第三十話「オークとパンツ」
翌日、事件が起こった。
一日目と同じようにイカサマサイコロを使って分岐した先でオークの群れに出くわしたのだ。
50匹以上はいるオークの群れに追われて秀樹たちは逃げ出した。
「うわぁ~っ、ハズレだ! 」
「ハズレって? イカサマサイコロのハズレか」
逃げながら叫ぶ恒夫に秀樹が大声で訊いた。
「そうだ。言っただろ絶対じゃないって、カジノでも3回に1回は外れてたんだ。そろそろ嫌な感じしてたんだ」
「ハズレでも大ハズレだぜ恒夫、オークの群れなんか遭いたくもないぞ」
「なぜ逃げる? オークの50匹くらい戦えばいいだろ」
二人の会話にクロエが大声で混じる。
栄二の手を引きながら逃げているネピアも不思議そうに訊く、
「そうにゅ、オークの100匹くらいすぐに倒せるにゅ、クロエ姉ちゃんとエイジのゴーレムとヒデキの魔法で倒せるに、何で逃げんるんだエイジ? 」
「狭い所で暴れたら洞窟崩れちゃうだろ、だから広い場所まで行くんだよ、少し前に通った広場まで逃げるんだ。あそこならゴーレムも暴れられるだろ」
必死で走りながら栄二がこたえた。
そういう事か……、クロエが納得した様子でうなづいた。
「もうダメだ……俺は短小だから長距離苦手なんだ」
走っていた恒夫のペースが落ちる。魔法の銃を抜いて後ろに向けた。
「なっ!? 止めろ! 何考えてんだ」
すぐ後ろを走っていた秀樹が追いつくと慌てて魔法の銃を掴んで止める。
「こんなとこで撃ったら洞窟崩れるぞ」
「だってもう足が限界だからな…… 」
怒鳴る秀樹に恒夫が泣き出しそうだ。
「お前ハゲなんだから太陽拳くらい使えないのか? 」
「使えるか!! 」
「何のためのハゲなんだよ」
「太陽拳のためじゃねぇーっ 」
秀樹のからかいに怒った恒夫がまた元気を出して走り出す。
十分くらい走って開けた場所に出た。
半径30メートルほどの円形の広場だ。
洞窟の壁や天井に発光するコケが付いていてボウッと緑に照らされた空間である。
ゼイゼイハァハァと肩どころか体全部を揺らして息をつきながら恒夫が岩場の陰にへたり込む、走り疲れて引き攣った酷い顔だ。
「もうダメだ。もう動けん、オークはお前らに任せたからな」
唇をブルブル震わせて言うと水筒の水を飲みだした。
仕方ない奴だなと言うように恒夫を見た後で秀樹が口を開く、
「恒夫はそこで休んでろ、俺が魔法で援護するからクロエ頼む」
「了解した。数が多いからな、炎か電撃で奴らを散らしてくれ、その後個々に叩く」
クロエが重さを操る魔剣グラヴィディソードを抜いた。
仲良く手を繋いで逃げてきたネピアが栄二に抱きついて甘えるように言う、
「エイジぃ、ゴーレムを突っ込ませるにゅ、あたしとエイジが後ろで援護だよ」
「了解、ゴーレムと僕の魔法の銃でオークを蹴散らすからネピアは一人ずつ魔法の弓で仕留めてくれ」
栄二は持っていた荷物を置いて前に出るようにゴーレムに指示を出す。
恒夫ほどではないが栄二も疲れて肩で息をついているのにネピアにみっともない姿を見せたくないのか平静を装っている。
水筒の水を飲んで少し落ち着いた恒夫が隠れていた岩から顔を出した。
「さっさとやってくれ、俺はここでお手並み拝見してるからな」
相手が美人のお姉様以外はまったくやる気の無いのが恒夫である。
50匹ほどのオークとの戦いが始まった。
この世界のオークはそれほど強い相手ではないがゴブリンより大きく力も強い、数が多いと厄介な相手になる。
秀樹がオークの群れに向かって魔法の杖を向けた。
「サンダーボール」
魔法の杖から雷光を上げる球が飛び出す。
落ちた場所から半径3メートルほどに電気が走り感電したオークが逃げ惑う、この程度の電撃ではオークは致命傷にならない様子だ。
逃げ惑い群れから離れた数匹目掛けてクロエが魔剣を振った。
「グラヴィディ・スラッシュ! 」
白い光が当ると数匹のオークが吹っ飛んで壁に当って潰れた。
切られたのではなく壁に押し潰されたような感じである。
重さを操る重力剣グラヴィディソードが放つ重力で吹き飛ばされて壁に潰されたのだ。
「へえ流石剣士だな、凛々しくて綺麗だぜクロエ」
「なっ何を言っている。戦いの最中だぞ、早く次を頼む」
「了解した。次は炎だ」
綺麗と言われて頬を染めたクロエを見て秀樹が楽しそうに笑った。
「ハラペーニョ・ファイヤー 」
魔法の杖から吹き出した炎にオークが逃げ惑う、
「グラヴィディ・ホーク! 」
クロエが連続で魔剣を振り下ろす。
逃げ惑うオークが1匹ずつ地面にペシャンコになっていく、もぐら叩きの要領で魔剣を振って上から重さをかけて潰したのだ。
「流石四百万ギギルの魔剣だな、クロエの剣士としての腕も一流みたいだ。佐伯のサンダーソードよりは下だが充分使えるぜ」
岩に隠れて見ていた恒夫が感心した様子で呟いた。
秀樹たちの隣では栄二とネピアとゴーレムが戦っている。
暴れるゴーレムをどうにかしようと10匹以上のオークが取り囲んでゴーレムの体の上によじ登ったりして持っている斧や剣で岩を削るように切り付けていた。
「ゴーレムの上に登ってる奴をやるにゅ、だって狙いやすいもん」
ネピアが弓を放つ、弓といってもボウガンのような機械式の弓である。
オークを離そうとゴーレムが暴れる。
ネピアが弓で狙ったオークも大きく動いた。
普通の弓なら外れるだろうが魔法の弓は別である。
始めにしっかり狙ったオークの元へと矢が吸い込まれるように曲がって当った。
「ブヒィーッ、ブヒヒィーッ 」
矢の当ったオークがゴーレムから落ちて地面に転がる。
オークは倒れて手足をビクビクと動かしていた。
死んではいないが毒でやられて痺れて動けなくなっている。
オークより一回り大きなトロルを半日痺れさす威力がある。
オークなら一晩動けないだろう、
「ネピア凄いね、じゃあ僕も負けてられないな」
栄二が魔法の銃をぶっ放す。
ポンッという軽い音を鳴らして弾が飛びゴーレムから少し離れた所にいたオークに当たる。
オークが青く光ってバタバタと倒れる。
電撃魔法の弾であるデン弾を使ったのだ。
「魔法は凄いにゅ、いっぺんに5匹は倒してるにゅ、でもあたしも負けてないにゅ」
感心したように言うとネピアが続けて弓を放つ、ゴーレムの上に乗っていたオークが3匹痺れて地面に転がった。
「ネピアだって充分凄いよ、ゴーレムの近くじゃ魔法の銃は使えないからそっちはネピアに任すよ、頼んだよネピア」
「任せるにゅ、ゴーレムに乗っかった奴は全部片付けてやるもん」
感心するように大きな声を出す栄二にネピアが嬉しそうに笑顔でこたえた。
魔法の銃は秀樹の魔法と違い敵味方の区別をしない、近くにいる者は味方でも傷つける。そのためゴーレムを傷つけまいと近くでは使わないのだ。
岩に隠れて見ていた恒夫は呑気にクッキーを食べている。
すっかり勝ち戦気分だ。
「ネピアの弓は追尾装置付きかよ、魔法のミサイルってところだな……うわっ! 」
すっかり油断していた恒夫の後ろからオークが襲い掛かった。
「うぐぅ…… 」
「ツネオ!! 」
クロエが真っ先に気がついた。
流石戦い慣れした剣士である。
秀樹と栄二がバッと振り向く、ネピアは魔法の弓を恒夫の方へ向けていた。
「ダメだよネピア! 」
今にも矢を放とうとするネピアをクロエが止めた。
「不死身でも毒の効果はあるんだ。ツネオが痺れて動けなくなったら困るだろ、どうするヒデキ? 」
ネピアが手を止めるのを確認しながらクロエが訊いた。
羽交い絞めにされている恒夫を見て険しい顔をしていた栄二だがすぐに前に向き直る。
「こっちのオークは僕とネピアに任せて、秀樹とクロエは恒夫を頼んだよ、ゴーレム! 残りのオークを蹴散らせ」
「うにゅん、了解だぞエイジ、もうツネオには1匹も近付けないにゅ」
ネピアも前に向き直ると構えていた弓を放ってオークを1匹倒した。
栄二の命令でゴーレムが残りのオークに向かっていく、50匹ほどいたオークはすでに半分もいない。
秀樹とクロエが恒夫を羽交い絞めしているオークの前に立った。
「くそっ、不死身と分かっていてもダメだ。私の恩人を切れないよ…… 」
どうしたらいいと訊くようにクロエが秀樹を見つめる。
悩むような顔の秀樹と苦しげな顔の恒夫の目が合った。
「ぐぅうぅ、秀樹……俺ごと攻撃しろ……火はダメだ電気で頼む」
羽交い絞めにされた恒夫が苦しげに絞り出すように言った。
秀樹が無言でうなづくと魔法の杖を振る。
「サンダーボール! 」
杖から出た雷の球が恒夫ごとオークを青く光らせる。
「ブブッ、ブヒィーッ、ブヒィヒーッ 」
「うほほぅ、痺れるぅ~、ひぃいぃ~ビリビリするぅ~ 」
オークの絶叫と共に恒夫の叫びが洞窟内にこだまする。
しばらく感電していたが倒れたオークから這い出すように恒夫が出てきた。
「なかなか気持ち良かったぞ秀樹、今度はもっと強いの頼むぞ」
「黙れヘンタイ! お前を悦ばすためにしたんじゃねぇ」
クネクネとしなを作ってウインクする気持ちの悪い恒夫を秀樹が怒鳴りつけた。
隣でクロエが驚きと不快感が混じった複雑な表情だ。
「白目剥いて目玉が飛び出してたぞ、舌もベロ~ンって……普通は死んでるぞ」
「死ぬほど気持ち良かったって事だな、もうイキっ放しでパンツべとべとだぜ」
「 ……本当にヘンタイなんだな」
恒夫の事を少し尊敬していた気持ちがクロエの中から消えていく、
「ヘンタイは放っておいて残りのオークを倒すぜクロエ」
「了解だ。また援護してくれヒデキ」
秀樹に誘われてクロエが嬉しそうに従った。
恩人でもあり魔法使いで頼りになる秀樹の存在がクロエの中で大きくなっていく、秀樹とクロエと栄二とネピアとゴーレムの活躍で残りのオークもすぐに片付いた。
恒夫が岩場に隠れながら小さなトラ猫がたくさん印刷されたトランクスを脱ぐ、
「一番気に入ってたトラ猫パンツだったんだが…… 」
電撃で痺れて失禁したというより本気で感じてパンツを汚したのである。
「全部片付いたようだな、クロエ、栄二、ネピア、お疲れさん」
倒れたオークを見回して秀樹がほっと安心声だ。
安全なのを確かめた後で岩陰から汚れたパンツを持った恒夫が出てきた。
「パンツが新しいと心も清々しくなるな……ところでこの汚れたパンツどうしよう秀樹? 」
「何で俺に聞くんだ! そんな汚い物さっさと捨てろ! 」
怒鳴る秀樹の前で恒夫がパンツを広げて見せる。
「汚い? 何を言う、俺のいろいろな汁でマニアには堪らない一品だぞ、一番お気に入りの猫パンツなんだぞ」
「アホか!! お前のを欲しがるマニアなんて居るか! さっさと捨てんとお前ごと焼き消してやるからな」
マジ顔で怒る秀樹が魔法の杖を恒夫に向けた。
恒夫がニヘッと無気味に笑う、
「そう怒るなよ冗談だって、おっこいつまだ生きてるぜ、これでよしっと」
毒で痺れて倒れていたオークの頭に汚れたパンツを被らせる。
「パンツだけにお前はウンがいいぜ、命だけは助けてやる。豚が猫パンツを被るなんてシュールだぜ」
「何考えてんだお前は……まったく…… 」
マジ顔で怒っていた秀樹も呆れて言葉が続かない。
黄色や茶色の染みがある汚れたパンツを頭に被らされて倒れているオークをネピアがじとーっとした目で見ている。
「ぜんぜん清々しくないにゅ、オークにパンツ被せるヘンタイにゅ」
「凄い奴だと思ってたんだが……凄いヘンタイでガッカリだ」
クロエが『何を考えてるのか分からない』という表情で恒夫を見つめた。
恒夫が薄い頭を掻きながら恥ずかしそうに口を開く、
「そう褒めるなよ、パンツ欲しかったらいつでもあげるぜ」
「褒めてないからな、ツネオの事を尊敬してたのが間違いだって言ってんだ」
「そんなヘンタイがうつりそうなパンツいらないにゅ、たぶんオークも死んだほうがマシって思ってるにゅ」
クロエとネピアが即答する。
クロエは怒りを浮かべて、ネピアは軽蔑の眼差しだ。
その場を収めようと栄二が乾いた笑いをあげる。
「あははははっ、仕方ないな恒夫は……でもみんな無事でよかったよ」
「クロエもネピアも本気で恒夫の相手するなよ疲れるだけだぜ、じゃあ先に進むか」
その日はそれ以上敵に遭遇する事も無くイカサマサイコロを使って一日目より多く進む事が出来た。
適当な広場を見つけてそこでその日は夕食をとって眠る事にした。
オークとの戦いがありその分先に進もうと長く歩いたため夕食は少し遅めである。
「私も手伝うよ、秀樹は料理上手なんだな」
「ありがとうクロエ、上手っていうほどじゃないけどな時々作るんだよ」
鍋を振る秀樹を手伝うクロエ、二人とも楽しそうな笑顔だ。
少し離れた所で栄二とネピアもイチャつきながら何かを作っている。
秀樹とクロエが作っている料理は瓶詰めのザーサイと木耳にスープで戻した乾燥肉を使った炒め物だ。
栄二とネピアが作っているのは魚の缶詰を使ったパスタである。これに乾パンやナッツ類がついて今日の夕食だ。
恒夫は見張りだといってまた奥の岩に腰掛けて乾燥肉を噛みながら一人で遊んでいる。
秀樹も栄二も何も言わない、普段なら文句の一つも言うだろうがクロエやネピアと一緒に楽しんでいるのを邪魔されたくないのだ。
いつの間に仲良くなってんだ……クロエ巨乳だからな秀樹が惚れるのも仕方ないか、これでゲームも終わりだし邪魔は止めとくか……。
料理の匂いに鼻をヒクヒクさせながら恒夫は秀樹たちを見ていた。
楽しい食事を終えてバカ話を少ししてからその日は眠った。




