第二十八話「最後のイベント」
時間通りに集合場所へと行ってサイコロを振る。
出た目は2と3で合計5だ。
現在23マス目だから5を足して28マス目に進む事になる。
「28マス目か、後二つでゴールだな、宝玉は三つ揃ってるしイベント失敗しても次でゴールできるな……これが最後のイベントだな」
感慨深そうな秀樹たちを見て天使ヘカロが口を開いた。
「最後だからこそ気を引き締めてくれ、今宝玉が三つ揃っているのは秀樹くんのグループだけだ。それどころか2グループはすでにゲームから除外されている。始めのイベントで一緒になったグループと仲の悪かった男性二人と女性一人のグループの2組はイベント失敗して全員倒されてもうゲーム内には居ない、残りの4グループも三人全員無事なのは秀樹くんと中津くんのグループだけだよ」
「チャラ男たちが……DQNもか…… 」
「DQNグループは揉めてたから当然だな、チャラ男は結構強かったのにな」
険しい表情の秀樹の隣で恒夫が何とも言えない表情だ。
そこへ中津たちが現れた。
ここへ来るということは同じイベントをするという事である。
中津が馴れ馴れしく声をかけてくる。
「また一緒か、この前のケリが着けられるな」
「ケリとかいいだろ、この前は両方とも宝玉が貰えたんだからさ」
うんざりした表情の秀樹たちに構わず中津が続ける。
「ところでいくつ揃った? 俺たちは二つだ。前のイベントが難しくて失敗だ。流石後半は厳しいな、三人生き残っているだけでも凄いって天使も言ってたしな」
探るように訊く中津の前で秀樹と恒夫がニヤッと不気味な笑みをする。
二人の顔を見て中津だけでなく佐伯や東條の顔色が変わった。
「まさかあんたたち…… 」
「そのまさかだ! 俺たちは三つ揃ったぜ、もうイベント失敗してもいい、後はゴールするだけだ。それも次にサイコロ振ったら確実にゴールだぜ」
「つまり俺たちにとってこれが最後のイベントってわけだ」
秀樹と恒夫が勝ち誇った顔でニヤついた。
中津たちの疑うような顔が驚きに変わる。
「三つ揃った? 難しいイベントもクリアしたのか? 」
焦るように訊く中津に秀樹が嬉しさを隠しきれない顔でこたえる。
「運も実力の内なんて言いたくはないが、運が良かったんだよ、前のイベントがラッキーイベントで三つの箱の中から宝玉を当ててさ、後は四日間町で遊んでたよ」
「ラッキーイベント……そんな……ずるいわよ、あんたたち」
キッと怖い顔で睨む東條に恒夫がいつもの飄々とした態度で返す。
「双六だからな、文句は作った神様に言ってくれ」
先ほどから黙っていた佐伯が猫女クロエを見て口を開く、
「そちらの美人は誰だ? またボディガードを雇ったのか? 」
「そうだよん、クロエ姉ちゃんだぞ、クロエ姉ちゃんは剣士だぞ、強いからな」
自慢気なネピアの隣でクロエが一礼する。
「クロエです。ヒデキとエイジとツネオには助けてもらった恩がある。このイベントで恩返しが出来ればと思っている」
「クロエさんか……いいなぁ…… 」
好みのタイプらしく佐伯が羨ましそうに呟いた。
天使ヘカロと中津の担当天使がやってきた。
「話は終わったかな? そろそろ時間なのでイベントの説明に入るよ」
次のイベントの説明が始まった。
4回目のイベントはダンジョンである。
入口から入って迷路のようになっている洞窟の中を抜けて出口まで辿り着けばイベントクリアだ。
ただし宝玉は洞窟の中にいるドラゴンを倒さないと手に入らない、この双六ゲームのタイトルの『勇者の冒険、ドラゴンから宝玉を奪え』というのは洞窟にいるドラゴンの事である。
宝玉がいらないのなら洞窟を抜けるだけなので簡単に思えるが洞窟内にはオークやトロルやゴブリンに大グモに大ムカデなど様々なモンスターがいるのでこれまでのイベントとは比べられないくらいに困難である。
イベントが始まった。
洞窟の入り口に全員が立つ、緑溢れる山の麓にある洞窟だ。
鬱蒼としたジャングルの中で洞窟の入口がポッカリと真っ黒な口を開けている。
穴の直径は5メートルほどもあり奥は真っ暗でどうなっているのか見当も付かない、少しだが穴から風が吹いているのが分かるので空気の流れはあるようだ。
ランプや魔法の光など人工的なものがある場所はモンスターがいる場所なので注意するようにとの忠告も受けている。
「どっちが先にいく? 中は迷路のようになっていて幾つもの道に分岐してるらしいから先とか後で優劣は変わらないんだろうけどな」
中津が秀樹の顔色を伺うように訊いた。
いつもなら自分勝手に決めるのだが前回のイベント失敗が効いているのか、それとも余程怖い目にあったのか中津は慎重になっていた。
「どっちでもいいぞ、俺たちはドラゴンと戦う必要がないからな、中津が選べよ」
宝玉が三つ揃った秀樹は洞窟を抜けてゴールするだけでいい、勝者の余裕だ。
しばらく考えていた中津が口を開く、
「 ……じゃあ後にする。お前たちが先に行ってくれ」
「了解。それじゃあ先に行くぜ」
秀樹たちが洞窟の中へと入っていく、入口から少し入ると直ぐに真っ暗闇だ。
先頭を歩く恒夫の後ろでクロエがランプを点けた。
ランプは各自一つ持っているが全部使うのではなく二人1組で一つ使うことにして残りは予備と決めていた。
先を歩く恒夫とクロエがペアで秀樹が一人でランプを持って続き、栄二とネピアのペアがゴーレムを連れて最後である。
魔法の銃を持つ恒夫と剣士のクロエ、魔法の銃を持ってゴーレム使いでもある栄二と魔法の弓を持つネピア、魔法の杖を持つ魔法使いの秀樹が洞窟内を進んでいく、ゲーム開始時はろくな武器を持っていなかったが今は他のグループ以上に強くなっていた。
しばらく歩くと暗さに目が慣れてきてランプが照らす薄暗い先も見えてくる。
少し広くなっている空間の先の岩壁に三つの穴がポッカリと口を開けていた。
「三つに分かれてるぞ、真中の奥が光ってるなヘカロさんの言ってた発光するコケかな」
先頭を歩く恒夫がポケットからイカサマサイコロを取り出した。
「出口までの近い道を選ぶぜ、1と2が右で3と4が真中で5と6が左と決めて振る」
二つあるサイコロの一つを掌の上で転がした。
「5だな、じゃあ左だ……でも俺的には真中の光ってる方に進みたいんだが…… 」
フラフラと真中の道に進みそうになる恒夫の肩を秀樹が掴んで止める。
「お前は蛾か! 左だ左! サイコロが教えてくれた道以外には絶対に行くなよ、クロエ見張り頼むぜ、恒夫は時々バカするからさ」
猫女のクロエが恒夫の腕を掴んで左の道へと連れて行く、
「了解だ。ツネオは凄いんだかダメ人間なんだか時々わからなくなるな」
「うにゅん、ツネオはヘンタイだぞ、凄いヘンタイのダメ人間って覚えてればいいぞ」
一番後ろで栄二とイチャイチャしながら歩いているネピアが大きな声だ。
クロエに引かれて左の道を進む恒夫が照れたように口を開く、
「そんなに褒めるなよネピア、照れるぜ」
「褒めてないからな、なんでヘンタイって言われて喜ぶんだ。本物のヘンタイだな」
「こんな調子だから頼むぜクロエ」
呆れるクロエの後ろで秀樹が念を押すようにして言った。
洞窟の迷路を抜ける秘策が恒夫の持つイカサマサイコロだ。
分岐点でサイコロを振って一番の近道を教えてもらえば迷路も迷わずに抜けられるとの作戦である。
但しイカサマサイコロは絶対ではない、勝率が上がるだけで絶対に勝てるものではない、現にカジノでは3回に一度くらいは外れて負けて掛け金を取られている。
100パーセント勝てるものなら全財産を賭けて倍にしていけば一千万ギギルなど一時間しないで稼げただろう、恒夫が一晩かかったのは負けた時のリスクを考えて掛け金を抑えていたからである。
迷路でも同じだ。
分岐点で選択した道が必ず当っているとはいえないのだ。
だが闇雲に勘で進むよりは信頼性は高い、仮に3回に一度間違いがあっても闇雲に進むよりはマシである。
秀樹たちは敵に会うこともなく順調に進んで行った。
何度目かの分岐点を過ぎて発光するコケが辺りをぼうっと緑色に照らす開けた場所で休む事にした。
なんだかんだともう夕方近くになっている。
秀樹と恒夫が携帯コンロでお湯を沸かしていると栄二とネピアがそっと近付いてきた。
「あいつらついて来てるにゅ、あたしたちを先に行かせて後をつけるなんてセコいにゅ」
「中津たちか? よくわかったなネピア」
「うにゅん、あたし耳はいいんだぞ、声を潜めてるけど洞窟じゃ足音とか響くもん」
秀樹が褒めるとネピアが両手で自分の猫耳を抓んで自慢気だ。
「耳は私よりいいからな、私も分かっていたが……彼らなりの作戦だろうからな、直接戦うのでもないしヒデキたちの友人だと聞いたから…… 」
近くで警戒をしていたクロエが申し訳なさそうに言葉を詰まらせる。
乾燥肉を食べていた恒夫が固い肉を噛んだまま口を開く、
「中津たちか……一緒にお茶しないかって連れてきてくれよクロエ」
「何考えてんだ? またろくでもないことじゃ無いだろうな」
「寒いだろ? 熱いお茶飲んで飯でも食おうぜ、食料はいっぱい買ってゴーレムに持たせてあるしな、中津たち荷物少なかっただろ? たぶん前のイベントで無くしたんだぜ、だからさ、飯は大勢で食った方が旨いだろ」
顔を顰める秀樹の前で恒夫がいつもの飄々とした態度でニッと笑った。
洞窟の先を警戒していたクロエがくるっと踵を返す。
「そうだな大勢の方が楽しいしな了解した。じゃあ行って来るよ」
「見張りは俺が代わるから連れて来たらクロエも休めよ」
「ありがとう、そうさせてもらおう」
乾燥肉を咥えながら立ち上がった恒夫にクロエは微笑むと歩いていった。
クロエが立っていた場所の近くの岩に腰をかけると恒夫が後ろ向きのまま話を始めた。
「佐伯は足の怪我だろ、東條は親の連帯保証で金がいる。じゃあ中津の願いは何だろうな? それが知りたくてな、訊いてくれないか秀樹? その話し次第で俺たちも考えようぜ」
「恒夫……お前……そうか、そうだな、いいよな栄二? 」
後ろ向きの恒夫を見つめる秀樹の目がとても優しい。
「そんな事考えていたのか恒夫、そうだね、秀樹と恒夫がいいなら僕もいいよ」
二人の話しを聞いて栄二の顔も優しくなった。
「うにゅん? なん? 何の話にゃ? あたしも仲間に入れるにゅ」
ネピアがキョロキョロ三人を見回した。
「飯は何にしようかって話してたんだよ、中津たちも来るだろ? 少し寒いから乾麺と乾燥肉使ってラーメンでも作るか? 粉末のスープもあっただろ、あとはチーズ溶かしてクッキーや乾燥肉でチーズフォンデュしようぜ」
「チーズにゅ、あたしチーズ大好きだよ、そのチーズフォンデュって食べてみたいにゅ」
話しを誤魔化されたとも知らないネピアが大喜びだ。
秀樹と栄二が食事の用意を始める。
もちろんネピアもはしゃぎながら手伝った。
恒夫は見張りだと言って岩に座ったままリボルバーの拳銃を弄って遊んでいる。




