第二十五話「ラッキーイベント」
皆が見守る中で秀樹がサイコロを振る。
「6と6で12か、今が11マス目だから23マス目に移動だ」
天使ヘカロに連れられて移動しようとした時に中津が駆け寄ってきた。
「俺たちは5と6で11だ。惜しいな、また同じになって決着を着けたかったんだがな」
「俺たちは御免だ。お前ら強いからな、不死身ってバレたしさ」
「お前らも充分に強いぜ、バカにしてたのは正直謝る。でもキモオタって認識は変わらないけどな、俺たち以外のヤツに負けんなよ、じゃあな」
中津は相変わらずバカにした軽い口調で言うと自分の担当天使の所へと戻っていった。
天使ヘカロに連れられて23マス目に来ると見た事も無い女の天使が待っていた。
「おめでとうございまぁ~す。ラッキーイベントでぇぇ~~す」
腰まである長い髪に整った顔をした美人の天使が間の抜けた声で言った。
「なんだロロフィか、ラッキーイベントだな何をするんだい? 」
「えへへへっ、宝玉を当てて四日間町で遊ぼうゲームでぇぇ~~す」
天使ロロフィが前に並べた三つの箱をポンポン楽しげに叩いた。
ヘカロとは知り合いらしくお互い親しげな優しい表情だ。
「じゃあ早速ゲームスタートです。何が出るかな~♪、何が出るかな~♪ 」
ロロフィが前に並ぶ三つの箱を場所を変えるようにクルクル回し始めた。
しばらく箱を回していたロロフィが手を止めるとポンッポンッポンッと三つの箱を叩いた。
「この中の一つに宝玉が入ってます。残りはハズレだよ、さあ誰が引く? 」
ニコニコ笑顔で秀樹と栄二と恒夫を見回す。
「俺が引くよ、いいよな秀樹、栄二」
前に出た恒夫の手にはイカサマサイコロが握られていた。
秀樹も栄二も異存は無い、ギャンブルや勝負事は恒夫の役目だ。
「うわっこの子イカサマサイコロ持ってるよ、これじゃゲームの意味無いじゃん、つまんないの……イカサマサイコロ禁止な」
ロロフィが恒夫にじとーっとした目を向ける。
「おいおい、イベント中ならアイテム使用は可能だよ、イカサマサイコロを選んだ恒夫が一枚上手だっただけさ」
天使ヘカロが『仕方ないヤツだな』とロロフィを窘める。
「イカサマサイコロ使えば3分の1くらいじゃ確実に当るじゃん、つまんないだろ……でも仕方ないか、じゃあ選べよ」
残念顔のロロフィの前で恒夫が二つあるイカサマサイコロのうちの一つを振る。
イカサマサイコロは振る前に心の中でルールを決める。
今回は三つある箱の右から一つずつサイコロの1と2と3を割り当てた。
勝率は100パーセントではないが出た数字が当たりに近いということだ。
「3か……じゃあ1番左の箱だ」
イカサマサイコロが3を出すと恒夫は躊躇する事無く左端の箱を選んだ。
ロロフィが箱を開ける。
「大当たり~、って当たり前じゃん、イカサマサイコロ使ったんだからな」
ヤケクソな大声で言うと箱の中に入っていた宝玉を差し出す。
「つまんないからもう帰るね、四日間町で遊ぶといいよ、じゃあ後は任せたよヘカロ」
本心からつまらなさそうに言うとロロフィが空高く飛んで消えていった。
天使ヘカロが秀樹たちに苦笑いを向ける。
「気分を悪くしないでくれロロフィは賭け事が好きな娘でね、自分も楽しむつもりだったのだろうからイカサマサイコロを見て萎えたんだよ」
「ぜんぜん気にしてませんよ、これで三つ宝玉が揃いましたからね」
こたえた秀樹はもちろん栄二も恒夫も満面の笑みだ。
「そういう事だ。あとは一番でゴールすれば秀樹くんたちの勝ちだ。だがゴールに近付くにつれてイベントも厳しくなる。この四日間は英気を養うためにも楽しむといい、ではラッキーイベントは終了だ。ゆっくり休んでくれ」
秀樹たちを大きな町の入口まで連れて行くと天使ヘカロも帰っていった。
町の大通りを歩きながら四人がだべっている。
「でかい町だな、宝玉も揃った事だし四日間ゆっくりしようぜ」
秀樹の横で恒夫が伸びをするように両手を突き上げる。
「カジノで稼いでパーっとやろうぜ、俺がカジノで稼いでくるから秀樹と栄二とネピアは今日は宿でゆっくり休んでろ、何度も死にそうになったんだ。体は何とも無いが精神的に疲れてるだろ今日は休んで明日から遊べばいい」
「そうだね、リザードマンと宴会やって疲れてるしね」
後ろを歩いていた栄二にネピアが抱き付く、
「うにゅん、あたしは疲れてないけど休んでエイジとイチャイチャするにゃ、トカゲの家じゃ外から丸見えで何も出来なかったもん」
伸びをする恒夫の背を秀樹がバンッと叩く、
「じゃあ任せたぞ恒夫、無理しなくていいから俺たちが遊べる分稼いで来てくれ」
「ネピアの許可証の三百万ギギルと魔法の銃の弾20発分くらい二百万ギギルに遊ぶ金として百万ギギル合わせて六百万ギギルは徹夜してでも稼いでやるよ、その代わり俺は明日一日寝るからな」
「了解だ。じゃあ宿を探すか、良い宿でゆっくり休もうぜ」
秀樹たちは一人一泊一万ギギルの高級な宿に泊まることにした。
2部屋とって荷物を置いた。
秀樹と恒夫が同じ部屋でもう一つが栄二とネピアだ。
「じゃあ行ってくるぜ、でかい町だからカジノも凄いと思うから期待しててくれ」
シャワーを浴びて初めの町で買ったリクルートスーツのような服を着て恒夫が宿を出ていった。
持ち金は七十万ギギルこれを六百万にするには9倍か……徹夜になるな骨が折れるぜ……、恒夫の顔に疲れが浮かぶ、秀樹や栄二ほどではないにしても恒夫も立派に戦ったのだから疲れていて当然だ。
次の日の明け方に恒夫が帰ってきた。
「徹夜で頑張ったんだけど8倍の五百六十万ギギルだ。ネピアの許可証が三百万で魔法の弾を20発二百万で残りの六十万でお前ら三人で遊んで来い、俺は寝るからな、今日は丸一日寝るからお前らだけで遊んで来いよ」
「恒夫……ありがとうな」
疲労困憊といった様子でベッドに倒れ込む恒夫に秀樹が優しい言葉をかけた。
爆睡する恒夫を置いて秀樹と栄二とネピアは町へと遊びに出かけた。
いろいろ遊んであっという間に時間が過ぎる。
夕食をとろうとレストランを探していた秀樹の目に奴隷商人の店が映った。
「あたし行きたくないにゅ、もう奴隷なんて見るのも嫌だもん」
「わかってるけど……少しだけだからさ、恒夫は店に行ったことないんだ。見たがってたから明日にでも連れて行こうと思ってさ、その下見に少しだけ頼むよ」
嫌がるネピアをどうにか説得して少しだけ店に入ることにした。
流石大きな町の奴隷商である。
町々を巡回する奴隷市と違い大きな建物の中には獣人にエルフはもちろん見たことのない亜人まで置いていた。
入ると直ぐに声が聞こえた。
「助けて下さい、村に帰して下さい、私は奴隷なんか嫌です」
一番手前の檻に猿と人が混じったような女が居た。
お世辞にも可愛いとは言えない女だ。
首輪に付いている値札には五十万ギギルと書いてあった。
出入り口に近い檻ほど売れ残りや下取りに出された中古の奴隷が置かれるのはこの世界では共通事項らしい。
「悪いな、俺たちは見に来ただけだ」
じゃあと手を振って秀樹たちは奥へと進んでいく。
数メートルも歩かないうちに両脇の檻から声が掛かる。
「御主人様、何でもお言いつけ下さい、どのような奉仕も致します。どうか私を買って下さい、今月中に売れなければ娼館へ処分されます。どうかお助け下さい」
耳の長いエルフらしき女が疲れた顔で精一杯の笑みを見せた。
「うふふっ、あははっ、次の主人は貴男ですか? どうか可愛がって下さいね」
トカゲだろうか? 鱗の生えた尻尾をした少女が焦点の合わない目をして言った。
向かいの檻から角の生えた女が手を伸ばす。
「ここから出して、もう檻は嫌、何でもするから…… 」
何度も売買されたのだろう諦めが浮かぶ目で訴えてくる。
ネピアが顔を曇らせる。
「早く出ようにゃ、捕まった時のこと思い出すにゅ」
「そうだね、秀樹は恒夫と二人で行けばいいよ、僕はネピアとお茶でもしてるからさ」
栄二が優しくネピアの肩を抱き寄せた。
秀樹が困った顔でスポーツ刈りの頭を掻く、
「わかった。突き当たりまで行ったら帰るからもう少しだけ行こうぜ、恒夫に案内するにしてももう少し見ておかないとな」
ネピアが奥の突き当たりを指差す。
「向こうの壁までだからにゃ、いったら直ぐに帰るからにゅ」
「わかったって約束だ」
また三人が歩き出す。
暫く歩いて一回り大きな檻の前で秀樹が立ち止まる。
「おおぅ、この牛女ミルクが出るって書いてあるぜ」
檻の中には角を生やした3メートル近い女がいた。
「牛女じゃなくてミノタウロスだよ、力があるミノタウロスまで奴隷になってるのか……でも流石にがんじがらめにされてるね」
腕力のあるミノタウロスが暴れるのを防ぐためか首輪だけでなく手足も鎖で繋がれていた。
俯いていたミノタウロスが顔を上げる。
「騙されて仲間に売られたのさ、私をここから出してくれ、私を騙したダークエルフやライカンスロープどもに復讐してやる。それが済んだら奴隷にでも何でもなってやる。だからここから出してくれ」
檻に入れられて間もないのかミノタウロスの目は諦めていない、復讐に燃えていると言ったほうがいいかもしれない。
「騙されたのか……美人だぜ」
秀樹が嘗めるように全身を見回した。
腰から下は毛が生えていて足は牛の足と同じだが上半身は人間の女と同じである。
頭に短い角が生えていて耳が少し長い以外は顔も人間と同じで目の前に居るミノタウロスは美人といってもいい、なにより体も大きいが胸も大きい、巨乳を通り越した爆乳である。
「凄ぇおっぱいだぜ、ミルクか…… 」
ゴクッと喉を鳴らすと栄二に振り向く、
「三百万ギギルか……恒夫に頼んで買って貰うか? 俺も欲しいって思ってた所だ」
「いいけどミノタウロスの復讐には付き合えないよ、ゲームの途中なんだからね」
「そっか……そうだったな、暴れたら困るしな」
「そうだよ、それで安いんだよ、買うなとは言わないけど僕たちには手に負えないよ、欲しいのならおとなしいのにしなよ」
迷惑顔で言う栄二を見て秀樹も考え直す。
また暫く歩いていると奥の小部屋から奴隷商人が揉み手をしてやってきた。
「お客様何かご入り用で? 」
ネピアを見て商人が揉み手を止めた。
「ああ……そちらの獣人を売りに来たのですか? 」
「にゃん!? 」
ネピアがビクッとして猫耳と尻尾をピンッと立てた。
「ネピアは仲間だ! 奴隷じゃない」
大声を出して栄二がネピアを抱き締めた。
二人を庇うように秀樹が前に出る。
「てめぇ、焼き殺すぞ」
秀樹が魔法の杖を向けると商人が顔を引き攣らす。
「ひぃっ!! 魔法使い様でしたか、これは失礼しました。何かあれば直ぐに呼んでください、ではこれで…… 」
引き攣った笑みを見せると商人が逃げるように奥の小部屋へと入って消えた。
秀樹が振り返るとバッと頭を下げた。
「ごめんネピア、厭な思いさせたな、悪かった。直ぐに帰ろう」
「本当にごめんね、僕たちはネピアのこと奴隷なんて思ってないからね」
ネピアを抱きながら栄二も頭を下げる。
「わかってるにゅ、エイジもヒデキも優しいにゃ、あたしはエイジに助けて貰ったもん」
胸の中で笑みを見せるネピアを見て栄二も秀樹もほっと安心顔だ。




