第二十七話「ネピアとクロエ」
三日目の朝、恒夫はネピアに叩き起こされた。
「ツネオ~、起きろぉ~、早く起きて一千万ギギル稼いで来てよん、ねぇツネオ~ 」
布団の上から跨ってピョンピョン跳ねながらネピアが甘えた声を出す。
ネピアが起こした方が怒らないだろうと栄二が企んだ。
「ねぇツネオ~、早く起きてよぉ~、起きて一千万稼ぎに行けぇ~ 」
「うぅーっ……一千万……一千万ギギルってどういう事だ? 」
死んだように寝ていた恒夫が一千万と言う言葉に反応してバッと上半身を起こす。
跨っていたネピアが後ろに倒れそうになるがバッと飛び上がってベッドの脇にスッと立つ、流石猫少女だ。
反射神経も運動能力も抜群である。
「ツネオ起きたか? じゃあ直ぐにカジノ行って来るにゃ、そんでクロエ助けるにゅ」
「クロエ? 助ける? 一千万でか? なんの事だ秀樹? 」
寝起きのボーっとした頭に疑問符だけがいくつも浮かぶ、徹夜して疲れ果てた恒夫は丸一日眠っていて何も知らないのだから当然だ。
秀樹と栄二が猫女クロエのことを説明した。
恒夫の顔が険しく変わる。
眉間に皺を寄せてムッとした様子だ。
「お前らなぁ……ネピアが姉さんみたいに慕ってる人なら助けないわけにいかないだろ」
「助けてくれるんだなツネオ、ありがとうにゅツネオ」
ネピアが恒夫に抱きついて礼を言った。
恒夫はムッと怒ったままだ。
またカジノで徹夜するのは構わない、どんなに疲れても別にいい、しかし自分の知らないところで事が動いているのが気に入らないのである。
「まあ始めから今日もカジノにいく予定だったからいいけどな、クロエは剣士か……ちょうどいいな、五百六十万ギギルから手付金百万引いて四百六十万ギギルだ。これを3倍にして千三百八十万ギギルにする。クロエの残りの金二百七十万払ってネピアとクロエ二人の許可証で六百万使うと残り五百十万ギギルだ。魔法の弾を20発二百万ギギル、残り三百十万で魔剣か何か買ってクロエに持たせろ」
恒夫の顔から怒りが消えていた。
疲れが残っているような顔で話しを続ける。
「ここから先は厳しくなるってヘカロさんも言ってただろ、あと少しでゴールなのに死んだら元も子もないからな、だから装備を充実させるために今日もカジノに行って今の金を倍にしてくるつもりだった。VIPの金持ち相手なら倍くらいなら数時間で済むからな、でも3倍じゃ半日仕事だぜ、昼から行って深夜までかかる。金持ちは昼からしかこないからな、だから昼まで寝かせてくれ、秀樹たちは武器とか装備を調べてこいよ、クロエは明日迎えに行けばいいんだろ? 」
秀樹がニッと笑って手を上げる。
「ああ了解した。昼に起こしに来るぜ、ありがとうな恒夫」
「クロエ姉ちゃんに合う魔剣探しに行くにゅ、そんであたしも何か武器を買うもん」
礼を行って部屋を出ていく秀樹と栄二の後ろをネピアが上機嫌だ。
恒夫に礼を言うことも忘れて自分たちの武器の事を考えていた。
気紛れな猫のようである。
「その代わり明日は一日一人で遊びに行くからな、朝からお姉様のいる店に行って金貨ばら撒いて悪徳商人や悪代官のように遊びまくるからな…… 」
布団に潜り込むと恒夫は一人呟いた。
四日目、休み最後の日だ。
恒夫が昼まで寝ていると秀樹と栄二とネピアとクロエがやってきた。
三日目の昼から深夜にかけてカジノで予定通り一千五百万ギギルほどを稼いだ恒夫は爆睡していた。
秀樹たちは朝直ぐにクロエを引き取ってくるとその足で服や靴などを買って身なりを整させ、人間の世界で通用する許可証をネピアの分とあわせて二つ発行してもらった。
許可証と言っても紙の証書ではない、資格を持った魔法使いが獣人やエルフに魔法で刻印を入れるのだ。
左の鎖骨の辺りに発行した国の紋章が浮ぶ、それが許可証となる。
紙と違って盗まれる心配も無くす事もない。
「綺麗な痣が付いてるにゃ」
ネピアが左肩についた小さな刻印を見せる。
「ほんとだ。綺麗でよかったね」
「タトゥーみたいだな、クロエのも一緒なのか? 」
笑顔の栄二の隣で秀樹がクロエに振り向く、
「ああ同じだ。この辺りを治める人間の国の紋章だよ、国ごとに模様は違うが連携を組んでいるので何処の国でも通用する。これで私たちは何処へ行っても捕まる事はない、感謝するよ、本当にありがとう」
「よしてくれ、出会ったのも何かの縁だぜ」
改まって頭を下げるクロエに秀樹が照れまくってスポーツ刈りの頭を掻き毟る。
これでネピアとクロエは人間の住む町でも自由に暮らせるのだ。
その後は武器を買いに町中を巡った。
クロエの気に入った魔剣を見つけて買うと丁度昼前だったので一緒に食事をしようと宿へと戻って恒夫を起こした。
「へっ? 魔剣が四百万……じゃあ残りは? 」
「一千五百万からクロエの残り二百七十万と二人の許可証六百万に魔剣が四百万で残りが二百三十万だ。それから魔法の弾二百万引いて、最後に残った三十万でネピアの魔法の弓を買った」
寝起きの呆けた顔で訊く恒夫に秀樹が詳細を説明した。
隣にいた栄二がニコニコ顔でネピアが持つ魔法の弓を恒夫に見せる。
「魔法の弓は凄いんだよ、狙った所に百発百中だよ、魔法の銃と違って魔法の弾を撃つことは出来ないけどね、普通の矢しか使えないけど矢に毒を塗って使えばモンスターを眠らせたり痺れさせたりくらいは出来るんだよ」
「矢と毒はエイジとヒデキが買ってくれたにゅ、優しいんだよエイジは」
得意気に話す栄二にネピアが嬉しそうに付け足した。
最後にクロエが頭を下げた。
「ツネオとかいったな、ありがとう礼を言う、私だけじゃなくてネピアも助けてもらった。人間界で生活できる許可証まで貰った恩は忘れん、ゲームの事は聞いた。恩義には報いる。私は剣士だ。戦いでその恩を返す」
頭を上げたクロエが魔剣を抜いて見せた。
「こんな素晴らしい魔剣まで貰ったんだ。存分に働いて見せるよ」
クロエが手にしている魔剣は重さを操る魔剣、重力剣グラヴィディソードである。
恒夫の寝惚け顔が普段の顔に戻っていく、いやいつもの顔ではない、焦って少し青くなっていた。
「俺の金は……残ってないって事か? 」
「ああピッタリ使い切った。流石恒夫だぜ、ここまで計算してるなんてな、千三百八十万ギギル稼ぐって言って余裕持たせて千五百万稼いで来るんだからな」
「本当だよ、ネピアの弓も買えたし、クロエの魔剣グラヴィディソードは重さを操る重力剣だよ、モンスターをペッチャンコに出来るんだよ、流石恒夫だよね」
褒める秀樹と栄二の向かいで恒夫がガックリと肩を落とした。
「百万ギギルは俺の取り分だぞ、二日もカジノで頑張って稼いだのは最後の夜にお姉様たちとパーっと遊ぼうという目的があったから頑張れたんだぞ、それなのに……時代劇に出てくる悪徳商人や悪代官のように金をばら撒いて遊ぼうと思ってたのに………… 」
「お前の分? 悪かったな、でも別けて置いてなかったからさ、いつもは別けてるだろ、だから全部使ってもいいかなって…… 」
狼狽する恒夫を見て秀樹が悪いとは少しも思っていないニヤけた顔だ。
苦笑いをした栄二が口を開く、
「いいじゃないか恒夫、悪代官にはなれなかったけど良い代官にはなれたじゃないか、ネピアもクロエも感謝してるよ」
会話を聞いていたクロエが申し訳なさそうに口を開く、
「すまない、ツネオが苦労して金を稼いでくれたのは聞いた。私が調子に乗って高い魔剣を買ったりするから……魔剣を買い戻してもらってツネオに金を返してくれ」
魔剣を差し出すクロエを恒夫がじっと見つめる。
「その魔剣は必要だ。それで俺たちを守ってくれるんだろ? 俺たちはゲームが終われば帰るがクロエやネピアはこの世界でずっと暮らすんだ。魔剣はそのためにも必要さ」
「ツネオ……ありがとう」
大事そうに魔剣を抱えてクロエが礼を言った。
「じゃあ飯でも食いに行こうぜ」
秀樹の言葉で恒夫がベッドから飛び起きる。
宝玉も三つ揃いゲームも終盤だ。
思い残しの無いように秀樹たちは夜遅くまで楽しんだ。
こうして猫女クロエという仲間を新たに迎えて秀樹たちの休みは終わった。




