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スゴロク スゴくロクでもないゲーム  作者: 沖光峰津
新章 新たなるゲーム
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第百十七話 

 休みが終わりヘカロと待ち合わせしてる町外れの海岸へと向かう、


「みんな良い顔をしている。ゆっくり休めたようだね」

「ええ、ホテルで体を休めて海でたっぷりと遊んでストレス発散しましたから」


 爽やかなヘカロに秀樹が笑顔でこたえた。


「本当、楽しかったわよね」

「うん、こんな休みなら毎回でもいいよね」


 笑顔の菜穂と栄二の後ろでスギナも頷く、


「うむ、じゃが毎回は困るぞ、ラグがはしゃぎすぎていかんからのぅ」

「うにゃ! ちびっ子だってはしゃいでたぞ」


 睨み付けるラグの隣で恒夫がとぼけ声を出す。


「疲れるのは御免だ。ストレス発散ならお姉様のいる店がいいぜ」


 ラグがスギナを睨んでいた目をそのまま恒夫に向けた。


「浮気したら頭の毛を発散させてやるからにゃ」

「発毛ならいいが発散は勘弁してくれ」


 弱り顔の恒夫を見て秀樹たちが大笑いだ。

 微笑みながらヘカロがサイコロを取り出す。


「万全みたいだね、安心した。では次へ進もうか」


 ラグが笑顔でサイコロを受け取る。


「0を出してこの海でまた遊ぶにゃ、今度はデカいサメだけじゃにゃくてデカいワニとデカいアザラシの浮き輪も買ってツネに膨らませて貰うぞ」

「殺す気か! 金は出すからポンプを買ってくれ、それに0なんか出ないからな」


 怒鳴る恒夫にラグがニパッと振り向く、


「んじゃ1と1の2を出すぞ、近くにゃらこの町まで連れてきてもらえるからにゃ」

「ゾロ目は止めろ、バッドや対決イベントはごめんだ」


 厭そうに言う恒夫の隣で秀樹も同意するように頷く、


「だな、あと50マスなんだからな、デカいの出してさっさと進もうぜ」


 後ろで菜穂と栄二が楽しそうに話しに入ってくる。


「そうだよね、残り50マスだからね、確実にポイント取れるイベントがいいよね、絶対に勝とうね」

「うん、ゲームも後半戦だよ、頑張ろうね」


 スギナがみんなを見回す。


「慢心は禁物じゃぞ、休みとは切り替えて気を引き締めて行こうぞ」

「おぅ、慎重に行こうぜ、じゃあラグちゃん頼むぜ」


 秀樹に促されてラグがサイコロを回す。


「5と6の11だぞ、いま70だから80に進むぞ」

「11足して81だからな、81マスに進むんだからな」


 注意する恒夫を無視するようにラグがヘカロにサイコロを返す。


「んじゃ出発進行ぉ~~ 」


 微笑みながら頷くとヘカロが天使の羽を広げた。


「今度も海の近くだったらいいにゃぁ~ 」

「勘弁してくれ」


 恒夫の情けない声を聞きながら笑う秀樹たちが白い光に包まれて消えていった。



 秀樹たちが81マス目に現われた。

 空間転移の魔法にも慣れたもので目眩もふらつきもしない。


「つまんにゃいの、山だぞ」


 ラグがプクッと頬を膨らませる。


 周りを森に囲まれて目の前に大きな山が聳えていた。

 シダ植物や蔓草が絡む鬱蒼としたジャングルでは無い、広葉樹と針葉樹の混じった森だ。


 秀樹が顔を顰める。


「また山かよ」

「でもジャングルよりはマシだよ、熱帯地方じゃなくて日本の山みたいな感じだからね」


 宥めるように言う栄二の隣で恒夫が疲れたような声を出す。


「海も山も御免だ。俺は部屋の中でゆっくりしていたい」


 菜穂が後ろから恒夫の背を突く、


「それじゃ引き籠もりじゃない、海の次に山ってハイキングみたいでいいじゃない」

「そうだな、我慢比べイベントと比べたらマシだぜ」


 気を取り直したのか秀樹が少し声を大きくする。


「あれと比べるな、あれは精神がやられる」


 恒夫はまだ疲れたような顔だ。


「何言ってんの? 恒夫くんは室内イベントがいいって言ってたでしょ」


 意地悪声の菜穂に恒夫がくるっと振り返る。


「俺は室内で楽なイベントがいいの、我慢比べなんて苦しいのは御免だ。お姉様と遊ぶイベントとか無いもんかね」

「あるわけないでしょ、そんなのあるなら私もそっちがいいわよ」


 呆れる菜穂の向かいで恒夫の頭をラグがガシッと掴む、


「にゅっひっひっひっ、お姉様とゲームがしたいにゃら次の休みにホテルであたいがしてやるぞ、サイコロ振って出た数だけ、ツネの頭の毛を交互に毟り取っていくゲームをするにゃ、毟り取る毛が無くにゃった方が勝ちだぞ」

「勝ち負け関係なく俺が損するだけだ……ゴメンなさい、勘弁してください、山でも海でも文句言いません」


 ラグの怖い顔を見て謝る恒夫をスギナが見上げる。


「まったく、楽をしようとする癖だけは抜けんヤツじゃな」

「あははははっ、でもそれが恒夫のいいところだよ、面倒を避けるために突拍子もない作戦考えたりするからね」

「まぁな、ヘンタイ的思考の持ち主だからな」


 大笑いする栄二の横で秀樹は呆れ顔だ。


「山でもいいじゃない、ジメジメしたジャングルじゃないだけマシって思おうよ」


 海でたっぷり遊んだためかいつになく機嫌の良い菜穂を見て恒夫がニヤッと笑う、


「そうだな、山には虫がいっぱいいるしな、格好良いクモとかムカデとかカラフルな毛虫とかいっぱいいて楽しいからな」

「虫……虫だけは嫌! やっぱり私も海の方がいい、室内のイベントの方がマシだわ」


 震える菜穂の前で秀樹が恒夫の頭をチョップだ。


「脅かすな、馬鹿たれ」

「いってぇ~~ 」


 頭を押さえる恒夫の後ろで栄二が笑いながら口を開く、


「あははっ、菜穂さん大丈夫だよ、虫はいるけど洞窟じゃないから僕たちが先を歩けば逃げていくからね、蜘蛛の巣とかも後ろにいれば大丈夫だよ」


 頭を摩っていた恒夫が悪い顔をして菜穂を見つめる。


「果たしてそうかな? 前を歩いた振動で木の上にいたムカデが後ろに振ってくるって事もあるぞ、クモを見つけたら俺が捕まえて後ろに投げるし…… 」


 話の途中で秀樹のチョップが振ってきた。


「がっ! 」


 低く呻いて恒夫がよろける。

 先程と違い今度のチョップは本気だ。

 よろけてラグに寄り掛かった恒夫が振り向く、


「痛ぇな! 何すんだ! 」

「アホか!! お前が菜穂を脅かすような事するからだろが」


 怒鳴る恒夫より更に大きな声で秀樹が怒鳴り返した。


「今のは恒夫が悪いね」

「そうだにゃ、あたいもトカゲが嫌いだから菜穂の気持ちは良く分かるぞ」


 栄二だけでなくラグも味方に付いたのを見て恒夫が掌返しする。


「冗談だろ、冗談、俺が前歩いてクモとか毛虫は全部追い払ってやるって」


 愛想笑いをする恒夫を見てスギナが溜息をついた。


「その辺で止めておけ、他の奴らがきおるぞ」


 近くに白い光が立ち昇る。

 空間魔法の光だ。


「あっ、マーサさんだ」


 光の中から出てきた女エルフを見て菜穂の顔に笑みが浮んだ。

 以前イベントで一緒になったエルフのマーサとケリウスに狼男のロアスと熊男のギガルの四人チームだ。


「マーサさぁ~ん」


 嬉しそうに名を呼びながら菜穂が駆けていく、


「おおぅ、マーサお姉様ぁ~~ 」


 走り出そうとした恒夫の首をラグが後ろから押さえ込んだ。


「うぐっ! 」

「何処へ行く気にゃ? 浮気は毛抜きって言ったよにゃ」


 呻く恒夫に目を吊り上げたラグが顔を近付ける。


「えっ、えへへ……違うから、挨拶しようと思っただけだからさ」


 卑屈に笑う恒夫の耳にラグが口を付けた。


「挨拶は菜穂がしてるからいいにゃ、ツネはここに居ればいいぞ、用があったら向こうから来るぞ、それまで動くにゃ、いいにゃ! 」

「 ……わかりました」


 がっくりと項垂れる恒夫を見てラグが首から手を放した。


「恒夫が行きたがるのも分かるけどな、マーサさん美人だし、知的なお姉さんって感じだからな、恒夫は年上好みだしな」

「あははっ、そうだね、恒夫の好みのタイプだもんね」


 珍しく同情的な秀樹の隣で栄二が楽しそうに笑いながら続ける。


「でも良かったよ、マーサさんたちなら争わなくても済みそうだからね」

「だな、場合によっちゃ協力できるからな」


 嬉しそうな栄二や秀樹を見てラグがムスッと口を開いた。


「あたいはあの女嫌いだぞ、なんかヤな感じするぞ」


 恒夫がちらっとラグを見る。


「確かにな、得体が知れない感じはするな、でもそこがいいんだよなぁ~、女王様は悪女の方がぐっとくるからな」


 喜んで体をクネクネさせる恒夫の前でラグが爪を伸ばす。


「冗談だから、ラグの方がぐっとくるからさ」


 青い顔で言い訳する恒夫の腕をスギナが引っ張る。


「もう一つ来おるぞ、時間的に言ってあれで最後じゃな」


 もう一つ光が現われてその中から機械人間のナットとペンチが出てきた。


「彼奴らじゃったか」

「確かナットとペンチさんだったよね」


 頭の良い栄二は名前を覚えていた様子だ。


「機械人間か……イケメンに美女だが無表情なのが一寸な」

「その御陰で見分けがつくけどな、あれで感情豊富なら人間と見分けつかないぜ」


 顔を顰める秀樹の隣で恒夫がいつものとぼけ顔だ。


「にゃははははっ、ポンコツ人間にゃんて怖くないぞ」

「機械だからね、ポンコツなんて言ったらダメだよ」


 声に出して笑うラグを栄二が困った顔で注意した。

 恒夫の顔からおどけが消える。


「笑うなよラグ、あいつらと戦う事になれば強敵だぜ」

「だな、我慢比べの暑さや寒さに平気だったし、妖怪チームの山爺や烏天狗と敵対しても動揺しなかったからな」


 マジ顔の恒夫と秀樹をスギナが見上げる。


「確かに中々手強い相手じゃろうが、心配いらんぞ、無駄な行動はせん奴らじゃからな、戦うイベント以外では無害と考えてよかろう」

「スギナちゃんがそう言うなら……対決イベントじゃ無い事を祈ろうか」


 納得した様子の秀樹の肩に恒夫が手を置く、


「対決イベントだったら任せるぞ、ペンチとか言う女、年上の美人なんだけど機械だからなのか少しも興味が湧かん、感情込めて鞭でビシバシしばいてくれそうもないしな」

「ヘンタイの興味で決めるな! 」


 秀樹が恒夫の手を払い除けた。

 騒ぐ秀樹たちに気付いた機械人間のナットとペンチがスギナに向かってペコッと会釈をする。


「成る程な、害は無さそうだ」

「じゃろ、結構良い奴らじゃぞ」


 呟く恒夫を見てスギナがニッと可愛い顔で微笑んだ。



 菜穂に連れられてマーサたちがやって来る。


「うにゃ! 何しに来たんにゃ! 」

「ダメだって、リーダーだろ」


 身構えるラグを恒夫が押さえる。


「ラグ、何やってんのよ? 恒夫くんも失礼な事しないでよね」


 普段なら怖い顔で怒る菜穂が笑顔で注意しながら恒夫の横に立つ、憧れているマーサに会えて上機嫌だ。


「にゃに言ってんにゃ、あたいはそいつら嫌いだぞ、ツネに近寄るにゃ、ツネはあたいのだからにゃ」

「だからダメだって、俺はラグと一緒に居るから、一緒にここに居るからさ」


 敵意剥き出しのラグを抱えるように押さえながら恒夫が振り向く、


「秀樹頼む」

「わかった」


 秀樹が前に出てくる。

 押さえる恒夫の腕の中でラグが動かなくなる。


「うにゃ? ツネが一緒にゃらいいぞ、あんな女のとこ行ったらダメだからにゃ」


 マーサが好みのタイプと聞いての焼き餅だ。


「うん、何処にも行かない」


 頷くと恒夫も動かなくなった。

 ラグの爆乳が気持ち良くて動きたくないと言った方が正しい。


 リーダーのラグの代わりに秀樹がマーサたちに挨拶する。


「お久しぶりですケリウスさん、マーサさん」

「ロアスさんもギガルさんも皆さん無事なのは流石ですね」


 秀樹の横で栄二がペコッと頭を下げた。


「がはははっ、当たり前だ。俺たちをそこらの雑魚と同じにするな」


 大笑いする熊男ギガルの後ろで狼男ロアスが無言で会釈を返す。

 マーサがニコッと微笑んだ。


「皆さんも無事で何よりです」

「また君たちに会えるなんて偶然ではない何かを感じるね」


 爽やかな笑みを見せるケリウスに菜穂の頬が赤く染まっていく、


「本当ですね、偶然じゃないですよね、運命ですよね、私たち…… 」


 テンションの高い菜穂を見て喜んで浮かれていた秀樹と栄二が逆に落ち着いていった。


「そうだね、運命かも知れないね、菜穂さんも秀樹くんも栄二くんも全員無事で良かった」


 イケメンのケリウスに優しく言われて菜穂の顔が真っ赤だ。

 後ろでギガルがまた大笑いする。


「がははははっ、本当だぜ、一人も欠けずに人間がここまで来るとはな、正直吃驚したぜ」

「ギガル、少し慎め」


 ギガルを一瞥するとケリウスが前に向き直って頭を下げる。


「済まない、気を悪くしないでくれ」


 ケリウスの隣でマーサも申し訳なさそうに口を開いた。


「育ちが悪い故、粗野ですが悪気があるのではないですから許してやってくださいね」


 菜穂が慌てて口を開く、


「いいんです。ギガルさんの言う通りです。何の力も無い人間ですから…… 」


 ケリウスが菜穂の手を握り締める。


「そんな事はありません、菜穂さんは素晴らしい女性です。秀樹くんも栄二くんも素晴らしい、人間は力は無くとも知恵があります。その知恵で勝ってきたのでしょう? なら胸を張って構いませんよ」


 隣でマーサが優しく微笑みながら続ける。


「その通りですよ、力とは腕力だけではないですからね、神に力を授かれば腕力はどうとでもなりますが知恵はそうはいきません、貴方たちは優れているという事ですよ」

「あっ、ありがとうございます」


 菜穂は顔どころか全身真っ赤になって礼を言うのが精一杯である。

 秀樹と栄二も優れていると言われて嬉しそうにニヤついている。


 後ろでラグに抱き付かれていた恒夫が呆れるように口を開く、


「単純すぎるぜ、周りは全部敵って考えろよ」


 菜穂がバッと振り返る。


「何言ってんのよ! 失礼でしょ! 」


 マーサたちに向けていた笑みから一転して目を吊り上げた怖い顔だ。

 怒り顔にも慣れたのか恒夫がとぼけ顔で口を開く、


「一度話しただけだろ? 助けたり助けられたり協力したわけじゃない、話すだけなら魔族とでも出来るぜ、俺がしたようにな」

「魔族と一緒にするな! 失礼にも程があるわよ、それ以上言ったら…… 」

「止めんか、一々恒夫に構うな、此奴の性格はよく知っておるじゃろう」


 怒る菜穂の手をスギナが引っ張ると後ろの恒夫を睨み付ける。


「控えておれ、お主じゃと角が立つ」


 恒夫がわかったと言うように無言で頷く、スギナが怒ってくれたと思ったのか菜穂もそれ以上は何も言わない。


 魔族と聞いてマーサとケリウスの目がキラッと光った。


「魔族と何かあったのですか? 」


 笑みを絶やさず訊くマーサに恒夫が素っ気なく手を振る。


「無い無い、イベントで一緒になって少し話しただけだ」

「なんの話しをしたのですか? 」


 ケリウスが興味深げに恒夫を見つめる。


「さぁな、忘れた」


 とぼける恒夫を見てマーサが愉しそうに笑い出す。


「うふふふふっ、面白い人ですね、恒夫さんと言いましたね、気に入りましたよ、賢い男は好きですから」


 恒夫の顔がパッと明るく変わる。


「マジか? それじゃぁ俺の女王様に……ぐうぅ…… 」


 ラグに首根っこを掴まれて恒夫が苦しげに話しを止めた。


「このまま首を折られたくにゃかったら黙ってるにゃ、あたいの傍にいるって約束だぞ」


 後ろから首を絞められた恒夫がわかったと言うようにラグの手をパシパシ叩く、


「わかればいいぞ、でも次はにゃいからにゃ」


 耳元で言うとラグが手を放した。

 ケリウスが爽やかな笑みをラグに向ける。


「猫の獣人ですか、可愛いリーダーですね」

「頭の良い人間と力の強い獣人が手を組むのは理想ですね、本当に良いチームですね」


 マーサも微笑みながら褒め称える。

 ラグがキッと怖い目で睨む、


「お前たちに言われにゃくともわかってんぞ、勝てるチームだからにゃ」


 スギナが止めろというようにラグの前に出る。


「儂らが優れておるかどうかは直ぐに分かる。それよりお主らの紹介をしてくれんか」

「これは失礼しました。菜穂さんたちがいるのですっかり忘れていましたよ」


 軽く頭を下げるとケリウスが続ける。


「ケリウスと申します。見ての通りエルフです。正直言ってロアスやギガルより強くはありませんがこのチームのリーダーを任せて貰っています」


 挨拶を終えるとフワッとした髪を手でサッと掻き上げた。

 菜穂が頬を赤くするのも仕方がない、ケリウスは耳が半分隠れるほどのフワッとした髪に整った顔で切れ長の目をしたイケメンだ。

 胸に手を当ててマーサが話し出す。


「私はマーサです。ケリウスと同じエルフですわ、魔法が得意なので仲間に誘ってもらいました。チームでは主に後方支援と治療を担当しています」


 マーサは背中の真ん中辺りまである長い髪にモデルのようにすらっとしたスタイル、胸は大きくも小さくもない、頭の良さそうな整った顔をした知的美女だ。


「うへへっ、俺もマーサさんの治療を受けたいぜ」


 いやらしく頬を緩める恒夫の薄い頭をラグがガシッと掴んだ。


「治療を受ける暇もにゃいぞ、このまま殺すからにゃ」

「ひっ!! 」


 怖い顔のラグに恒夫が首を回して必死で謝る。


「じょっ、冗談だって……俺はラグ一筋だ。約束するから…… 」

「何度目だ? にゃんどめの約束にゃ」


 怒りを収めないラグをスギナが止める。


「後にせい、話の途中じゃぞ、恒夫の仕置きは後回しじゃ」

「にゃひひひひっ、わかったぞ、後でたっぷりお仕置きしてやるぞ」


 恒夫の頭からラグが手を放すのを見てスギナが続ける。


「残りは後ろの二人の紹介じゃな」


 ケリウスが振り返ると始めろと言うようにロアスに手を振った。

 頷くとロアスが口を開く、


「私は獣人、狼男のロアスです。国ではマーサ様に仕えております。今回のゲームは危ないと聞きましたのでマーサ様を御守りしようと参加させてもらいました」


 言い終わると一礼する。

 ロアスは頬の痩けた顔に糸目というのだろう細い目がついている。

 顔と同じように痩せた体をしていて尖った犬耳と頬の半分を覆う毛で獣人とわかる。

 話し方も態度も紳士然としていて感情を表に出さないタイプに見える。


「がははははっ、最後は俺だな」


 後ろから熊男のギガルが出てきた。


「俺は熊男のギガルだ。国では傭兵をしている。ゲームに勝てば何でも願いが叶うと聞いてケリウスに雇って貰った。勝ちは俺たちのものだ。がははははっ」


 豪快に笑うギガルは人間より熊の成分が多い、大柄で丸い顔、手足を覆う毛、一目で熊の獣人と分かる姿をしている。


 スギナがマーサたちを見回す。


「エルフのケリウスとマーサに獣人のロアスとギガルの四人チームじゃな、次は此方の番じゃ、知っておると思うが秀樹たちも紹介させよう」


 スギナが振り返る。

 目の合った秀樹が頷いた。


「じゃあ、俺から」


 秀樹が前に出てくる。


「江藤秀樹です。前に会ったときは俺がリーダーで栄二と菜穂の三人チームでしたけど今は恒夫と合流して獣人のラグちゃんがリーダーの六人チームです」


 自己紹介と言いながら簡素にチームの事を説明した。

 仲間になってくれたラグを立てているが実質的には秀樹がリーダーである。


 栄二がペコッと頭を下げる。


「野方栄二です。チームではサポートに回ってます。みんなの御陰でどうにかここまで来れました」


 隣で菜穂が照れ臭そうに口を開く、


「改めて自己紹介って恥ずかしいわね、緒方菜穂です。神様に力を貰った上級魔法使いです。チームではそれなりに役に立っていると思っています。勝つために秀樹くんたちのチームに入りました」


 はにかむように頭を下げる菜穂の前に恒夫が出てくる。


「改めてなんて本当に恥ずかしいよな」

「あんたは初めてでしょうが! 」


 ヘラヘラ笑う恒夫の後ろで菜穂が怖い顔だ。


「えへへっ、そうだったかなぁ~~ 」

「バカをしておらんと早うせんか」


 スギナに急かされて恒夫がマジ顔に変わる。


「俺は城道恒夫、普通の人間です。早速だけどマーサさん、その綺麗な足で俺を踏ん付けてくれ、俺の女王様になって鞭で…… 」

「アホか!! 」

「浮気にゃ! 」


 恒夫の言葉が終わらぬ内に菜穂とラグのパンチが飛んできた。


「ぐはぁ~~っ 」


 二人のパンチを諸に受けて恒夫が仰向けに倒れた。


「何考えてるのよ! 私まで変に思われるでしょ」


 怒鳴る菜穂の目の前でラグが倒れた恒夫の傍に立つ、


「そんにゃに踏んで欲しければあたいが踏んでやるにゃ」


 目を吊り上げて怒ったラグが恒夫の薄い頭を踏み付ける。


「ごめん、冗談だって、冗談だから……謝るから………… 」


 叫びながら地面を転がって逃げまくる恒夫を菜穂が指差す。


「バカな事言って本当に済みません、アレは普通の人間じゃなくてヘンタイだから無視してください」

「うふっ、うふふふふっ、本当に面白い人ですね、恒夫さんですね、覚えましたよ」


 楽しそうに笑うマーサを見て菜穂がほっと息をつく、


「おおぅ、マーサさんが俺の事を…… 」


 転がっていた恒夫がバッと身を起こす。


「気に入ったって事は俺の女王様になってくれると考えていいんですね? 恒夫ではなく醜いハゲミニブタとお呼びください、その足で…… 」

「止めろって言ってんのよ!! 」


 座るように上半身を起こしている恒夫の胸に菜穂の蹴りが飛んでくる。


「がっ………… 」


 鳩尾にクリーンヒットして短い呻きを上げて恒夫が倒れた。


「浮気は許さにゃいからにゃ」


 倒れた恒夫にラグが馬乗りになる。


「止めんか、気絶しておるぞ」


 恒夫の顔を引っ掻くラグを止めるとスギナがマーサたちに向き直る。


「此奴はラグじゃ、見ての通り猫族の獣人じゃ、そこらの獣人より強くて頼りになるヤツじゃぞ」


 スギナが指差して言うとラグがバッと立ち上がる。


「あたいはチャトラン族のラグだ。あたいは強いからにゃ、敵には容赦しにゃいからにゃ」


 恒夫を取られるとでも思ったのかラグがマーサを睨み付けた。

 マーサとケリウスの後ろにいた狼男のロアスが声を上げる。


「チャトラン族か、聞いた事がある。身軽で素早く勇猛果敢な戦士が多くいると、傭兵や賞金稼ぎとして各地で活躍していると聞いた事がある」


 褒められて嬉しいのかラグの猫耳がピンッと立つ、


「よく知ってるにゃ狼、その通りだぞ、チャトラン族の男は全員戦士だからにゃ、あたいの父ちゃんも兄ちゃんも傭兵として名を上げてるぞ、そんであたいも戦士だからにゃ」


 先程までマーサを睨んでいた顔が一瞬で崩れると自慢気なドヤ顔で言った。

 ケリウスが大袈裟に驚くようにマーサを見つめる。


「それは凄い、ロアスが知っているのなら本物ですよ」

「ラグさんと言いましたね、美しいのに戦士とは恐れ入りました。恒夫さんには何も致しませんのでご心配無く」


 ケリウスに頷くとマーサが目を細めて頭を下げた。


「にゃははははっ、分かればいいぞ、ツネはヘンタイだけどあたいの家来だからにゃ、取られると思ったから吃驚したぞ」


 警戒を解くラグを見てスギナが小さな溜息をついた。


「儂はスギナじゃ、ご覧の通り妖怪じゃ」


 相手の出方を見るようにスギナはそれ以上何も言わない。


「Aクラスのスギナさんですね、この前の対決イベントでは力を見れませんでしたが今回は見れるかも知れないと思うと期待しますわ」


 笑みを湛えるマーサにスギナが鋭い視線を向ける。


「何を謙遜しておる。同じAクラスじゃろが」

「なっ、マーサさんがAクラス? 」


 驚いた顔で見つめる菜穂を見てマーサがフッと微笑んだ。


「うふふふっ、流石ですね、隠していたのですが一目で見破られるとは思いませんでしたよ」


 マーサが左の肩甲骨の辺りに付いているプレートをサッと撫でた。

 プレートには名前とクラスに現在のポイントなどが表示されている。

 先程までBと書かれていたのがマーサが撫でるとAに変わった。


「本当にAクラスだ…… 」


 驚いて言葉を詰まらせる菜穂に微笑みながらマーサが続ける。


「隠していてごめんなさい、Aクラスだと分かると戦いを挑んでくる人もいますので無駄な争いを避けるために細工をしました。菜穂さんたちには聞かれなかったので言わなかっただけですよ、他意はありませんから安心してくださいな」


 鋭い視線のままスギナがフッと笑った。


「無駄な争いか、言葉は使いようじゃのぅ、無駄な戦いを避けると言うよりも相手の油断を誘うのが目的じゃろ? まぁ反則ではないから別によいがの」

「反則じゃないのか…… 」


 後ろで呟く秀樹にスギナが振り返る。


「天使たちはみんな分かっておるからの、お主らも服を着とるから普段は見えんじゃろ、質問されて嘘をこたえるのはルール違反になるかも分からんがの、だいたい一々プレートを見んと相手の力量も測れんヤツは勝てんゲームじゃぞ」

「スギナさんの言う通りです。勝つためにはあらゆる事をしますよ、ルール違反にならないのならね、ですから菜穂さんたちも余り他人を信用してはダメですよ」


 にこやかなマーサを見て菜穂がうんうん頷いた。


「あっ、ハイ、分かってます。でもマーサさんたちは信用してますから」

「うふふふふっ、ありがとう、私も菜穂さんたちは好きですよ」


 マーサのこれでもかといった可愛い笑みを見て秀樹と栄二がぼ~っとなって固まった。

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