第二十二話「リザードマン」
ブリガンに招かれて秀樹たちは村へと入った。
リザードマンがどんな暮らしをしているか不安もあったが村を見てすぐに安心した。
ゴブリンと同じように穴にでも住んでいるのだと思っていたが予想に反して家を建てて道や畑なども作っている文明的な生活をしていた。
家といっても木の骨組みに葦のような植物の屋根と竹のようなもので編んだ壁で出来たものでジャングルに住む文明があまり届いていない少数民族の家と同じである。
狩猟民族だと思っていたが大きな畑が広がり様々な作物を植えていた。
鳥や豚などの家畜も飼っていて原始的どころかかなり進んだ暮らしを営んでいるのが分かる。
「美味しそうな鳥がいっぱいいるに、豚も丸々太ってるしご馳走が食べれそうにゃ」
放し飼いになっている鳥や小屋で鳴いている豚を見てネピアがはしゃぐ。
「寝る所と食べ物は心配しなくてよさそうだね」
「まあな……歓迎してくれるならリザードマンでもいいか」
はしゃぐネピアを見て嬉しそうな栄二の隣で秀樹もリザードマンにつく覚悟を決めた。
それを見てブリガンも一安心といった様子だ。
「任せてください、毎日ご馳走で歓迎しますよ、では村長に会いに行きましょう」
ブリガンに連れられて村長の屋敷に向かった。
他の家と同じように木と竹と葦で出来た家だが村長らしく他の家の3倍はある大きな屋敷に秀樹たちが入っていく、ゴーレムは家の前で待機だ。
広い応接間に秀樹たちを待たせてブリガンが奥の部屋へと消えた。
「秀樹殿、お待たせしました。村長のルクスガンです」
しばらくしてブリガンが老人らしいリザードマンの手を引いてやってきた。
老人らしいというのは人間や他の動物と違いトカゲ姿のリザードマンは年齢が判りにくいのだ。
鱗の艶が色褪せてブリガンよりも白くなっているので老人だと判断した。
「江藤秀樹です。こっちが野方栄二でこれが城道恒夫です。この子はネピアで猫少女ですが大事な仲間です」
秀樹が紹介すると栄二と恒夫とネピアがペコッと頭を下げた。
「うむ、よく来てくれた歓迎する」
軽く会釈を返すと村長のルクスガンが秀樹たちを見回した。
老人とは思えぬ鋭い眼光に秀樹の背筋がピンっと伸びる。
栄二も緊張している様子だが恒夫とネピアは普段と同じだ。
ルクスガンが大声をあげる。
「みなの者よく聞け、この方たちは我らに力を貸してくださる大切なお客人だ。村を上げて歓迎せい、この方たちの力を借りて湖を我らが仕切るのじゃ」
老人とは思えぬ力の篭った声だ。
「おお~、不死身の戦士が我らの味方についてくれたぞ、おおぉ~ 」
すぐに屋敷の外から大勢の声が返ってきた。
「なっなんだ…… 」
秀樹たちが吃驚して周りを見回す。
竹で編んだだけの壁の網目から外の様子が少し見える。
いつの間に集まったのか大勢のリザードマンが屋敷を取り囲むようにして歓声をあげていた。
「ははははっ、皆も歓迎しておる。戦いは明日にでも始まる。今日はゆっくり休んでくだされ、何かあればこのブリガンに何でも申し付けてくだされ、こやつは儂の息子でゆくゆくは村長となる男じゃ」
ルクスガンが先ほどまでとは全く違う好々爺という顔でニッコリと笑った。
「では皆さんこちらへ、宿へ案内致します。荷物を置いたら食事に致しましょう」
ブリガンに連れられて秀樹たちは村長の屋敷から出ていく、
集まっていたリザードマンたちからまた歓声が上がった。
ブリガンと一緒にいた部下のリザードマンが恒夫が切られてもすぐに治った不死身の戦士だと触れ周ったのだろう、ダークエルフとの戦いの助っ人として大歓迎である。
翌日、オアシスから遠く離れた荒野で戦いが始まる。
昨晩の豪華な食事と宴は秀樹たちが来たから行なわれたわけではなかった。
翌日の戦いに備えて豪華な晩餐を開いたのである。
つまり戦う日取りはすでに決まっていて丁度その前の日に秀樹たちを見つけたブリガンが助っ人にするために招いたというわけだ。
まさか次の日に戦争を始めるなんて秀樹たちには寝耳に水だったがよく考えるとイベントの期間は四日間しかないのだ。
悠長に構えていれば時間切れで失敗になるだけなので早く勝負を決めることに異存は無かった。
砂漠の真中に小さな城のように大きな岩が二つ500メートルほど離れてそそり立っていた。
その向かい合う岩をそれぞれの陣地として戦うのだ。
オアシスの中では大きな戦いはしない、互いの村を襲うような事もしない、これは自分たちの生活を守るためだけで決めたのではない、荒れた土地でいかにオアシスが貴重なものであるのかはそこに住むリザードマンやダークエルフが一番よく知っている。
奇跡とも言えるオアシスの環境を破壊しないためにもオアシスの中はもちろん近くでの戦いはしないと双方の意見が一致したのである。
それで百年以上前から何か揉め事があれば砂漠地帯で戦う事に決めたのだ。
戦いは剣や槍や弓を使った陣取り合戦だ。
相手の陣地にある旗を三つ先に奪った方の勝ちである。
ゲームのようで微笑ましいと思うかもしれないがゲームとは明らかに違う個所が一つある。
実際に剣や槍で切りあう命を懸けた戦いなのだ。
リザードマンの陣地である岩場の一番高い場所で秀樹とブリガンが望遠鏡を使って向かいにあるダークエルフの陣地を見ている。
向こうの陣地に中津がいた。
旨く取り入った様子で巨乳のダークエルフと親しげに話しをしているのを見て秀樹が悔しがる。
「くそーっ、あいつら旨くやりやがって………… 」
「おおぅ、陥没乳首のお姉様もいるぜ、今度こそ捕まえて乳首掘り出してやる……それが無理ならまた刀でビシバシしばいてもらおう」
昨日のダークエルフを見つけて恒夫のテンションが上がる。
秀樹たちがバカをやっている間にも戦いの準備が着々と進む、お互いの陣地の真中と左右の端に旗が立てられた。
この合計3本の旗を全て取られた方が負けとなる決まりだ。
命懸けの旗取り合戦が始まった。
古代ローマで使っていた馬で牽く戦車チャリオットにそっくりな乗り物に乗ったダークエルフがリザードマンの陣地に迫る。
リザードマンはボウガンや投石器で応戦だ。
ダークエルフの戦車が退くとお返しとばかりにリザードマンの騎兵が出撃していく、騎兵といってもリザードマンが乗るのは馬ではない、同類というのか小型の恐竜といった馬くらいの大きさの大トカゲである。
ダークエルフの陣地に迫ったリザードマンが追い返されて戻ってきた。
ダークエルフも投石器や弓を使っている。
「古代ローマや三国志みたいな戦いだな……これで決着がつくのか? 」
一進一退を繰り返す戦いを見ながら秀樹が訊いた。
「ここ五十年ほどは勝負つかずです」
戦いから目を離さずにブリガンがこたえた。
ブリガンは総指揮官である。
クリーム饅頭を食べながら戦いを見ていた恒夫が振り返る。
「じゃあどうやって終わるんだ? 死人も出て引き分けで終わるのか? 」
恒夫と一緒にクリーム饅頭を食べていたネピアが口の周りをクリームでベタベタにしながら口を開く、
「こんな戦いじゃ、ジャンケンした方が早いにゅ、ジャンケンして先に3回勝った方が勝ちでいいにゅ、バカみたいな戦いを…… 」
栄二が慌ててネピアの口を塞いだ。
「ネピア! あははははっ冗談だからね、ブリガンさん冗談だから怒らないでよね」
ネピアの口を拭きながら『余計な事は言っちゃダメ』と耳打ちする。
ネピアがうなづくと、栄二が話しを逸らそうと口を開く、
「リザードマンは勇敢ですよね、でもこれじゃあ戦いは長引くでしょ? 」
「休みながら一ヶ月ほど戦って雨季が来れば終わります。乾季で水不足になるのが争いの原因ですから……乾季でも例年なら争いは起こりません、今年のように異常に湖の水が少なくなると争いが起こるのです。雨が降れば自然と戦いは終り双方引き上げます。戦いよりも畑が大事ですからね、生きていくのには作物は必要ですから」
話してくれたブリガンがトカゲとは思えないくらいに知的に見えた。
好戦的だと思っていたがここのリザードマンは普通とは違うようである。
苛酷な環境で生きているためだと秀樹は思った。
同時にダークエルフと本格的に戦争をすればリザードマンも殆どやられて結局共倒れになる事を分かっているのだろうとも考えた。
作物を作りそれを調理する。
煮たり焼いたりするだけでなくクリーム饅頭のような手の込んだお菓子までも作る事ができる知性と理性を持った優れたリザードマンだと思った。
クリーム饅頭を食べていた恒夫が両手をパンパン叩いて手に付いた粉を払う、
「一ヶ月は待てないな、今日入れて後三日で勝負を着けないとな」
言いながら恒夫は腰にぶら下げていた魔法の銃を抜いて構える。
「ちょっ恒夫待て…… 」
秀樹が止めるのも構わずに恒夫が魔法の銃をぶっ放す。
ポンッという軽い音と共に小さな栄養ドリンク剤の瓶くらいの弾が飛んでいく、弾はダークエルフの馬が牽く戦車の前に着弾した。
弾が落ちた場所から半径3メートルほどの辺りに青い稲光が走り雷の柱がいくつも立ち昇る。
恒夫が撃った魔法の弾はデン弾、つまり電撃魔法の弾だ。
雷に驚いた馬が暴走を始める。
すぐ後ろにいた馬だけでなく遠く離れた馬も驚いて制御がきかない、次々に戦車が倒れてダークエルフが投げ出されていく、
「おお凄い恒夫殿は魔法も使えるのですね、不死身も魔法の力なのですね」
ブリガンが目を見開いて驚く、秀樹と栄二は弱り切った顔で恒夫を睨んでいる。
「ピカピカゴロゴロ雷にゅ、ツネオ次は火のヤツにゅ」
「ダメだからね、ネピアも調子に乗っちゃダメだよ」
楽しげなネピアを栄二が窘める。
「おおう、もちろんだぜ、次はっと…… 」
魔法の銃の弾を詰め替えようとした恒夫の腕を秀樹が掴んだ。
「これ以上やったら本気で怒るからな、勝手に動くなって言っただろ」
「遅かれ早かれこうなるだろ、ほら見てみろ」
秀樹の腕を払って恒夫が指差す。
恒夫が指す先、リザードマンの陣地のすぐ前で炎が上がっていた。
魔法使いの力を持つ中津が反撃したのだ。
「中津か……あいつらもやる気かよ」
「そのために居るんだぜ、変な情けはかけるなよ、俺たちはここで死んでも実際に死ぬわけじゃないからな……ダークエルフの姉ちゃんは別だけどな」
ニヤッと意地悪く笑う恒夫を見て秀樹も覚悟を決めた。
情けをかけるなと言った恒夫だがダークエルフには気を使っていた。
先ほどの魔法の銃も直接攻撃できたのに威嚇するようにその前に弾を落としたのだ。
秀樹が魔法の杖を使って攻撃を開始する。
栄二はゴーレムを使って攻撃だ。
中津も魔法や東條のゴーレムで反撃してくる。
低級魔法しか使えない秀樹と違い中級魔法の使える中津が明らかに有利だが恒夫が魔法の銃を使って援護するのでどうにか対等には戦えていた。
だがリザードマンやダークエルフは大変である。
いつもの剣や槍だけの戦いと違い魔法の炎や雷で辺り一面酷い有様だ。
魔法の銃を腰のホルダーに戻した恒夫が後ろの椅子に腰をかけた。
「ここらでいいだろ、休戦しようぜ、このまま続けたらお互い全滅だぜ」
「全滅……何か策があるのですか? 」
「あるよ、代表を決めて決闘だ。勝ち抜き戦で勝負を決めるって事でどうだ? 」
マジ顔で訊くブリガンに恒夫が悪巧み成功という笑みだ。
このままでは怪我人だけでなく死者も多く出そうだとブリガンがすぐに使者をダークエルフに送って休戦となった。
秀樹が呆れ顔で恒夫を見つめる。
「お前始めから考えてたんだな」
「うんにゃ、魔法の弾5発全部使ったからな、それで一休みしようって今思いついた」
魔法の銃をポンポン叩いてこたえる恒夫に秀樹は呆れて何も言うのを止めた。




