第二十三話「決闘」
リザードマンやダークエルフはもちろん秀樹や中津を入れて話し合いが行なわれた。
協議の結果、双方の代表者を出しての決闘と決まった。
代表者三人が戦い勝ち数が多い方が勝利だ。
つまり先に2勝すれば勝ちである。
勝った方が三年間湖の権利を所有する事が決まった。
つまりこれからは戦争ではなく、三年毎の決闘で湖の権利者を決めるということだ。
負けた方は勝った方に従って湖を使わせてもらうという事になる。
今回の戦いの代表者は当然というように秀樹や中津が選ばれた。
リザードマンの代表が秀樹と栄二と恒夫でダークエルフの代表が中津と佐伯と東條である。
次の日、リザードマンやダークエルフが円になって見守る中で決闘が始まった。
砂漠の真中に作られた闘技場を囲んでまるでお祭り騒ぎである。
先鋒の恒夫と東條が闘技場の中央で向かい合う。
秀樹は大将で一番最後にするからお前らも中津を最後にしろと恒夫が提案した。
友達同士の秀樹と佐伯が本気で決闘などできないという恒夫の意見に中津も了承した。
これで残りの佐伯と東條のどちらかが先鋒になる。
一番弱い東條が先鋒になると予想して恒夫は先鋒にした。
恒夫曰く、
『東條になら何度殺されても平気だ。あの手と足で殴りつけられると思うと堪らん、絶対に俺が勝つから俺に相手させろ』
などと自信満々で言うので秀樹と栄二は任せる事にしたのである。
「何であんたなのよ気持ち悪い、よりによって何で城道が相手なのよ」
「えへへへっ、そう言うなよ、俺は優しいから安心しろ殴ったりしないから……代わりに俺を殴っていいぞ、いや殴ってくれ、その綺麗な足で踏んづけてくれ」
あからさまに軽蔑する東條を前にして恒夫はいつものヘンタイ全開だ。
軽く一礼して勝負が始まる。
「いいわよ、殴り殺してやるから、二度と顔見なくていいようにしてやるからね」
キッと怖い顔をして東條が後ろに走っていく、東條は魔法の力とアイテムにゴーレムを持っている。
後ろからゴーレムに指示して援護に低級魔法を使う戦い方だ。
「行けゴーレム! 」
東條の指示で突っ込んできたゴーレムが恒夫を殴り飛ばす。
5メートルほどのMサイズのゴーレムに殴られて恒夫が闘技場の端まで転がった。
場内が静まり返った。
リザードマンもダークエルフも固唾を飲んで見守る。
巨大な岩の塊のゴーレムに殴り飛ばされて生きているとはとても思えない、
「いててっ、十秒ほど骨がバラバラで死んでたな」
ヨロヨロと恒夫が起き上がった。
「なんで…… 」
信じられないという様子で呟いた東條の声が静まり返った闘技場の端まで聞こえた。
恒夫がニヤッと無気味に笑って剣を構える。
「おぉおぉぉ~~、不死身の戦士だ!! 」
見ていたリザードマンたちが歓声を上げた。
「なっ、何で生きていられる……魔法でも使っているのか? 」
ダークエルフは驚いている。
恒夫の剣はリザードマンに借りたものだ。
持っていた魔法の弾を使い切って今ある武器は借りた剣と腰にぶら下げているリボルバーの拳銃だけだ。
栄二が魔法の弾を二つ譲ろうとしたのを恒夫は断った。
『俺の武器は不死身だ。これで充分戦えるぜ』
自信満々で言う恒夫に秀樹も栄二も任せる事にした。
「ゴーレムじゃなくて東條自身の手で殴ってくれ、その足で踏んでくれ、ハゲ豚って罵ってくれ、俺を……俺をビシバシ感じさせてくれぇ~~ 」
「ひぃ~っ、こいつ本物じゃない、本物のヘンタイじゃない、踏み潰してやれゴーレム」
汚物を見るような目つきで東條が命じる。
ゴーレムが突っ込んでくる。
恒夫は剣で応戦するが全く通じない、剣を折られてその場に捻じ伏せられた。
次の瞬間ゴーレムの大きな足が恒夫の背中を踏み付けた。
グシュッという内蔵の潰れた音と骨の砕ける音がして地面が血に染まっていく、うつ伏せになった恒夫は背中が潰されてペシャンコになりまるで上半身と下半身が分断されたようになっていた。
また場内が静まり返る。
今度こそ死んだとその場の全員が思った時、恒夫の腕が動いた。
「あててててっ、今度のは本気で痛いぞ、おおペッチャンコになってるな」
潰されてペシャンコになっていた恒夫の体が元に戻っていく、その場で見ていた全員が驚きを通り越した驚愕の表情で見守っている。
「なんで? 何で生き返るのよ! 」
ヒステリックに東條が叫ぶ、何が起きているのか理解できていない。
「何度でも生き返るよ、だって俺は不死身だからな、ただの不死身じゃないぜペシャンコにされても再生する不死身のナイスガイ、それが俺様だ」
恒夫がムクリと起き上がった。
身体は元通りだが服が破けてボロボロで血に染まっている。
まだ完全に再生していないのか血を流し過ぎたためか肌の色が青紫でまるでゾンビのようである。
「不死身の力……逃げ足の速い駿足って言ってたじゃない」
「あれ嘘、足なんか速くなっても仕方ないだろ、だから不死身にした。不死身だから何度殴られても平気だ。だから今度は東條が殴ってくれよ、その可愛い手で叩いてくれ、東條のこと結構好みなんだ。俺の女王様になってくれよ、俺をビシバシしてくれぇ~っ 」
恍惚とした表情に薄笑いを浮かべた恒夫が両手を広げて殴ってくれと東條に迫る。
「不死身のヘンタイ……ヘンタイゾンビ……ひぃいぃ~~っ近寄るな、来ないで…… 」
東條は完全に戦意喪失だ。
主人を守ろうとゴーレムが自動的に動き出す。
恒夫がまた投げ飛ばされて転げ回る。
恒夫は十秒も掛からずにまた起き上がるとゴーレムに向かっていく、何も武器を持たずに何度もゴーレムに向かっては倒されていた。
5度目に倒されたあと恒夫がニヤりと不気味に笑った。
「見つけた! 栄二のは左の腋に貼ってあったけど東條のは首の後ろに貼ってんだな」
恒夫は何度も倒されながらもゴーレムを操っている呪符を探していたのだ。
この呪符を外すとゴーレムは崩れてただの岩の塊に戻る。
「これ以上続けるなら呪符を剥がしてゴーレムを潰すぜ、まだ先は続くんだ。ここで失ってもいいのかよ、銃には自信あるんだ。手が届かなくても弾を当てれば剥がせるぜ」
恒夫が腰のリボルバーを握り締めた。
戦意喪失した東條に代わって中津が声を出す。
「止めろ! 恒夫の勝ちでいい、この勝負は終りだ」
「そんな……私はまだ戦えるわよ」
「止めとけよ、勝ったとしてもゴーレムを失ったんじゃ割に合わないよ、俺と中津に任せてくれよ、恒夫は何考えてるか分からんからな、正直言って俺も中津も相手にしたくない、ここで東條さんが引いても何も恥ずかしくないよ」
中津と佐伯に説得されて渋々東條が負けを宣言してこの勝負が終わる。
気の強い東條だが恒夫とこれ以上戦わないですんで内心ほっとしていた。
次の相手である中堅の佐伯が闘技場に出てくる。
「やっぱりお前は凄い、全く考えている事が読めん、だが俺はそう簡単にはいかないぜ」
「ちょっとタンマ、服血だらけだし汗かいたから着替えさせろよな」
魔剣を構える勇者の佐伯の前で恒夫がボロボロのシャツを脱ぐと汗を拭き始めた。
タオルを頭に当てた恒夫が大声を出す。
「あっあぁあぁーっ、ダメだ! 何で!? 何故なんだ? もう戦えない……俺の負けでいい……勝負に勝って自分に負けたんだ」
恒夫が負けを宣言して戻っていく、
「ちょっ、おい、どうしたんだよ恒夫…… 」
佐伯が吃驚した顔で止めるが恒夫は振り向きもしないで秀樹の元へと歩いて行く、何があったのかと秀樹や栄二だけでなく場内全てが注目だ。
心配顔の秀樹と栄二の前で恒夫が自分の頭を撫でてガックリと項垂れた。
「不死身なのに……再生力最強なのに…………なんで髪の毛は生えてこないんだ」
「アホかーっ!! そんな事で負けたのか! 何考えてんだお前は! 髪なんか生えるわけ無いだろが、再生っていっても元の身体に戻るだけだからな、せっかく勝ったのに…… 」
「だって……だって生まれ変わってフサフサになれると思って不死身を選んだのに……これじゃ何のために不死身を選んだのか意味が無いよ………… 」
怒鳴りつける秀樹の前で恒夫がマジ泣きだ。
「何のためって……お前の頭のためじゃねぇーっ 」
「なんだかんだと僕たちを言い包めたのはそれが目的だったんだね…… 」
怒鳴る秀樹の隣で栄二が苦笑いだ。
こうして初戦は引き分けとなる。
次は栄二と佐伯の中堅同士の決闘だ。
闘技場の真中で栄二と佐伯が向かい合う、
「エイジぃ~頑張ってにゅ~ 」
ネピアの呑気な声援に少し緊張した面持の栄二が手を振ってこたえた。
佐伯は剣術力の能力に魔剣を持つ勇者である。
栄二の武器はゴーレムとサトリ眼鏡と魔法の銃だ。
運動神経抜群の佐伯の方が明らかに有利に見える。
だが佐伯は栄二の力を怪力とゴーレムの二つだと思っている。
栄二はそこに付け入る作戦を考えた。
サトリ眼鏡で佐伯の行動を先読みして攻撃を避けながらゴーレムを戦わせて隙を見て魔法の銃で攻撃する作戦だ。
一礼して勝負が始まる。
「行けゴーレム! 」
栄二がゴーレムを前に出すと自分は後ろに下がっていく、東條と同じである。
後ろに下がってゴーレムを操るのだ。
剣術使いである勇者の佐伯に迂闊に近付く事はしない。
後ろに下がった栄二を見て佐伯の口元がニヤりと余裕に歪む、
「サンダースラッシュ! 」
佐伯が魔剣を振ると青い光が飛んでいく、バチバチと雷光を上げる電気の塊プラズマのようなものだ。
佐伯の魔剣は雷の魔剣だ。
つまり電気攻撃ができる剣である。
「なに! 」佐伯の口元から笑みが消えた。
栄二がサンダースラッシュを軽々と避けていく。
「行けゴーレム、そのまま殴り倒せ」
驚く佐伯にゴーレムが迫る。
運動神経抜群の佐伯はバッと避けると魔剣で切りつけた。
普通の剣なら傷一つ付かないゴーレムが1メートルも飛んで倒れた。
魔剣と佐伯のもつ剣術の力だ。
岩の塊のゴーレム程度なら簡単に殴り飛ばす事が出来る。
ゴーレムも凄い、魔剣で切られたのに浅い筋状の傷が一つ付いただけである。
「どういう事だ? 秀樹ならともかく栄二が避けられるとは思えん……偶然か? 」
小さな声で呟くと佐伯がまた魔剣を構えた。
「サンダースラッシュ! 」
続けて3度振る。1度目はフェイクだ。
避けてもいいように左右にも青い光を飛ばす。
バチバチと雷光を上げる電気の塊が三つ栄二の元へと飛んでいく、一つは栄二の立っている場所で残りの二つがその左右だ。
これで栄二の逃げ場が無くなる。
栄二がバッとその場に倒れた。
サンダースラッシュの青い光が栄二の上を通って後ろへ飛んでいって消えた。
栄二は地面に横たわるようにうつ伏せになって攻撃を避けたのだ。
使えるよ、サトリ眼鏡で佐伯の考えが読める。攻撃が避けられる……。
喜びを隠せない様子で口元に笑みを浮かべて栄二が起き上がった。
栄二とは対照に佐伯の口元から余裕の笑みが消えている。
「偶然じゃない、俺の攻撃を避けた……どうなってるんだ? 」
襲い掛かってくるゴーレムを軽々と切り倒すと佐伯がまた魔剣を振る。
青い光が二つ栄二に飛んでいくが簡単に避けられてしまう、
「なるほどな……俺の攻撃を読んでいるらしいな、スポーツでも先読みはあるからな」
サトリ眼鏡の事は知らないが何かの方法で栄二が避けているのを見抜いた。
「お前の事を甘く見ていたよ栄二、謝っておく悪かった……ここからは本気でいくぜ」
ペコッと頭を下げた後に佐伯の顔付きが変わった。
ゴーレムが佐伯に迫る。
どうにかして魔法銃を撃つ隙を作ろうと栄二が指示したのだ。
佐伯がゴーレムに向き直ると同時に魔剣を振った。
「ライジングストリーム! 」
大きな青い雷光が長い尾を引きながらゴーレムを吹き飛ばす。
闘技場の端まで飛ばされたゴーレムは手足が外れてバラバラになっている。
ゴーレムは呪符を剥がされるまでは何度でも再生するがバラバラにされれば流石に時間がかかる。
「ゴーレムが……まさかあんな事が出来るなんて…… 」
佐伯が新しい技を出すのはサトリ眼鏡で考えを読んで知っていた。
だがこれほど強力なものだとは想像していなかった。
サトリ眼鏡は相手の考えを読めるだけである。
佐伯が具体的に考えなければその技がどういうものなのかまでは分からない。
「殺しちゃいない安心しろ、恒夫がこっちのゴーレムを壊さなかったからな……だが十分ほどは使えないだろう、その間に決着をつけてやる」
佐伯が魔剣を構えた。
考えを読んだ栄二の顔が強張っていく、またライジングストリームを使うのが分かったからである。
あんな技をまともに受けたら普通なら死んでしまうが栄二は覚悟を決めた。
「降参しろ、怪我じゃすまないぞ」
佐伯が一瞬ためらった。
親しくは無いが知り合いを平気で殴れる男ではない。
「ゴーレムがいなくても僕の怪力で殴り倒してやるよ」
拳を振り上げた栄二が佐伯に突っ込んでいく、
「サンダースラッシュ! 」
バチバチと雷光を上げる電気の塊が栄二の左肩に当った。
仰け反るように倒れていく栄二の左腕が肩から千切れて地面に転がる。
サンダースラッシュで切られたのだ。
「エイジ! エイジがぁ~~ 」
「落ち着けネピア、大丈夫だって、恒夫ネピアを押さえろ」
飛び出して行きそうなネピアを秀樹と恒夫が押さえて止める。
栄二は倒れて動かない、左肩から溢れた血が地面を赤く染めていく、
「だから降参しろと言ったんだ……生きていたとしてもゲーム続行は無理だぞ」
苦渋に顔を歪ませて言うと佐伯は魔剣を鞘に仕舞った。
そのとき栄二の右腕が動いた。
仰向けに転がったままで魔法の銃を掴むと佐伯に向ける。
ポンッという軽い音と共に魔法の弾が飛んでいく、
「なん!? 」
佐伯が反射的に魔剣を抜いて魔法の弾を叩き切る。
普通の弾ならそれでよかった。
だが魔法の弾は切っただけでは避けられない。
魔剣を握ったまま佐伯の身体が炎に包まれた。
栄二が使った魔法の弾はヒ弾、つまり炎魔法の弾である。
「ぐわぁーっ 」
佐伯が火を消そうと魔剣を離して手で身体を叩きまわる。
その前で栄二がヨロヨロと立ち上がった。
「痛いってもんじゃないよ、恒夫はこんなのよく平気だな、いくら死なないからって僕はごめんだよ」
立ち上がった栄二の左肩が大きく膨らみ始めた。
秀樹と恒夫が興味津々で見守る中で栄二の左肩から腕が生えてきた。
「うわっ生えてきた。腕が生えてきたよ、繋がるのかなって拾おうと思ってたのに…… 」
新しく生えてきた自分の左腕を見て栄二も驚いて言葉が続かない。
安心顔の秀樹や恒夫と違い向こうで見ていた中津と東條は目を丸くして驚いていた。
佐伯が体を覆う炎を叩いて消していく、魔剣で叩き切ったので魔法銃の効果も落ちたのだろう、普通なら死んでいてもおかしくない。
「お前も不死身なんだな……怪力なんて嘘をつきやがって…… 」
どうにか火を消して肩で息をつきながら佐伯が訊いた。
「こうでもしないと僕が佐伯に勝てるわけないだろ、僕なりに必死で考えた作戦だよ」
こたえながら栄二が魔法の銃の弾を詰め替えた。
魔法の銃を見つめながら佐伯が左腕で魔剣を構える。
「魔法の銃だな、何で続けて魔法を使わなかった。俺を倒すチャンスはもう無いぞ」
「それはこっちのセリフだよ、ライジングストリームだったら危なかったよ、不死身だから死なないけど絶対に気絶してるよ……何でライジングストリームを使わなかったんだ」
怪訝な顔で栄二が訊き返す。
サトリ眼鏡では確かにライジングストリームを使おうとしているのが読めたのに実際に佐伯が使ったのは一番力の弱いサンダースラッシュだった。
「さあな、俺にも分からん…… 」
佐伯が魔剣を下ろした。
分からないと言ったが心当たりがあった。
栄二を傷つけまいと一瞬ためらった時に無意識にサンダースラッシュに変わったのだ。
栄二も魔法の銃を下ろす。
サトリ眼鏡で佐伯が降参する事が分かったからである。
佐伯が魔剣を鞘に仕舞った。
「悪いな中津、東條、俺は降参するぜ、さっきの炎で右手が動かん、左手じゃ栄二は倒せても秀樹は無理だ……こんな所で無理してこれ以上体を壊したくないしな、この程度なら町で買った薬草使えばすぐに治るからな」
「何言ってんのよ、野方くらい倒しなさいよ」
「止めろ東條、いいぞ佐伯あとは任せろ」
ヒステリックに叫ぶ東條を中津が止める。
男同士の友情だけではないこの先の事を考えて無理はさせない。
「何言ってんの? 勝つ気あるのあんたたち? 」
東條が中津に詰め寄る。
ヒスを起こして取り乱していた。
「僕も降りるよ、いいよね秀樹、恒夫、今の佐伯とじゃこれ以上戦えないよ」
「おう、いいぜ、お前はよく戦ったよ」
疲れた顔で栄二が言うと恒夫が帰って来いと手招きだ。
「この勝負も引き分けだな、恒夫の時と違ってお互い力を出して立派に戦っただろ」
秀樹が言うと納得したのかヒステリックに切れていた東條も怒りを収めた。
これで二引き分けだ。
勝負は秀樹と中津の大将同士で決着をつけることになる。




