだろうな? ヒデキの住む世界の話を聞きたい」
直ぐ傍にあるクロエの顔を見つめながら秀樹が口を開く、
「俺たちは旅行者みたいなものだからな、だから余裕があるように見えるんだぜ、こっちの世界みたいに魔物と命懸けで戦うって事もないからな、俺たちの世界は魔法の代わりに機械が発達してるんだ。それで…… 」
自分たちの世界の事を話そうとした秀樹の口をクロエが指で押さえて止める。
「続きはベッドの中で話そう、そうそう、私が捕まった話しはネピアには内緒にしてくれよ、自分の所為だと心配させたくないからな、シャワーを浴びてくるよ、ヒデキも浴びるんだぞ、その後で……な…… 」
意味ありげに微笑むとクロエが浴室に歩いて行った。
隣の部屋では栄二とネピアが一緒に風呂に入っていた。
並んで湯船に浸かりながら栄二が自分たちの世界の事をネピアに聞かせる。
高層ビルや大きなデパートなど建物の事から電車や車に飛行機の事、日々の暮らしぶりや学校での話しなどネピアが猫目をクリクリさせて興味深く聞いていた。
「凄いにゃ、空飛ぶ機械もあるのか、あたしも気球は見た事あるにゃ、人間の都には飛行船っていうのもあるって聞いた事があるにゃ、でも飛行機なんて知らないにゅ」
大きな浴槽の中でネピアが仰向けになって両手を広げて浮かぶ、
「こうやって鉄の羽を広げて飛ぶんだにゃ、あたしもハーピィに掴まって飛んだ事はあるにゅ、気持ちよかったにゃ、エイジの世界の飛行機にも乗ってみたいにゅ」
手足をバタバタさせて言った後でくるっと起き上がる。
「行ってみたいにゃ、エイジの世界、見てみたいにゃ、向こうの世界」
目をキラキラさせるネピアの頭を栄二が優しく撫でる。
「そうだね、僕もネピアを連れて歩きたいよ、いつか行けるといいね」
ネピアがバッと抱き付いた。
「うん……行けたらいいにゃ、エイジとずっと一緒にいれたらいいな………… 」
「ネピア…… 」
栄二がギュッと抱き締め返す。
次の日も秀樹とクロエは恋人のように町を遊び周った。
もちろん栄二とネピアもだ。
恒夫はカジノで稼いでいた。
お姉様と遊ぶと言っていたが五時間ほど眠っただけで後はカジノに入り浸りだ。
その甲斐もあって三十万が七百万ギギルになっていた。




