第百十九話
イベントが始まった。
機械人間のナットとペンチが一番に動いた。
二人が山へと入っていくのを横目で見ながらスギナが呟く、
「流石じゃの、一瞬で記憶していきおったわ」
探すペンダントの写真はスタート地点のパネルに今表示されたばかりだ。
秀樹たちだけで無くマーサたちも記憶しようと真剣に見ている。
「しっかり覚えるんだぞ、あたい覚えるの苦手だからにゃ」
ラグが恒夫の薄い頭をペシペシ叩いた。
「いや、俺も覚えるのは苦手だ。任せたぜ栄二」
恒夫もバカではないがこういうのは頭の良い栄二に丸投げだ。
「うん、覚えるけどさ、魔物に襲われたら吃驚して忘れそうだよね」
苦笑いする栄二の隣で秀樹がノートを取り出した。
「写しておくか……俺より栄二の方が絵が旨いよな」
ノートを差し出す秀樹の前で栄二が苦笑いのまま口を開く、
「責任重大だな…… 」
弱り顔の栄二を見てスギナが懐から木の板を取りだした。
「ダミーに他のペンダントをバラ撒いておると見た方がいいのぅ、細かな違いなどは見分けられんぞ、どれ儂が書き写してやろう」
手から植物の蔓を伸ばすと木の板にサラサラと写真を写し取る。
「へぇスギナちゃんは絵も旨いんだね、僕の下手な絵で間違えると困るから助かったよ」
「本当に何でもできるな」
安堵する栄二の隣で秀樹が感心して唸る。
恒夫も驚きの顔だ。
「天才ちびっ子だ。神童だ」
「あたい知ってんぞ、おませさんって言うんだぞ」
知ったかぶりするラグに恒夫が振り返る。
「違うからな、ませて大人ぶってるんじゃなくてスギナちゃんは本当に才能あるって事だからな、まぁスギナちゃんは子供じゃないけどな」
秀樹や恒夫に褒められてスギナが嬉しそうにドヤ顔になる。
「ふふん、伊達に長く生きておらんぞ、絵だけじゃなく書道も上手いんじゃぞ」
ドヤ顔のままもう一枚板を取り出すと写し始める。
直ぐに描き終わると傍にいたマーサに手渡す。
「ほれ、お主らもこれを持っていけ、記憶だけでは似たようなダミーがあると間違えるといかんからのぅ」
「へぇ旨いものだ。有難く貰っておくよ」
絵と写真を比べて間違いがないのを確認するとケリウスが頭を下げた。
「協定を結んだからの、これで公平じゃ」
マーサたちにも褒められてスギナが益々嬉しそうな笑顔になった。
「んじゃ行くぞ、出発進行ぉ~~ 」
山へと歩き出すラグを恒夫が止める。
「一寸待て」
ラグの腕を掴んで止めるとマーサたちに向き直る。
「俺たちが先に行ってもいいのか? 何ならクジで決めるか? 」
「秀樹くんたちが先でいいよ、私たちは迂回して向こうから登ろうと思う、君たちや機械人間たちと同じコースを行っても無駄だからね、違う場所から探した方がいい」
ケリウスが爽やかに微笑みながら山の右側を指差した。
「成る程な、それじゃ俺たちはあっち側から行こうぜ」
秀樹がケリウスが指した方とは反対の左側を指差した。
「機械人間たちが真ん中で僕たちが左、マーサさんたちが右から探すって事だね」
「もう出発していいにょか? 」
栄二を見つめて首を横にして考えるラグの後ろから恒夫が背をトントンと突いた。
「左だ。俺たちは左から山に登るんだ」
「左から行くんだにゃ、んじゃ、出発進行ぉ~~ 」
元気なラグを先頭に秀樹たちが歩き出す。
菜穂がペコッと頭を下げた。
「じゃあマーサさん、お先に行きますね」
「お互い頑張りましょうね」
優しく微笑むマーサに見送られるようにして秀樹たちが山の左へと向かって麓を進む。
200メートルほど進むと山奥へと登っていく獣道が見えた。
ラグの直ぐ後ろを歩く恒夫が振り返る。
「細いが一応道になってるな、ここから登るか? 」
ラグではなく秀樹に訊いている。
実質的なリーダーは秀樹だという認識だ。
「そうだな、他に道は無さそうだし、藪の中を登るよりマシだな」
秀樹が獣道を見上げた。
左右に笹のような草が生えていてトンネルのようになっている道だ。
木々の間を笹林が埋めているという感じだ。
「ずっと笹が続くわけじゃないみたいだしここでいいんじゃない」
栄二も賛成する。
今まで歩いてきて他に道は無かった。
この先にもあるとは思えない。
「もっと大きい道は無いのかな? 草がいっぱいで虫がいそうだよ」
険しい顔で獣道を見つめる菜穂を見て恒夫がニヘッと悪い顔だ。
「いるぞ、いっぱい、見てみろよ蜘蛛の巣だ。今は見えないけど草の所に隠れてるぜ」
恒夫が指差す先、笹のような草の上に大きな蜘蛛の巣が見えた。
「蜘蛛……ダメ、この道はダメ、蜘蛛のいるところなんか通れないから」
顔を引き攣らせる菜穂に恒夫が握り拳を差し出す。
「蜘蛛はダメか、んじゃカナブンは大丈夫なのか? 」
パッと広げた手の上に緑色に輝く大きなカナブンが乗っていた。
「きゃぁ~~ 」
菜穂が飛ぶように走って秀樹の後ろに逃げるのを見て恒夫だけでなくラグも大笑いだ。
「にゃははははっ、あたいがさっき捕まえたんだぞ、ツネはカナブンとかカブト虫が好きだって言ってたからにゃ」
「デカいだろ、普通のカナブンの倍はデカいぜ」
喜ぶ恒夫の頭に秀樹の握り拳が落ちてきた。
「菜穂が虫嫌いなの知ってんだろ、怖がらせてんじゃねぇ」
「いってぇぇ~~ 」
頭を押さえて蹲る恒夫を見てラグが更に大笑いだ。
「にゅははははっ、ゴツって音がしたぞ、ハゲだから頭に直接響くんだぞ」
普段なら言い返す恒夫だが秀樹にマジで殴られてそれどころではなかった。
「まったく仕方無いヤツじゃ」
蹲る恒夫を一瞥するとスギナが手から植物の根を伸ばす。
「操蔓! マリオネット」
スギナの手から伸びた根が地面に突き刺さる。
頭を押さえて蹲っていた恒夫が顔を上げた。
「マリオネットって操るって事か? 」
「そうじゃ、ハイカラじゃろ」
「ハイカラって…… 」
ニコッと可愛い笑みを見せるスギナの向かいで恒夫が苦笑いだ。
「それで何を操るんだ? 」
「もしかして魔物でもいるの? 」
秀樹と栄二が続けて訊くと返事をする代わりにスギナが手をサッと振る。
ザザザザ……、
目の前に茂っていた笹藪が左右に割れていく、
「おおぅ、ざざぁ~~ってにゃってんぞ」
「凄ぇ…… 」
大はしゃぎするラグの向かいで秀樹が絶句した。
「さっ、笹が動いて道が広がったよ」
栄二は驚きに声が震えている。
「そうきたか、流石スギナちゃんだ」
恒夫が汚れを払って立ち上がる。
スギナがくるっと振り返る。
「どうじゃ、これで蜘蛛も怖くなかろう」
細い栄二でも通り抜けるのがやっとという獣道が幅2メートルほどの山道になっていた。
隠れるように秀樹の後ろにいた菜穂がパッと出てくる。
「凄い凄い、これなら平気だよ、ありがとうスギナちゃん」
大喜びする菜穂を見てスギナが得意気に胸を張る。
「これくらいお安い御用じゃ、儂は木の精霊じゃからな、操れん植物は無い、ゲームのために力を制御されておらなんだらこの山一つ丸ごと操る事も可能じゃぞ、四国では山神もしておるからの、じゃが今は精々100平方メートル操るので精一杯じゃな」
「100平行メートル操れるだけで凄いぜ」
誰に言うとなく呟く秀樹の隣で栄二が頷いた。
「うん、凄いよね、笹だけじゃなくて細い木も動いてたよ」
驚きの余り二人は無表情になっている。
「大きな木も動かせるんじゃがそれなりに妖力がいるのでな、それに大きな木は迂回した方が早いじゃろ」
満面の笑みのスギナの向かいで恒夫は何か考えるように俯いている。
「どうしたのじゃ? 」
スギナが恒夫の顔を覗き込んだ。
「100平方メートルなら自由に植物を操れるんだよな」
「それがどうした? 」
スギナの顔から笑みが消えた。
恒夫が難しい顔をして口を開く、
「それじゃ、ここみたいに木が生えているところなら無敵みたいなものじゃないか」
スギナがパチンと音を鳴らして手を叩いた。
「よう気が付いたの、流石恒夫じゃ、その通りじゃ、植物が生えておる森や山は儂のホームグラウンドじゃ、一対一なら魔族にも負けんぞ」
またニッコリと笑うスギナを見て恒夫が続ける。
「それじゃ、初めのジャングルイベントとかで何で使わなかったんだ? 使ってれば毒アブラムシに刺される事もなかったよね」
「お主と会う前のジャングル内では使っておったぞ、川を渡るのに力を止めて川岸を探っておった所を刺されたんじゃ、有り体に言えば油断しておったんじゃな」
恥ずかしいのか頬が赤くなっていくスギナを見て恒夫が体をクネクネと捩る。
「ああぁ……もう可愛いなぁ~、油断するスギナちゃんを想像したら抱き付きたくなるぜ」
感極まったような変な声を出す恒夫を見てスギナが一歩後退る。
「なっ、なんじゃ、急に……儂とて気を抜く事はあるぞ、ずっと気を張っておる方が異常じゃぞ、じゃから抱き付いたりするなよ、絶対じゃぞ」
頬を真っ赤にして照れるように話すスギナを見て恒夫だけでなく秀樹や栄二の顔にも優しい笑みが広がっていった。
スギナが作ってくれた道を登っていく、
「肉肉お肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ ピチピチ魚ぁ~お刺身だぁ~~♪ ぼそぼそサラダは食べないぞぉ~~♪ ジュウジュウお肉ぅ~焼き肉だぁ~~♪ モクモク煙ぃ~~焼き魚ぁ~~♪ ベチョベチョトマトは大嫌いぃ~~♪ 」
ハイキング気分のラグを先頭に一列に並んで歩いている。
ラグの直ぐ後ろを恒夫が続き、そのあとをスギナ、栄二、菜穂、秀樹と並んでいた。
「呑気なリーダーね」
呆れる菜穂に栄二が笑いながら相槌を打つ、
「うん、でも元気があっていいよね」
「余裕があるって事だ。リーダーがどっしりと構えてくれてたら安心できるぜ」
最後尾で秀樹が言うと恒夫が振り返った。
「余裕じゃないぜ、何も考えてないんだ。見てろよ」
前に向き直ると恒夫がラグの背を突く、
「さっきからぐんぐん歩いてるけど、ラグはどうやってペンダントを探すつもりだ? 」
「ペンダント……おおぅ、忘れてたぞ」
振り返ったラグを見て秀樹たちが何とも言えない残念な表情だ。
言った通りだろというように秀樹を一瞥すると恒夫が続ける。
「それでどうやって探すんだ? リーダーなんだからアイデアくらいあるだろ」
「あたいに探せってか? 」
「どんどん歩いて行くから何かアイデアでもあるのかと訊いただけだ」
「アイデアか? そうだにゃ~~ 」
驚いた後でラグが腕を組んで考え始める。
秀樹たちが見守る中、ラグがパッと顔を上げた。
「あたいの鼻で探すぞ、リス女の匂いは覚えたからにゃ、ペンダントの近くに行けば見つけられるぞ」
「どうやってペンダントの近くに行くんだ? 」
意地悪顔で訊く恒夫にラグがニッと自信のある笑みを見せる。
「先ずてっぺんまで登るにゃ、そんで降りながら探すぞ、下まで行って無かったら横に少し動いて登りながら探すにゃ、ぐるっと山を一周して探していけば必ず見つかるぞ」
「おお、ラグにしては良いアイデアだ」
大袈裟に驚く恒夫を見てラグが嬉しそうに笑いながらその背をバンバン叩く、
「にゃははははっ、当たり前だぞ、にゃんたってリーダーだからにゃ」
「いてっ、痛てて……痛いから叩くな」
身を捩って逃げると恒夫が続ける。
「いいアイデアだがダメだな」
「にゃ! にゃんでダメにゃ、ツネも良いって言ってたぞ」
笑顔から一転してラグが恒夫を睨み付ける。
二人の直ぐ後ろでスギナが口を開く、
「時間が足りんじゃろ、中くらいの山じゃが全部見て回るとなると四日で済まんぞ」
「あたいなら二日で行けるぞ、こんにゃ山、チャトラン族の村じゃ小さな山だぞ」
口を尖らせるラグの背を恒夫が優しく叩いた。
「ラグは凄いから余裕だろうけど俺たちは無理だ。特に俺は走るの苦手だからな」
「うにゅにゅ……そうだにゃ、ツネは直ぐにへたばるからにゃ」
ムッとしていたラグが恒夫を見て弱り顔に変わる。
「じゃあどうすんだ? ペンダント見つけられないぞ」
話を聞いていた栄二が小さく手を上げた。
「僕に考えがあるよ、たぶん恒夫やスギナちゃんの考えと同じと思うけど」
「うにゃ! 話すにゃ、栄二のアイデア」
パッと顔を明るくするラグを一瞥した後で栄二が恒夫の様子を伺う、
「栄二に任せた」
恒夫に頷くと栄二が話を始める。
「先ず恒夫のイカサマサイコロで大体の位置を特定する。次にスギナちゃんの植物を操る力を使って余計な草や木を移動してもらう、最後にラグさんが匂いで探すんだ。これなら少しくらい埋まってても探せるだろ」
「成る程な、それで行こうぜ」
最後尾の秀樹が賛成した。
「やっぱ最後はあたいの鼻で探すんだぞ」
得意気なラグの頭を恒夫が撫でる。
「期待してるぜリーダー、場所が特定できても虱潰しに探すなんて御免だからな」
「にゃははははっ、任せるにゃ、にゃんたってリーダーだからにゃ」
益々得意気に高笑いするラグを余所に恒夫がスギナを見つめる。
「スギナちゃんも頼んだよ、イカサマサイコロじゃ大体の位置を特定するしか出来ないからな、あとはラグとスギナちゃんが頼りだ」
「任せておけ、緑ある所は儂のホームグラウンドじゃからな」
胸を張るスギナの後ろで菜穂が不思議そうな顔で口を開く、
「イカサマサイコロを使ってダンジョンみたいにペンダントを探して歩くの? 」
「そういう事だ」
恒夫がこたえると菜穂が何か思い付いたのか口元をニヤッと歪めた。
「そんな面倒な事しなくてもいいじゃない、もっと簡単な方法があるわよ」
「簡単な方法? 」
恒夫だけでなく秀樹たちも訊きたそうな顔をしているのを見て菜穂が得意気に話し出す。
「ペンダントが落ちてる場所を特定すればいいんでしょ? それなら山の地図を描いて細かく区分けして番号振ってペンダントが何処にあるのかイカサマサイコロで場所を特定すればいいじゃない」
「成る程な、そっちの方が早いぜ」
「それなら歩き回らなくても済むよね、何でそんな簡単な方法を思い付かなかったんだろう」
秀樹と栄二が揃って賛同するのを見て菜穂が満足気に頷いた。
「へへへっ、そうでしょ、さっさと見つけて虫がいる山から降りましょうよ」
「ダメだな、その方法は無理だ」
断る恒夫を菜穂が睨み付ける。
「何でダメなのよ、恒夫くんはまだ私の事を信じてくれないのね」
「恒夫! 」
叱りつけようとした秀樹の前に恒夫が手を伸ばす。
「一寸待て、俺の話を聞け」
不満顔の菜穂に向き直ると恒夫が続ける。
「菜穂の事は信じてる。何か隠してるんだろうけど今までのお前の行動は本当だ。だから信じる事にした。ダメ出ししたのは当てつけとかじゃない、イカサマサイコロじゃ無理なんだ」
「無理って? どうしてなの」
菜穂の顔から怒りが消えた。
寧ろ信じていると言われて嬉しそうだ。
訊きたそうにしている秀樹と栄二を見回して恒夫が話し出す。
「イカサマサイコロはその場の判断しか出来ない、カジノでルーレットの次に出る数を当てたりダンジョンでどちらの道を進めばいいかなど直前は示してくれる。たぶん時間に関係しているんだと思う、だから距離や時間が近いものしか当てられない」
説明しながらイカサマサイコロを取り出した。
「この山にリス少女ピナのペンダントは落ちているか? 落ちているなら奇数、落ちていないなら偶数を出してくれ」
言いながらサイコロを振った。
「3の奇数だ。ペンダントは落ちている事になる」
秀樹たちにサイコロの目を見せながら言うとまたサイコロを振る。
「この山にリス少女ピナのペンダントは落ちているか? 落ちているなら奇数、落ちていないなら偶数を出してくれ」
同じ質問をして振ったにも関わらず今度は偶数の6が出た。
「なっ……どうして? ハズレって事? 」
驚く菜穂の向かいで恒夫が首を振った。
「ハズレは有り得ない、その日の振り始めは絶対に当たりが出る。その次も当たりが出る確率が多い、現に今まで2回目まではハズレが出た事がない、3度目からハズレの出る確率が高くなり、ハズレが一度出るとリセットされて次は必ず当たりが出る。当然それに続く2回目も当たりが出る確率の方が高い」
「じゃあ何で2回目にペンダントは無いって出たんだ? 」
菜穂ではなく訊いたのは秀樹だ。
恒夫がニヤッと意地の悪い笑みになる。
「当たりもハズレもない、今振った2回とも無効だ。こんな広い範囲の事はイカサマサイコロにもわからないって事だ。言っただろ、時間が関係してるって、カジノで当てるのもダンジョンで道を示すのも直前の事だけだ。休みの時に色々弄って確認したんだが大体十分後くらいまでの未来の事なら当ててくれる。それ以上は無効になる。つまりサイコロを振った回数に入らない、だからさっきの2回でペンダントのあるなしが違って出たのは無効だよ、山全体の事などわからない、十分間ほどで探せる範囲のことしかわからないって事だ。だからさっき回したのは只のサイコロの数字でしか無いって事だ」
恒夫を見上げてスギナが大きく頷いた。
「成る程のぅ、何でも当てられるのなら今回のようなイベントでは無敵のアイテムとなるからの、じゃから時間という制限を掛けてあるんじゃな」
感心するスギナを見て恒夫がニッと笑った。
「そういう事だ。俺も分かるまで苦労したぜ」
何か思い出したのか栄二が割って入る。
「でもダンジョンで宝玉があるかないかイエスノーで判断したことがあったよね」
振り向いた恒夫が悪意ある顔で口を開く、
「ああ、アレか、あれは嘘だ。十分以上距離が離れてるので当てられるはずがない、あの場の雰囲気で俺の当てずっぽうだ」
秀樹の顔色がサッと変わっていく、
「なん…… 」
「下手したら間違ってたかもしれないんだよね」
険しい顔をする秀樹と栄二に恒夫がニッと悪戯っ子のような笑みを向ける。
「結果オーライだ。当てずっぽうだが俺の勘がそうしろって言ったんだよ」
「まったくお主は…… 」
スギナも呆れて言葉が出ない。
難しい顔をして聞いていたラグが恒夫の腕を引っ張る。
「これで合ってるか? ツネがサイコロ回して、ちびっ子が木を動かして、最後にあたいが見つければいいんだよにゃ」
ラグなりに考えていた様子に恒夫の顔が綻んでいく、
「うん、それで合ってる。俺とスギナちゃんで獲物を追い詰めて最後にラグが仕留めるって事だ。ラグが一番大事な役だぞ」
「にゃははははっ、任せろ、あたいが直ぐに見つけてやるぞ」
尻尾をブンブン振って喜ぶラグから視線を秀樹たちに移す。
「魔物の相手は任せたぞ、レベルの低いウォークマッシュルームはともかくシャドウドッグや山の主のヒドラじゃ魔法銃じゃ効かないだろうからな」
「任せろ、レベルが上の魔物は俺と菜穂の魔法とラグちゃんとスギナちゃんで戦う、お前と栄二は安全な場所まで逃げればいい」
秀樹が力瘤を見せてアピールだ。
「任せてよ、恒夫くんの信頼を裏切ったりはしないわよ」
信用していると言われて余程嬉しかったのだろう、菜穂がやる気満々だ。
大笑いしながらラグが恒夫の背をバンバン叩く、
「にゅははははっ、キノコや犬の化け物にゃんて相手じゃにゃいぞ、にゃんたってチャトラン族の戦士だからにゃ」
「いてっ、痛ててっ……痛いから…… 」
身を捩る恒夫を見てスギナが笑いながら胸を張る。
「山で戦うなら儂が有利じゃ、秀樹たちの援護は任せておけ」
「魔物が出てくるなんてゲーム後半は難しいけど僕たちなら何とかなりそうだよね」
栄二が嬉しそうにみんなを見回した。
イベント前に魔物の説明があった。
このゲーム内の魔物は三つのレベルに分けられている。
低・中・高の三つだ。
魔法使いのレベルと同じだ。
つまり低レベルの魔物には低級魔法でも対応できるが中レベルの魔物には中級以上の魔法しか通用しないという事である。
このイベントに出てくる魔物は3種類だ。
ウォークマッシュルームとシャドウドッグは低レベルの魔物なので恒夫の持つ魔法銃でも対応できる。
山の主のヒドラは中レベルの魔物だ。
低級魔法しか使えない魔法銃では相手にならない、中級魔法が使える秀樹で互角、上級魔法の菜穂なら余裕だ。
低級魔法だけでなく獣人としての能力を持っているラグなら一対一なら余裕で戦えるだろう、Aクラスのスギナは中レベルどころか高レベルの魔物でも一対一なら余裕で戦える。
スギナが手から植物の根を伸ばすと地面に突き刺した。
「操蔓! マリオネット」
周りの草木が動き出し小さな空間ができる。
続けて手から植物の蔓を伸ばすと地面に放射状に線を引いて中央に2と周囲に3~12まで番号を書いた。
「成る程ね、先ずはどの方角にあるのか調べるって事ね」
菜穂が感心しながら訊いた。
「そういう事じゃ、1と1のゾロ目の2が出たら近くにあるという事じゃ、それ以外は先に進んで暫くしたらまたサイコロを振ればいい」
「2が出るまでサイコロを回していけばペンダントに辿り着くってわけか」
「これなら確実にペンダントに近付けるね」
秀樹と栄二も何をするのかわかった様子だ。
恒夫がスギナを見つめる。
「ハズレが出るからな、でもダンジョンの時みたいに続けて探せばどうにかなるか」
「ハズレを出しながらでも近付けばラグが匂いでわかるじゃろ、じゃから魔物に気を付けて進めばよい」
「にゃんの事だ? インチキサイコロ回すんだろ? 」
わかりやすい絵に今から何をするのかラグ以外はピンときた様子だ。
「インチキじゃねぇ、イカサマサイコロだ」
迷惑顔で言うと恒夫がイカサマサイコロを二つ手に持った。
「リス少女ピナが無くしたペンダントが落ちている方向を教えてくれ、地面に書いた番号で示してくれ、直ぐ近くにあるなら2を出してくれ」
唱えながらサイコロを振る。
「1と2だぞ、足すから3の方に進むんだよにゃ」
今一わかっていない様子のラグが確認を取るように恒夫を見つめる。
「そうだ。1と1のゾロ目の2が出るまでこうやって歩いて行く、2が出たら近くに、歩いて十分くらいの範囲にペンダントがあるって事だ。ハズレが出るからラグは匂いにも気を付けてくれ、ペンダントの匂いを感じたら直ぐに教えてくれ」
「了解だぞ、3だから上に向かうんだにゃ、みんな上だぞ」
ラグが秀樹たちを見回す。
「んじゃ、出発進行ぉ~~ 」
元気なラグを先頭に歩き出す。




